知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結) 作:月光好き
今更ですが、描写がない範囲は基本的に原作通り進んでいると思ってください。
違う点をあえて挙げるとすれば、フェルンと相対した敵が悉く無残にやられている事と、話の展開上ザインが丸々カットされている事です(何も思いつかなかったや、ごめん)。
今回は前から書いてみたかった回。……にどうしても我慢できずに最近の状況を付け加えた回。もしキャラ崩壊があったらすみません。
『賢老の魔導書』
「今日はここで休もう。明日の早朝、彼女の魔法で
「賛成ー」
「はい、わかりました」
北部高原に入るために必要となる、一級魔法使いの資格。
それを手に入れるために北側諸国最大の魔法都市オイサーストを訪れ、そして始まった級魔法使い試験、その第一次。
フェルンは一緒のチームとなったユーベル、ラントと行動を共にし、翌日の予定を定めたところで洞窟の中で夜を過ごすことを決め、中で野営の準備を進めていた。
薪として使えそうな木材や枝を集め、魔法を使って火をつける。
持ってきていた大きめの薪にも火が移ったことを確認し、食事を済ませる。
片付けを終得た時点で夜も更けてきたらしく、辺りは焚火以外の光源は見当たらないほど真っ暗になっていた。
「私はしばらく起きているので、先に火の番をしておきますね」
雪こそ降っていないとはいえ、ここは北国。
結界の影響か割と過ごしやすい環境だが、それでも焚火は消さない方がいいだろう。
そう判断したフェルンは焚火の前に座り、薪を追加する。そして手元に一冊の書物を持ち出し、中身を開きながらそう提案した。
「あぁ、なら頼む」
「よろしくー。……って、こんな時でもお勉強?」
ラントは簡潔に返答し、ユーベルはフェルンが持っている書物――魔導書に目が留まる。
真面目だねー。ユーベルはそう言いながらケラケラ笑うが、それに対してフェルンは至極まじめな表情でこう返答した。
「そうかもしれませんが。……この魔導書、実は呪われていまして」
「「は?」」
無論質問したユーベルも。
そして興味なさそうに洞窟の入り口から外を見ていたラントも。
さらっと放たれた一言に驚愕して声が重なってしまう。
「え、怖っ。なんでそんなもん持ち歩いてんの?」
「その一つが、毎日この魔導書を45分以上読むことなんです。読まない限り、どんなに眠たくても寝ることができません」
「……それは、呪いなのか?」
「はい。フリーレン様やザイン様でも解呪することのできなかった、まごうことなき呪いです」
私がこの中身をすべて理解するまで、この呪いは解けないみたいです。そう締めくくって読み始めるフェルン。
【呪い】。それは主に魔族や魔物が扱う魔法の中で、人類が未だ解明できていないものをさす言葉だ。
すなわちそれは、彼女が読んでいる魔導書には魔族の手がかかっているという事の証明でもある。
それを彼女は何も気にしていないかのように読み進めているし、先程言われた呪いの内容もいささか意味不明だ。
冗談なのか? そこまで考えたところで件の魔導書に若干興味がわいたユーベルは仰向けから起き上がり、フェルンの傍に近づいて後ろから声をかける。
「どれどれ……って、なにこれ?」
しかし彼女の目に留まった魔導書の内容、これもまた意味不明だった。
暗号、なのだろうか?
一つとて読むことのできない文字が羅列しており、所々にある図すら何を意味しているのかさっぱりわからなかったのだ。
「ユーベル様、この魔導書が読めるのですか?」
「全然? 逆にフェルンは読めるの?」
「どうやら呪いの代償として所有者には翻訳魔法がかけられるみたいで、私は問題なく読めます」
そう言いながらフェルンは紙面に目を落とす。
やはり彼女の眼には普段からよく目にする文字にしか見えておらず、どこにも読めない所などない。いたって普通の魔導書だ。
とは言え、これが普通じゃないのはとっくにわかっている。何せ真っ先に興味を示したとあるエルフの表情がページを捲る度にだんだん萎んでいったのだ。あの光景を忘れることはそうないだろう。
『フリーレン様、おやめください。見たことない魔導書が全く読めないからって、鍋敷きにしようとしないでください』
『フリーレン様、おやめください。暗号が複数種かけ合わせられていることが分かった瞬間、枕にしてふて寝しないでください』
『シュタルク様、ザイン様、手伝ってください。魔導書に書かれている内容を少し言っただけなのに、フリーレン様がどうにか翻訳しようとこの場を動く気配がありません』
――ふと、ここを訪れる前の光景を思い出す。
結局あの後シュタルクとザインの協力を得て三人で甘やかし続けたのにもかかわらず、フリーレンが気を取り戻したのは数日後だった。
あの時は大変だったなぁ。そんなことを思い返しそうになるが、ふと現状を思い出す。
ユーベルとラント、二人は少なくとも自分とは違う地の出身だろう。
知らないと言っていたとはいえ、もしかしたらこの暗号について手がかりがつかめるのではないか?
