次の日、私たちはバスに乗っていたのだが、ふと周りを見渡して首を傾げる。
「あれ? 鬼円は?」
「そういや、朝の食事処にもいなかったよね」
蟹菜ちゃんの言葉を聞いて頷く。
朝から見ていない気がする……と思いながら先生がこちらに近づいてきて言う。
「あ、ごめんね。鬼円は、家の都合で先に帰っちゃったらしくて……」
「家の都合?」
私は訝しげにいいながら、ゆっくりと蟹菜ちゃんと顔を見合わせる。
ん、ならしかたないけど……何かあったのかな、と思いながら静かに息を吐く。
「分かり、ました」
せっかく一緒に京都回れるかと思ったのにな、と考えるも、それでも家の都合なら仕方がない。
それでも、ここから家までってかなり遠い気が……と思っていたが、冷世ちゃんに肩をちょんちょんと叩かれる。
「あいつのことだし、能力使ってるわよ」
「……あー…………」
確かに、鬼円なら屋根の上を走ることぐらい楽勝か……。
道無き道を走ってそうだしな、あの人……と思いながら頷く。
「ま、仕方ないわよ。気を取り直しましょう」
そう言ってる割にはなんか……落ち着きがないですね冷世ちゃん。
冷世ちゃんは、脚で何度も地面をトントントンとリズムを刻んでいて、まるで……イラついてる? のかな。と思わせるほどだった。
「イラついてる?」
「は? 誰が? 私が? ないわよそんなこと。ないない」
胡散くさー……。
とはいえ、何も聞かないことにしておいた。私は賢いのだ。面倒くさくなりそうなので避ける。うん。
それから、蟹菜ちゃんと話し合って、赤芽さんのグループと合流するという話になったのだが……。
ちょうどいい所に赤芽さんが。
「赤芽さーん! RAIN交換しましょうよ!」
「あぁ、いいよ! そうだよね、交換しておかないと」
私は赤芽さんとRAINを繋ぐ。
ふと、携帯を見ると……うわっ、すごい数の友達……!?
「あ、赤芽さん……陽キャなんだね……」
「? というか、クラスみんなと話してるからね〜。そりゃこんなに行くでしょ」
なるほど、周りの赤芽さんを見る目がなんとなーく、尊敬だのなんだので染まってる理由がわかった気がする。
赤芽さんは誰に対しても屈託のない笑顔を見せつけてくる光属性なのだ。太陽なのだ。
まぁ、そんな人が悪噛とつるんでるとは思わないだろうな……と思いながらスマホをしまう。
「じゃあまた、後でね」
「はいっ、また後で!」
私は手を振って歩き始めるのだった。
……それからしばらくして、バスで揺れる中、私はふとバッグを見て気付く。なにか、ある?
私が取り出したそれは……木刀だった。
私はそれを見て、汗を垂らす。隣に座っている冷世ちゃんがギョッとした目でそれを見ていた。
「え、なにそれ……?」
「鬼円の、木刀だね……たぶん、渡してくれたんだ……」
「ちょっ、ちょっと待って? 木刀を渡すって何? これから木刀買うかもしれないのに?」
「修学旅行で木刀買うのって今あるんだ!? それ男の子がやるやつじゃないの!?」
「ええ……あれ、憧れない?」
冷世ちゃんはやけにキラキラした目でこちらを見た。
ダメだ、あの目は確実にやります、と言ってるようなものだ。これ以上言っても止まんないだろう……。そう思いながら、木刀はしまうのだった。
私たちはバスから外を眺めながらバスガイドさんの声を聞いていた。
『さぁ、いよいよ京都です! さぁ、京都においでやす〜!』
バスガイドさんの軽快な声……その瞬間に、私たちの背筋になにか駆け巡った。
「!?」
「えっ……!!」
私は目を見開いて、冷世ちゃんは口を開けて固まる。
何だこの気配……っ、いや、知ってる……この気配は……!!
「『クリフォトの樹』……!!?」
私は小声で言ってから外を見る。
いや、特になにもないのだが……先程の強い嫌な気配……。
一回、学校の時にもあった。まるで、どんよりとしたおぞましい雰囲気……。悪意の塊のような、なにか。
ツァーカブだ。
ツァーカブが学校に来た時も……キムラヌートが七夕戦争の時に来た時も。
この気配を感じていた。
『クリフォトの樹』のメンバーが……どこかにいる。
私に能力は見えるが、感知することは出来ない、そう思っていた。
いまは、快弦ちゃんという
「……春乃、話しなさい」
「……え?」
私はそれを聞いて、ゆっくりと見る。
冷世ちゃんは、真剣な目で……しかし、額から汗を流したまま言う。
「なにが、起きてるの?」
「……分からない。分からないけど……何かいるのは、分かる」
私はいいながら、唇を噛み締める。
こんなときに、鬼円がいないだなんて……っ!! 不覚だった……。
こんなときに、修学旅行という最中に、狙ってくるとは思わなかった。
……いや、逆か?
「修学旅行だからこそ……?」
香蔵さんや、狸吉さんが離れた。
この瞬間こそ、狙いなんじゃないのか? 奴らの狙いは、能力者の排除……そして、なによりも、とかに狙っているのは……鬼円だ。
つまり、鬼円が京都に来ることを知っていたからこそ、京都にやってきた……??
分からないことだらけだ。直接会ってみないと……!!
私は、バッグの中に入ってる木刀を、静かに握りしめるのだった。