ようこそ!超能力部です!   作:YY:10-0-1-2

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第81話 織野々鶴愛という女

 

 春風。

 春に吹くおだやかな風のこと……。そんな風が、織野々鶴愛の頬を撫でた。

 

 桜が舞い落ちる年、1990年。

 まだ幼かった彼女は、とある人物の目の前に立っていた。

 目の前の男は、タバコの煙を肺の奥まで吸い、その風味をしっかりと堪能してから吐き出す。

 目の周りのシワを見ても、その白く伸ばされた髭を見ても、明らかに老人であることは間違いない。

 そんな老人が、口を開いた。

 

()()()()、何年経った?」

「……およそ、年かと」

「まだ4年か……」

 

 老人は、タバコの火を消して、上を向く。

 桜の花びらが、彼の目の前を落ちる。それを手を広げて掴み、じっと見つめる。

 鶴愛はそんな老人の奥……とある一室に気付いた。その視線を見て、老人は微笑む。

 

「気になるか、儂の孫が」

「……いえ、ほんとに……託されるのかな、と」

「儂も歳じゃ。それに……」

 

 少し躊躇った後に口を重々しく開いた。

 

「鬼円は、儂よりも強くなる」

「……國網様、よりもでありんすか?」

 

 老人……否、國網は頷いた。

 國網は立ち上がり、部屋を歩き始め、とある刀を手に持った。

 その刀は、國網に掴まれた瞬間、大きな光を放った。淡い白い光。見たものの目を焦がしてしまいそうな綺麗な光が溢れ出る。

 國網はその刀を見て、目を細める。そして、その刀の柄に手を当てた。

 

「國網様!」

 

 鶴愛の叫び声と同時に、國網の手から刀が弾き飛ばされる。

 國網の手からは煙が上がっていた。皮膚がただれている訳でもなく、刀を持っただけで、手が焼かれたのだ。

 

「やはり、もう持つことは出来んか……」

 

 國網は悔しそうに呟き、拳を作る。

 煙を振り払い、刀を元の場所へと戻す。その刀は、淡い光を放って消えていく。

 國網は、そうしてまた、縁側……鶴愛の目の前に座る。

 

「見ての通りじゃ。もう抜くことも出来ない」

「……わざわざ見せなくても、分かっておりんす。言葉でも、理解できんす」

 

 鶴愛は言う。

 鶴愛の言葉に國網は苦笑する。そこまで淡々と言われるとは思っていなかったからだ。

 とはいえ、彼女の言葉は事実。

 

「あぁ、悔しいのぉ……1人、倒せただけとは……」

「……1人だけでも戦力を減らせたのは大きいでござりんす! それに、これからも仲間を増やせれば!」

「鶴愛」

 

 國網のひと言で鶴愛が黙る。

 國網のひと言の意味は、言わなくてもわかるからだ。

 ……この事を他人に話しては行けない、と。

 

「……奴らのやってることは、もしかしたら……世界すらも壊すかもしれないでありんすよ? それなのに、私たちだけで倒すだなんて……」

「だから、託すのじゃ」

 

 國網の強い目の光が彼女を見つめる。

 鶴愛はその言葉に再び黙り込む。

 

「鬼円だけでない、他の能力者達はきっと……奴らを倒してくれる」

「……ほんとう、でしょうか……」

 

 國網でも、1人しか倒せない。

 そんな強敵たちが団結して行動しているのだ。倒せるとは到底思えない。

 鶴愛の中ではその考えがこびり付いて離れなかった。

 

「大丈夫じゃ」

 

 たったひと言が呟かれる。

 鶴愛は國網の言葉に顔を上げる。國網は優しい笑みを浮かべている。

 

「儂らは、負けないぞ」

 

 その言葉に、どれほど助けられたことか。

 鶴愛は、その言葉にずっと助けられてきていた。だからこそ、こう微笑むのだ。

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………っ、気絶……してやした。今は、何時でありんすかね……? 香蔵さんにも、色々伝えねえと行けねえのに……)

 

 鶴愛が目を覚ますと、立ち上がる。

 その後、ズルっと体が落ちた。鶴愛はまだ霞む瞳で、自身の腕を見つめる。

 

「……あ」

 

 小さなつぶやき。

 それは、自身の()()()()()()()を見つめて吐かれた。

 途端に、鶴愛を襲う痛み。鶴愛はズキズキと痛む頭や右腕に目を細めつつ、立ち上がる。

 木に寄っかかり、息を吐く。

 雨が止み、月が落ちかけている。もうそろそろ、陽射しが日本を照らすはずなのだ。

 

「……っ、歩け……織野々鶴愛……!」

 

 ひたすらに、ただひたすらに1つの目的地を目指して。

 鶴愛が歩き始め、目的地が見える。

 ……鬼円邸。そこには、鬼円だけでなく、春乃と快弦、そして……香蔵と狸吉もいた。

 鶴愛を知ってる、そして鶴愛が大好きな、仲間たちがそこにいる。

 

「……みな、さん……っ、私……」

 

 手を伸ばす。

 そんな人達が霞のように消えていく。その姿に、鶴愛は困惑する。

 なぜ、なぜ……消えていく? 目の前にあるのは、確かに鬼円邸。そこで、気付いた。

 

「……そっか、こんなところに……ある方が……おかしい……」

「ピンポンピンポンピンポーーンッ! 大正解〜っ!」

 

 鶴愛は再び目を擦り、目を開ける。

 そこは、森の中。そして、目の前には敵である……アクゼリュス。

 

 鶴愛は自身の流れる血を見て気付く。

「毒で、ありんすか……」

「おおっ、そこまで気付く? まぁ分かりやすいけどね」

 

 どんどんと変色して行く血を指先ですくって呟く。

 ゴホッと咳き込めば、血が口から吐き出される。

 鶴愛は遠のいていく自分の意識を抑えながら、何とか出来ないものかと考え込む。

 

「…ぁ……」

 

 一言、そう声を絞りあげる。

 指先を動かす。そんな鶴愛を見て、首を傾げるアクゼリュス。

 

「なんか思いついたのか?」

 

 そう聞くも、黙って指先を動かす鶴愛。

 そして、何かをやり終えたのか、鶴愛はふふっと笑みを浮かべる。

 アクゼリュスを見つめる鶴愛の目は、死んでいなかった。むしろ、炎が宿っていた。

 

「私たちが、勝ちんすから」

「……あっそ」

 

 アクゼリュスが鎌を振り上げる。

 鶴愛は目を瞑る。

 

(あぁ、良うござりんした……生きてて、生きてこれて……)

 

 たったそれだけ。

 たったそれだけを思い浮かべて、けれども……。

 

(けど、香蔵さんの……花嫁姿、見たかったでありんすね…)

 

 無慈悲な攻撃が振り落とされた。

 

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