「散華して…――――――殉国禁獄鬼軍曹!!!」
夜宵に言われるがままに卒業生を解放する偉と言霊を唱える虎杖。
そして、『彼』は戦場に降り立つ。上空に投げられた犬のぬいぐるみから大量の血が大地に流れその血は形をなし日の丸を描く。
『―――――』
そして血の日の丸から一人の男が現れる。
「―――――ッ」
威圧感の中で虎杖は口の中に溜まった唾を飲む。召喚された卒業生に虎杖は圧倒されていた。
上下を黒い軍服を着こなしているが開かれた上着の中には鍛え抜かれ幾度の戦いで出来た傷は彼が歴戦の戦士である事の証明だった。
『…―――――殺してくれ』
だがそんな卒業生は一言己を殺してくれと言う。死んでいるはずなのに矛盾した言葉を残しながらひと振りの軍刀を持ち、卒業生殉国禁獄鬼軍曹は目の前にいる宿儺の指の呪物体を見ていた。
「…アンタ…味方で良いのか?」
夜宵を信じていたが前日、邪経文大僧正で大変な目にあったあからこそ少年院で宿儺と変わってしまった事を思い出してしまい。虎杖は鬼軍曹に聞く。
『―――――』
虎杖の言葉に鬼軍曹は何も言わない。寡黙な帝国軍人の霊はただ突っ立っていた…故に。
『ウヒヒィ~~~!!』
戦いの始まりは呪物体の攻撃から始まった。弱い相手から倒したいのか鋭い凶爪が虎杖に向かおうとしているが。
『―――――!』
虎杖に迫る凶爪を鬼軍曹は軍刀で止めて見せた。
「あんた…」
自分を助けてくれた虎杖は鬼軍曹の顔を見る。
『どうした?蠅でも止まっていたか?』
『ニィィィィィ―――――!!」
挑発に乗って呪物体はターゲットを鬼軍曹に変更しその凶爪を振りかざそうとしていた。
『――――――』
対する鬼軍曹は変わらず仏頂面のままで軍刀を持った腕を降ろして無防備の状態で呪物体の攻撃を受けようとしていた。
『ニィ?』
…だが、その凶爪は再び軍刀によって阻まれる。
『ニィッ!!…ンンニイィ!!…イイイイッ!!』
振るう。振るう。振るう。当たれば一級術師であってもただでは済まない一撃を連続で振るわれているはずなのに鬼軍曹はだらりとした無防備な姿勢のままで呪物体の攻撃を捌いていた。
(…あの紐あの呪霊を操ってるのか?)
遠巻きで負った怪我の手当てをしながら七海は二つの特級呪霊の戦いを見ていた。
(しかし、余りにもあの霊は異常だ。纏っている呪力が明らかに他の悪霊とは異なる。善霊と言うのは本当なのだろう…しかし、それにしては余りにも可笑しすぎる。本来であれば直ぐにでも成仏するはずなのにこうして平然と現世に存在している。魂が神霊レベルなのか…それともあの赤い紐があの霊を現世に縛り付けているのか?)
七海の言葉を裏付けるかのように鬼軍曹はこれほどの猛攻を受けているはずなのに攻めの構えの姿勢が無い。しかし、呪物体が動くたびに日の丸の陣が動きそれに合わせて鬼軍曹の体に巻かれている赤い糸が鬼軍曹を操るように動く。そのあり方はまるで機械的であり最低限度の動作で動作で呪霊の攻撃を捌いている。
『―――――少年』
「え?俺!?」
突然鬼軍曹は虎杖に話しかけて来た。
『下がっていてくれ』
鬼軍曹は何を考えているのか軍刀を投げ捨てた。
「え!?ちょっ、武器を捨てた!?」
困惑する虎杖だが、直ぐに気づいた鬼軍曹から莫大な呪力が溢れそうになっている事に。
「悠仁、陣から離れて!!」
「わ、分かった!」
鬼軍曹が動くことを察した夜宵は虎杖にその場から離れるように促され虎杖は陣の外へと移動した。
『―――――巻き込みたくない』
懐から銃剣を取り出した瞬間鬼軍曹の体がやせ細り同時に鬼軍曹の足元の血の日の丸は日の丸から目のように変化しその場にいた宿儺の指の呪物体の体が急に痩せ細くなっていた。
『ウェ?』
異変は攻撃を受けている呪物体が一番に理解していた。体の呪力が減っていき急激に力を失っていき体は飢え始めていた。
『…―――――殺してくれ』
首を切るような仕草をして鬼軍曹は挑発する。
「あれは吸収?いえ、違うあの現象に心当たりは?」
この異常事態に七海は卒業生の持ち主である夜宵に問う。
「何度も言うけど鬼軍曹は悪霊じゃない。だからこれは呪いではなく祈り。彼の念が地面の陣の範囲内にいる者に伝播し戦時中彼が負った怪我、病、飢え、睡魔そして何よりそれらを受けても死なない『不死身』を味合わせる。『殺してくれ』と祈らざるを得ないほどの『衰弱』を伝染させる。それが鬼軍曹の霊現象」
