知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結) 作:月光好き
遂に始まります。
【魔王軍52929日目】
試作第一号ができた。
最初は基盤を遠距離魔法とし、その性能を改良していくことから始めていく。
今回は強度を重視し、正面から打ち砕けるようにしてみた。
結果は失敗。
当初の予定通り通常の防御魔法は突破できたのだが、反射性の防御魔法には手も足も出なかった。おそらくあれはこちらの魔法に干渉して移動方向だけを反転させているのだろう。
受け止めるという発想がない防御魔法相手には効果が薄い。次だ。
【魔王軍52936日目】
試作第二号ができた。
今回は密度を重視した。
圧縮させることで強度を向上させつつ、反射系統のように干渉してくる魔法に多大な負荷を与え突破しようという魂胆である。
結果は失敗。
悪くはなかった。前回の結果に加え、反射性の防御魔法に対して優位的な効果が見られた。どうやら現時点では一度に反射できる量には限界があるらしく、それを超えると打ち砕くことができたのだ。
……しかし、その許容量を超えるための魔力消費量がさすがに無視できない事になってしまった。
通常の遠距離魔法と比べて燃費があまりにも悪すぎる。これでは下手すれば一般の魔法使いには扱えない代物になるかもしれない。
それでは意味がない。次。
【魔王軍52967日目】
試作第三号。
二号の密度を落とし、中心に別の遠距離魔法を仕込んでみた。
外側を外殻とし、少しだけ不安定にすることで防御魔法等の干渉を受けた瞬間にはじけ飛ぶようにしたのだ。これによって防御魔法に穴をあけ、そこを本命が通過するという仕組みになっている。
結果は大失敗。
色々詰め込みすぎたのが原因のようだ。魔法構造が道中で加速度的に不安定になり、暴発したり崩壊したりする事態が多発した。これを解決するためには射程ごとに異なる強度で組む必要があり、それは不便すぎるという理由で没となった。
こちら側で一々調整する必要がある魔法なんて誰も使わないだろう。次。
【魔王軍53332日目】
試作第四号ができた。
今回は狙撃型を改良し、より速度に特化させた。防御魔法が完全に組みあがる前にぶつけることができれば、現状すべて貫通できる性能になっている。
結果……を調べる前に中断。
考えすぎて迷走してるんじゃないよ。防御魔法が間に合わなければ実質貫通なのは確かにそうだが、今回に限ってそれは正しくない。
これはこれで使えそうだが、求めているのはこの方向性ではない。次。
【魔王軍55983日目】
試作第五号……と呼べて記録に残せる程のものはできておらず。
堂々巡りになっているのを感じる。
あちらを立てればこちらが立たず、とでも言ったところか。どこか一ヶ所を伸ばせば別の分野で欠点が生まれ、そこに対応した防御魔法に防がれる。
色々いじってみてわかったことだが、今使っている魔法構造には所謂最大容量のような概念が存在している。
その範囲内でなら改良が可能なのだが、容量を超えて機能を追加すると不安定になるみたいだ。それを確かめるためにいくつかの派生を作り、何度も実験を重ねてきた。
薄々勘付いてはいたが、これで確信に至った。
私が使う魔法構造では、『
詰まる所、魔法を開発する前にその器から作る必要があったというわけだ。
スタート地点に立ったと思っていたが、そもそもスタート地点を作る必要があったとはな。
【魔王軍70624日目】
仮説構造一号、ものすごく難儀している。
途中経過として考えをまとめよう。
いやな予感がしていたが、見事にそれは的中した。
そう言えばこの世界の魔法は明確なイメージを持つことで発動するものが多い。それすなわち、こうして理論立てて魔法構造から考える魔法使いなんていないということだ。
