「―――あの後、悠仁達が追いかけたはずの呪霊が何故か私達の方にもやって来て倒すことも出来て何とか此処まで戻ってこれたんだけど」
夜宵の視線は大きく膨らみ水子の呪霊の顔が映った詠子に移った。
「…俺達が1体夜宵が1体祓ったけど…」
「相手は恐らく3体以上または核となる呪物がある」
それに気づかず詠子は3体目に攫われ体内に入り込まれてしまった。
「…この呪霊の行動原理は生まれる事。逃げる途中私達はこの家に住んでいた親子の過去に触れた。彼らは些細な事で出来てしまった過ちから救われたくてこのような凶行を行った」
夜宵は語る。この家に住んでいた一家に起きた悲劇。
―――始めは些細な口喧嘩だった。小さな事で父親と母親が口論になり口喧嘩が起きた。
それだけならただの夫婦喧嘩なのだろう。…うっかり父親が母親を突き飛ばしそのまま母親の当たり処が悪くて死亡してしまった事を除けば。
不幸な事故だった。ありていに言えばこれに尽きる。誰もが思うだろうこんな事で人が死ぬなんて。
だが、一家に降りかかる悲劇はこれで済まない。噂は広がり関係無い人々のくだらない『正義』は親子を苦しめ続けた。
―――――人殺し、殺人鬼。そう言い続けられ巻き込まれた娘の心はどんどん荒んでいった。
父親は如何にかしたかった。だが、当事者であり全ては自分が巻き込んだ事もありどうすればいいか分からずににいた。
そんな中親子の前に車椅子に乗っていた老人と眼鏡をかけ額に縫い目のある女性が現れこう言ってきた。
――――――救われたいか?救われたいのであれば儀式を教えてやろうそして、儀式で呼ばれた『天子様』がお前達を救ってくれる…と。
典型的な詐欺、宗教の誘い文句。しかし、追い詰められ精神が擦り切れていた娘からはその言葉は正に天啓だった。
父親は止めようとしたが元凶が自分の為止めるに止めきれず。近親相姦をしてしまい呪われた子を作り。そして言われるがまま醜悪な儀式を続けていたのだ。
「…やるせねぇよ」
全てはただの偶然。されど、最悪と言う坂は運が悪いと何処までも転げ落ちるものだ。救う事も出来ない終わったお話に虎杖はただそう言うしかなかった。あの醜悪な呪霊の正体が母親の身勝手な理由で産み落とされ死んだ残滓なのだから。
「だからと言ってこのまま詠子を殺させるなんてさせない」
鬼子母神の指を指にはめ夜宵は準備を完了させた。
「夜宵何をしようとしているんだ?」
詠子の腹が膨らみ呪霊の顔が付いている理由は分かった。だが、どうするのかは虎杖には分からなかった。
「…これから私が霊的攻撃を仕掛けてこの事故物件の悪霊『天子様』が詠子の体から出ていくように仕向ける。当然、暴れる『天子様』が詠子を傷つけてしまいダメージが受けてしまう事もある」
夜宵の術式雛祭呪法がどれだけ詠子を守ってくれるのかは未知数のため最悪腹を突き抜かれて死んでしまう可能性も考慮して夜宵は詠子に問いかけると…
「だ、大丈夫。螢君のおかげで覚悟を決められたから…お姫様抱っこをしてもらうまで死なない…」
服で口を防ぎ舌を嚙まないようにして詠子もまた生き残るために大好きな恋人と電話して決意を決めた様だ。
「…夜宵何かする事はあるか?」
「…一応周りを見て―――――迅速に済ませる」
鬼子母神の指から呪力の刃が飛び詠子の腹にいる水子の呪霊を貫く。
『ヒギャァァァァァァァァァ!!!!?』
暴れ狂う水子の呪霊しかし、この呪霊は実態の無い霊体故に詠子が受けるダメージは雛祭呪法によって無限修復人形になっている安奈にダメージが行くため無傷だ。
「…趣味が悪いわね」
釘崎が思わずそう言うだけの事はあった。悲鳴を上げて抵抗しようにも雛祭呪法によって詠子は一切のダメージを受ける事は無く。ただただ水子の呪霊がどれだけ耐えられるか我慢比べとかしていた。
「…お前が泣こうが喚こうが刺すのを止めない。例えお前の心が無くなっても私は容赦なくお前に死体蹴りをしよう…やめてほしければ出ろ」
『―――――』
一瞬考えた水子の呪霊は諦め外へ出て―――――グレイ人形の霊に捕食された。
「…どうやらあの霊が喰われても残滓のようなものが残っているわね」
詠子の腹には6にも似た模様が3つ三画を描くかのように濃厚な呪いの紋様が残っていた。
「…どうするの。私が攻撃する事も出来るけど正直言えばあまりお勧めしたくないわね」
釘崎野薔薇の術式『芻霊呪法』は藁人形と釘を媒介に相手に呪術的ダメージを与える術式だ。術式を発動させるための触媒として詠子の子宮辺りに描かれている紋様を通せば紋様を通して妊娠の呪いの核を破壊する事が出来るだろう。…だが、当たり前であるが芻霊呪法は重いトンカチと鋭い釘を使う。釘崎の呪力によるダメージは夜宵の術式、雛祭呪法でどうにかなるだろう。…しかし、打ちこまれる釘の痛みは防ぐことは出来ない。尚且つ問題の妊娠の呪いの核が一撃で破壊できるか分からないのだ。