「つまりあの衰弱を止めたければあの霊を倒すしかない」
「そう、衰弱の祈りの中あの守りを突破して不死身の体を消滅するしかない」
七海に鬼軍曹の能力を説明しながら夜宵はスマホを操作し自分の髪を一本ハサミで切り髪に呪力を込めて自分のスマホに付けて置いた。
「…―――――詠子、電話に出て。ここから先はテレビ通話で戦況を確認できるようにして離れよう」
「おい待て夜宵。そんな事よりもあの卒業生と協力して呪霊を倒してしまえば良いじゃないのか?」
夜宵の行動に虎杖が疑問を抱くがそれについては直ぐに夜宵は答えた。
「鬼軍曹の陣は鬼軍曹が武器を抜く度三段階まで陣が広がり祈りの強さが更に上がる。不死身の自分を殺して欲しいから相手を追い込む背水の陣。陣の広がるスピードは速い。その上第三段階の陣は全員が呼吸する筋肉すら動かせないまま死ぬことも出来ない。下手したら100年単位で苦しみ悶え続ける羽目になる。だから私たちは巻き込まれる前に早く離れた方が良い」
そう言って夜宵は怪我した足を引きずりながらトンネルの方へと歩いていく。
「虎杖君分かりましたね。ここは危ない彼女の足では速く遠くへは行けない担いで離れていてください!!」
あの足では間に合わないと考えた七海は虎杖に夜宵を担ぐことを促した。
「ナナミンは!?」
「最低限の止血はしました私の事は気にしなくても問題ありません急いで!」
そう言うと恐怖で足がすくんでいる詠子を背負っている螢多朗よりも早く七海は動き先頭を走っていた。
「分かった夜宵!!」
「うん、悠仁お願い!」
夜宵を抱きかかえ超人的なスピードで虎杖は旧Fトンネル入り口まで走り去った。
「うわっ早!!」
「私たちも早く離れますよ!!」
人間が居なくなった旧Fトンネルと旧旧Fトンネルを繋ぐ道で不死身の英霊と呪いの王の呪物体の耐久勝負が始まった。
『…止めたくれば殺してくれ』
シンプルな一言でこの場をどうするか分かりやすく答えた鬼軍曹。『あちら側』である彼にとって目の前の呪霊は全力で戦うに値しない弱きもの故に自分を『堕として』殺してくれるかどうか祈るのだ。これが己の死に場所か否か。
『―――――ニィィィィッ!!』
その挑戦受けて立つ。宿儺の指の呪物体は飢えても指に宿る呪いは単体で封印しきれない程の莫大な呪いその凶爪にこれまで以上に呪力を漲らせて攻撃する。
『―――――』
糸が鬼軍曹を操り銃剣で凶爪を受け止めるが先ほどよりも高い呪力量に加え弱体化されている鬼軍曹はその攻撃を受け止めきれず鬼軍曹の体は切り裂かれる。
『―――――』
悲鳴は無い。切り裂かれ胸に深い傷を負い真っ赤な血が呪物体の体を汚すが。
『…?』
その傷は瞬く間に消えていく。鬼軍曹の生前からの特異性なのかそれとも術式なのかそれは誰にも分からない。だがただ一つ分かる事はこの程度の弱体化と攻撃では鬼軍曹を満足に傷つけることが出来ないと言う事だ。
『…死ねない……この程度では…』
鬼軍曹が銃を取り出す。
『俺がもっと弱ければ…殺せるか…?』
血の陣が三角の中に瞳がある陣へと変わり第一段階が終わり祈りの陣の第二段階が始まった。
「っ…直ぐそこまで陣が来るとは」
迫りくる陣に七海は恐怖を漏らす。踏み込めば身動きが取れない無間地獄が迫っていると考えれば誰でもそうなるだろう。
「幻燈河先生!ナナミン!トンネルの外まで走れば大丈夫なはずって夜宵が言っていたから早く!!」
『ギ…ギ…ギ…』
鬼軍曹の衰弱の祈りを受け膝を付くほどの弱体化を受けている宿儺の指の呪物体。油が切れた機械のような声で鬼軍曹を睨みつけていた。
『ニィィィィィッッ!!』
周りにいる鬼軍曹が倒した敵兵の霊を捕食してエネルギーを蓄えて呪物体はもはや鬼軍曹に出し惜しみなど出来ない。己の最大呪力で飛ぶ斬撃を飛ばしていく。
『―――!』
特級呪物がSランク悪霊を苗床にして生まれた呪霊の全力の一撃。鬼軍曹の腕が宙に舞う。
『ニィィィィィィィィィッッ!!!』
鬼軍曹の衰弱の祈りで時間がたつほどに弱るのを分かっているからこそ戦いで遊びなど入れられないのは理解できているからこそ呪物体は全力で鬼軍曹の体を切り落としていく。
