知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結) 作:月光好き
これにて終了、ようやく完!
あとがきの最後の方でお知らせがあります。
簡単に言うと文章構成見直したり話の順番だったり章構成をいじります。なので明後日(18日)から結構めちゃくちゃになるかも。
「不合格」
「不合格」
「不合格」
「不合格」
「不合格だ」
大陸魔法協会、一級魔法使い第三次試験。
面接官を務めることにしたゼーリエは、庭園がある広間で次々に判決を下す。
魔法使いの世界では、イメージできないものは実現できない。
基礎の基礎であるそれに従い、自身の中で一級魔法使いになった自分の姿をイメージできない者には容赦なく不合格を言い渡していく。
(やはり、こんなものか)
十二名、第二次試験を突破した人数だ。
例年と比較してあまりにも多い数字であり、その原因についても彼女は察している。
全員協力型の試験の中に、あってはならない実力を持つ者がいた。
そのせいで実力に見合わないものまで合格し、例年通りの第三次試験ではその大多数が死亡してしまう可能性がある。
そう判断し、異例には異例をという形で今回の試験内容に変更したのだ。
「…………」
「フリーレン」
そう考えているうちに、件の元凶が部屋に入ってくる。
(……相変わらず、か)
彼女の中にも、自分が一級魔法使いになった姿はイメージされていない。
とはいえ、その理由は他の不合格者とは異なるものだ。
それすなわち、ゼーリエが合格を出すとは微塵も思っていないということ。
「不合格だ」
故に彼女が出す判断も、そのままで。
その前後に色々と話し合いこそしたが、彼女の中での結論は変わらずのままであった。
「待て、フリーレン」
「……なに?」
話し合いも終わり、広間を去ろうとしていたフリーレン。
しかしゼーリエはそれを呼び止め、
「
「…………」
フリーレンは黙ったまま振り返り、正面から改めてゼーリエを見つめる。
「第二次試験、最後に
第二次試験、その内容はゼンゼから聞いている。
腐敗の賢老、クヴァール。
その場にいないはずの大魔族が再現され、その実力を以て大いなる壁として受験者の前に立ちはだかった。
「あの時、ゼンゼは最悪の場合に備えて準備をしていた。試験会場を全部ぶち壊すような魔法を使われたときに、即座に全員分の瓶を割って保護できるようにな」
「…………」
「だがはっきり言ってやる。あれが発動していたら、被害はそんなものではすまなかったはずだ」
あの時感じたもの、それは尋常ではない敵意。
その場にいる人間だけではなく、人類すべてを標的にしたかのような泥沼の底のような悪感情。
それは決してはったりではなく、できるという明確なイメージがあったからこそ可能なものだった。
「お前、あれを知っているな?」
「うん。あれの名前は【
「……そうか、あれが奴の根源か」
「かもね」
実際にクヴァールと戦ったことのあるフリーレンの証言を得たこともあり、一先ず正体は知れた。
その扱いやすさに見合わぬ完成度から人類の魔法体系に容易く組み込まれ、魔族ですらその模倣及び対策を必須技能にしている。あまり魔族らしくない魔法だとは思っていたが、やはり最初から使える魔法というわけではなかったらしい。
「奴は魔族全体の底上げでもするつもりだったのか?」
「さてね、どうでもいいかな」
「……そうか、もういいぞ」
フリーレンに問いかけてみるも、彼女に興味はなさそうで。
とりあえず話は終わったため彼女を追い出し。
自分の想像を超えると太鼓判を押されたフェルンを見定めるため、外で控えているファルシュに声をかけた。
「次」
「お、じゃあいってくるねー」
「…………」
ユーベルが呼ばれ、扉の中に入っていく。
先ほどまでは不合格の嵐だったようだが、フェルンを皮切りに連続で合格者が出ているようだ。
とは言え、それもまだ二人目。
試験官のゼーリエと何を話しているのか気にはなるが、その場で会って話すまではなにもわからないだろう。
「…………」
「……君は」
そんなことを考えながら待機していたラントは、ふと隣から視線を感じて振り向く。そこにはフリーレンが立っており、どこか不思議そうな表情でこちらを見つめていた。
魔王を倒した勇者パーティーの魔法使いであることは知っている。
だが彼にとって彼女の認識は、第一次試験で仲間だったフェルンの師匠という方が強かった。
「なに?」
「……なんで、そんなことをしているのかと思って」
「――ッ」
内容は明確ではないが、その意図は伝わったようで。
ラントは一瞬だけ目を見開き、すぐさま元の無表情に戻す。
そして周囲を見渡すが、聞き耳を立てる余裕のある者はいなさそうなのを確認した。
「僕の事情だ、この試験が終わったら治療を受けるさ」
「ふぅん……そっか」
とりあえず納得したのか、フリーレンは建物の外に向かって歩いていく。
ラントはその様子を見ながら、
(完全に隠せていると思ったけど……匂いでも残ったか?)
