知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結)   作:月光好き

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これを書くにあたり、覚悟を決めました。
独自解釈に基づいた展開改変、そして原作キャラの中で追加で結構なバフをぶち込みます。軽くそのキャラを調べたところ大丈夫そうですが、この先矛盾が生まれた場合、オリジナル要素として貫く予定です。なのでタグに【独自解釈】を追加します。

という訳で一級魔法使い二次試験編です、よろしくお願いします。





『完璧ではなく、半端でもなく』

 

 

 

「まずは第一次試験合格、おめでとう」

 

「第二次試験は、ダンジョン攻略だ。君達には【零落の王墓】の攻略を行ってもらう」

 

「合格の条件はただ一つ、零落の王墓の最深部までたどり着くこと」

 

「私は平和主義者なのでね。辿り着いたものは全員、合格とさせてもらう」

 

「試験期間は明日の夜明けまで。時間が来たら、君達に渡した脱出用のゴーレムが入った瓶が自動的に割れる仕組みになっている」

 

 

 

「それでは、試験開始だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんな台詞を、試験官であるゼンゼから聞いたのは何時間前のことだろうか。

 

零落の王墓。未だ誰一人として最深部にたどり着いたことのない前人未到のダンジョン。

これを突破してみせろと言われた時に参加者の一人が文句を言っていたが、それをゼンゼはバッサリと切り捨てていた。

 

 

『魔法使いの最高峰を目指すのなら、未踏破だろうが前人未踏だろうが捻じ伏せて進め』

 

 

不可能を可能にするのが一級魔法使いだ。と、そんなことを言っていた記憶が残っている。

 

北部高原に入るために必要だから、という理由だけで一級魔法使いの試験を受けに来たフェルン。

彼女は心の中で少しずつその称号の重みを理解しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……と、言ってはみたけれど。

 

本当は現実逃避がしたいだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「暗いよー!! 怖いよー!!」 

「「…………」」

 

 

親代わりのハイターから聞かされてはいた、バレバレのミミックに齧られる己の師匠。

 

あまりにも情けないその光景を眺めながら、二人に付いてきたゼンゼと共にフェルンは呆れの眼差しをフリーレンに向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、助かった」

「…………はぁ」

 

 

背後にいるフリーレンの声を聞きながら、思わずフェルンはため息をつく。隣からゼンゼの哀れみの視線が向けられているような気がするが、何も気づかないことにしていた。

 

ミミックの処理を終え、彼女の髪の手入れを行おうと振り返った視界の端。

何かが光ったような気がして立ち止まると、倒したミミックが魔力の粒子となって消えていく中に何かがある事に気づいた。

 

 

「フリーレン様」

「なに?」

「ミミックから何か出てきました」

「本当!?」

 

 

先程までの雰囲気から一変して、驚くほどの速さでフェルンの隣に立つフリーレン。

そして彼女が見たものと同じ物体を発見し、嬉しそうに手を伸ばした。

 

 

「……これ、収納魔法がかけられているね」

「収納魔法と言うと、私たちが普段杖や魔導書をしまっている?」

「そう。これを砕くことで、中に入っているアイテムが手に入るみたいだ」

 

 

そそくさと解析を済ませ、フリーレンは嬉しそうに笑う。そして球体を手に持ち、大事そうに収納した。

 

どうやらこの場で開けるつもりはなく、あとでゆっくりと堪能するつもりらしい。

 

 

「さ、行くよフェルン。まだまだダンジョンは始まったばかりだ」

「……はい、わかりました」

 

 

正直、複雑な心境ではある。

 

宝箱を判別する魔法(ミークハイト)は正常に作動していた。……が、まさかミミックの中からアイテムが出てくるなんて思わなかったのだ。

 

この様子だと、次からはミミックとわかっていても余計に止められないかもしれない。

そんな予想が浮かんできたが、考えるだけ無駄なのですぐに振り払う。そしてフェルンはご機嫌なフリーレンの後に続き、ダンジョン攻略を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、その時手に入れたアイテムが役に立つと?」

「はい」

「ねえフェルン。私がミミックに食べられるところ、説明する必要あった?」

「念のためです」

 

 

そんな当時の様子を思い出しつつ、フェルンは右隣に座っているデンケンを見ながら説明を続ける。フリーレンが何か言いたげだったが、彼女は敢えてスルーすることにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからゼンゼを含めた三人は休憩をはさみつつも、順調にダンジョン攻略を進めていった。

 

