知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結)   作:月光好き

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ちなみに時間はどんどん加速していきます。
魔族が長寿すぎて一日ずつ丁寧に書いてたらリアル数年かかっちゃう……。





『いつかどこかの誰かの手記④』

 

 

 

【魔王軍2日目】

 

挨拶も済み、一息ついた。

 

なんでもこの本の山は私への手土産であり、これらを足掛かりに魔法を極めてほしいとの言伝をもらった。

またシュラハトからの提案により私の役割の一つに魔王軍の戦力増強が加わり、そのためにしばらく研究室に籠る許可も手に入れた。

私にとって都合がよすぎる展開に少し疑問を抱いたが、だとしてもこの状況はありがたいので気にしないことにしよう。

 

どれ、とりあえず机の上にあった魔導書から読んでみるか。

 

見たところ表紙の文字が掠れていて一部しか読めないが、『~法書【1】』と書かれてある。

どこのなにかはわからないが、最初に読むものとして悪くはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍7日目】

 

ホン

 

ヨムノ

 

タノシイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍30日目】

 

さすがに没頭しすぎた。

 

どうやらいつの間にか文字通り本の山に埋もれた状態で気絶していたらしく、シュラハトに掘り起こされる形で強制終了。

今は休憩しつつ、こうして日記を書いているわけで。

 

素晴らしい書物の数々だった。……が、とりあえず分かったことが一つある。

 

私はこの世界を知らなさすぎる。

 

魔導書はまだほんの一部しか読めていない。だが読めている範囲だけでも未知の領域が多すぎるのだ。

 

なぜ開発したのか。

なぜ必要になったのか。

なぜその性能にしたのか。

 

地域、民族、風習。

似た理由で始まったであろう魔法も、これらが絡むことで全く別の魔法へと分岐していた。文字通り本の数だけ事情があり、全く同じものが生まれることは極めて稀だった。

 

よくよく考えてみれば、私の世界はとてつもなく狭い。

根本は魔法の概念がなかった上、今知っているのは森の中が中心だ。武者修行の遠征のおかげで多少広がってはいるものの、そんなの世界に比べたらほんのちっぽけな範囲でしかない。

 

魔法とは?

魔力とは?

魔族とは?

魔法使いとは?

 

この世界の住人には当たり前の概念、それを私は知らないことを自覚すべきだろう。

 

なんとなくで乗り越えていたこの問題、そろそろ本格的に対処する必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍365日目】

 

ここに来て約……ではなく正確に一年が経過した。

一日ごとに数を刻むというだけの単純な魔道具だが、これのおかげで時間の感覚を忘れずに済むので結構ありがたい。

 

魔法習熟の結果は上々。

遠距離魔法はより速く、より遠くまで撃てるようになった。基礎構築自体は完成したといってもいいが、まだ伸びしろは見えている。これからも可能な限り磨き上げていくつもりだ。

飛行魔法も問題なし。さすがにそこらじゅうで使われてるだけあってこっちも完成したと言っていいだろう。

 

そう言えば懸念していた他魔族との関係だが、思いのほか何とかなっている。

 

まず気になっていた魔力量の差だが、思ってたより立ち位置が良かった。

言ってしまえば中の中程度なのだが、絶対的な差を感じる程格上の魔族とは今の所会っていない。存在はしているらしいが基本的に好きに行動しているらしく、私が基本研究室に籠っているのもあって見かけたこともなかった。

 

とは言え争いがないわけではなく、定期的に他魔族とは模擬戦という名の格付けを行っている。

 

なんでも私が加わった経緯がかなり特殊であり、かつ私に指示できるのが魔王様とシュラハトだけなのが魔王軍内でバレているらしい。

 

そんな魔族を従えることができれば一目置かれるはず。

そんなことを考えた奴が次々に勝負を挑んで来た。ちなみにこの事情は最初にボコした魔族から聞いた。

 

とは言えこれも経験にはなるので、実は嬉しかったりする。

未知の魔法を見極め、弱点を見定め、勝ち筋を見出す。

様々な魔法を見られるのも新鮮だし、勝つたびになぜその魔法を研究しているのかを聞き出せるのでそれもまたいい発見になる。

 

