大きな氷柱が、森の中に立った。
冷気が肌を撫でて、私はぶるり、と身震いする。凄い、冷世ちゃんの力は何度も見ていたけれども、ここまで強かっただなんて知らなかった……!!
冷世ちゃんは目を細めて、前を見つめ続ける。
「……終わり?」
私はそんな冷世ちゃんの上を見て、咄嗟に走り出して、突き飛ばして一緒に転がる。
先程まで冷世ちゃんのいた所が衝撃を立てて土煙を上げて、そこからゆらりと人影が立ち上がる。
「避け、られた」
アディシェスの武器は……槍。
まるで人の体ほどある槍をくるくるくると回していた。
「くっ……」
「どけ」
悪噛が前に出て、拳を振るう。
アディシィスはそれを後ろに避けていくが、悪噛はどこまで追っていき、地面に拳を叩きつける。
ドドドドドッ!! と音を立てて、地面が陥没していく。
しかし、アディシェスは悪噛の顎を蹴って、槍を突く。
悪噛はそれをくるりと身を捻って避けて、槍を掴んで引っ張る。
「!!」
「オッ……ラァ!!!!!」
アディシェスの顔面をぶん殴った。
アディシェスは地面に足を付けたまま大きい音を立てながら滑っていく。
それから、自分の顔を抑えて、血を見てこちらを睨みつけてくる。
「酷いこと、する」
「そりゃあお互い様だろうがよ……!!」
冷世ちゃんが地面を踏みつける。大きな氷の塊が成形されていき、アディシェスの脚を凍らせる。
凄い、冷世ちゃんの氷、ここまで……
「……冷世ちゃん?」
冷世ちゃんはこちらを見て、何、と睨みつけてくる。
「寒いの? 震えてるよ?」
「……そういう、
冷世ちゃんは地面を見る。
氷を見てから唇を噛んで、冷世ちゃんはゆっくりと目を向ける。
「大丈夫よ。寒いのには慣れてるから」
冷世ちゃんはそういうと、前を見る。
私は息を吐いて、頷く。
「分かった。私も、前に出るから」
「……あなた、戦えるの?」
「まぁ、多少は……多分……少し……」
「下がっていくのやめなさい、不安になる」
冷世ちゃんに言われて苦笑いを浮かべてから、歩く。
霜柱を踏む感覚を感じながら、目を閉じる。……あんだけ、転がされたんだ。多少なりとも、戦えるようになってるといいけど。
悪噛の隣に立つと、こちらを睨みつけられる。
「……すっこんでろ、邪魔だ」
「それでも、やらなきゃ。見てるだけなんて、嫌だ」
私はそう言ってから、拳を構える。
アディシェスはゆらりと立ち上がって、こちらを見つめる。
「なんで、そこまで、生きようと、する」
「……なにが」
アディシェスが、槍を地面に刺して、手を向ける。
優しそうに、可哀想、と言いたげに。その手は柔らかくそこにあった。
「人類とは、なんとも悲しい存在なんだ……」
アディシェスが、泣きそうな目で語った。
「感動や感情がある……悲しみ、苦しみ、焦り、怒り、恐怖、嫌悪、困惑、嫉妬、殺意、罪悪感、空虚、怨み、絶望、渇望、孤独、憂鬱、惨めさ、反感、切なさ、屈辱、悩み、混乱、退屈、無力感、不愉快、不信、軽蔑……こんなにもマイナスな感情がある」
アディシェスの言葉を聞いて、悪噛が、はんっ、と笑って前に出る。
そのオーラが、灰色に光り、ゆらりと立ち上る。
「てめぇなんぞに心配される必要はねぇな…………それ全部ひっくるめて、殴り飛ばしてやる!!」
悪噛がそう叫んだ。
そうして、アディシェスと、悪噛が再び激突した。
悪噛の蹴りが、槍と激突し、弾かれる。
槍の穂先が上にあったのにも関わらず、下に下がって喉元へ、ほぼ直角に曲がってくる。
それを見て、私は槍を横から掴んで止める。
グッと力を込めて、動かせないようにする。アディシェスの驚いた顔がよく見えた。
それから、冷世ちゃんの氷がアディシェスを襲った。槍を私ごともったアディシェスは飛び退け、槍を振り回した。
「わぁ!!!」
私は吹っ飛ばされて、刹那、いきなり地面から飛び出してきた氷に触れて滑っていく。
冷世ちゃんの前まで滑って上を見上げる。冷世ちゃんはこちらを見てすぐ手を差し伸べてきてくれた。
「ほら!」
「ありがと!」
私は手を取り立ち上がる。それから、ゆっくりと息を吐いて……地面を蹴る。
悪噛がそれを聞いて、とっさに横に避け、私はその横を通る。
アディシェスが槍を構えて守りの態勢をとるが、構わずに私は蹴った。
「ぐぅ!!?」
アディシェスは思いっきり蹴り飛ばされて、木にぶつかる。
衝撃が走った木は、折れることこそしなかったものの、ガサガサと木の葉を揺らして落ちていく。
「あなたの目的はなに!?」
私は叫んだ。
アディシェスはそれを聞いて、ゆっくりと立ち上がって……目を向ける。
「君らの排除。最も、排除したいのは、鬼円、だけど」
私はそれを聞いて目を見開く。
やはりか……なら、止めなきゃ。こんなやつに、鬼円を……殺させてやるものか。
口元から流れる血を拭って構える。悪噛が隣に来て、はんっ、と鼻で笑う。
「いい目じゃねぇか。鬼円から
「そうかな……そうかも……」
私、鬼円に染められてるのか……と思いながらも走る。
悪噛は私のフォローに回るかのように反対側を走って、挟み撃ちの形になる。
アディシェスは槍を使って私を串刺しにしようと突き刺してくるが、それを間一髪で避けて、槍を掴む。
悪噛はその隙を狙って殴りかかろうとするが……
「舐める、な!」
「うぅぅっわぁあああ!!!?」
槍を掴んでいた私共々、アディシェスはグンッと振り回した。
結果的に悪噛は後ろに避けたものの、私はそのまま遠心力に負けて吹き飛ばされる。
冷世ちゃんがそれを見て、氷を出して、それに着地した私は滑り台のようにして滑る。
フォローが桁違いだな……冷世ちゃんったら、こんな強い能力隠してたなんて。
「お前も、面倒臭い!」
「っ!!」
「冷世ちゃん!!」
槍が冷世ちゃんに向かって投げられる。
私は勢いよく駆け出して冷世ちゃんを掴んで、おんぶさせてから、走り抜ける。
槍は木に刺さったあとに、まるで意志を持ってるかのようにアディシェスの元に戻る。
クソッ、こんなことも出来るのか……。
「チッ……てめえらじゃ火力不足だ。俺にやらせろ」
「でも、どうやって……?」
悪噛はニヤリと笑った。
「必殺技、あるんだよ」