「どうしたの、メガネ君?」
「……早くない?」
考え事をしていたせいか気が緩んでおり、いつの間にかユーベルが隣に立ってこちらを覗いていた。
とは言え、まだ彼女が面談に行ってから三分と経っていない。
ずいぶんと早く済んだんだな、そう考えていると自分が呼ばれる声が聞こえてきた。
「で、君は合格?」
「うん、なんでかはよくわからなかったけど」
「……だろうね」
移動する前にユーベルに駄目元で聞いてみたが、やはりヒントは何もわからず。
ラントはそう言い残し、試験官が待つ部屋へと入っていった。
「お前、ふざけるなよ」
そして第一声がこれである。
「……なにが」
「これは一級試験だぞ?……試験場に一度も来ない馬鹿がどこにいる」
ゼーリエは確信をもってそう言いながら、彼女の前に立っているラントを横目で軽く睨む。
「一応この通り、生身の僕も試験会場に来ているよ」
それに対し、一先ずは用意していた策を実行することにしたラント。
なにも動じていないかのように表情を崩さず、柱の陰で隠れていた姿を現す。
「じゃなきゃ不参加で――――」
「この試験期間中、本体は故郷の村から出ていないな」
ラントが言い切る前にゼーリエはそう遮り、窓の外を見る。
彼女の視線の先。
その先には彼の故郷があり、そこにいるであろう者たちを観測していた。
「今は仲良くティータイムか?」
「……驚いた。ユーベルにだってばれなかったのに」
それを聞いたラントはもう誤魔化せないと判断し、あとは結果を聞くだけだと結論付けた。
「おい、まだ話は終わっていない」
「え」
「なんだ、その分身は?」
しかし、まだ彼女の追求は終わっていないようで。
彼女の近くにいる方のラントを見て、心底理解できないといった表情で口を開く。
「歪すぎる、なぜそんな改造を施した?」
「…………」
「本体に影響がなくてこその分身だろう。なぜわざわざダメージをフィードバックさせる?」
だから、そんなちゃちな幻影魔法で自分の傷を偽る羽目になるんだ。
そう言い括り、ゼーリエは返事を待つかのように何も言わなくなった。
「……あぁ」
分身の特徴を読み取られたのを察し、ついでに言いたいことも察するラント。
数瞬思考した後、自分の中で言葉がまとまる。
それを伝えるため、正面からしっかりとゼーリエを認識して口を開いた。
「苦しみや悲しみ、それに痛みだって立派な経験だ」
「楽して受け入れちゃ、経験を積んだとは言えないだろう?」
「……ハ、実にいい度胸だ」
合格、ゼーリエは笑ってそう言い加えた。
「……本当に驚いた」
そう呟きながら、ラントは持っているティーカップを皿に戻す。
余程あの作戦には自信があったと見えるが、まあ相手がゼーリエだからとしか言えない結果だった。
「敢えて精度に差をつけ、精密に作った方を本体に見せかける。一度見抜いたと思わせることで二重の罠に嵌める算段なのだろうが、さすがに相手が悪かったな」
「……いや、それもあるんだけど」
そう言いながら、こちらを見上げながらラントは呟く。
それを聞いて何となく続きを察した私もティーカップの中身を飲み干し、皿に戻して言葉を待つ。
「あの人は間違いなくこっちを見ていた。なんでバレなかったんだ?」
「ゼーリエが見ていたのはあくまで魔法の効果であって、直視したわけではない。悟られない精度の魔力制御と幻影魔法、この二つがあれば可能だのう」
ラントの疑問に対して私――クヴァールはそう答えながら外の風景を見る。
視線の先では村人が各々日常を送っているが、私達の方向を見ても誰も騒いでいない。
それもそのはず。彼らの視界では、ラントは遊びに来た学院時代の友人とティータイムをしているようにしか見えていないからだ。
その向かいの席に、特注の椅子に座って紅茶を飲んでいる魔族がいるなんて誰も思っていないだろう。