悪くない日々だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍3650日目】

 

ここに来て十年。

今やっていることが一段落したら纏めて書こうと思っていたが、まだまだ時間がかかりそうだ。

なのでこの節目に途中経過として、一度書きだすことにした。

 

まず新たに防御魔法を習得した。

と言ってもさすがにあの防御魔法ではない。あれと比べるとハリボテと言っていいくらいの防御性能だが、基本的な遠距離魔法はこれで防げているので一旦は良しとしている。

面白いことにこの時代では様々な防御魔法が開発されているようであり、相手によって使い分けるのが今は良さそうだと思っている。

受け止める、中和する、受け流す、跳ね返す……。防御の考え方から違うのだ、これはこれで趣深い。

 

遠距離魔法はとにかく手札を増やすために様々な可能性を模索した。

今私が手札として数えているのは基本から派生した速射型と連射型。速射型から威力を下げて速度と射程を上げた狙撃型、また連射型から速度を落とすことで盤面制圧力を上げた弾幕型を加えた五種類になる。

 

ここには記さないが他にも様々な派生を考案していた。……が、それらは結局没になっている。

というのも不定期にシュラハトからの指示で人類側の拠点に攻め入っており、実戦の中で試して使えるものをこうして書き残している形だ。

 

幸運なことに毎回強い魔法使いと戦えるので、長所・短所だけではなく新たな可能性も見出せる。これのおかげで有用なものだけを選別できる上、次の足掛かりとしているのだ。

とは言えその中にも面白そうなものはある。……これ、派生要素だけを抜き出して後付けのオプションパーツみたいに使えないだろうか?

 

一先ず話を戻そう。

今やっていることだが、とある魔導書の解読だ。

 

名称は不明。だがこれは今まで読んできた中で圧倒的に古いものであり、なんでも神話の時代に作られた魔導書だといわれているらしい。

 

何か使える魔法はないのかというより、どんな魔法が記されているのだろうか。

好奇心に身を任せて解読し始めたのだが、まあこれが大変。

文字が違ければ文法も違うし表現もかなり抽象的だ。試しに翻訳魔法をかけてみたのだが、直訳すぎてまるで意味が分からなかった。

 

しかしそんな中で翻訳できた魔法名があり、それが是が非でも覚えたい代物だった。

そのため今はできる限り近い時代の魔導書や書物を引っ張り出し、類似する単語や表現を比べることで無理やり翻訳している最中だ。

 

まあ正直な所、かなり気が遠くなる作業ではある。

ここにある書物と比べるだけでも数十年かかりそうだし、そこまでやっても翻訳すらできない可能性だってある。

 

だが私は近道なんて便利なものを知らないのだ。

あるかもしれない物を探す時間があるのなら、這いずってでも確実に歩み寄ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍21893日目】

 

研究室内では無理だった。

 

だが翻訳は進んでいる、別の手掛かりを探しに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍25568日目】

 

人類に伝わる御伽話、その原本を手に入れた。

内容の関連はまるでないが、重要なのは表現や文法だ。今までと比べてより神話の時代に近く、翻訳の手助けになるだろう。

 

文字カッスカスで草。心理的な疲労からか頭が回っていない、少し休もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍29206日目】

 

遂に翻訳に成功した。

……が、同時に内容が御伽話だったことも判明した。

 

装飾が豪華だったせいで勘違いしていたみたいだ。

なるほど、道理で表現が抽象的なわけだ。妙に挿絵が多いのもそれが理由なのだろう。

 

チクショウめ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍29237日目】

 

一度落ち着けとシュラハトに諭され、息抜きに他魔族との交流を深めることになった。

 

あれから頻度は下がったものの、私を従えるために模擬戦を仕掛けてくる魔族は相変わらずいる。何なら研鑽を重ねたうえで再戦してくる奴もいた。

それを私は遠距離魔法・飛行魔法・防御魔法の三種を使って戦い、今のところ順調に勝利を重ねていっている状態だ。

 

意外なことにここで役に立ったのが、翻訳のために読み込んだ大量の魔導書の知識だ。

本命の役には立たなかったものの、魔法そのものへの造詣は大分深くなった。おかげで相手の魔法を分析する精度が著しく向上し、初見でもある程度まで予測できるようになっている。

