押しかけ!チヨちゃん   作:宇宮 祐樹

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 夕食はご飯と鮭の塩焼き、ほうれん草の胡麻和えとお味噌汁にしました。

 作戦その三、毎日お味噌汁を作ってあげる、を実行するためのメニューです。

 作るのは少し大変でしたけど、これもトレーナーさんをお助けするためです。

 ここにいる間は、全力でトレーナーさんの今カノを演じないといけませんから。

 これくらいで弱音を吐くわけにもいきません。

 

「ごちそーさまでした。おいしかったよ、チヨちゃん。ありがと」

「はい、お粗末様でした。食器、片づけておきますね」

「いーよいーよ、後で。チヨちゃんもちょっとゆっくりしようよ」

 

 そう言いながら、トレーナーさんはごろんとその場に寝転んでしまいました。

 こういうだらしないところは、いつも通りのトレーナーさんに見えます。

 でも、そうなるとやっぱり、お昼に感じた違和感が気になります。

 これに関しては、元カノさん云々の話とはまったく別の問題な気もしますし。

 ……トレーナーさんって、私と会う前はどんな人だったんでしょう?

 

「あ、そうだ。お風呂どうする?」

 

 なんて考えていたところで、トレーナーさんからそう声をかけられて。

 

「湯船浸かりたいなら、一応近所に銭湯あるけど……外、寒いしなあ」

「それなら、シャワーだけお借りしてもいいですか?」

「うん。じゃあもう先浴びてきちゃいなよ。食器とか洗い物は俺やっとくからさ」

「そんな、私は後でいいですよ。家主なんですから、トレーナーさんから……」

「いいよそんなの気にしなくて。あ、さすがに着替えは持ってきてるよね?」

「それは……はい。ちゃんと数日分ありますけど」

「ならいっか。じゃ、お先にどーぞ。ゆっくりでいいからね」

 

 そう言うとトレーナーさんは起き上がって、食器を片付け始めてしまいました。

 ここまでしてくれているのに、遠慮するのも野暮な気がします。

 ありがたく、先に頂いてしまいましょう。

 携帯の着信音が聞こえたのは、そうやって脱衣所に入ろうとした直前でした。

 

「……あ」

 

 もう聞き間違えたりなんかしません。トレーナーさんの携帯の着信音です。

 机の上に置かれていたそれは、一定の間隔で小さく震えていました。

 ……また、あの人からなんでしょうか。気になって仕方がありません。

 とにかく今は、トレーナーさんに電話が来たことを伝えないといけませんよね。

 洗い物中は手も離せないでしょうし、ここは持って行ってあげましょう。

 そう思って、ずっと鳴り続けている携帯に手を伸ばしたところで。

 

「取らないで。出るから」

 

 いつの間にか、トレーナーさんは私の真後ろに立っていました。

 

「あ……ご、ごめんなさい」

「うん。大丈夫だから」

 

 同じ雰囲気でした。喫煙所で電話をしていた、あの時と。

 そのまま奪うようにして、トレーナーさんは私より先に携帯を手に取って。

 

「電話してくるからさ。先にシャワー浴びてきてね」

 

 そう言って、玄関から外に出て行ってしまいました。

 ……やっぱり、元カノさんからの電話だったみたいです。

 トレーナーさんの雰囲気があの時と同じだから、というのもそうなんですけど。

 何より、見えちゃったんです。

 携帯の画面に、私の知らない女の人の名前が映っていたのが。

 

「…………………………」

 

 よくないことだと思います。やっちゃダメだということも、分かってます。

 でも、私がここにいるのは、トレーナーさんをお助けするためです。

 そのためには必要なことだと思うんです。トレーナーさんに嫌われたとしても。

 

「……ごめんなさい」

 

 小さく呟いてから、私は玄関の扉に耳を押し当てました。

 

「――もう連絡してくるなって何度も言っただろ、お前」

 

 聞こえてきたのは、うんざりしたようなトレーナーさんの声と。

 

『こっちだって何度も言ってるでしょ? 今のアンタに必要なことだって』

 

 私の知らない、女の人の声でした。

 

