知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結)   作:月光好き

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こちら後編となっております。
同日中に投稿されている前話からの続きものですので、まだ読んでいない方はそちらからどうぞ。





『黄金卿の追憶』

 

 

 

「何用でしょう?」

「あぁ、実は向かってほしい先があってな」

 

 

魔王城。

突如呼び出された俺は魔王から内容を聞く。

 

しかしそれを聞いて疑問を抱いた。

なぜならその地には既に俺の知る魔族が向かっており、その実力を考えると決着は明白だったからだ。

 

 

「そこはクヴァールが向かっているはずです。私がいるのでしょうか?」

 

 

賢老たるクヴァール。

 

はるか昔より魔王に仕えている存在。

シュラハトに並ぶ魔王の腹心であり、汎用魔法のみで数多の魔族に打ち勝てる実力者。

表立って戦場には現れず、魔王軍の戦力底上げを担う参謀役。

 

……というのは、周囲からの伝聞で聞いたこと。

 

確かに長生きだが、最古参というほどではなく。

未だ自分の魔法を見いだせていないからこそ、汎用魔法のみで戦っており。

魔法の研究に生き甲斐を感じているため普段は研究室に籠り、その見返りとして魔王に仕えて魔王軍を鍛えている。

 

それが何度も交流を積み重ねる中で本人から聞いた、クヴァールという魔族の性質だった。

 

内外で様々な意見を聞くが、そのどれもがクヴァールを高く評価している内容は一致している。

俺もそれには概ね同意しており、少々偏っているが魔法に関する知識は他に類を見ない程だと思っていた。

 

 

「いや、もう決着はついた。その様子を見てたんだが、実に面白いものが見れた」

 

 

そのクヴァールが直接出向いた戦場、しくじるとは考えにくい。

 

そう考えていたがそういうわけではないらしい。

しかしそれを話す魔王はどこか昂っているようであり、無表情なのにも関わらず、俺には楽しんでいるように見えていた。

 

 

「あいつが遂に魔法を使ったぞ」

「……なるほど」

 

 

それを聞き、その意味をすぐに理解する。

 

クヴァールに対して態々『魔法を使った』と魔王は表現した。

それはつまり、奴が汎用魔法以外の魔法を使用したということだ。

 

術式構造の明確化。

最初に出会った時、クヴァールは自身の目的をそう話していた。

 

感覚ではなく、根拠に基づいた明確なイメージの形成。

いついかなる時でも同じ性能を発揮することを終着点としたようだが、最近聞いた時点ではまだ難航していたはずだ。

 

 

「あんな魔法を私は見たことがない。あれは七崩賢……いや、それ以上の可能性を秘めているだろう」

「…………」

 

 

黙って話を聞いて続きを待つ。

 

内容はともかく、これはどうあがいても行く羽目になりそうだ。

 

 

「だからマハト、お前に二つ頼みがある。一つは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マハト」

「…………」

 

 

魔王城を出て、目的地に向かおうとした瞬間。

 

予想通り、突如俺の横に現れたシュラハトが声をかけてくる。

 

 

「感謝する」

「いいんだな?」

 

 

形だけだが、一応確認する。

 

あの日突然言い渡された、クヴァールに対して魔法を見せるという不可思議な要求。

七崩賢全員に同じ要求をしているようで、その見返りを聞いた俺は承諾することにした。その中で話し合う内に気が合い、今では定期的に交流する機会を設ける仲になっている。

 

 

「あぁ。……一応言っておくが遠慮は無用だ、全力でやってくれ」

「言われるまでもない」

「あともしクヴァールに戦う気がないなら――――

 

 

 

 

 

「……覚えておこう」

 

 

相変わらず、俺が言うこともわかりきっているらしい。

 

もうこれ以上語ることはないと判断し、再び魔力を回す。

 

 

「最初から最後まで分岐が多すぎてな。悪いが念のため、本命のついでに切り取らせてもらった」

「…………?」

 

「随分と手をかけさせてくれた。……お前達が、手を取り合えていることを願うよ」

 

 

飛び出す直前。

 

妙なことを話すシュラハトの目は、今まで感じたことのないナニカをまとっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――これは」

 

 

目的地の要塞、その上空。

そこから見下ろす景色、それは確かに今まで見たことがないものだった。

 

端的に言えば、この地は腐っていた。

 