時にギミックを解いて宝箱(本物)を見つけ。

時に擬態している魔物に出会って奇襲を仕掛け。

時にミミックに齧られたフリーレンを引っ張り出し。

時に休憩中に件の球体から出たアイテムについて話し合う。

 

そんなことをしながら最深部を目指し、階段を下り切った所。

ちょっとした広間の向こう側。奥に入るための扉の前には、既に他の試験参加者がいたのだ。

 

事情を聞いたところ、構造的に次の部屋を抜ければ最深部。しかし、その門番がすさまじく厄介らしい。そう聞いたフリーレンが扉の隙間から奥を覗くと、そこには自分と全く同じ存在が立っていたわけで。

 

魔物、もしくは魔族が扱う魔法によって作られた完璧な複製体。

その中でもよりによってフリーレンを基にした複製体が門番となって陣取っており、彼らはここで半日以上立ち往生しているとのことだった。

 

対処したいのは承知の上だが、フリーレンには精神魔法も拘束魔法も効かない。

力技で攻めるしかないのか? そう考えていた所にフェルンが手を上げてこう言ったのだ。

 

 

 

 

 

『もしかしたら私、フリーレン様を殺せるかもしれません』

 

 

 

 

 

そこからは他の案も考えつつ、情報収集と状況把握に努め始めた。

話し合いを進めつつ、途中から合流してきた参加者達から情報を集めていく。そしてその結果、力業による正面突破を採用せざるを得ないと結論付けられた。

 

まず、参加者の中で最も精神魔法に優れたエーデルの脱落。

これにより、精神魔法による楽な攻略方法は実質不可能となった。また複製体はあくまで心を模倣しているだけで心自体は存在しないため、たとえエーデルがいたとしても不可能だったらしい。

 

次に、ラヴィーネからの情報提供による敵の正体。

神話の時代の魔物、【水鏡の悪魔(シュピーゲル)】。奴の魔法による複製体は完璧に再現されているが、本体は戦闘能力を持たない脆弱な魔物らしい。しかし水鏡の悪魔(シュピーゲル)がいるであろう最奥の部屋、そこに繋がる扉にはフリーレンの複製体によって強固な封印が施されていた。

【命懸けで宝物庫の扉を閉じる魔法】。これがある以上、水鏡の悪魔(シュピーゲル)を叩くにはまずフリーレンの複製体を倒す必要がある。

更に厄介なことに、複製体は最終的に最深部に集まる習性があるとのこと。つまり、ゆっくりと作戦を考える時間はないという事が判明してしまったのだ。

 

 

「複製体は心の働きを精密に模倣している。……それなら、行動パターンによる弱点は本人と同じはずです」

「弱点……やっぱあれ?」

「はい」

「だよね……」

 

 

心当たりはあるようで、少ししょぼんとするフリーレン。

どうやら無自覚ではないらしく、それなのに弱点と言い切れるほどのなにか。フェルンはそれをつくつもりのようだ。

 

 

「……どうにも信じがたい。本当にフリーレンに弱点があるのか?」

「確かにそうですね。フリーレン様、あっちの壁に立ってもらえますか?」

「はーい……」

 

 

フェルンの指示を聞き、立ち上がるフリーレン。

そのまま振り向き、指をさされた方向に壁を目指して歩いていき――――

 

 

 

 

 

――たどり着く直前。彼女の背後、ありとあらゆる方向からフェルンの一般攻撃魔法が殺到した。

 

 

「どうですか?」

「これは……」

「……なんということだ」

 

 

煙が晴れ、その中から防御魔法で防ぎ切った無傷のフリーレンが姿を現す。

しかしその様子を見た参加者の中で、デンケンとメトーデは驚きの様子をあらわにしていた。

 

 

「確かに、これはフリーレンの隙だ。なぜ戦っているときに気づけなかった……」

「フリーレン様も頑張っていますから。言われないと気付きづらいと思います」

「……いや、手練れという先入観があったからなのもあるのだろう」

 

 

目を見開いたまま、若干震えた声でつぶやくデンケン。

それを見抜けなかった者たちもいるが、フェルンは話を続けるためにデンケンの言葉を待つ。

 

 

「魔法を使う瞬間。ほんの一瞬だが、魔力探知の精度が著しく下がっている」

「え? ……それって、見習い魔法使いがやりがちなミスなんじゃ」

「昔から苦手なんだよね……。最近、頑張って直そうとは思ってるんだよ?」

 

 

デンケンの言葉を聞いたカンネがそう呟くと、言い訳をするように指をツンツン合わせながら話すフリーレン。

フェルンはその事情も知っているが、どこか複雑そうな表情で口を開く。

 

 