「必要ないから連絡すんなって言ってんだよ」

『アタシにはそう思えないね。アンタ、このままでいいって本気で思ってんの?』

「………………」

『ほら、やっぱり。アンタの考えてることなんてお察しなんだよ』

「……クソ女」

『そーだね。でも、こんなクソ女と付き合ってたアンタも、充分クソ野郎だよ』

 

 トレーナーさんの声は、今まで聞いた事ないくらいに疲れ切っていました。

 反対に元カノさんの声は、トレーナーさんをからかっているように聞こえます。

 状況はまだ分かりませんけど、余裕があるのは元カノさんの方みたいでした。

 

『とにかくさ、アンタにはアタシがいないとダメなんだよ。分かる?』

「知るかよ。勝手にそう思ってろ」

『……また昔みたいに、楽しくやろうよ。それじゃダメなの?』

「だから、無理だって言ってるだろ。勘弁してくれよ……」

『無理なの? ダメじゃなくて? ……ねえ、ホントは分かってるんでしょ?』

 

 トレーナーさんは何も答えませんでした。ただ、黙っているだけです。

 もしかすると、答えられなかった、の方が正しいのかもしれません。

 

『別にさ、今の生活を捨てろって言うつもりはないよ。だけど、このままじゃ……アンタの方が耐えきれなくなる。いつかおかしくなるよ、絶対に』

「……お前に俺の何が分かるんだよ」

『分かるよ。だってアタシは、この世界の誰よりもアンタを知ってる人間だから』

「………………」

『ねえ、お願いだから戻ってきてよ。アンタのためなら、アタシは……』

「今、担当してる生徒が家にいるんだ。もう、行かないと」

『え? ちょっと、待っ――』

 

 続く言葉も待たずに、トレーナーさんは無理やり電話を切ってしまって。

 それからライターを点ける音と、大きなため息が扉越しに聞こえてきました。

 

「あのクソ女……」

 

 なんてひどい言葉を呟いた、トレーナーさんの声は。

 なんだか弱々しくて、泣いているようにも聞こえました。

 

 ……気づいたことが、二つあります。

 一つは、元カノさんがトレーナーさんに復縁を迫る理由について。

 私は今までずっと、元カノさんが一方的に連絡してきていると思っていました。

 最近のトレーナーさんの様子や、口ぶりからそう考えざるを得ませんでしたし。

 でも、今のやりとりを聞いていると、どうもそうじゃないみたいです。

 むしろ、トレーナーさんのために言っているようにしか聞こえませんでした。

 

 そしてもう一つは、トレーナーさんがタバコを吸う理由について。

 元々そうだと思っていましたけど、やっぱり元カノさんからの電話が原因です。

 だって、今もこうして吸ってるんですから。間違いありません。

 やっぱり度重なる連絡でストレスが溜まって、と考えるのが自然だと思います。

 

 ……でも、そう考えるとちょっとだけおかしな気もします。

 元カノさんが復縁を迫るのは、トレーナーさんのためで。

 そのトレーナーさん本人は、元カノさんからの連絡をストレスに感じている。

 これって、いったいどういうことなんでしょう。

 

 喫煙所での会話を聞いた限り、別れを切り出したのはトレーナーさんからです。

 ……あんな風に言ってくれる元カノさんに、別れを切り出すでしょうか?

 あの優しいトレーナーさんがそんなことをするなんて、少し考えにくいです。

 どうしてトレーナーさんは、元カノさんと別れることになったんでしょう。

 

「それで」

 

 ふと、扉の向こうのトレーナーさんが、そんな風に呟いて。

 

「いつからチヨちゃんは、盗み聞きなんかする悪い子になっちゃったのかな?」

「………………」

 

 なんて。

 ……はじめから、バレているみたいでした。

 いまさら誤魔化すのも無駄でしょうし、ここは観念するしかないみたいです。

 扉を開けた先には、困ったように笑うトレーナーさんが待っていました。

 

「この前も聞いてたよね? ……さすがに分かるよ」

「……ごめんなさい」

「いいよ。この前は本当に偶然だったみたいだったし。でも今回はダメだね」

 

 トレーナーさんの言う通りです。今回は完全に私が悪いです。

 

「そんなに気になった?」

「……はい。最近のトレーナーさん、なんだか元気が無さそうでしたから……」

「あー……そっか。ごめんね、いらない心配させちゃって」

 

 どうしてトレーナーさんが謝るんですか。私が惨めになるだけじゃないですか。

 それとも、そうすることで私を責めるつもりなんですか?