草木は枯れ、要塞は朽ち、人も魔族も気配すら感じない。

所々に装備品が転がっており、その散らかり様からこの腐食はこの周囲を一瞬で覆ったことになるのだろう。

 

 

(……クヴァール)

 

 

魔力探知の結果から、この地にあるまともな生命は一つしかない。

 

この腐食が広がる中心、そこにクヴァールはいた。

 

座り込み、地面を見つめていて動く様子はない。

 

健在ならさっさと仕事を済ませよう。

そう考えた俺はまずこれ以上の浸蝕を防ぐために、高度を下げながら魔法を唱える。

 

 

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 

 

範囲を定め、クヴァールの背後に降り立ちながら魔法を発動する。

 

俺を中心に要塞ごと大地を黄金に変え、視界を一色に染め上げていく。

予定通り、腐食している箇所をすべて覆えるように。

 

 

「クヴァール」

「……マハトか」

 

 

黄金による上書きが終わったのを確認しつつ、静かに声をかける。

するとクヴァールは初めて俺に気が付いたようでゆっくりと顔を上げ、しかしこちらを振り向くことなく口を開く。

 

 

「目的は達している。おぬしも帰るがいい」

 

 

静かに、クヴァールはそう告げる。

 

普段の余裕はなく。

研究が難航していた時の焦燥もなく。

 

そこにあるのは、どこまでも空虚な感傷に浸る己の友の姿だった。

 

 

「……魔王様から言伝を預かっている」

 

 

事前に聞かされていた、魔王からの言伝。それを聞かせるためにも、まずは話を聞いてもらわなければならない。

 

そう考えた俺は目的を伝える。

しかしそれを聞いたクヴァールは身じろぎ一つせずに口を開く。

 

 

「いらん。……儂はここで終わる」

「それを止めろとも言われている」

 

 

予想通りの回答を聞き、俺は言葉を返す。

 

しかしクヴァールの反応は薄く。

俺は聞いていた通りの展開になったことにため息をつき、話を進めるために辺りを見渡しながら口を開いた。

 

 

「これがお前の魔法か?」

「ッ」

 

 

意識がこちらに向いたのを感じる。

だが、これではまだ足りない。

 

 

「マハト」

「凄まじい魔法だな。俺の魔法(ディーアゴルゼ)にも引けを取らない」

 

 

止めろ、言外にそう聞こえるようクヴァールは口を開く。

 

だがまだ足りない。

その意思を無視して言葉を続ける必要がある。

 

 

「……マハト」

「命を蝕み、腐らせる性質か。まともに食らえばそれだけで終わり、実に魔族(おれたち)らしい魔法だ」

「マハトッ!!」

 

 

静かな地に声が轟く。

 

腹の底から出したのだろう。

ようやくこちらを向いたクヴァールを見つめながら、静かに続きを促した。

 

 

「……違う、違うのだ」

「…………」

「儂の魔法はこれではない。……これであって、いいはずがない」

 

 

そして告げられたのは、否定の言葉。

 

いいはずがない、か。

 

まるで己の理想とかけ離れたとでも言いたげな台詞。

それを頭の片隅に置きつつ、立ち上がったクヴァールを正面から見た。

 

 

「マハト、魔法を解け」

「どうするつもりだ?」

「結界でこの地を隔離し、すべてを燃やし尽くす」

「…………」

「この腐敗は儂の意思とは無関係に周囲の生命を侵し、増殖する。そんなもの、この世に残すわけにはいかん」

「お前ごとか?」

「…………」

 

 

言いたいことはわかった。

……が、その果てを知っている以上は止めなければならない。

 

 

『おそらくあいつは死のうとするだろう。だからまぁ、死ぬ気でそれを止めてくれ』

 

 

魔王から言われた、第二の仕事。

 

奴がそれを予測したのか、その腹心がその先を予知したのか。

どちらかが真実なのだろうが、それは些細なことだ。

 

己が仕事を全うするため、肩にかけたマントを外す。

 

 

「引け」

「断る」

 

 

端的に言われた言葉を、端的に返す。

 

クヴァールはこちらを静かに見つめ、俺はそれをただ見返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万物を腐敗させる魔法(エオニア)

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 

 

発動したのは同時だった。

 

眼前に迫る朱い光線。

俺はそれを黄金に変えたマントで受け止めつつ、クヴァール自身に視線を移す。

 

全身を黄金に変化させ、拘束する。そしてそのまま、魔王の元に連れていけば終わりだ。

 

 

「なに?」

 

 

そう、思っていたのだが。

 