そう考えたフェルンは、肩に乗りそうなほど近くから魔導書をのぞき込んでいるユーベルに声をかけるために口を開く。
「しかし、逆に言えば暗号文自体を見ることができないのです。どのような文章なのですか?」
「ごちゃまぜだね。まるっこいの、カクカクしたの、無茶苦茶~ってなっているの……いろんな文字が混ざってる」
視線を上に挙げ、何か思い出せないかとユーベルはしばし考え込む。
しかし数秒もしないうちに両手を上に挙げた。どうやら文字通りの意味らしい。
「変な魔導書。……ねぇ、それってどんな魔法が書いてあったの?」
「そうですね、例えば――」
「あのさ、楽しくおしゃべりしてるところ悪いけど」
ユーベルからの問いを聞き、フェルンが返答しようとした直後。
壁に寄りかかって目を閉じていたラントが口を開き、二人に声をかける。
「手の内はあまり晒さない方がいいんじゃないの? あくまで味方なのは、この第一次試験中だけなんだし」
そう言い終え、再び目を閉じる。これ以上言いたいことはないみたいだ。
「ふ~ん……。ま、そうだね」
それを聞いたユーベルは、何か思うところがあったようだがそれを表には出さず同意する。
「確かに。……と、言いたいのですが」
「「?」」
フェルンもまた、ラントの意見には同意していた。
しかしそれで終わらず言葉を濁した彼女に対し、二人が視線を向けた時。
魔導書が彼女の手を離れ宙に浮き、淡く光りだしたのだ。
「ん、なにこれ?」
「『他者が初めて魔導書の中身に興味を持った場合、自らが読み終えた範囲から一つを教えなければならない』」
「……それは?」
「呪いの一つです。これでしっかり教えられなかった場合、未読扱いになってしまいます」
「ねえ、それって本当に呪い?」
「呪いです」
何せザインが一日がかりで解呪しようとしてもビクともしなかった呪いだ。
呪いの効果自体が致命的ではなく、明確な解除条件もある。さらに代償として補助を授けている分、解呪耐性が異常なまでに高いらしい。
落ち込んでいたザインを慰めながら、フリーレンは解析できた範囲の解釈をそう話していた。
「へぇ、面白そうじゃん。……で、眼鏡君は聞かなくていいの?」
「僕は別に――」
その言葉を言い終わる前に、再び淡く発光する魔導書。
更にわかりやすくユーベルとラントの頭上を通るように浮遊し、フェルンの手元に収まった。
「「…………」」
「……あの」
「……何も言わないでくれ」
「……わかりました」
先程提示された条件、それを三人はちゃんと理解していた。
とは言え数秒間誰も話さず、フェルンが敢えてその先の言葉を口にしなかったのも、しょうがない事なのだろう。
「では、お二人にお教えする魔法について説明いたします」
「パチパチー」
「…………」
「まず最初にお伝えする事があるのですが、今回の魔法は【
そう言いながらフェルンは杖を呼び出し、先から光を放つ。
一般攻撃魔法かと思ったが若干違うらしく、球状となった魔力弾がゆっくりと正面に飛んでいき、洞窟入り口付近で静止した。
「本には
「一般攻撃魔法よね? これも魔法の効果ってこと?」
「…………」
「はい。私が教えることができるのは四種類、魔法にそれぞれ異なる特性を追加する魔法です。見せながら内容を教えますので、好きなものを一つずつ選んでください」
フェルンはそう言いながら入り口に杖を向け、魔力を籠める。
まず最初に通常の一般攻撃魔法を放つ。それは魔球を包み込んで後方まで飛んでいくが、それは多少煙が出ているとはいえその場にとどまっていた。その程度なら耐えられる強度があることを最初に示す必要があったのだろう。
「一つ目、強固に収束して打ち出します。これにより速度と硬度が向上すると同時に、