「しかしフリーレン様、その訓練はもうどれくらいになりますか?」

「もうすぐ二年。二年ぽっちじゃまだ改善しきれないね」

「二年……ぽっち?」

「エルフの感覚だからな、私らでいう一週間くらいなんだろ」

「あー……なるほど」

 

 

カンネとラヴィーネがそう話し合っている中、それが聞こえたフェルンはそれもそうなのかもと若干考えを改める。

 

こうしてフリーレン……もとい、フリーレンの複製体の隙を見つけることはできた。しかしその様子を眺めていたリヒター曰く、他の技術が卓越しすぎていてその隙をつくこと自体が難しいらしい。

 

とは言えフェルンが示した隙は間違いなく存在する。

彼女の案を主軸にしつつ、その場にいる魔法使い9人は作戦を練っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして現在。

隙を突く策を考える中であの時フリーレンが手に入れた球の中身、それを思い出したフェルンが事の経緯を説明していたのだ。

 

 

「という訳なので。フリーレン様、あれらの中からどれか貰ってもよろしいでしょうか?」

「うーん……まぁいいか。あれなら間違いないし、私も使った方が良さそうだね」

 

 

そう答えたフリーレンが右手をかざすと、そこに手提げ袋のようなものが現れる。

袋を開いてゴソゴソと探った後。フェルンに青い石を渡し、彼女自身は紫色の石を手に持った。

 

 

「それは?」

「ダンジョンで見つけたお宝……の見本品?」

「魔導書を見つけたのですが、その中に記述があったアイテムが一緒に入ってまして」

「なるほど。で、それの効果は教えてもらえるのか?」

「いいよ。……これなら今回使わないかな」

 

 

そう言いながら再び袋を漁り、フェルンに渡したものよりも小さな青い石を手に取るフリーレン。

 

それを皆が見えるように持ち上げた後、誰もいない壁を見ながら力を込めて握りつぶす。

すると砕けると同時に魔力の塊が周囲に三つ浮上し、フリーレンが見ていた方向に向かって飛んで行った。

 

 

「今のは……規模は小さいが、一般攻撃魔法か?」

「砕くことで持ち主の魔力を吸収し、込められた魔法を自動で発動する魔石だよ。これは一番規模が小さい奴だけど、それでも壁に凹みをつけるくらいの威力はある」

「触媒は魔石自身にあり、砕いた瞬間に狙っていた存在を追尾する効果も付与されているみたいです」

「……これは凄いな。発動すればすぐにわかるが、逆に言えば発動するまでただの石にしか思えん」

 

 

一連の行動を見ていたリヒターが、思わずそう呟く。

事実彼の言う通りで、言ってしまえば二人を除く全員がフリーレンが魔法を使う予兆を感じ取れなかったのだ。

 

 

「いま私たちが持っているのはあれより規模や効果が大きく、更に投げて使えるタイプの魔石だ。不意を打つなら、こういうのも使っていかないと」

「魔力を自動で吸収という事は、まさか民間人でも使えるのか? 一体どんな術式がこの石に……」

「「あっ」」

「……? どうした、急に」

 

 

フリーレンとフェルンが思わず声を上げ、半分独り言で分析していたデンケンは顔を上げる。

するとフリーレンの手元が光り、青い表紙の本が突如現れた。そして勝手に開きながら浮上し、淡く発光する。

 

 

「……しまった、忘れてた」

「すみません、フリーレン様。この事態は予測するべきでした」

「この本……話に出ていた魔導書か? しかしなぜ今……」

 

 

浮かび上がった本はそのままデンケン、リヒター、カンネの頭上をゆっくりと回る。

やがてフリーレンの手元に戻り、淡く光った状態のまま本が閉じた。

 

そしてその本を手に持ちながら、フリーレンは何気ない様子で口を開く。

 

 

「実はさ、この魔導書呪われてるんだよね」

(「「「「え?」」」」)

「「は?」」

「なんだと?」

 

 

さらっと話された衝撃の事実に、様々だが同内容の返事をする一同(と話を聞いていた試験官)。

 

まあそんな反応するよね。そう思いつつもフリーレンは話を進めるために言葉を続ける。

 

 

「『他者が初めて本の中身に興味を持った場合、自らが読み終えた範囲から一つ選び、その内容を理解できるよう教えなければならない』」

「……それは?」

「呪いの内容。これで相手が理解できなかったと判断されたら、読込不足で未読扱いにされちゃうんだよね」

「本当に呪いなのかそれは?」

「今回は時間もないし、諦めるしかないか。……またね、まだ見ぬ第二章」

 