何時まで経っても、クヴァールの体に変化が起こらない。

何時まで経っても、奴の魔法が衰えない。

 

それを疑問を感じた直後。

視界の端を横切ったそれを見て、ようやく疑念を確信に変えることができた。

 

 

「……驚いたな」

 

 

飛行魔法を展開し、上空へ回避して光線を避ける。

 

それを見たクヴァールは魔法を止めてこちらを見上げているが、その姿は少し変化していた。

 

戦いで負ったであろう傷口からは魔力が煙のように漏れ出ており。

背中の毛皮は数多の蝶に変化して、それが翼のように広がっている。

 

魔法を使用した直後から倍近くにまで膨れ上がった魔力を揺らめかせながら、奴は口を開いた。

 

 

「無駄だ、この腐敗は万物を浸蝕する。魔法とて、この理からは逃れられん」

「その様だ」

 

 

そう返しながら俺は、()()()()()()()()を剣に変化させる。

 

不変の黄金。

それが俺の魔法である万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)が生み出す物質だ。

どれだけ接触していたかはわからない。が、魔法がぶつかり合う衝撃だけで欠けてしまうほど脆くなっていた。それが今起きた現象の正体だ。

 

その名の通り、今まで一度たりとも変化することのなかった黄金。

その前提が崩れたことを認識しつつ、周囲に羽ばたいている蝶を眺めながら口を開く。

 

 

「妙だな。ここにいた奴らと戦うだけで、そこまで強くなれたんだ。なぜ今までそうしなかった?」

「切っ掛けになるほどの強者と出会えていなかった、それだけだ」

「そうか」

 

 

そう返答しつつ、姿勢をわざと崩す。直後、先程まで手足があった場所を朱い光線が通りすぎた。

 

それはクヴァール自身ではなく、周囲を飛ぶ蝶から放たれたものだ。そして回避のついでに切り裂いてみたが、いとも容易く蝶は消え去った。

 

一匹一匹は脆弱。が、とにかく数が多い。

合間に遠距離魔法で反撃してみたものの、それは射線上の蝶に触れるたびに勢いが衰えていき、本体にたどり着く前に構造を保てなくなって自壊していた。

 

……どうやら全てに対処するには、少々手を変える必要があるらしい。

 

そう判断した俺は地面に降り立ち、剣の切っ先を地面に向けて強く押し出す。

 

衝撃で地面が砕け、黄金の破片が空中に舞う。

それは俺の周囲を飛び回り、その規模を増していく。

 

 

「不思議な感覚だ。まるでずっと枷をつけられていたかのようだったのに、今では呼吸よりも容易く行える」

 

 

近づきながらクヴァールはそう話しつつ、再び朱い光線を放つ。

それに対して俺の周囲の金片を操作し、射線上に覆いかぶせて受け止めた。

 

それを見た奴は周囲の蝶を絡めて飽和攻撃を仕掛けてくる。

 

最初の時ほど強力ではないが、絶え間なく繰り出される猛攻。

しかし先程とは違い防ぎ続けることができている様子を見て、攻撃を続けながら奴は口を開いた。

 

 

「……もう対処したか」

「欠ける程脆くなったのは、受け止め続けていたからだ。ならば、接触する範囲を常に動かし続ければいい」

「流石は七崩賢、分析が早いのう」

「お前が教えたことだ」

「そうか。……そうだったな」

 

 

そう、俺はこの対処法を今思いついたわけではない。

既に知っていたものを、ただ流用しただけだ。

 

人間が開発した防御魔法、そのうちの一つに込められた理念。

魔法を使うことにおいて本来不必要だったそれを、俺の魔法で再現しただけのことだった。

 

これを当初クヴァールから聞いたときは、関係ないと思って頭の片隅に留めるに済ませていた。

だが、留めるだけでもこうして効果はあったらしい。

 

 

「ただの防御魔法なら先に術式構造が崩れていただろうが、俺の黄金なら可能だ」

「……だがそうだとしても、生まれているのは停滞だ。反撃はどうする?」

「それでいい」

 

 

間違いなく防げてはいる。しかしクヴァールの言う通り、わざと奴の魔法を継続して防がせた一部の金片はもう色褪せ始めている。

それにこの方法は思いついたばかり。鍛錬が足りないため操作できる金片は多くなく、反撃できるほどの質量は確保できそうにない。

 

だが問題ない、停滞でいいのだ。

そう考えながら歩み始め、徐々にクヴァールに近づいていく。

 