もしかしたらいたのかもしれないが、そんなの異端扱いされるに決まっている。歴史に名を残していないのならば、それは存在していないのと変わらない。
おかげさまで参考資料がない。なのでこれまでの知識や分析してきた経験を活かしてゼロから作成し、私自身が納得できる構造にしなければならないのだ。
とりあえず、最初から考えよう。
まず基本である遠距離魔法の考え方から。
①十分な量の魔力を集める。
②崩れないよう制御し、その場に留める。
③維持したまま狙った方向に撃ちだす。
この中で魔法構造にかかわると考えられるのは②と③になるだろう。
②が魔力の圧縮とその固定、③が指向性の付与だ。
これによって遠距離魔法は攻撃手段になり得ている。これはその行動自体がイメージしやすいものなので、魔法の初歩として扱われているのだろう。
続いては防御魔法。一番標準的なものだと考え方はこうなる。
①十分な量の魔力を集める。
②圧縮し、防御性能を付与。
③展開図をイメージし、そこに魔力を流す。移動したのち、固定できるようさらに圧縮する。
途中までは遠距離魔法と同じだが、後半に変化がある。
②で一度圧縮しているのは恐らく最低限の防御性の確保と、流動性を制御しやすいレベルに落としているのだと推測している。
本来自身の周囲に展開するものなので速度は十分確保できるし、狙った所に展開できた方が都合が良いのだろう。
③が最も大きな違いだ。
感覚としては展開図を空中に描き、そこに魔力を通すイメージだろうか。
実際手をかざしながら行った場合は素早く容易に展開できるし、明確なイメージがあればそれよりも早く展開できる。
ここで遠距離魔法との明確な違いを考えた場合、それは『特性付与』と『形状付与』になるのだろう。
防御魔法に限らず一般的に出回っている魔法は上記の二点を必ず行っており、その難易度に応じて特異性や希少性も上がっていくのだろう。それが極まると伝説級の魔法となり、『心を通わせる魔法』のような魔法となるわけで。
話を戻そう。
現状遠距離魔法を基にしているため、その構造はかなり感覚的だ。それ故に構造外殻としての強度が足りておらず、目標としている性能に届いていないわけで。
さてどうするか。
試作魔法を作るより先にこちらを完成させなければ、頭打ちになるのが目に見えている。
そっちは可能性を広げる方向で模索しつつ、こちらを主軸に考えていこう。
【魔王軍89425日目】
いかんいかん、焦りのあまり変なことを書いてしまった。
試作魔法の方は前に進みつつある。
威力・強度・弾速・射程。これら四項目を基準とし、今はそれをいじりながら最適なバランスを考えている。無論すべてを求めようとすると魔力消費が大きくなってしまうため、せめて遠距離魔法の二~三倍程度に抑えたいところだ。
で、肝心の魔法構造だが……全く進んでいないのが実情だ。
なにせ明確なイメージができない。
必要な性能はなんとなくわかるが、正直私では何も思いつけていない。今までと違って前例がない分、切っ掛けをつかむことすらできていないのだ。世界中に目を広げてはいるが、今の所有用な情報を得ることもできていない。
……背に腹は代えられない。
私一人では無理だった、そう認めるしかなさそうだ。
今日はもう休む。
そして明日、彼の力を借りるとしよう。
あぁ、本当に業腹だ。私自身の凡才ぶりに吐き気がする。
【魔王軍89426日目】
相談した結果、七崩賢の魔族を紹介された。
……きっとこれもシュラハトが予知していたのだろう。
わかっていても少々複雑なのは、己の未熟さ故としか言えないな。
【魔王軍89455日目】
研究室に戻ってきた。
この一ヶ月の間に起きたことを記しておこう。
まず『七崩賢』とは、魔王直下の大魔族である七人の総称だ。
それぞれが希少な固有魔法を扱う二つ名持ちで、圧倒的な魔力と戦力を保持している。わかりやすく言うと大幹部と言ったところか?