戦時ならいざ知らず、試験のついでで覗いてきただけ。
この時のゼーリエ相手なら、なんとか誤魔化せたようで何よりだった。
「さて、契約は覚えているな?」
「……あぁ、わかっているよ」
これにて試験も終わり、晴れてラントは一級魔法使いになった。
まさかこれ程滞在する羽目になるとは思わなかったが、貴重な経験ができたということで納得しておくのが良いだろう。
そう考えていると彼は懐から魔導書と一枚の紙を取り出し、机の上に置く。
すると紙に書かれている文字が淡く光り、私との間に浮いて文字を浮かび上がらせた。
『一.ラントはクヴァールに師事する』
『二.クヴァールはラントを魔法使いとして育て、立派な魔法使いにする次回行われる一級魔法使い試験に合格させる』
『三.上記の契約が終了した時、ラントは所持している魔導書を報酬としてクヴァールに読める状態で譲渡する』
『四.以上の契約が遂行されるまで、互いに害を与えることを禁ずる』
『五.契約期間中、クヴァールから人類へ害を与えることを禁ずる』
『六.契約不履行または上記に違反した場合、違反者側からの接触を生涯禁ずる』
やがてその文章に一つずつ線が引かれていき、動きが止まったのを確認したラントは俺の方に魔導書を移動させる。
それを受け取ったのと同時に再び線が動き出し、最後の文章にもひかれていく。その直後紙が燃え出し、消し炭となって宙に舞っていった。
「これで契約は終了、僕と師匠をつなぐ縛りもなくなった」
「立派な魔法使い、というのが一級魔法使いのことで合っていたようで何よりだ」
「……しょうがないでしょ。まさか婆ちゃんの遺言がそのまま契約になるなんて、あの時は思っていなかったんだから」
そう呟くラントを見て内心微笑みつつ。
私はお代わりの紅茶を飲みながら、契約を交わした日のことを思い出す。
――で、魔族がこんな辺鄙な村に何の用?――
――どうだか、魔族の言うことを信じるわけないだろ。……魔法による強制力を持った取引?――
――願いか目標、って言われても……。あー……、立派な魔法使いになる……とか?――
出会いは偶然……と言いたいところだが、ほぼ必然。
分身魔法が記されているという魔導書を探してやってきた辺鄙な村。
隕鉄鳥を使って情報収集していたところを見つかり、契約魔法による取引で安全に手に入れることにしたのが始まりだった。
……姿を見せなかったとはいえ、ラントはラントでよく契約する気になったな。
何か事情があったんだろうし、まさか小鳥の正体がこんな巨体の魔族とは思っていなかったんだろうが。
「さて、ラントよ。準備はできているか?」
「……まあね。さっきまで厄介な奴に付きまとわれていたけど、もう撒いたし」
やることはやったし、あとは最後の仕事を終えるだけ。
そう判断した私はラントに声をかけ、彼も状況が整ったことを報告する。
話には聞いたが、まさか記憶の中の私を複製するとは思ってもみなかった。
確かに複数人に姿を見られているし、
とは言え
あれと戦闘した結果、ラントの分身はずいぶんと手傷を負ってしまった。
試験中に連続で解除した影響が思ったよりも重く、念のため戦っていた分身を解除させるのは試験終了後にした方がいいと判断したのだ。
ちなみに最後に生み出された分身は零落の王墓で手に入れた報酬を持ち帰るため、そのままこの地に帰ってきてもらう予定だ。
あれがラントの役に立つかはわからないが……まぁなにかしらの刺激になればいいとは思っている。
「では最後に。……ようこそラント、魔法はここからが楽しいぞ?」
「精々頑張るさ。……じゃあね、師匠」
「おい、それは契約の間だけの呼び名だと……って、もう聞こえぬか」
未だ私のことを師匠と呼ぶラントに対して訂正しようとしたが、机に倒れ伏すラントを見てそう呟く。