 ……そんなこと、トレーナーさんがするはずない、って分かってるのに。

 いけません。どうしても、悪いことばっかり考えてしまいます。

 

「でも、大丈夫。チヨちゃんが気にすることじゃないからさ」

 

 なんていつも通りに笑うトレーナーさんが、今ではとても脆く感じてしまって。

 

「電話していた方って、どなたですか?」

 

 気づいた時にはもう、そうやって聞いていました。

 答えなんて分かりきっているはずなのに、どうしてでしょう。

 

「元カノ。学生の時に付き合ってたんだよね。もうずいぶん前に別れたんだけど、最近またヨリを戻そうってしつこくって……今みたいな感じで、連絡してくるの」

 

 濁った煙を吐き出しながら、トレーナーさんはそう答えてくれました。

 

「もちろん、今の俺はチヨちゃん一筋だから。ちゃんと断ってるよ。大丈夫」

 

 そうやって答えたトレーナーさんは、どこか無理をしてるようにも見えました。

 そんな顔されたら、信じたいものも信じられなくなっちゃうじゃないですか。

 

「……あんなに話の通じない奴じゃなかったんだけどな」

「タバコを吸うようになったのも、その人のせいですか?」

「いや? ……元からだよ、コレは」

 

 ウソです。バレバレです。私にだって、それくらい分かります。

 でも、それ以上トレーナーさんに踏み込むことはできませんでした。

 だって、そうしたら……トレーナーさんは、きっと限界を迎えてしまう、って。

 今のトレーナーさんを見ていたら、そう思っちゃったんです。

 ……ですから、今は私にできることをしていくしかありません。

 なので、とりあえず。

 

「タバコはダメです! 没収です! 体に悪いんですから!」

「えー……」

「そんな顔したってダメです! ほら、早く渡してください!」

 

 そう言うと、トレーナーさんはしぶしぶ私にタバコを渡してくれました。

 

「ストレスが溜まるのも分かりますけど、だからってタバコはよくないですよ」

「でも、コレ吸わないと落ち着かないもん」

「それでもです。何か他のものでストレス発散しましょう」

 

 幸い今のトレーナーさんには、暇な時間もお部屋のスペースもあります。

 ですからストレスを和らげる方法も、きっと見つかるはずです。

 具体的に何か、というのは私もまだ思いついていませんけど……。

 

「じゃあさ」

 

 するとトレーナーさんは、何か思いついたように私に声をかけてきて。

 

「代わりにチヨちゃん吸っていい?」

 

 …………………………。

 はい?

 

 

「あ、ヤバ……すげー落ち着く……」

 

 あのあのあのあのあのあのあのあの!

 

「今の私たち、すっっっっごく危ないことをしてる気がするんですけど!」

「えー? でもチヨちゃん、いいって言ったじゃん」

「それはそうですけど! でも、さすがにコレはよくないと思うんです!」

 

 あれから私もトレーナーさんもお風呂を済ませて、後はもう寝るだけになって。

 電気を消して、一緒のベッドに入るところまでは、何とかなったんです。

 だって、そもそもトレーナーさんは私に四六時中ベタベタな距離感でしたから。

 そう考えれば耐えられました。かなり、というか相当ギリギリですけど。

 でも。

 

「あ、ふんわりサクラの香りがする……」

「わざわざ言わないでください! 恥ずかしいです!」

 

 今の私は、トレーナーさんの腕の中にすっぽり収まっていて。

 それだけでも恥ずかしいのに、あろうことか後ろ髪に顔を埋められていました。

 スキンシップとかそんな次元の話じゃないです。もうそういう特殊なアレです。

 主に、モラルとか倫理的な面で、非常に危険な状況だと思います。

 お陰で目もバッチリ冴えててます。こんなことされて眠れるはずがありません。

 

