私が目を覚ますと、そこはバスの中でたった今停車したところだった。
隣の鬼円も目を覚ましていて、外を眺めている。
今度泊まるホテルらしい。随分と大きくて……前のホテルとは違うな、うん。
というか、旅館っぽいのかな。この前のは明らかにホテルだったが、これは「和!!」という感じがする。
私たちは降りてからゆっくりと頭を抑える。
「なに、頭痛?」
「いやちょっとね……は、ははは……」
快弦ちゃんは夢の中とは言ってたけど、あんなに投げ飛ばされるとは思ってなかった……。
曰く、明晰夢とよく似ているものらしくて、その経験は私の中に必ず残る、らしい。
とはいえ、痛いものは痛いので……何度意識を失いかけたか……。
ま、死なない限り目覚めないわよ、とか言われたし、多少、手加減してくれた……のかな。うん……。
快弦ちゃん自体の魂は今現在金之助くんと一緒にいるらしい。
だから、夢に出たのは私の中に残っていた残留思念? と言うやつらしい。
とにかく、夢の中で会えるのはもってあと二回、らしい。この修学旅行中はその二回でなんとかしてあげる、とのことだ。
私はそんなことを考えていると、部屋にたどりつく。
いつも通りの三人でゆっくりとくつろぐ。
「いやぁ〜、こんな大きい部屋なのに三人って……贅沢だねぇ〜〜……」
「こら、蟹菜。はしたないわよ」
二人は布団に座り込んでいて、蟹菜ちゃんなんかは溶けていた。ほんとに、スライムみたいに。
かくいう冷世ちゃんも、座布団の上にあぐらをかいて座っていた。はしたないのは同じだもんね、と思いながら外の声が聞こえてくる。
「え、ここ露天風呂あるの?」
「うん! 見える時は、星空で満開なんだって!」
なるほど、通りでデカイわけだ。
ここは、かなり有名な旅館らしく、有名人も泊まったことある、とのことだ。
ま、私達もゆっくりと空を見上げるとしましょうか……。
「その前に、食事だってさ」
「うーふふん、土鍋で炊いたご飯、塩をまいて……ぱくりと……箸で……!!」
「ヨダレ出てるわよ蟹菜。汚い」
「言い方酷くないっ!?!」
私はそんな二人を見て苦笑いするのだった。
しかし、確かに土鍋で焼いたご飯は美味しいよね……なんであんなに美味しいんだろ、土鍋って。
とにもかくにも、私たちは立ち上がって食事処に向かうのだった。
◇◆◇
「あ、春乃ちゃーん!」
「また会いましたね、赤芽さん」
「もー、呼び捨てでいいのに〜!」
いや、私の性格上それが出来ないって言うか……。
私はそんなことを思いつつ、赤芽さんと歩く。
「これから京都なら同じだね」
「そうですね。一緒に回ります?」
「いいね〜! 実の所、悪噛がいると班のメンバーが萎縮しちゃってさ……」
何となくわかるな……汗を垂らす。
悪噛なら、誰に対しても睨みつけ+ひっくいこえの「あ?」が飛んでくるだろうし……。
そりゃあ班のメンバーも萎縮しちゃうよね……私だってするだろうし。
とはいえ、二人で歩き回るのも気まずい……
「……二人では歩かないんですか?」
「? 二人きりはいいけど、大人数いないと楽しくないでしょ」
ごもっとも……なのか? とにかく、赤芽さんは大人数で回りたいらしく、私たちはそれに参加することとなったのだった。
私はドサッと座って、隣の鬼円を見る。
「うわっ、めちゃくちゃ持ってるじゃん……」
「土鍋はうめーんだよ」
それはとても分かる。
私は鬼円と共に食べながら目を向けて、静かに言う。
「ねね、鬼円って予備の木刀とか持ってないの?」
「持ってるが……いま持ってきてるのは俺の使ってるやつだけだぞ」
「そっか……じゃあ戻ったら貸してよ」
「……んだ?」
鬼円はこちらを訝しげに見る。
私はその目を見つめてから、ゆっくりと言う。
「私も、戦おうと思う」
「……そうか。それで木刀を?」
鬼円は少し考え込んでから、頷く。
「わぁった。俺も、手伝ってやる」
「……えっ?」
「俺も、テメェのこと強くしてやる」
鬼円はそう言ってからニヤリと、イタズラ気味に笑った。
まるで、獲物を見つけたとか……いや、違うか。まるで……「ようやく見つけた」みたいな。「ようやくか」と言わんばかりの笑みだった。
私はそれを見つめてから、少し苦笑いをしてから、しっかりと頷く。
「うん、よろしくね」
私はそう言ってから、ご飯を食べる。
鬼円は結局、平らげた後におかわりしに行ってしまった。
私はその背中を見ながら強く決意する。もっと強くなってやろうと。
心も、身体も。もっともっと、色んな人を……悲しませることがないように。
もっと、強くならなきゃなんだ。
◆◆◆
「鬼円、少しいいか」
先生に呼び止められた鬼円は振り返る。
「なんだ」
「なんだじゃないだ……はぁ。まぁいい。お前に急用だからな」
先生はそう言いながら、鬼円に手に持っている電話を手渡す。
鬼円はそれを見てから、耳元に当てる。
その電話から流れた音声は、鬼円の目を見開くには十分な情報があった。
敵では無い。そして、超能力部のことでもない。
それは、鬼円の心の底に沈んでいた、無理やり隠していた「もしも」を現実に呼び起こしていた。
『桃佑くん!! 大変!! おじいちゃんが……國網さんが、倒れた!!!』