――魔力切れになるまで実践で、回復するまでの間に座学って……鬼かなんか?――
――なにこれ……人間の骨格標本? なんでそんなもん持ってんだよ――
――今度は何……筋肉に、神経? なにそれこわい――
魔法の基礎は当然として、私は徹底的にラントの分身魔法を鍛えていく方針をとった。
分身魔法、あれには以前からずっと目をつけていた。
推測だが、あれなら某忍者漫画の実体を持つ分身による超濃密な研鑽が可能だと思っていたからだ。
そしてその実験のため、まずは所持者であるラントの分身魔法に改造を加えた。
人体の構造を細かく記した標本(魔法製)を用意し、人体がどうやって動いているのか、どこが何を動かしているのかを徹底的に理解させた。
そしてその結果、ラントは魔力で精密な分身を作れるようになった。
副産物として
ここまでやったことで実体験と言えるほど精密な経験のフィードバックは得られるようになったが、代償として分身が負ったダメージもその際一気に経験することになった。
現在ラントは分身が負ったダメージに加え、触媒なしで魔法を扱う代償をダイレクトに味わっていることだろう。
その前に即死レベルを一回、致命傷レベルを二回ほど味わっており、そのフィードバックも受けているのだ。一日間隔をあけたとはいえ、さすがに気絶するだろうとは思っていた。
「……楽しみにしているぞ」
飛行魔法を応用し、ゆっくりとラントの体をベッドまで運んでいく。
そして脇の机に手土産として魔導書を二冊ほど選別して置き、手に入れた魔導書にあらかじめ用意したメモ用紙を挟んで収納した。
さて、これでここにいる理由もなくなった。
そう考え、私は席を立つ。
村人がいる空間を通り抜け、村を出る。
もうここに来ることはないだろうし、余程のことがない限りラントと出会うこともないだろう。
期間限定の師弟関係だったが、まぁ悪くはなかった。
やはり誰かに教えるのはいい。その時にこそ自身の理解度が試されるし、学びなおすいい機会にもなる。
さて、今度はどこに行こうか。
そう考えながら歩きだそうとしたがそれを中断し、森の中に向かって声をかける。
「で、主は何用だ?」
――木々の間。
水色の長髪を揺らしながら、彼女はただ微笑んでこちらを見つめていた。
※ラントの魔法がどうなったか
N〇RUTOの影分身を目指したらF〇teの投影魔法衛宮verみたいになっちゃった。
感想・評価共にありがとうございます。
また誤字報告もいつも助かっております、ありがたい限りです。
これにて第二次試験編は完結となります。
クヴァールさんとフリーレンの共闘を見てみたいと思っており、アニメを見てた時にいけるんじゃね?と思って始めたのですが、まさかこんなことになるとは。
というわけで最大の原作改変点である、ラント君の超強化です。
彼は約一年ちょいの間、クヴァールさんにみっちりしごかれました。しかも分身を使って効率爆アゲ状態で。
これにより基礎能力の底上げと分身魔法の魔改造、ついでに致命傷までなら普段通りに動けるイカレた痛覚耐性を手に入れています。原作への影響は……登場した時に考えます。(ハイパー行き当たりばったり)
そんなわけでこの話はここで終わり。
続きというか過去編をチマチマ書きつつアニメを待ちたいなーと思っていますが、その前に一旦構成を土台から見直してみようと思います。
第一章でもある本編はあのライブ感がいいのであのままにしますが、それ以外は魔法名に【】つけて見やすくしたりだとか、文章構成を統一したりだとかをしようかと。
土日はそのままに、18日から色々いじる予定です。
ないとは思いますが、もし更新通知が出てもあまり気にしないでください。
ではまたいつか。
もしまた読んでいただく機会があれば、その時はよろしくお願いします!