数十年前に編成された表向きの最高戦力であり、それぞれが人類との戦争で大活躍している。ただそれぞれ拠点を有しているため、この魔王城には滅多に現れない。
故に縁がないと思っていたが、今回なんと七崩賢全員の魔法を見せてもらうことになった。
既に許可は取り終えているらしく、詳細を記録に残さないことと他言無用であることが条件になっているらしい。
そして今回一人目がマハト。通称『黄金郷のマハト』だ。
彼の魔法は……とにかく美しく、それでいて絶大だった。
問答無用の強制力を持つまさしく呪い。圧倒的な力を誇るそれは、今まで見てきた魔法とは比にならない衝撃だった。
そして何度か見せてもらいつつ、いくつか質問にも答えてもらった。
少々不愛想だったが話しやすく、話す内容も明瞭。今まであってきた魔族の中でかなり話しやすい相手だったと思う。
そしてその中で分かったこと。
それは魔法構造において最も重要なのは『できるという確信』だ。
どんなに滅茶苦茶な性能であっても、それができるという明確な確信さえあれば破綻することなく発動する。
私はそれを合理性で補ってはいるものの、他の魔法使いが発動できる理由は知れた。
これは必ず足掛かりになるはずだ。
しかしすぐ次の魔族に会いに行けるわけではなく、基本的に相手からの連絡待ちらしい。
それまでの間は魔王様やシュラハトからの要請を受けつつ、仕事もこなしていくとしよう。
【魔王軍89637日目】
ようやくきた面会の日。
今回会ったのはグラオザーム。通称『奇跡のグラオザーム』だ。
彼の魔法、それはある意味一番わかりやすい魔法だった。
練度が違うとはいえ、その一部が『心を通わせる魔法』に近しいものだったからだ。
そんなわけで話し合う内容は主にその周辺。
実は鳥類や魔物相手になら記憶を読み取れるのだが、人間や魔族相手にはまだ試したことがない。
まあそもそも条件を満たせる相手がいないのが理由なのだが、なんとなくその際の感覚や負担が異なるものであるというのを理解している。
なのでその辺りを聞けるかもしれない今回の機会は、とても貴重なものだった。
ここでわかったのは『魔法の基盤は本人の資質によって変化する』、ということ。
これは以前から他魔族との交流によって推測はしており、マハトとグラオザームの二人に聞いたことで確信したことでもある。
私は指先。マハトは対象の表面。そしてグラオザームは自身の魔力が及ぶ範囲ならどこでも。
魔法陣のような明確な何かしらがあるわけではないが、それぞれが思い描く魔法の起点は違うようで、それぞれ問題なく発動している。
……結局はこれも明確なイメージに含まれるのだろうか。
後今書いておいてあれだが、そういえば私以外の魔族が魔法陣を展開して魔法を使っているのを見たことがない。何か理由があるのか?
【魔王軍90148日目】
今度は数年間待たされた。
……まあシュラハトのことだ、何か理由があるのだろう。
今回の相手はベーゼ。通称『不死なるベーゼ』だ。
彼の魔法は何というべきか……格が違った。
魔法の内容はそこまで珍しいというわけではない。ただただ完成度が違う、これに尽きるのだろう。
本当にうらやましいものだ。
七崩賢は大半が私より若いというのに、彼らはこんなにも輝いている。
それに比べて何故私は話を戻そう。
彼はどちらかというと理論派らしく、結局はイメージなのだがその過程を教えてくれた。私としても目指すべき方向性は同じだと思っているので内容をしっかり聞き、書けないものの内容は頭に刻み込んでいる。
ここでわかったのは『最適な魔法は自然と生まれ、明確なイメージはそれに付随する』、ということ。
彼曰く現在の完成度に至ったのは、知らずの内にどうすればより強い魔法になるのかをイメージできるようになっていたからだそうだ。
魔族に感覚派が多いのも、自分に最適な魔法を見つけた場合にそれが発生しているからだそうで。
……え?