 

悍ましさの欠片もない内容を聞き、リヒターは呆れた声でぼやく。

 

しかしそれを聞いていたデンケンの表情は厳しく、その理由をフリーレンも察していた。

 

 

「しかしフリーレン、それが本当ならば……」

「うん、この魔導書を作ったのは()()()()()だってこと。だからまぁ、安全か確定してないし私達だけで使うよ」

「使うこと自体にリスクがあると思うが?」

「そこは大丈夫。……だと思う」

「何故そう言える?」

 

 

呪い。それは主に魔族や魔物が扱う魔法の中で、人類が未だ解明できていないものをさす言葉。

それが込められた書物。つまりそれを製作し、呪いを付与できるものなど限られている。

 

そう考えたデンケンは不使用を勧めようと問いかけるが、それをフリーレンは否定する。

彼女は何かを思い出すようにしばし天井を眺めた後、とても複雑そうな表情でこう返答した。

 

 

「製作者だけど、多分知ってる奴だから」

 

 

 

 

 

――結論から言うと。

当初示されたフェルンの案を皆で改良しつつ、魔石も作戦内で使用する形となり。

 

フリーレンとフェルン、二人はフリーレンの複製体及び水鏡の悪魔(シュピーゲル)の本体の破壊を。

二人以外の参加者全員は、邪魔が入らないよう他の複製体の対処を。

 

各々で決められた役割を遂行するため、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし何故、かつてダンジョンに入った魔法使いの複製体を再度作らないのでしょう?」

「……ふむ」

 

 

大陸魔法協会、その本部にある一室。

第一次試験で試験官を務めていたゲナウは、ファルシュと共に紅茶を飲みながら待機していた。

 

そんな中、水鏡の悪魔(シュピーゲル)の説明を聞いていたファルシュがふと溢した言葉を聞き、時間つぶしもかねて続きを促す。

 

 

「記憶は一度読み込んだはず。記憶上の他人を作るよりは簡単で、手数も増えるはずです」

「いくつか仮説はある。……おそらくだが、()()()()()()()()()のだ」

「意味がない?」

「あぁ」

 

 

紅茶を飲み、どう説明したものかと考える。

 

以前から解析が進められてきた水鏡の悪魔(シュピーゲル)の性質、それらをまとめていく中で浮かぶ当然の疑問だ。

その理由に対する仮説の中で最も確証性が高い一説。それを前提として話を進めていくことにしたゲナウは改めて口を開く。

 

 

「例えば、だ。私と君の二人でダンジョン攻略に挑んだとする。私たちの複製体が出てきたが、それぞれ協力することで難なく進み続けたとしよう」

「はい」

「そこで奴がその手を使い、かつて迷宮に入って来た太古の魔法使い……そうだな、なんと大魔法使いフランメの複製体を作ったとでもしてみようか。どうなると思う?」

「どうなる、ですか……」

 

 

伝説上の存在、それの複製体にどうやって対処すべきか。まずファルシュはそれを考え始める。

 

きっと自分では想像もつかないような魔法を使ってくるだろう。そんな構造不明、どうやってイメージしているのかも不明な魔法相手にどうすれば……。

 

 

(待った、イメージが浮かばない?)

 

 

自らの考えの中に出てきた言葉、それがふと引っかかる。

それを紐解こうと思考を深め、数秒後。ファルシュはゆっくりと口を開いた。

 

 

「何も起きない」

「そうだ」

 

 

ファルシュの返答を聞き、ゲナウは静かにそう答える。

 

 

「過去の存在かつ他人だ。時間が経つほど、読み込んだ記憶は摩耗する。……そして何より、水鏡の悪魔(シュピーゲル)は大魔法使いフランメの扱う魔法を理解しているわけではない」

「イメージできなければ魔法は発動しない。水鏡の悪魔(シュピーゲル)が侵入者の魔法を模倣した複製体を扱えるのは、イメージができている当人の記憶を覗き続けているからですか」

 

 

どうやらファルシュもそこにたどり着いたようだ。

そう判断したゲナウは紅茶を飲み干し、一息ついて口を開く。

 

 

「そうかもしれんし、明確なイメージが固まっている他人の記憶をそのまま使っているだけなのかもしれん。似た理由で私たちでは絶対に勝てない相手……記憶の中のゼーリエ様を複製したとて、主力魔法のほぼ全てが使用不可能になるはずだ」

「それに我々の扱う魔法も進化している。摩耗した過去の存在を複製するメリットが、水鏡の悪魔(シュピーゲル)にはない」

「そういうことだ。他の魔法で代用できる可能性もあるが……仮にゼンゼ一級魔法使いの髪を飛行魔法で操ったところで、何の脅威にもならん」

 

