悪噛と桑西は幼馴染である。
幼稚園、小学生、中学生、高校生と全く同じ学校であり、クラスであった。
隣の席になり、毎日顔をあわせて、登校して、共に過ごしていた中だった。悪噛にとっても、桑西という存在は大きく、デカかった。
恋心ではない。「幼馴染」という言葉が二人を結んでいた。
大事な絆となるそれを、悪噛は一度も手放したことはない。
「悪噛……」
京都の深々とした森の中にある廃墟となった家の中。
ひっそりと佇むそこは、隠れ家というより、拉致したものを隠すには最適であった。
桑西は唇を噛んでから周りに目を向ける。
(どこだここ……拉致されてから、そんな経ってない、はず……)
桑西は立ち上がろうとして、目の前の男に目を向けて固まる。
(こいつが、拉致犯……!)
声が出ない、いや、出せなかった。
目の前の男は、不思議なほど、こちらを……『
桑西はその目を見て、意味がわからず混乱していた。
なぜわざわざ、拉致してきた相手に、哀れの目を、情けの目を向けたのかわからなかったからだ。
(こいつ、なんなの……? 情けをかけているの?)
桑西は汗を垂らすことしか出来なかった。
男の手の甲に書かれていたのは『4i』の文字。
「可哀想な、やつ……まぁ、仕方ないよね……鬼円を、呼び出す、ためだもの」
「……は?」
桑西は初めて、自分の声を響かせたのだった。
◇◆◇
悪噛速すぎるんだけど!! と私は空を駆けながら思う。
悪噛の能力は狼であることは確かだ。実際、体から噴き出しているオーラも、その見た目も、走る姿まで……まるで狼だからだ。
鬼円は俊敏性や機動性なんかに平等的にステータスを振っているのなら、悪噛は俊敏性と力に全フリしているのだろう。
鬼円と悪噛は似ているようで似ていないのだ。
「どこまで行くのよ全く……!!」
「わからない、けど……あの山にいるのは確かだね……!!」
私は言いながら前を見る。禍々しい何かを感じる……確実にここにいる。
私はゴクリとつばを飲み下して、冷世ちゃんを下ろす。下ろされた冷世ちゃんは目をパチパチと
そんな彼女に一言言う。
「ここで待ってて」
「……は?」
私の言葉に冷世ちゃんがそう言って固まって、口を開いてきた。
「何言ってるの……そんなヤバイやつなら、私だって!!」
「勝てないかもしれないし、そもそも、怪我をする。だから、待っててほしいの」
「アホ! 敵前で指を咥えて待ってろなんて……!」
冷世ちゃんはそう言って、ズンズン歩いて、私の目の前に来る。
「私も行くわよ。戦うなんてことしたことないけど、友達を見捨てるほど終わってもないわ!!」
「れ、冷世ちゃん……」
私はそんな冷世ちゃんに
冷世ちゃんをこんなところにいさせるわけには・・・それに、悪噛のことを信用してないわけじゃないが、鬼円がいないし……。
…………。
「そう、だよ」
鬼円がいないからって、こんな所で足踏みしてたらだめだ。
強くなるって、決めたじゃないか。
「……わかった。けど、本当にヤバいって思ったら、絶対逃げてね?」
「上等よ。アスリートは目標が高ければ高いほど本気になれるんだから」
「そういう問題かなぁ、これ……」
私は困惑しつつも、森の中をかき分けていく。
この先にきっといるはずだから。
「どこにいるかわかるの?」
「ええっとね……」
私は目を閉じて意識を集中させる。能力という概念に。
感覚でやっているけどもこれでいいんだろうか……私は少し難しいことを考えつつ、研ぎ澄ましていく。
私は、目を開く。
「あそこの傾斜を登っていくと……誰かの別荘だったのかな、小屋みたいな……広めの家がある」
「よく分かるわね」
「え? い、いや……あはは……」
快弦ちゃんは『クリフォトの樹』の一員だった。その名残なのか、私にもわかってきた。
『クリフォトの樹』の気配だ。気配が、道となって私に見えている。足跡のように、手がかりのように、映し出されている。
レーダーのようなもの、かな。とにかく、今はこれがありがたいし、頼りになる。
「行こう」
「うん」
私と冷世ちゃんは歩き出して……後ろから口を抑えられるかのようにして掴まれる。
「んん!!?」
「んっ!!!」
冷世ちゃんが即座に地面を凍らせようとした瞬間だった。
「待てバカ」
悪噛がそこにいた。
抑えられていた腕が下ろされて、私と冷世ちゃんはぷはっと息を吐いてから……
「なぁにすんだこのっ!!」
「わわわ、冷世ちゃん!! 声! 声っ!!」
私たちは二人で冷世ちゃんを抑えて、息を吐く。
それから、ゆっくりと悪噛を見た。
「なんであんたここに……! 先行してたはずでしょ!?」
「それがな。あれだ」
悪噛はいいながら目を向けた。
私達も釣られてそちらを見ると、人影があるのが分かる。
森の中にある倉庫、と言えばいいか。
その前に陣取っている男は、ゆっくりと槍を携えながら空を見上げていた。
その男は、ゆっくりと息を吐いて、地面を何度もコツ、コツと叩いていた。
あいつか……あいつが、赤芽さんを……!!
これ以上被害を出させない。それが、私たちの目標。
こいつをここで確実に仕留めなければ……。
「俺がやる、手を出すなよ」
「なんであんたらって毎回こう、自分を犠牲にするわけ」
冷世ちゃんはそう言って立ち上がる。
そうして、歩いていく。確かに草を踏みしめながら。やつの前に出る。
「ちょっ、冷世ちゃん……」
「コソコソしてるなんて、私は嫌」
冷世ちゃんはそういうと、ドンッ! とやつの目の前に立った。
「私は冷世。あんたは?」
「……まさか、真正面から、来る、とは」
そいつは槍を構えて、目を細める。
「……アディシェス」
「そ」
冷世ちゃんはそう言ってからまた強く地面に脚を振り下ろした。
一瞬で地面に氷と霜柱が走り、アディシェスの脚を凍りつかせた。
「私の友達、返してもらうわ?」