私、というかクヴァールの魔法って『
衝撃だったが、心の奥で納得している自分もいる。
いや、別にそうだとしても私の目的は変わらないのだが。
逆に言えば早めに研究を始めておいて本当によかった。
さーて……何百年かかるかわかったもんじゃないな、これ。
気合を入れなおそう。
【魔王軍90155日目】
遂に手がかりをつかんだかもしれない。
四人目、なんでも今回会う魔族が七崩賢の中で一番の新参らしい。……まあ、そう言ったところで大魔族なのは変わらないのだが。
その名はアウラ。『断頭台のアウラ』として頭角を現し、二年前に前任の魔族を打ち負かして七崩賢入りした存在だ。
そしてその名を聞いた瞬間、私に電流が走った。
……いや、あくまで表現なのだがそれくらいの衝撃を感じていた。
あまりにも昔の記憶すぎて確証はないが、彼女の存在を私は知っている。
確か原作にてフリーレンと戦った大魔族であり、何かと話題になっていた魔族のはずだ。
だが正直彼女自体はそこまで衝撃じゃない、それに付属して発覚した事態が衝撃なのだ。
それすなわち、彼女が加入したことで遂に判明した時間制限の存在である。
確か彼女が七崩賢に加入したのは大体五百年程前だと、作中で言及されていたはず。
そこから逆算することが可能となり、期限が刻一刻と迫っているのを遂に実感した。
かすかな焦りが生まれるのを感じつつ、ふと気になることも出てきた。
明言はできないがアウラの魔法は魂に干渉するもの。それはあくまで過程であり狙いは別にあるのだが、そういえば魂の存在を明確に認識できるのは彼女の魔法だけだ。
そして前から心の奥底に引っかかっていた、ベーゼとの対話で得たとある情報の存在。
……これは利用できるかもしれない。
そう思った私はアウラの魔法を見せてもらった後、魔法による契約を結んでから私自身を対象に魔法を使ってもらった。なぜかというとこのままでは彼女に不利な結果になってしまうため、そうなっても何もせず権限を返却すると明言しておく必要があったというわけで。
魔力、つまりは魔族としての格は私の方が上なので何とか要求を通すことができた。
とは言えアウラもかなり渋っていたしその気持ちもわかるので、他の七崩賢よりも多くの助言と情報を授けたわけだが。
今更だが私は魔王軍の魔法指南役(仮)という立ち位置にあり、固有魔法以外の助言役として皆と会っている。
なのでマハトには遠距離派生魔法と魔法使いの歴史を。
グラオザームには心を通わせる魔法と魔力探知を。
ベーゼには防御魔法の歴史といくつか見繕った魔導書を。
それぞれ役に立ちそうなものを選定し、物がいる場合は鳥を使って後から送り届けているわけだ。七崩賢が扱う魔法は理を超えている、その情報を得ることができるなら、この程度の出費なんて何とも思わなかった。
とまあそんなわけでアウラに魔法を使ってもらい、私から抜き出した魂を見ることができた。
の、だが……言葉にできない違和感を覚えた、そんな感想だった。
天秤に乗せられた二つの黒い魂。
傾いたのは無論私の方なのだが、どうも漆黒とは言えない妙な色をしていた。
先ほど人間相手に使った時は白色だったので、魔族の魂は黒色だと思っていたのだが。
なんか妙に薄いというか、別の色が混じっているように感じる。アウラも見たことないと言っていたが……まさかな。
それよりも重要なのは、その状態だった。
なんというか、どうも揺らぎすぎているように感じたのだ。
常に風に煽られているかのように動き続けており、かと言ってその勢いが衰えるわけでもない。
こう……
無論この状態をアウラが知るはずもなく。
しかしこの漏れ出る何か、それを認識した瞬間に私の奥底で何かが蠢くのを感じた。
これだ、直感でそう感じた。
これを辿っていけばきっと、私の根源にたどり着ける。
この先にきっと、未来への手がかりがあるに違いない。今後はこの力の解析も並行して進めていくことにしよう。
ちなみに先ほどからいくつか個人的な質問をアウラにしていたわけだが、それは支配中にやっており、その記憶も抹消していたりする。
『クヴァールに恩恵が発生した場合、必ずその権限を無条件で返却する』
これがアウラと交わした契約の一部を抜粋したもの。
いつ返却するかは書いてなかったからこういうこともあるよね、うん。
結果として、今回はとても良い出会いだった。
もし次会うことがあれば、その時は何かお返しをしたいものだな。
感想・評価共にありがとうございます。
誤字報告も助かっております、ありがたい限りです。
魔法に関する考察は完全なる独自設定です。
主人公の推測なのでそうかもしれないし、実は違うのかもしれません。そのくらいの認識でいいかと。
アウラの魔法を知って過去編をやると決めたとき、なぜかこのシーンが頭の中に浮かんできたんですよね……。やっと書けました。