 

本家でなければ意味がない。

そう締めくくったゲナウは紅茶を淹れなおし、一口飲んで口を開く。

 

 

「だからまぁ、やろうと思えばできるのだろう」

 

 

そんな可能性などない、そんなことを心の中で思いながら。

 

 

「魔法使いならだれもが扱える魔法、それだけで現代の魔法使いの大多数に打ち勝てる。……そんな夢のような存在がいれば、の話だがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェルン達が考え抜いたこの作戦は、限りなく正解に近かった。

 

フリーレンは魔法を扱う際、一瞬だけ魔力感知が大幅に弱まる。

その弱点を突くため、まずはフリーレンが自身の複製体と戦闘を始める。そして魔法を扱う瞬間にフェルンが不意を打ち、多大な魔力と【強固に収束して放つ魔法(アステロイディス)】を付与した一般攻撃魔法で攻撃する。これにより、中途半端な防御手段も貫けるようにしていた。

 

しかしそれは複製体の判断が間に合い、正面に集中させた防御魔法で対処されてしまう。

 

……が、それすらも織り込み済みだ。

本命は同時に発射した【相手に追尾する魔法(ラゴニコ)】が付与された一般攻撃魔法と、着弾点から複数の一般攻撃魔法を放つ魔石。

複製体を通りすぎてから強く追尾するように設定された魔法は背後から、魔石は投げた先に降り立つよう誘導した複製体の足元から襲い掛かる。

 

一般攻撃魔法の速射性、更に付与魔法や魔石による応用性を追加したことで可能となった一人時間差攻撃。

エルフであるフリーレンにとって比較的新しい魔法、加えて新しい応用を追加したこの攻撃方法。これは間違いなく、彼女に大きな一撃を与える事になるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――しかしそれは、この場においてそれらを最も熟知している存在がフェルンである場合の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………マジか」

 

 

フリーレンの複製体の背後。

三方向から迫りくる一般攻撃魔法を、()()()()()()()防御魔法が防ぎきる。

 

軌道を読み切った完璧な防御だったが、複製体の様子を見るに彼女が行ったわけではない。そして誰がその防御魔法を使用したのか、二人の視界の中に答えはもう現れ始めている。

 

 

 

 

 

――空間に、手が生えていた。

 

煙のような魔力が収束し、腕が、肩が生成されていく。

 

腕だけでフェルンよりも大きいかもしれない。

それほどまでに巨大な存在が、鋭い爪先を複製体に向けていた。

 

 

「なん、で……」

 

 

フェルンが思わずそう呟いている中、フリーレンは今までにないほど気を引き締める。その頬にわずかに冷や汗が流れていることを、彼女自身も含め誰も気づかなかっただろう。

 

そうしているうちに収束は収まり、それはフリーレンの複製体の背後に顕現した。

 

 

 

それは雄々しく、フリーレンの四倍以上はある巨体だった。

それは禍々しく、身体の複数個所に縫い目のような跡があった。

それは異質で、無表情が殆どの複製体にも関わらず鋭い牙を見せながら嗤っていた。

 

それはゆっくりと二人を正面に捉えるように振り返り、合わせるようにフリーレンの複製体も動き出す。

 

 

 

 

 

複製体(かれ)は、()()を前に突き出して手を開き。

複製体(かのじょ)は、杖を両手に持って前方に突き付ける。

 

 

 

 

 

「ッ、フリーレン様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人(魔族)を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 

 

――絶対の殺意を以て、黒白の光線が二人に襲い掛かった。

 

 

 

 

 




※魔石について
エルデンリングに登場する投擲石シリーズ。フェルンが持っていたのは【カッコウの輝石】でフリーレンのは【扇の重力石】。フリーレン世界でも使えるよう性能や内包する魔法が改変されている。

※球の中身
魔導書と見本が入った袋。袋の中には【狂い火石】以外の投擲石が少しずつ入っている。なお手に取った瞬間に呪われ、効果を知った時の二人の表情はそれはそれは複雑そうな表情だったそうな。



感想・評価共にありがとうございます。
誤字報告もいつも感謝です。非常に助かっております。

Q.どうしてこうなった?
A.参加者の強さに比例した敵が出るダンジョンで完全に実力が突出しちゃってたとあるエルフと、魔導書を隠すために選んだダンジョンがよりによって零落の王墓だったとある魔族と、この状況を思いついてしまったとある阿呆のせい。


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