これのおかげである程度相手の技術を把握できるようになり、戦った後に少しだが助言することができるようになった。

 

模擬戦相手になることで役割を果たしているということにしていたのだが、これでようやく胸を張って仕事をしていると言えそうだ。

 

そんな訳でこの数週間の間、魔法研究自体から離れていた。

本当は一週間くらいで再開しようかと思っていたのだが、なぜかその度に模擬戦を仕掛けてくる奴がいる。……まあ結果的にリフレッシュはできているしいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍29240日目】

 

いい加減研究を再開しようとした矢先、とある魔族に誘われて今夜魔法について語り合うことになった。

こいつには何度も勝負を挑まれており、その度に勝利しては助言を送るということを繰り返していた。どうやらそれで私との格差を自覚したらしく、いっそ開き直って正面から助言を求めに来たというわけで。

 

せっかくの機会だし、根掘り葉掘り聞くとしよう。

奴も百年近く生きた魔族。その生涯の中でなぜあの魔法を見出したのか、非常に気になることなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍29241日目】

 

時間が惜しい。

今すぐ始めたいが今後同じ過ちを繰り返さないため、ここに記す。

 

仕掛けを解く際は作り手の気持ちを読んで考えろ。

便利な手段があるからと言ってそれが最良の選択とは限らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍36502日目】

 

魔導書の解読に成功し、目的の魔法を手に入れた。

 

気づいてしまえばなんてことのない、二重の罠だったのだ。

あの御伽話自体が暗号であり、挿絵に記された順番に則って文章を切り抜いて並び替えることで本物の内容が現れる仕組みだった。

魔法によって隠されていたわけではなかったため、逆に気付かなかったのだ。

 

これに気づいたのは、あの日のおかげだ。

魔法について話し合う中で、私が自分の魔法を魔導書という形に残す気はあるのかを聞いた。それについて奴は自分が使うものなのだから不必要だと言っていたが、私は今やっているように過程を残しておくだけでも新たな可能性を見出すきっかけになるかもしれないと答えた。

 

それに対して他の存在がその成果を盗む可能性を示唆された際、私はこう答えた。

 

『わからないように細工を仕掛ければよい』

 

そして頭の中で自分ならどうするかを考え、ふとその可能性に気づいたのだ。

 

魔法でガチガチに封印するのもいいが、それだと遠い未来に解除される可能性がある。

ならば偽物のゴールをつくり、相手をそこで満足させればいいじゃないか、と。

 

……完全に頭が凝り固まっていたのを自覚した。

私が思いついたんだ、神話の時代の何者かが思いつかないわけがない。

 

それにたどり着いた瞬間に思わず立ち上がり、礼を言ってすぐさま研究室に戻った。

そして何か手掛かりはないか見直し、挿絵の違和感に気づいたわけで。

とは言え規則性に気づいても結局は地道に解読を進めていくしかなく、結局はそこから二十年ほどかかったわけだが。

 

とは言え、解読を始めてから約百年。この魔法をついに手中に収めることができた。

 

心を通わせる魔法

 

こいつを使いこなすことができ、かつあの仮説が正しければ。

長年の課題が解決できるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍52925日目】

 

あれから五十年の月日が流れた。……ここ最近書くことがなかったとはいえさぼりすぎだな。

 

かなり使いこなせるようになったので、まずは『心を通わせる魔法』についてわかっている範囲を記そうと思う。

それは簡潔にまとめると以下の通りだ。

 

①発動対象はある程度意思のある生命体。

②互いに承諾することで初めて効果が発現し、パスのようなつながりが生まれる。

③パスがつながった者同士は距離にかかわらず、会話が可能。また拒否をしなければ、視界や記憶の共有も行える。

 

といった感じだ。

さすがは神話の時代の魔法、伝説級に匹敵する凄まじい能力だ。

 

もう少し詳しく話そう。

 

①は人間・エルフ・ドワーフ・魔族といった人型だけではなく、動物や魔物相手にも使用可能だということ。ただ後述する理由により植物は対象外だと推測している。

 

