アディシェスの脇腹の骨が砕けて、それから、肉が抉られた。
灰のようなものがブシャアッ! と噴き出し、アディシェスは槍を振るう。
悪噛はゴッ、と殴られて地面を転がる。
「ぐっ……!!」
とめどなく灰がこぼれ落ちる。
アディシェスの目が苦痛に歪み、悪噛を見る。
「まさか、ここにも、こんなやつ、いたとは……」
「はっ、ノーマークの野郎が戦力になるのは、どんなもんでも同じだろーがよ!」
悪噛はいいながら血を拭った。
しかし、アディシェスはまだ動く。再び構えようとする悪噛だが、膝が震える。
春乃はそこに近づいて、支える。
「そんな体が震えて……あと何回放てるの!?」
「うるせぇ! 何回だってやってやる……!!」
「無茶よ。任せなさい」
冷世はそう言うと、立ち上がって……ゆっくりと息を吐く。
寒気が彼女の周りを覆う。
「春乃、あなたに決めて欲しい」
「……分かった」
春乃は立ち上がり拳を構える。それから、息を吐いて……走った。
アディシェスの槍が向けられる。が、しかし、氷の壁が目の前に出来る。
「邪魔っ!」
アディシェスが槍を振るって氷を粉々にする。その瞬間、氷が目の前に飛んできた。
アディシェスはそれを紙一重で避ける。
「粉々に壊した氷を殴って、散弾銃のようにしやがった……!」
悪噛は口を噛む。
それから、春乃はどこかと目を向けて、空を見る。
遥か彼方。アディシェスの視界から離れるようにして、氷を踏み台にして、飛んでいた春乃の姿があった。
目の前に、氷の壁を張ってから地面から同じ広さと幅の氷の壁を出す。二枚目の壁が出てきた衝撃を使って、空高く舞い上がったのだ。
それを見てから、悪噛は走った。
「オラァッ!」
「君もっ、しつこいっ!!」
悪噛を槍で貫こうと穂先を向けて突く。
悪噛はそれを素手で穂先を掴んでから、ゴチンッ!! と頭突きをする。
アディシェスの視界がチカチカと弾けるものの、咄嗟に蹴り飛ばす。
悪噛は地面を転がって、ゆっくりと息を吐く。
春乃は、まだ、高らかに空を漂ってから……拳を構えた。
━━━……たいした、必殺技なんてない。
春乃は息を吸う。重力によって、流れるように地面に向かって落ち始める。
━━━……でも、私のこの力は本物だから。
アディシェスの足元が氷で包まれる。
アディシェスはそれを払うために槍を振るって……気がついた。
自分の影が、一回り、先程よりも大きいと。
上を見上げた時には、春乃は既に振りかぶっていた。
「貫けええええええっ!!!!」
春乃の拳が、構えようと仰け反ったアディシェスにぶつかった。
拳がアディシェスの腹を貫いて、春乃は地面に降りる。
アディシェスは槍を刺そうとして……震えて、槍を落とした。
「……ぐっ……」
アディシェスの口から、灰のようなものがこぼれ落ちる。
悪噛も、冷世もそれを見て驚きを隠せていなかった。
アディシェスはゆっくりと腕を下ろして睨みつける。
「お前ら、は……これから、絶望する、ぞ……」
春乃はそれを聞いてから、息を吐く。
「しないよ」
春乃の言葉にアディシェスは目を見開いた。
春乃はゆっくりと腕を動かして、アディシェスの背中を撫でた。
「あなた達の中に、元人間がいるのを知った」
快弦……カイツールの事だ。
春乃はあの話を聞いて、思った。この、『クリフォトの樹』とは……世界に絶望した、自分に絶望した、そんな人間が集まったのではないか? と。
カイツールも、ツァーカブも。春乃が戦ってきた相手は、何かしらの事情を抱えていたのでは? と。
それでも、人を殺そうとして、何かを計画している。
「私たちは、止めるよ。絶望ならもうたくさんしたから」
春乃はいいながらボロボロと崩れ落ちるアディシェスを見た。
「勝つよ。私たちは」
アディシェスは何も言わずにその目を見つめた。
春乃の目には、決意が宿っていた。必ず止めると、訴えかけている瞳だった。
その瞳を見て、アディシェスは目を閉じた。
風が吹いて、アディシェスが消えた。
春乃は腕を引き戻して、空を見上げる。
それから、どしゃりという音が響く。振り返れば、既に冷世が倒れていた。