『―――――――――――』
切り刻まれる痛みに体から血が抜けていく苦しみ。そんな鬼軍曹の痛みを肩代わりしているのか犬の人形は血の涙を流していた。
『フゥィィィィィィィィガァァァァァッッ!!』
仕上げと言わんばかりに呪物体は呪力の塊を燃やしパチンコのように打ち出し切り飛ばされ散らばった鬼軍曹の体に火をつけた。
『ヒッヒヒッニィィィィィィッ!』
呪力を火種に燃え広がる炎に焼かれる鬼軍曹に呪物体は笑い転げる五体をバラバラにされ更に炎で焼かれているのだもう奴は立ち上がれない終わるはずだと勝利を確信しているのだ。
『な…な…やる…』
燃え上がる炎に人影が見え始めた。
「ほう、中々やるじゃないか」
炎の中から鬼軍曹が現れた切り裂かれた五体は見事にくっついておりその体は元通りになっていた。呪物体を通して見ていた宿儺はその光景を面白い動画を見ているかのように面白がっていた。
『もう一度だ…俺がもっともっと弱れば…あるいは…』
鬼軍曹が手榴弾のピンを抜く。
『殺してくれ…っ』
衰弱の陣が第三段階へと移り衰弱の威力と効果範囲が更に広がる事に。
「うわぁぁぁぁっ!!」
広がるスピードが更に上がり足を遅くすれば直ぐに入ってしまう程の速度に螢多朗が悲鳴をあげていた。
「螢多朗!ここまで来れば大丈夫!早く!!」
既にトンネルの外まで来ていた夜宵達は残っている螢多朗を応援するが陣の速さは詠子をおぶっている螢多朗の足では追いついてしまうのも時間の問題であった。
「ごめん詠子!」
せめて詠子だけでもと螢多朗は背負っていた詠子を投げて飛び込みキャッチした。
「螢多朗!」
「幻燈河先生!」
僅かに両足が陣に入ってしまい大急ぎで虎杖が螢多朗を外へと引きずり出した。
「あ…ありがとう…悠仁…君…」
時間にしてほんの一瞬だったはずなのに螢多朗の体は誰もが見る程にゲッソリしていた。
「…ほんの一瞬でこのような姿になるとは」
七海もまたやせ細った螢多朗を見て絶句する。
「…この中心に囚われて如何にかできる者はいないでしょうね。伊地知を呼びましょう恐らく直ぐに決着です」
『イッ…………』
七海の言葉は当たっていた。第三段階の衰弱の祈りの陣を相手では例え宿儺の指の呪物体であってもどうにもならくなっていた。衰弱しきり地面に突っ伏していた呪物体の周囲には呪物体を食べようと鬼軍曹が殺した敵兵たちが群がっていた。
『ギ…ギ…ギ…ギ…ギ…』
もはや戦いなど出来るはずもない呪物体はもはやただの『食材』とかしていた。
『…何時か…誰か…俺を…殺してくれ…』
此処までかと鬼軍曹は手榴弾を使い全てを吹き飛ばした。
「終わった…戻ろう」
呪力の爆発を見て夜宵は戦いが終わったと判断し残っているだろう旧Fトンネルの悪霊と宿儺の指を回収に向かおうと提案した。
「…分かりました。幻燈河君は私が見ていますので三人は見ていてください」
ゲッソリしている螢多朗を伊地知と詠子が看病しているのを尻目に三人は先ほどの場所へと向かった。
「居た!あいつまだ死んでねぇ」
戻った場所にはゲッソリと横倒れている呪物体と首だけの旧Fトンネルの悪霊がそこにいた。
「…取り合えず食べて」
倒れている呪物体を夜宵はグレイ人形の霊の糧にしようと思い食べさせていた。
「ちょっ、指は食べるなよ」
呪物体の呪力を捕食しているグレイ人形の霊に呆れながらも夜宵達は宿儺の指を回収する。
「…これが宿儺の指」
Sトンネルの霊の髪縄で掴みながら夜宵は呟いた。
「…その指は我々が回収します。あの霊は兎も角それは貴方が持つようなものでは無いです」
七海がそう言って指を呪符で仮封印しようとするが。
「……悠仁に食べさせようとしないの?」
その言葉に対して七海は。
「おや、虎杖君言ったのですか?」
「言ってませんよ。…んな事何で知っているんだよ夜宵?」
思わず夜宵に質問を返す虎杖だが…
「全部聞いたよ悠仁がこの指を食べてしまったせいで死刑になりかけていた事も」
そう言って夜宵の指は虎杖の傍に向けられ。
「悠仁。お爺ちゃんはまだ成仏していない。悠仁の傍に今も直ぐそこにいるんだよ」
そう答えた。
次回は旧Fトンネル後かたずけ諸々の後かたずけとかをやるのでもうタイトルに旧Fトンネルはつかなくなります。