「チヨちゃん、髪きれいだね……」

「ありがとうございます! でも、そろそろ寝ましょう!」

 

 でも、そんな私とは反対に、トレーナーさんはすごく眠たそうでした。

 さっきまでの疲れ切った雰囲気なんて、微塵も感じられません。

 それは、私にとってもすごく嬉しいことなんですけど。

 ……本当にこんな方法で、トレーナーさんのストレス発散になるんでしょうか。

 

「これから毎日コレしていいの最高だな……」

「毎日!? 毎日するんですか!?」

「だってタバコも毎日吸ってたんだもん。代わりってことなら、当然じゃない?」

「そっ……それは、そうかもしれませんけど……!」

 

 だからってこんなことを毎日続けていたら、私の方がどうにかなっちゃいます。

 確かに言い出したのは私ですけど、だとしても、もっとこう、なんというか。

 でも、トレーナーさんはコレでちゃんと癒されているみたいですし。

 こうなったらもう、私も腹を括るしかありません。

 

「……他の人にこんなことしたら、絶対にダメですからね」

「ってことは、いいの?」

「はい。トレーナーさんの疲れが取れるなら、それで」

「ふーん……」

 

 私がここに来たのは、トレーナーさんに元気になってもらうためですから。

 確かにちょっと恥ずかしいですし、もっと他の方法があると思うんですけど。

 ……それでも、トレーナーさんのためですから。

 それに私も、別にイヤなわけじゃないです。こんなことをされるのが初めてで、ちょっとだけ緊張というか、今までにないほどドキドキしてるだけで。

 とにかく、覚悟は決めたんです。こうなったら、とことん付き合います。

 

「……チヨちゃんさ、いつの間にこんないけない子になっちゃったの?」

 

 なんて考えていると、ふとトレーナーさんが私の耳元でそう呼びかけてきて。

 

「……はい?」

「さっき危ないことって言ったけど、一人暮らしの男の家に押しかけてくるのも、相当危ないことだと思うんだ。もし俺が他の……それこそ女とか連れ込んでたら、どうするつもりだったの? そのあたり、何も考えてなかったでしょ」

「そ、それは……」

「それに、年上の男と一緒のベッドに入って、こんなことまでしてくれるなんて。そんなことする子じゃなかったよね、チヨちゃん。いったいどうしちゃったの?」

 

 改めて言葉にされると、確かにとんでもないことをしている気がします。

 一人の生徒とトレーナーという関係を、飛び越しちゃってると思います。

 でも……だって、そうしないと。

 

「そんなに俺のこと盗られたくなかった?」

 

 …………………………。

 

「もしかしたら、そうかもしれません」

「え?」

「盗られるのとは、少し違う気もしますけど……なんだか今のトレーナーさんは、私が目を離したら、どこかに行っちゃいそうな気がして。近くで一緒にいないと、ちょっとだけ不安になっちゃうんです。……ワガママですよね。ごめんなさい」

 

 もちろん、盗られるのはイヤです。だって私のトレーナーさんなんですから。

 でも、それとは別に、今のトレーナーさんを見ていると怖くなるんです。

 もしかしたら、いつの間にかトレーナーさんはいなくなるんじゃないか、って。

 今のトレーナーさんからは、そんな雰囲気をどうしても感じちゃうんです。

 だから、私が傍にいてあげないと。私がトレーナーさんを、助けてあげないと。

 そう考えているうちに、気づいたらこんなことになって。

 もう、あなたの知ってる真面目なサクラチヨノオーじゃなくなっちゃいました。

 

「大丈夫。どこにも行かないよ。だって今の俺、チヨちゃん一筋だもん」

「……本当ですか?」

「本当だって。信じてくれない?」

 

 素直に頷けませんでした。

 だってトレーナーさんは私と違って、ウソが上手ですから。

 でも、ここはそのウソに乗せられてあげます。

 今までのお返しです。そういうことにしておいてあげます。

 

「どこにも行かないでくださいね。約束ですよ」

「うん、約束する。どこにも行かない。ずっとチヨちゃんと一緒にいるよ」

 

 私を抱きしめる力が、少しだけ強くなった気がしました。

 

「おやすみ、チヨちゃん」

「……おやすみなさい」

 

 気づけば、あれだけドキドキしていた気持ちも、とても落ち着いていて。

 目を閉じると、すぐに私は眠ってしまいました。

 

 

 はじめに感じたのは、お肉の焼ける香ばしい匂いでした。

 

「……あれ?」

 

 瞼を開くと、昨日まで隣で眠っていたトレーナーさんの姿はそこにいなくて。

 代わりにキッチンの方から、何かを刻む音が聞こえてきました。

 ……料理? 誰が? というか、材料……残ってたっけ?

