夜、お風呂から出た私は、電話が鳴っていることに気付いた。
相手は……え、冷世ちゃん!?
「もしもし?」
『もしもし。夜にごめんね?』
「ううん、良いよ別に」
それで、要件はなんだろう? と思い、その話をする。
冷世ちゃんは、焦ったような感じで喋り始めた。
『貴方、もしかして部室に入った?』
「え? そうだけど…」
『もしかしたら怪しまれたかも』
「へ!? なんで!?」
私は素っ頓狂な声を出して、口元を抑える。
やばい、鶴愛さんが凄い疑いの目でこっちを見てる。変な声出しちゃったからか。
私は口元に指を立てて、静かにするように伝える。
鶴愛さんは何も言わずに、頷いて、押し入れの中に入った。
「ええっと、なんで?」
『…私のロッカーが少し開いてたみたい』
「……あぁ…」
『私、部室にはそんなに入らないし、今日は部室に入らずにずっと外にいたからさ』
それで、ロッカーが開いてたから怪しまれたと…。
もしかして、相手…幅次李って子は用心深いのかな?
いやでも、ボイスレコーダーはきっとバレてないはず。…………はず!
『…気をつけてね』
「分かった」
私はおやすみと言って通話を切った。
……怪しまれてる…か。見られてないなら大丈夫、じゃダメだ。
私は気を引き締めようと頬をパチンと叩く。
……本気でやるもんじゃないや…。
◇◆◇
次の日。
私と狸吉さんは部室に潜り込んでいた。
もちろん、周りに気を配りながらではあるものの、ボイスレコーダーを取る。
「どうですか?」
「……うん。証拠取れてるね」
良かった……!
これで、冷世ちゃんのことが助けられる…!
「ねぇ」
「っ!?」
後ろから声が聞こえてきた。
狸吉さんはすぐにボイスレコーダーを胸ポケットに隠して、振り返る。
後ろには、陸上部の子が立っていた。
その子は、私たちをまるで睨みつけるように見ていた。
「何をしてるの? ここは陸上部の部室よ?」
「ええっと……」
「私たちは超能力部で、今生徒会の手伝いをしてて部室のロッカーになにか無いかとかを見てたんだよ」
狸吉さんの咄嗟の嘘に私はブンブンと頷く。
彼女はふーん、と疑い深そうな目を向けてきていたが、見事に騙された。
「まぁ、勝手に見てるってことは抜き打ちみたいな感じなのね」
「そそ。部長にも伝えてくれると助かる」
「分かった。私が副部長だし」
その子は言った。副部長……。
「…あなた、冷世と一緒にいる子?」
「え? そうだけど……」
「あぁ、冷世の少ない友達の幅次李ね。よろしく」
「!! よろしくね。幅次李ちゃん」
この子が…冷世ちゃんを虐めてる首謀者…!
狸吉さんがいてくれて良かった…! もしもバレてたら私も冷世ちゃんも危なかった…!
「どうしたの? 私をそんなに睨んで」
「…その子、初対面の子には睨んじゃう癖があって」
「そ、そう……く、癖が強いのね」
狸吉さん!? 誤魔化せたのはいいけど、私になんでそんなに槍を向けたんですか!?
その後、適当に誤魔化しつつ、私たちは部室を後にした。
「勝手に変な癖をつけるのやめてくださいね?」
「ご、ごめんねって言ってるじゃん…」
狸吉さんに言ってから、私は考え込む。
あれが幅次李ちゃん…そこまでやるような悪そうな子には見えないんだけれども…。
まぁ、見た目より中身っていうけれど…。
私は部室を見て、少しだけ目を細めてから、目を離し、学校の中に入るのであった。
◇◆◇
『よし、誰もいないよね』
『切っちゃお切っちゃお〜!』
「クソが」
「こんなこと、言ってたんだ」
部室で、鬼円はそう悪態をつき、冷世ちゃんはまるで怖いものを見たように冷や汗を垂らす。
いや、事実怖いことに変わりは無いか……。
狸吉さんも拳を作って震わせている。相当そういうことが嫌いみたいだ。
「今すぐにでも突っ込んだらどうだ?多少荒々しくてもな」
「今回は鬼円に同意見だ。今すぐに行動を起こさなきゃ、これ以上にエスカレートする可能性だってある」
私は頷く。
当たり前だ。これ以上エスカレートさせてたまるか。
私はそう決めて、冷世ちゃんの手に優しく触れる。
「大丈夫。ね?」
「うん…ありがとう、みんな」
「狸吉と一緒に行けば多少何とかなるだろ」
鬼円の提案。
確かに、冷世ちゃん一人で行かせちゃダメだ。だからと言って、私だけがついて行くのもマズイし、暴力なんて振られたら対抗出来ない。
ここは狸吉さんも一緒に連れて、あの子達と話し合わなければだ。
っていうか、鬼円さっきから震えてるけど、何かあったのかな。
予想以上に冷世ちゃんの事でキレてる…とか?
「なんだ?」
「い、いや?別に…」
鬼円の顔が2倍ぐらい怖いんだけど。どうしたんだろあれ。
な、何かあったのかな…でも、聞き出せるようなものじゃないし…。
とにかく、今回の件。早く解決しなくちゃだ。
「鬼円はついてこないのか?」
「……あぁ、学校に野暮用が出来てな」
野暮用…?もしかして、なにかマズイことをやってるんじゃ……?
って、そんなことは無いか。鬼円だもの。
「それじゃあ、また明日」
「あぁ。また明日……な」
鬼円はそう、まるで含みがあるような言い方をして、部室を立ち去った。