「鬼円、大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるかよ……」
「えっ、ごめん……」
私は鬼円に言われたことを真に受けて謝る。
すると、鬼円は私の頭をコツンと叩いてきた。
「テメェ、俺の言ったこと忘れたのかよ……」
「えっ? ……あっ」
『……怪我されたらたまったもんじゃねぇ』
鬼円の言葉が私の頭の中でいま反芻された。
「でも、怪我してないから!」
「そーゆーことか……?」
鬼円はため息混じりにそう言った。
私は先程の戦いを思い返していた。
いきなり現れた「キムラヌート」という人間……人間? そして、あの能力に、発言……それに、「ツァーカブ」という仲間。
あんな敵がいただなんて思わなかった……。それに、何か……よく分からないけど、嫌な予感がする。
予感がするだけであって、細かいことは分からない。
「ねぇ、鬼円」
「……んだよ」
私は気になっていたことを口に出した。
「『手ぇ出すな』……って……言ったよね?」
「……なんか悪いかよ」
鬼円はそんなことをスっと言って見せた。
私の顔が段々と熱くなるのが分かる。っていうか、絶対真っ赤になってる。
なんでそんな言葉をサラッと出せるのかなこの人は!! 私いきなりだったから脳が追いついてなかったけど、結構ビックリしたし、ドキってしたんだよ!?
「2人とも、怪我は……鬼円はありそうだね。治すよ」
「……ありがとよ」
鬼円に光が降り注ぎ、先程まであった傷が塞がる。
やはりいつ見ても、よく分からない原理だ。
まるで先程まであった傷がいきなり生命力を手に入れたかのように治るんだもんな。
「それよりも、面倒臭いのと会ったね……キムラヌート、か」
「アイツら、仲間がいるっぽいな。くそっ」
「……とりあえず、今は良かったってことで安堵しよっか」
香蔵さんの言葉に鬼円の顔が若干ながら楽になった気がする。
それよりも、と後ろを振り向く香蔵さん。
私も釣られて後ろを見ると、檻鉄さんが花畑さんにジャーマンスープレックスを決めているのが見えた。
えっ、ジャーマンスープレックス!!?
「痛テテテテテテ!!?」
「オラァァアアア!! 死に晒せぇぇぇっっ!!!」
「死に晒しちゃ不味いんじゃないの!!?」
私のツッコミに気がついた檻鉄さんはパッ、と手を離して花畑さんを楽な姿勢にさせる。
なお、花畑さんは頭を抑えて転がっている。
「ふん、なんかあったとはいえ、事件沙汰を起こしたのは
「そ、それは構わないですけどね……?」
すると、立ち上がった花畑さんは汚夢爾罵悪栖のメンバーを集めて言い放った。
「俺は、檻鉄徹太……いや、若の元に戻ろうと思う」
「……いいのかよ?」
「あぁ。俺が決めたことだ」
花畑さんの言葉は、先程までの荒々しい口調ではなく、大人しくなっていた。
花畑さんの言葉を聞いた汚夢爾罵悪栖のメンバーはざわざわと話し合っていた。
「なぁ、若……」
「分かってるよ。見逃してやれってことだろ?」
花畑さんは檻鉄さんの言葉に頷く。
事件沙汰を起こしてるのに見逃すのは大丈夫なのか……?
少し疑問に思うものの、本人達がそれでいいなら良いのだろうか。良くない気が6割ほどするけど。
「あっ、メンバーが……」
香蔵さんがいうと、汚夢爾罵悪栖のメンバーが何人か廃工場から出ていくのが見える。
実質、……いや、汚夢爾罵悪栖は負けた。完全敗北というやつだ。
それ見れば、これ以上汚夢爾罵悪栖には存在意義はないのだろう。それに、何かと自警団のような事をしている絶乃罵悪栖にはいられないのだろう。
そういうことからも、メンバーが抜けていった。
「……汚夢爾罵悪栖、解散だな」
「……あぁ」
花畑さんはそれを見てそう呟いた。
私たちはそんな花畑さんを静かに見ているしかできなかった。
◇◆◇
「さて、色々と悪かったな」
七夕戦争、そしてキムラヌートとの戦いが終わって、現在の時刻は午後4時。
まだまだ外は明るいものの、さすがに騒ぎがあったとならば、警察が来るだろう。
後始末は絶乃罵悪栖に任せて私たちは帰ることになった。
「いいんだよ。これで超能力部の活動も出来たしね」
「まぁ、元々はそれが本命だけどな」
鬼円の言葉に香蔵さんは笑顔を変えないまま、鬼円の事を軽く殴った。
それを見て、檻鉄さんと羅救ちゃんは笑っている。
「何かあったら俺たちを呼べ。仲間として働いてやるよ」
「なにもないといいんだけどさ……」
香蔵さんがそう言うと、檻鉄さんは頷く。
私は羅救ちゃんに近づく。
「また遊びに来るね、羅救ちゃん!」
「うん! またね、お姉ちゃん!」
羅救ちゃんとハイタッチしてから私たちは歩き出す。
それを静かに見ている悪噛に、私は言葉をかける。
「何も言わないの?」
「はっ、特に言うことねぇだろ」
「やめとけ春乃、そいつに近づいちゃダメだ噛まれるぞ」
「誰が噛むかよ……」
鬼円の言葉に悪噛がツッコミを入れてからその場を離れた。
私たちはそれを見て、ため息を吐いたあとに廃工場を後にした。
何だか、怒涛の数日間だった気がする。
胸騒ぎは収まらないまま、私は歩くのだった。
ただ、その胸騒ぎは当たっていたのかもしれない。
これから起こるのは、私たち超能力部だけじゃない。
向花高校……いや、渋谷を出て東京……日本にまで及ぶ、戦いに巻き込まれる1歩を、ここで踏み込んでいたんだ。