 

(……傷が深い。あまり時間がないか)

 

 

正直に言えば、楽しくなってきている自分がいる。

 

久々に味わえている戦いの感覚。

常日頃蹂躙し続けていた俺にとって、全力を出しても即座に決着がつかないことを実感することができる相手が目の前にいるのだ。更にこのわずかな時間で俺の魔法は洗練され、新たな可能性を見出すこともできた。こんなに楽しいと思うのは、一体何百年ぶりになるのだろうか。

 

この感覚をもっと味わっていたいが、それをするには目の前の存在が徐々に薄くなっていることを解決しなければならない。

 

右手はなく、胴体にも深い切り傷がある。

今すぐに死ぬというわけではないが、自然治癒ではなく治療を受けさせる必要があるだろう。

 

 

「ひどい怪我だな、どんな奴にやられた?」

「この地の戦士だ。……素晴らしい連携だった、これさえなければ間違いなく結末は変わっていただろう」

 

 

激しい魔法の応酬。それを行いつつも俺たちの距離は静かに近づいていく。

 

 

「もう一度言う。引け、マハト」

「断る、と言ったはずだ」

「魔王様からの伝言は聞く。だが、それでも儂は……」

「そこがわからない」

「……なに?」

 

 

近づくついでに、ずっと抱いていた疑問をぶつける。

 

俺から問いかけるのは意外だったのか、意識がさらにこちらに向けられるのを感じる。

 

 

「俺の感想は先の通りだ。……凄まじいと感じた、俺に引けを取らないと思った」

「…………」

「これほどの魔法、極めればより高みに至ることができる。それほどの才能、なぜ嬉しく思わない?」

「それ、は……」

 

 

思っていることを正直に問いかける。

 

その内容をどう感じたのは俺は知らない。

だがクヴァールにとって重要なことらしく、わかりやすく狼狽えているのを感じた。

 

 

「ッ、だがそれでも……!?」

 

 

そしてそれこそが、俺たち魔族が得意としていることだ。

 

クヴァールは思考を深め、己の考えを整理しようとしていた。

その隙を突いて自然と目の前にまで近づいた俺は手で直接触れ、最大出力で魔力を回す。

 

 

「会話や思考に集中すると周囲が見えなくなる、相変わらずのようだな」

「マハト……ッ!」

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 

 

クヴァールが行動を起こす前に魔法が発動し、全身を黄金に変化させる。

 

周囲を飛んでいた蝶が崩れ去っていき、戦場に静寂が訪れる。

動かなくなった巨体を見上げながら、必要なものを取りに行くために踵を返そうと振り向いた。

 

 

 

 

 

 

「――――――」

「……なに?」

 

 

あり得ない。

 

だが現実として、確かに聞こえた。

すぐにクヴァールの方を向き、魔力探知を使って探る。

 

……動いている。

 

身体の表面は確かに黄金になっている。

だが未だにあふれ続ける魔力、それが徐々に黄金と化した肉体を書き換えているのを感じた。

 

その勢いは先程までの比ではない。

そのことに気づいた瞬間、奴の肉体に罅が入る。そしてその隙間から一際朱い光が迸るのを見ながら、先程起きたことからわかったことを思わず呟く。

 

 

「――――――ァ」

「そうか。魔法ではなく、お前の魔力自体がそれを――――」

「アアアアアアアアアアアッ!!」

「ッ!!」

 

 

直後、クヴァールを中心に朱い花が咲く。

 

奴の魔力で形成されたそれは黄金化した表面を砕き、爆発のような衝撃波が間近から迫った。

 

 

「……油断だな」

「ハァ、ハァ…………」

 

 

後方に飛ばされながら、穴の開いた金片の防御幕を見て呟く。

 

例え直接触れたとしても、一度なら防ぐことができる。

先程までのやり取りで得た経験、それはあくまであの状況下での結論だった。それを俺はクヴァールの魔法全体に当てはめてしまったせいで、手痛い反撃をくらってしまったようだ。

 

 

「これは……」

「ッ!」

 

 

鈍い痛みが走り、攻撃を受けた右腕を見る。そこは傷口から嫌なにおいが漂い、そして徐々に崩れていく様子が見えた。

 

このままではこの傷を起点に俺の命を蝕む可能性がある。

そう判断して魔法を発動。腕全体を黄金に変えて様子を見たが、結果的にそれ以上の浸蝕が進むことはなさそうだった。

 

