知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結) 作:月光好き
年末年始忙しすぎて気づけばこんな時期に。
色々あって前後編っぽく分けました。
後編はあまり時間を空けずに投稿します、少々お待ちを。
切っ掛けはとある仕事の最中だった。
次を持つ間に受けた、魔王様からの要請。
停滞した状況を打破するために、他の魔族たちと組んで人類側のとある要塞に攻め込んだ。その時、強力な戦士達と戦ったのだ。
魔法ではなく、武器を使って戦う存在。
前衛を担う者たちとはこれまで何度も戦ってきたが、奴らは今までとは格が違った。連携をとることで絶え間ない攻撃を浴びせ、怒涛の勢いで味方を叩き潰していた。
それを援護するために私一人で相対したのだが、かなりの苦戦を強いられたのだ。
こちらの遠距離魔法を時に回避し、時に受け流し、時に切り払う。
更にその僅かな隙間を縫うように反撃を繰り出してきていた。もし私が高速で動ける飛行魔法を修めていなければ、決着はすぐについていたことだろう。
何度も攻防を入れ替えつつも、膠着状態に陥りそうになった時。
驚くことに、奴らは躊躇うことなく特攻を選択した。
それに気づかず通常通りの反撃をしてしまった私は、敵の背後から諸共貫かんと振るわれた一撃に気づくのが遅れてしまったのだ。
それは死角となっていた戦士の背後から迫り、敵ごと私の右胸に突き刺さる。
そのまま縦に切り裂こうとするのを察知し、咄嗟に後ろに下がったことでなんとか胴体の両断は避けられた。しかし切り裂かれた傷は大きく、重傷なことには変わらなかった。
すぐさま攻撃してきた敵を排除したが、ここで強い戦士との集団戦闘の経験の少なさが悪手を招いてしまう。
正面に集中してしまったせいで、回り込んできた敵への対応が遅れたのだ。
そして振るわれた一撃は遠距離魔法を撃つために向けていた右腕を切り落とし、一気に状況は悪化した。
この機を絶対に逃さない。
言葉にせずともそれがわかるほど明確な意思を持って、残った戦士全員がこちらに迫る。
例え同士討ちになったとしてもここで必ず殺す。
そんな意思をはっきりと感じていた。
――頭の中が、急激に研ぎ澄まされていくのを感じる。
強敵との戦闘による高揚感。
目まぐるしい攻防の中で回し続ける魔力と魔法。
久方ぶりに感じた、命に届きうる脅威。
どれが原因なのかはわからない、もしかしたら全部なのかもしれない。
ともかく明確に迫りくる死の実感。
それを前にした私はふと気が付くと、暗闇の中にいた。
一瞬幻覚かと疑ったが、やがて目の前に明かりが灯る。
それは以前見たことがある火……アウラの魔法で観察した、私の魂の灯火だった。
そして、気が付いた。
身体の奥。
全身に魔力を流している、その起点。
その中心の、更に中心。
私の魂の核に
その縫い目からは煙のような何かが漏れ出ており、それによって魂が妖しく燃えていた。
そしてそれが以前抱いた違和感の正体であり、得体のしれないそれが力であることを、心で理解した。
夢は未だ果たせず。
終着点も未だ見えず。
……ならば、今ここで終わるわけにはいかず。
心の奥底から溢れ出る衝動に身を任せ。
私は、その縫い目の糸を解き――――
――そして、朱い花が咲いたのだ。
「……これ、は」
喉が渇く。
そんな感覚を今まで感じたことなどなかったが、思わず唾を飲みそうになる。
私の眼は見開かれ、目の前の光景をありありと映している。
「ハ、ハハッ…………」
花が、咲いていた。
私を中心に大きな花が咲き、周囲には朱い蝶が舞っている。
その鱗粉なのだろうか。
赤い光が煌めき、星空のように空を彩っている。
「ハハハ…………ッ!」
とても静かだった。
先ほどまでの喧騒が嘘のようだ。
敵の声も、味方の声も。
何も聞こえない。
そしてそれがなぜなのかを、私は既に知っている。
「ハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
なにもいなくなっていた。
敵陣は崩れていた。
建造物は瓦礫となり、敵兵の姿はなく、奴らが身に纏っていた鎧だけがそこら中に転がっている。
自陣は壊滅していた。
共に攻め込んでいた仲間たちの姿は見えず、周囲に彼らだったモノが舞っていた。
「――――――」
聲が聞こえる。
その方向へ視線を向けると、そこには私に向けて手を伸ばしている存在がいた。
手に持っている剣から、先ほどまで戦っていた戦士の一人だろうか。
私の腕を落とした人物で他の連中に指示を出していたことから、彼が隊長格だったのだろう。
「――――――」
ゆっくりと彼はこちらに歩み寄る。
あぁ、今ならわかる。
彼の持つ剣、あれには何かしらの魔法がかかっている。
加護とやらが一番近いのかもしれない。
持ち手の身体能力を向上し、ただでさえ高い耐久性も底上げされていたのだろう。
「――――――――」
そうでなければ、こんな姿にはならない。
皮膚は爛れ。
肉は腐り落ち。
見える骨は節々が朽ちている。
半端に上がってしまった耐性が、こんな惨状を生み出してしまったのだ。
「…………」
静かに指先を向ける。
今までとは比にならないほど滑らかに魔力が回り、莫大な魔力を圧縮する。
イメージの赴くままそれを引き絞り、自然と口から出た言葉を紡いで解き放った。
「【
彼の全身を一瞬で朱い光線が通り抜け、その跡には何も残っていなかった。
それを見届けた私は座り込み、先ほど遠距離魔法を放とうとした左手を見つめる。
あれは今まで放った中で最も強大で、最も強固で、最も速かった。
あんなに苦労していた魔力制御も一瞬で整い、あんなに苦労していた術式構造が微塵も揺らがなかった。
なにせ半端に塞がれていたことで淀んでいた流れが解き放たれ、存分に私の魔力を使えるようになったのだ。
既に準備が終わっており、後は切っ掛けさえあればここに到達することができたのだろう。
「……ふざけるな」
――そう、これは私の魔力だ。
心で理解できた。
あの中にあったのは、私の魔力だったのだ。
なるほどそういうことか、それならば今まで使ってきた魔法の術式構造が妙に不安定だったのも頷ける。
なにせ他人の魔力で魔法を使おうとしていたのだ。自力でやろうとしていていないのだから、明確なイメージが反映されるはずもない。
「ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな……ッ!」
そしてこの魔法は、私の魔法だ。
私にとって最適な魔法なのだから、こんなにも容易くイメージができるのだ。
そうだろう?
そうでなければおかしいんだ。
数多の生命を否定する、これが。
今もなお周囲を浸蝕しようとする、こんなものが。
「ふざけるなァァァァァァッ!!」
見よ、我が魔力の穢れたるを。
こんなものが、まともな生命に流れるものか。
どんどんエルデンリング要素が濃くなっていく不思議。
普段より短めなのは、本来一話だったものをまとまりが良いので二つに分けたからです。
……前後編を一度やってみたかったわけじゃないですよ?