(……動きが、見える)
先程まで、あんなにも速くて捉えられなかった動きが、見える。
きっと、血の出しすぎで頭が冴えてきているからだろう。
鉞を振るえば、アクゼリュスの鎌がガキンと音を立てて弾かれる。
まるで体が最小限の動きで私を守ってくれてるかのような……生存本能というやつだろう。それが働いて、動ける。
「っ!! てめぇマジになんなんだよォ……あァ!!?」
私の目の前に鎌が振り落とされる。
それを後ろにステップして避けて、ぐっと力を込めて、勢いよくかけ出す。
鎌に目掛けて思いっきり鉞を振るう。ズバッと音が鳴り、鎌と腕の接続部が切り落とされる。
「らぁ!!」
私の叫び声が鳴り、やつの脇腹に鉞が刺さる。
痛みからか声を出さず、顔をしかめるアクゼリュスをみて、ニヤッと笑う。
効いてる、効いてる……っ!
私はそのまま後ろに下がり、避けようと思った瞬間、蹴り飛ばされる。
血を吐き、もう一度立ち上がる。
おかしいな、あんまり……痛みを感じなくなってきた。
「クソが……テメェの……テメェ
「……てめぇら?」
鬼円の事だろうか……いや、なんかちがう。
明らかに、私に向けての憎悪が強い……? なんでだ。
ふと、視界が揺らめくのが分かった。
「!!」
前に倒れ込み、その後に空気が斬りさく音で目を見開く。
先程まで私が立っていたところ……ちょうど首筋があったところに鎌があった。
コンテナが何個か切り落とされ、大きな煙を上げて爆発する。
走り出す。あんなので斬られたら、私どころか金之助君まで死んじゃう!!
金之助君を持って、走り出す。
「はぁっ、はあっ……」
どうする、どうするどうするどうする!
この近くに倉庫はない! 隠れられる場所がない!
どうしよう、どうすればいい! 何か、なにかないのか!
「どこだァ、出て来やがれェ……カイツール……」
快弦ちゃん、を呼ぶ声?
もう一度ギリっと歯を噛む。あんなやつなんかに、快弦ちゃんを……呼ぶ資格なんて、ないっ!
けれども、どうすればいい……なにか、なにか……っ!
「いや、爆発……?」
なぜ先程爆発したのか?
そうか、船に積むための……家電や、自動車あるのか。
ならば、ならば……!
私は辺りを見回す。あった、クレーン車だ。
コンテナを船に乗せるためのクレーン車……あれを使って、コンテナをあいつにぶつければ……!
ぶつけなくても、切った瞬間、車のオイルがかかるはず!
「っ!」
私は駆け出す。なんとかクレーン車にまで辿り着き、汗を垂らす。
起動しない! 当たり前だ、今のご時世、鍵を入れたまま帰る馬鹿などいない。けれども、動かさないと!
「動けっ、動け!!」
エンジンを入れる部分を触って何度も何度も壊そうとする。
……ふと、声が響いた。
『こうよ!』
なにか、黒い何か……髪の毛のようなもの? が鍵穴に入って……カチリ、と音が鳴る。
クレーン車が動いた。
「!!!」
分からない、分からないけど……動いたなら、使わせてもらう!!
クレーン車を動かして、コンテナを掴む。
コンテナが、クレーン車が動いたことで、アクゼリュスがこちらに気づいた。けれども、もう遅い!!
「当たれェエエエエエッ!!!!」
クレーン車による、コンテナを持った攻撃。
アクゼリュスの顔面にコンテナが当たり、そのままコンテナが落ちてさらに追撃する。
ガシャン、と音を立てたコンテナは、潰れて……光った。
「うわぁっ!!?」
大きな爆発と共にクレーン車が悲鳴をあげる。
私は飛び降りて、ゴロゴロと転がり込む。痛ぁ……膝を擦りむいた!
「っ……!」
アクゼリュスの姿が見えない。死んだの、だろうか……?
ふと、後ろを振り向く。
「なっ……!」
アクゼリュスが立っていた。
片腕がもげており、身体中から血を流していた。
どうやって……! 体を小さくして、コンテナの爆発の勢いでここまで吹き飛んだの!?
「死ね、クソガキィ……カイツールァァア!!!」
私は後ろに逃げようとする。
ダメだ、アクゼリュスの方が早い、私はアクゼリュスの鎌を見て口を開ける。
まるで全てスローモーションのように、ゆっくりと動いて……。
「オラァァァ!!!!」
アクゼリュスの顔面に右ストレートが入る。
その顔は……知ってる! 殴ったその人の顔を、よく知ってる!
「邪魔ァ、すんなぁ!!!!」
「鬼円っ!!!」
鬼円が顔面を殴り、目を見開く。
アクゼリュスが殺そうとしていた私からそっちに鎌を向ける。
鬼円の顔から、血が吹き出し、顔面から血が流れるが、鎌を思いっきり叩き折った。
「死に晒せぇえええっ!!」
アクゼリュスに近づいて、もう一度……顔面を殴りつけて、地面に叩きつけた。
大きな亀裂が入っていき、ズドンッ! と大きな音と共にコンクリートが1段階沈む。
力を込めた鬼円の腕は、真っ赤に染まっており……明らかに、リミッターを解除してるような、筋肉の張りだった。
「おに、まる……」
「言ったろ、守るって……」
鬼円は顔から流れる血を片手で拭いながら言ってくれた。
ほんとに、びっくりした……けど!
「ち、血っ! 大丈夫!?」
「なんともねぇよ……」
フラフラしてるけど! 私は鬼円に肩を貸して、微笑む。……勝てた。
金之助君も、意識を取り戻したようで腕を抑えながら立ち上がる。
私たちは歩き出して……地面の影が動いたのを見た。
「なっ!?」
「チッ! しぶ、といなぁ!!」
アクゼリュスは何かを言いながらブツブツと立ち上がり、顔面が崩壊した状態で私たちに鎌を向ける。
最早それは顔ではなく、なにか……黒くなって、見えなくなっていた。
「っ! 鬼円!!」
鬼円がガクリと膝をつく。限界なんだ、私たちも。このまま逃げ切れる? いや、この調子じゃ、街にまで被害が出る!
私は汗を垂らし、歯を食いしばる。もう一度……やるしか!
そう思っていた時だった。
光が、アクゼリュスを貫いた。
「……春ちゃん。あとは……任せて?」
満月を背にして、その人は言った。私は、口を震わせて、汗を垂らした。
その、顔は笑顔で、可愛らしいはずなのに。どこか、怖くて、凶悪で……。
「……さて、やろうか」
悲しそうに、笑っていた。