 寝ぼけたままの頭でそんなことを考えながらキッチンに向かうと、そこには。

 

「おはよ、チヨちゃん」

 

 エプロン姿のトレーナーさんが、手慣れた様子で料理をしていました。

 

「夢……?」

「夢じゃないよ。朝ご飯もうすぐできるから、ちょっと待っててね」

「あ……ありがとう、ございます?」

「あはは、まだ寝ぼけてる。先に顔でも洗ってきなよ」

「はい……」

 

 言われるがまま洗面所に向かって、顔を洗って目もしゃきっと覚まして。

 そのまま口もゆすいで、ちょっとだけ髪も整えたところで気づいたんですけど。

 

「トレーナーさん、料理できたんですか!?」

「うわびっくりした!」

 

 急いでキッチンに戻ると、ちょうどトレーナーさんも調理を終えたみたいで。

 出来上がったオムライスを、お皿に盛りつけているところでした。

 

「え? もしかして俺、料理できないって思われてた感じ?」

「あんな冷蔵庫の中身じゃ誰だってそうなりますよ!」

 

 少なくとも、料理がちゃんとできる人の冷蔵庫じゃありません。

 いよいよもって、このお部屋の冷蔵庫がかわいそうに思えてきました。

 

「まあ、実家が定食屋で子供の頃から手伝いしてたし。ちょっとなら作れるよ」

「そんなの初めて聞いたんですけど……」

「言ってなかったからねー。それよりほら、早く食べちゃおうよ」

 

 促されるままテーブルに着くと、出来立てのオムライスが置かれました。

 SNSとかでよく見る、ふわとろのオムライスです。とっても美味しそうです。

 ……ちょっとどころじゃないです。トレーナーさん、かなり料理ができます。

 

「それじゃ、いただきまーす」

「いただきます!」

 そうして、トレーナーさんの作ったオムライスを一口、頂いたんですけど。

 

「え……? おいしい……」

「そう? ならよかった」

 

 意味が分からないくらい美味しかったです。

 少なくとも、普通に作ってもこうはならないだろう、みたいな味がします。

 卵もふわとろで触感も良くて、中のチキンライスも丁度いい味の濃さで。

 

「どうして今まで料理してこなかったんですか……」

 

 そんな疑問が漏れるくらいには、美味しいオムライスです。

 

「昨日も言ったじゃん。キッチン狭くて洗い物が面倒だって」

「本当にそんな理由だったんですか!」

「いやマジ、料理の何が一番楽しくないって洗い物だからね」

 

 それは分かる気もしますけど、だからってここまで美味しいものが作れるのに、一切料理をしないというのも納得できません。宝の持ち腐れだと思います。

 というか。

 

「……私が作った料理、どんな気持ちで食べてたんですか」

「もちろん美味しかったよ。少なくとも、最近食べたご飯の中で一番だった」

「本当ですか? 自分で作った方が、とか思ってないですか?」

「そんなことないよ。だって、チヨちゃんが俺のために作ってくれた料理だもん。誰かのために作った料理ってね、その人にとって一番美味しくなるんだよ」

 

 なんだかうまく躱された気がして、釈然としませんけど。

 でも、ここまで美味しい料理を作る人が言うんだから、そうなんだと思います。

 

「……料理、これから教えてくださいね」

「俺でいいなら、いくらでも教えてあげる」

「トレーナーさんがいいんです」

「そっか」

 

 なんて、少しだけ照れくさそうに、トレーナーさんが笑って。

 ああ、やっぱりいつも通りのトレーナーさんだなあ、って思いました。

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