 

「……頼む、引いてくれ!」

「断る」

 

 

戻せば腐敗が進む可能性がある以上、右腕は実質封じられたようなものだな。

 

そんなことを傷跡を眺めながら考える中、なぜか俺よりも動揺しているクヴァールはそう叫ぶ。

 

魔王様からの命令だ。意に反することなどできない。

そんなことなど奴もわかっているだろうに、なぜか奴はそう言い続けている。

 

 

「これを、こんなものを残すわけにいかないのだ!」

「…………」

 

 

まだそれを言うのか。

 

 

「儂が、クヴァールが! こんな魔法を使ったことなど、あってはならない!!」

 

 

誰もが認める魔法。

誰もが認める才能。

 

上に行くために、落とされないために。

そのために己の魔法を見定めたら俺たち魔族はそれを鍛え続ける。

 

そのはずなのに、資格を持っているはずのクヴァールはそれを拒否している。

 

なぜだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私さえ、いなければ」

 

 

 

 

 

なぜだろうか。

 

今までの言葉よりも、絞り出すように発せられた僅かな声の方が、良く聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 

 

なにもわからない。

 

だがこの時衝動のまま放った黄金の嵐は、この場にいる誰も反応することができないほどに苛烈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何があったのかは知らん」

 

 

かつて人類の要塞が築き上げられた土地。

 

そこには黄金はなく、腐敗もなく。

何か巨大な質量が衝突したかのように大きく抉れた地面、その中心で倒れるクヴァールの側に座って話しかける。

 

 

「だが一つ知っていることはある。お前はクヴァールだ」

「違う、私は……」

「違わない」

 

 

後先考えずに使った結果、俺の魔力も空になってしまった。

こんな状況で人間に攻められたら絶体絶命なのだが、そんなことをこの時の俺は考えていなかった。

 

 

「俺と話しているお前がクヴァールだ、それ以外の事実などない」

「――――」

 

 

あぁ、不快だ。

 

人間を騙すために身についたという魔族の会話能力。

これさえあれば十分であり、わざわざ磨く必要などないもの。

 

だがこの瞬間だけは、この騒めきを表現する言葉を知りたいと思ってしまっていた。

 

 

「そう、か……」

「あぁ」

「そう、だな……」

「魔王様に、俺たちにお前は認められている。何にとらわれているのかは知らないが、事実から目を背けるな」

 

 

座るのも億劫になり、仰向けに倒れこむ。

 

夜を迎えるために徐々に暗くなっていく夕空を見上げながら、ようやく本来の目的を話せそうだと判断して言葉を続ける。

 

 

「【腐敗の賢老】、クヴァール。それがお前だ」

「……その名は」

「魔王様からの言伝はまだある。『忘れるな』、だそうだ」

「…………わかった」

 

 

そう答える()()()の声は、どこか気が抜けたようであり。

 

ようやく仕事が終わったことを確認できた俺は思わずため息をつく。

そして一体何時になったら体を動かせるようになるのかを考えつつ、回収役が来るまで他愛もない話をしながら俺達は空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュラハト、その針は?」

「お前の傷を縫って塞ぐためだ。その漏れ出る魔力を止めねば、城が腐敗沼で満たされるだろ?」

「……マハト、その鋏は?」

「針はともかく、糸は縫った後に変える必要がある。触媒としてわかりやすいよう、俺の髪を使うだけだ」

「待て、待て待て待て」

「大丈夫だ、両方ともマハトの魔法で腐食に耐性がある。お前が意図的に出力を上げなければ、傷が塞がるまで定期的に変えるだけでいいんだ」

「それのどこが大丈夫なんだ?? 麻酔も無しにアッ」

 

 

 

 

 

「なんとかここまでたどり着けたか。……よくやった、褒美にこの辺も消しておこう」

 

 

白目をむくクヴァールを見つめながら。

 

無慈悲な治療をしていた張本人とは思えない程穏やかな気配で、シュラハトはそう話していた。

 

 

 

 

 




感想・評価共にありがとうございます。
誤字報告も助かっております。

魔族エミュが難しすぎる……。
今まで例外ばっか書いてきたのでここで初めて魔族らしい魔族を描写することに。上手いこと再現できていることを願っています。

さて、遂に訪れた2026年。
フリーレンのアニメがついに始まる1月、是非とも楽しんでいきたい所です。

では皆様、本年もよろしくお願いいたします!


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