……俺という人間は、流されやすいのかもしれねぇ。
そう思いながら、俺はゆっくりと汗を垂らす。
ゴウンゴウン、と音を立ててゆっくりと上昇していく観覧車。そんな中で、春乃と冷世、蟹菜は窓に張り付いていた。
「あっはは! 高ーい!」
「凄いわね、まるで人がゴミのようよ」
「ねぇ冷世ちゃん、そういうこと言うのやめない?」
何言ってんだこいつら、と思いながら俺も、反対側の窓を見て、目を細める。
夕日が、海を反射しているのが見えた。
まばらまばらに光を反射している海は、ゆったりと、広大に、流れている。
「鬼円、高いところ苦手?」
「いや、別に……」
春乃に言われた俺はそう返す。
それから、春乃が目の前に座って、外を眺めるのを見つめる。
……その目は、優しくて。まるで母親のようで。
って、何を考えてるんだ俺は、と思いながら、俺はため息を吐く。
春乃はそれを見て、少しだけ苦笑する。
「またため息吐いてる」
「んだよ」
「いや、なんか毎回ため息吐いてるなーって」
春乃はそう言いながら、真似するようにため息を吐く。
俺はそれを見てクッ、と思う。好きでため息吐いてんじゃねーんだよ。
そう思いながら、外をずっと眺めていた。
「綺麗だね」
「……あぁ」
こうやって高いところから海を見てると、まるで自分が小さく見える、とか言われる。
その理由が何となく、わかる気がした。
こうして見てると、本当に自分が小さく見えて、悩みなんて吹き飛びそうだ。
「鬼円と出会えて、私、良かった」
「なんだよ、ヤブから棒に」
「いやね?」
春乃は小さくうつむいてから、こちらを見る。
それから、ゆっくりとこちらを向いてきた。夕暮れが、沈みかけている太陽を背にしていた。
その黒い瞳には俺が映っており、いつも見る、平和ぼけしてそうな、いいふうに言うなら、優しそうな顔からうって変わり、真剣な目だった。
「……鬼円は、さ」
「ん?」
春乃が口を開いた。
俺はその声を聞いて、耳だけを向けていた。
「将来の夢って、ある?」
「将来の夢、か」
それを聞いて、改めて考え込む。そんなこと考えたこともなかった。
……まだ俺らは高校二年生、いや、もう二年生である。あと一年もすれば、自分の将来を決めなきゃ行けない。
……子供の頃のようなことは、もう言ってられないのだ。
消防士になりたいだとか、警察官になりたいだとか。そういう漠然とした夢。
そんな夢はとっくのとうに無いし、むしろ出来ないだろう。今から頑張って、間に合うか? と問われれば、間に合うのは難しいだろうしな。
「……決まってない?」
「あぁ。これと言ってな」
「……そっか…………良かった」
「良かったァ?」
俺はいいながら、訝しげに目を向ける。春乃はずっとこちらを見ていて、俺のその言葉を聞いて、俺の手を取る。
それを見て、目を見開く。まるで、支えるようにして、いや、包み込むようにして手を取られていた。手を取られるまで、春乃がこちらを向いてるのを気が付かなかった。
「……じゃあさ」
春乃は、恥ずかしそうに照れて、そこで口を閉ざした。
なんなんだよ、と思いながら待っていて……春乃は、しばらく黙り込んだ後に……また、口を開いた。
「一緒に考えよ。私も、漠然としか決まってないからさ」
春乃はそう言って、テレッと笑う。
その笑みは、どこまでも優しくて、愛らしくて。
…………そうだったな。こいつは、どこまでも人にやさしくて、馬鹿みたいに笑って、それでいて……。
人の心を、優しく溶かしていく。
そんなやつだった。
「……仕方ねぇな」
俺はそう言って、微笑む。
「……探すか」
「……うん」
その日初めて俺は、春乃という女の顔をしっかりと見た。
◇◆◇
私は、無力なのかもしれない。
そう考えたことは、何度もあった。
目の前で涙を流している女の子の姿を見て、足が止まった。迷子なのかなと思った。小さい頃の私はそれを見て、ただただ…………
「可愛そう」
それだけしか言わなかった。
助けたいだなんて、微塵もなかった。だって、その時の私はまだ無力だし、そんなにすごい人でもなかった。
小説が書けるわけじゃない。
何かを発明できるわけでもない。
何かを発見することだって出来ない。
誰かに教えを解くなんてことも出来ない。
絵だって書けないし、歌だって作れないし歌えない。ダンスだって、踊りだって、バレエなんてものも出来ない。
世界に名を馳せる偉人というものは、何かをなすために、何かを見つけるために努力をした。
努力とは、小さな一歩だ。その小さな一歩を踏み出せないやつに、何かができるのだろうか?
人生とは小さな一歩の連続なんだから。
私は、目の前に立っている少女を見る。
「……やぁ、快弦ちゃん」
「何が『やぁ』、よ」
快弦ちゃんは腕を組みながら言う。
それから、私の隣に来て、座り込んだ。
「ここ、何って顔ね」
「そりゃあね。こんな夢みたいなの、初めてだもの」
「夢……ね。あながち間違いじゃないかも」
快弦ちゃんは言いながら指さす。そこには、過去に見たシーンが映っていた。
「ここは、貴方の記憶の中って言ったらいいかな」
「恥ずかしいのばっかじゃない!!?」
「ふふふ、過去のものもね」
「見ないで欲しいかなぁ!!?」
私は言いながら彼女の目を隠そうとして失敗する。
けれども、手が触れた。それを見て、小さく声を上げる。そうしてから、快弦ちゃんの顔を見て抱きしめた。
「……会いたかった」
「……うん」
私はそう言ってから、ぱぱっと離れて彼女を見る。
「それで、ええっと……?」
「話があるの」
「……話?」
快弦ちゃんが真面目な目を向けてこちらを見ていた。
「貴方の、『能力』の話よ」