「ちょっと、離してってば!」
「あっ! い、痛かったッスか? そ、それだったらご、ごめんなさいッス!」
「……もう、いつも何も言わずに突っ走るから止めたの! ほんっとに悪い癖! 他人の気持ちとか考えたことないの!? だからありがた迷惑って言ってるじゃん!」
金之助と快弦が春乃達と別れてから10分。
花火が上がる中、金之助は快弦の手を引っ張って走っていたが、振り払われて立ち止まる。
快弦は息を整えながら金之助に迫っていた。
金之助も流石の迫りにあわあわした後に、シュンっとする。その顔に、快弦は言葉を止めて腕を組んで顔を背けた。
「……次はな……何回目の『次は無い』よこれ」
「数えたことは無いッスね」
「反省!」
「……うっす」
傍から見ればまるで夫婦漫才だな。そう思った快弦は、カァーッと顔を赤くして、金之助の脛を蹴った。
金之助は短い悲鳴をあげて脛を抑えて倒れ込む。
流石の金之助とは言えど、弁慶の泣き所と言われている脛は弱いようだ。
「……で、今回はなんでこんなことしたわけ?」
「……楽しんで、貰いたくて……」
「はぁ?」
金之助は立ち上がり、言う。
その言葉に、快弦は素っ頓狂な声を上げてしまった。それだけの為に連れ出したのか? と。
快弦は頭を掻いてため息をついた。
「楽しんでるわよじゅーぶん」
「いやその、何だか、影があるって言うか……快弦さんは、いつも
それを聞いて、快弦が固まる。
……金之助は、続けた。
「だから、今日はせめて、楽しんでもらおうと思ってッスね!」
「……。私のために?」
「はいっ!」
快弦は金之助の言葉に自分の顔を触る。
そして、金之助の瞳を見て、ほんの少し顔を赤らめていた。
金之助は花火を見て、大きく口を開ける。
「たまやーーーーーっ!! ほら、快弦さんも言うんッスよ!」
「えっ? わ、分かった……た、たまやーーーーーっ!!」
「そんな感じッス!!」
二人で言い続け、その声が空へと放たれる。
花火が上がり、金之助の顔を照らす。快弦は、そんな金之助の顔を見て目を見開く。
そして、ふと、笑みを零した。
「金之助はさ、なんで私なんかに構うわけ?」
「ん? そりゃあ、『
快弦はその言葉を聞いて、ははっ、と笑みを零す。
金之助は、そんな顔を見てふと呟くのだった。
それは、金之助自身も初めて捻り出した言葉であった。
「可愛い……」
「……………………………………は????」
快弦の声と合わせるかのように大きな花火が上がった。
パラパラパラと花火の残りが空に舞う。それが、火を噴いて、様々な色に発光する。
その光が2人の顔を再び照らした。
金之助は真剣な顔で彼女を見つめていて。快弦はそんな彼を顔を赤くして見つめていて。
再び、花火を見た観客から大きな歓声が上がる。そんな声すらも耳に入らない快弦。
「……今、なんて?」
「可愛いって言ったッス」
快弦の聞き間違いでは無かった。
金之助は、確かに快弦の質問にそう返した。快弦は金之助から顔を背けた。
「……私が、可愛い?」
金之助にもう一回そう聞く。
金之助は、その問いに確かに頷いて答える。快弦は、髪によって隠されている部位を、静かに上から触る。
金之助の方を、もう一度向く。
「こんな、顔なのに?」
「……見たことないッス。そっち側は」
金之助は正直にそう答えた。
何度も一緒にいたのに、顔が隠されている方は見たことがなかった。
けれども、そんなことはどうでもいいと金之助は呟いた。
「快弦さんが、可愛いからそう言ったッス。隠されてても、笑顔は隠れませんから!」
金之助は笑顔で言う。
その言葉に、快弦は口を震わせて、体も震わせていた。
それに気づいた金之助は慌て始めた。
「い、いや別に! 悪い意味で言ったんじゃ……」
「そう、言うことじゃ、ないわ、よ……」
嗚咽混じりにいう快弦。
そんな快弦に気づいた金之助は動きを止める。金之助は彼女に近づいて、顔を覗く。
その顔は、金之助も始めて見る顔であった。
「……泣いてるッスか?」
金之助の言葉に彼女は目を擦る。
なのに、ぽたぽたと垂れる
快弦は海の方を向いて、金之助に呟く。
「私ね、私ね。自分の顔が、コンプレックスなの」
「えっ」
その言葉に金之助は顔を青ざめた。
もしかして不味いことをしてしまったのでは?? そう考える金之助を見て、違う違うと首を横に振る快弦。
快弦は、笑顔ではあった。涙目で、涙のあとがあれど、笑顔だった。
「だから、金之助に言われて、私、嬉しいよ」
「…………そりゃあ、褒められたら嬉しいッスよ」
金之助の言葉を聞いて、彼の方を見る快弦。
金之助は快弦の隣に立って、同じく海の方を向く。
「俺、快弦さんと色んなことしたいッスから」
「…………なにそれ」
快弦は笑う。
金之助はそんな快弦を見て、笑顔で目を細める。
「やっと、笑ってくれた」
そんな呟きに、快弦はまた恥ずかしそうに笑顔を浮かべた。
金之助は彼女に手を向ける。快弦は、そんな手を見つめて、金之助の顔を見る。
「さぁ、行くッスよ! まだまだ食べたりませんッスから!」
「……ほんっと、食べることしか脳がないの?」
そんな彼女もまた、笑顔で金之助の手を取るのだった。