そう言いながら放たれた魔法。一般攻撃魔法程度の規模の魔力が収束し、同じく球体となってぶつかり合い、静止していた側は砕け散る。
「二つ目、対象を追尾します。強弱もある程度つけられるので、様々な軌道を描けるかと」
改めて魔球を設置した後、次に放つのは複数の光線。
様々な方向に放たれたが、各々がタイミングをずらしながら曲がり始め、そのすべてが球体に着弾する。
「三つ目、好きな軌道を描きます。先程のと似ていますがこちらは思い描いた通りの動きをするため、慣れるまではあらかじめ軌道を決めておかないと当たらないかもしれません」
再び放たれる光線。一つは緩やかに曲がりながら着弾し、一つは急激に角度を変えながら反対側から着弾する。最後の一つにいたっては魔球の周囲を高速で回った後、そのまま壁に激突した。
「四つ目、着弾箇所で爆発します。刺激が加わった瞬間に魔力が暴発するようになっているので、途中でぶつかっても爆発するのでご注意を」
最後に放たれた光線。それは説明された通り魔球にぶつかった瞬間に次々に爆発する。煙が晴れた時、そこの地面は軽くえぐれていた。
「……へぇ」
「これは……」
「これで以上になります。どれがいいですか?」
そこから時間をかけ、フェルンは二人に選択した魔法について理解できるよう説明した。とは言え結果的に二人が求めたものは同じだったので、結局同時に教えることになったわけだが。
その間にあった会話を一部抜粋しよう。
「今から残像が出るようゆっくりと魔法をうちますので、全く同じ軌道ができるまで繰り返しましょう」
「ねえ、私が組み合わせたい魔法は結構速いんだけど?」
「イメージが明確にできた後、速度は少しずつ上げればよいかと」
「……ふむ」
「ラント様、もう少し遅い速度でなければ危ないですよ」
「大丈夫だ、それならそれで身体で感覚を覚えられる。とにかく繰り返すのが、僕の性に合っているんだ」
「……ん。フェルン、なんか魔導書の光が消えてない?」
「あ、45分経ったみたいですね。翻訳魔法に必要な魔力がそこで尽きてしまうらしく、5分ほどかけて周囲から影響のない範囲で少しずつ集めているんです」
「高性能……なのか?」
――さて、この結果何が起こったか。
(うんうん、すごくいい感じ♪)
(オイオイ、なんだこれ? ただでさえ見えねえ斬撃が、四方八方から打ち込まれてきやがる!)
『……うん、これなら出るまでもないかな』
『何度撃とうが、この数の花弁を潜り抜けて当てるなんて馬鹿なことは起きるはずガッ!?』
『後方注意だよ。……まぁ、防げても木の陰にいる僕が撃ってたんだけど』
『……では』
(飽和攻撃!? それに、さっきまでに比べて手数が違いすぎる!)
『…………』
(周囲に防御魔法を張らなきゃいけないのに、正面からくる奴が硬い! 当たった傍から欠けていくなんて、どんだけ魔力がこもっているの!?)
『…………』
(マズイ。このままじゃジリ貧なのに、私ひとりじゃこの状況をどうしようもできない……!)
『あぁ、捌ききれない……ってか、いくら何でもやりすg』
『あ』
結果だけ言うのならば。
特にフェルンが戦った跡には、まるで一人に対して放たれたとは思えない程の暴の痕跡があったという。
※魔導書の暗号➡ヒント(というよりほぼ解答):コードトーカー
※フェルンが使用した付与魔法➡名前はそれぞれ【強固に収束して放つ魔法(アステロイディス)】【相手に追尾する魔法(ラゴニコ)】【好きな軌道で放つ魔法(エキドナ)】【ぶつかると爆発する魔法(メテオロ)】。元ネタは某遅効性SF。エオニアの語源がギリシャ語らしいのでそっち側で違和感ない程度に変更した。
さーて、この先何も知らないのに勢いだけで二人強化しちゃったや(白目)。
もし敵対した場合は……その時考えます。