②は少し厄介な点で、一方的に効果を押し付けるものではないということ。私が魔法を使うことで相手に淡い光が届き、それを受け入れることで初めて効果が発現するのだ。

 

③は言ってしまえば携帯電話だ。遠く離れた場所からでも会話ができ、ビデオ通話のようなこともできる。しかし伝説級の魔法なだけのことはあり、相手の承諾さえあれば記憶の共有すら可能だった。これにはさすがに驚いたものである。

 

これらを実験しながら照らし合わせ、内容を精査するのにかかった時間が約五年。

こいつをどう利用したのかというと、それは今もこうして目をつぶることで効果を実感することができる。

 

簡潔に言ってしまえば。

私は研究室に籠りながら世界を知る方法を手に入れたということだ。

 

利用したのは鳥類。中でも渡り鳥と言われる種や、魔力の影響で特殊な進化を果たした種を優先して選んでいる。

これらを卵の状態から世話し、刷り込みを利用することで私とパスをつなげることに同意させたのだ。それらに私の指示で動くよう覚えさせながら育成し、育ちきったら世界中に旅立たせている。

 

一回つなぐごとに魔力を消費するため、低燃費とは言えそこまで数は多くない。

総勢百余り。まとめて共有すると私の頭がパンクする(した)ので時間はかかるが、これらが私の代わりに世界を見に行ってくれているのだ。

 

おかげで研究も捗り、魔法の練度や魔力量も順調に上がっている。

情報収集にも長けたことで謀に強くなり、純粋な魔法勝負ならほぼ負けなしになった。とはいえまだシュラハト相手には勝てた例がないので慢心などできないのだが。

 

そしてそのおかげか、遂に私にも二つ名がつけられた。

 

『賢老たるクヴァール』、それが今の呼び名。

残念だとは感じておらず、むしろ良かったとすら思っている。あの二つ名を戴くとするのなら、()()()()を完成させてからに他ならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍52926日目】

 

今回は始めた日を明確に記そうと思い、筆を執った。意志表示のようなものでもある。

 

この世界に生まれて約二百年。

魔力は大魔族に匹敵するレベルにまで練り上げられ、使用する魔法は極致の域まで磨き上げられていると自認している。しかし私は今まで遠距離魔法・飛行魔法・防御魔法といった基礎魔法しか使っておらず、『心を通わせる魔法』は魔王様とシュラハト以外には見せていない。

詰まる所現在の私は汎用魔法しか使っておらず、私という個を象徴する特徴的な魔法を持っていないように見えているのだ。

 

それはなぜか。

もちろん、皆が認識すべきクヴァールの固有魔法はあれしかないと思っているから。

 

というわけで土台は整ったと判断し、今日から『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の開発を始める。

 

天才たる不敗の賢老でさえ生涯の大半を費やしたのだ。凡才たる私がいつまでかかるなんて予想しようがない。

だからこそ今までの成果を総動員し、一分一秒でも早く理論を完成させなければならない。

 

目指すべき性質は『絶対貫通能力』、これに尽きる。

古今東西、ありとあらゆる防御魔法を貫かねばならず、その準備のために世界中から防御魔法に関する魔導書をかき集めておいた。

 

一先ずの試作1号は頭の中にある。まずはこれをもとに組み立て、早速実験していこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔王軍89425日目】

 

やばい、まるで構築が完成しない。

 

 

 

 

 




※心を通わせる魔法(オリジナル魔法)

神話の時代の魔法のひとつ

相手との繋がりを保ち、遠く離れた場所からでも双方の対話を可能とする
より親交がある者とは見ているもの、聞いているものを共有できる

なぜこの魔法が生まれたのか、その理由は残されてはいない
しかしこの魔法が記されている魔導書、それは隠れ蓑としてとある御伽話が書き記されていた
元はひとつだったのだから、誰であっても対話はできる。そんな理想を抱いた無垢な魔法使いの物語だ


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感想・評価共にありがとうございます。
誤字報告も助かっております、ありがたい限りです。

今回出てきた魔法は完全オリジナル魔法です。
本編や前の番外編の描写に説得力を持たせようと考えた結果、なんかとんでもないのが生まれてしまった気が……。

ウン、タブンキノセイデスネ。


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