「…取り合えず呪いの核と思わしき祭壇の元に案内して」
それは最後の手段として夜宵達は妊娠の呪いの核と思わしき人骨の祭壇のある家へと戻っていった。
「ここだ」
祭壇に辿り着いた一同。道中親子による妨害行為や新たな呪霊による襲撃は起こらなかった。水子の呪霊はこれで打ち止めだったのかそれとも想定以上に虎杖達が強かったと認識して隠れているのか。
「うーん。これって何て言うか幻影なのかな核は別にあるんだろうけど」
祭壇を動かそうと虎杖は触るが祭壇は触れるようなことは無く虎杖の手は通過し掴むことは出来ない。
「ちょっと離れて…夜宵ちゃんあれ…他の壁とは違う」
何かに気づいたのか詠子は虎杖を下がらせ夜宵に気になる場所を指さす。
「…確かに壁の板の色が違う何かを隠した補修後?」
夜宵もまた自身の呪いや霊を見れる方の目を隠し詠子の言葉を理解し壁を破壊して中に隠されていた箱を取り出す。
「上手いわね。私達呪術師じゃあ逆に死角になる。かと言って一般人は幻惑やあの呪霊に殺される上手くやっているわね」
各々が評価をしながら箱の中に入っている小さな骨を取り出す。
「…誰の骨なんだろうな」
「祭壇の仏の頭の損傷を考えたら恐らく母親。確定はしないけど…念のため撮影しておこう」
「ああ、もしかしたら五条先生が何か教えてくれるかもしれない」
やるべきことはやり終えたと判断し夜宵は金槌で骨を破壊した。
「…どう?」
「…あ、消えた。あれがあの呪いの核だったんだね」
夜宵に言われて詠子は虎杖が見えない角度で確認する。詠子の目には何もない。ツルツルのお肌がしか見えない。
「おっし、これで一件落着さっさと帰って五条先生や伊地知さんに報告しようぜ」
そう虎杖が言うが…
『――――――!』
怒り心頭の娘の霊が其処に立っていた。
『…何てことしてくれたのよ』
「な、何って…」
え、私達なんかしたの?って疑問を浮かべる詠子たち。
『後一歩だった。アンタが天子様を産んでくれたら天子様は私達を楽園に連れて行ってくれた。…なのに!!…なのに!!』
入り込まれ危うく死にかけた詠子に対して娘の霊はヒステリックに騒ぎお前達のせいだとまるで詠子たちが悪いようなていで怒鳴り散らす。
「…知らないわよ」
愛用の金槌に呪力を込めながら釘崎は眼前の呪霊を祓おうと近づく。
『知らない!ふざけないでよ私が味わった不幸を!そんな簡単に否定して!!』
釘崎の言葉が気に障ったのか詰め寄り服を掴みかかるが…
「知らないわよ。アンタがどんな目に遭ったのか知らないし興味も無い」
突き飛ばし呪力の籠った金槌を振り上げ。
「アンタの不幸を私に押し付けるな!!!」
叩きつけ哀れな娘の呪霊を釘崎は祓った。
『―――――嗚呼』
悲鳴を上げながら消えていった娘の霊を必死に掴もうとするが娘の霊魂は父親の腕では掴むことは出来なかった。
『どうして。…いや、私がいけないんだ。こんな意味の無い儀式。ただ罪を重ねて…けれど…私は…止められなかったんだあの子は私のせいで不幸になったんだ。どうにかして自分の罪を受け止めて娘を正しく導ければ…それも出来なかったんだ…』
膝を付き嗚咽の声で夜宵達に懺悔する。
「…オッサン」
両親の顔もほとんど記憶にない虎杖でもその姿は何処までも哀れに見えていた。
『―――――頼む。…終わらせてくれ…家内たちの元へ…送ってくれ』
果たして、男が無事成仏出来たとして妻や娘の元へと行けるのだろうか?何もかもが手遅れ…けれど、…けれど、そんな哀れな姿に同情を覚えた虎杖は懐から清め塩を取り出して父親の霊を成仏させてやろうと近づこうとしたが・・・・・
「―――――一つ聞きたい」
しかし、夜宵がそれを制した。
『な、何か?』
「おい夜宵」
何を聞こうとするのかそう思った虎杖を尻目に夜宵は言う。
「…何人死なせた?―――いや、殺した?」
冷たい声が父親の霊の顔を今まで以上に引きつらせた。
『…私が17人…全員殺した』
「そう、なら消滅して責任逃れは出来ない」
「おい夜宵!!」
流石に酷だと詰め寄ろうとするが。
「私の目的を完遂させて卒業生を持たなくていい時までそれが終わったら悠仁の好きにしていい長くは待たせない。1年、長くても3年以内には終わらせるつもり。それまでパワースポットの中にあるこの場所で消えることなく罪と向き合いながらこの家の主を続けて行くといい」
そう言われ絶望した父親の霊はその場に消え去り玄関先の生前首つり自殺をした場所で首を吊った。
「…夜宵全部終わったらあのオッサン成仏させるぞ…良いな」
「勿論構わない。卒業生も全部終わったら悠仁達が処分して構わない少なくとも軍曹には成仏の約束がある」
そう帰り道で今回の一件について約束を交わして。
「『卒業生ハウス』ゲットだぜ―――――…」
次章は家を買える女編虎杖ファミリーは今回を考えると書きづらいのでカットさせてもらいます。ごめんね何だかんだで勝てるはやりにくいんだ恨んでくれ・・・