ワゴン車が到着したのは、一面真っ青な水の上……に見える床が広がる大地だった。
そこは、海の上に出現した
「何これ、海では無いのよね……水面の映った床?」
「上空からの監視を誤魔化すためのステルス映像です。全面が水面を映しているモニタープロジェクターであり、太陽光変換パネルになっています。海抜は50cmといったところでしょう。広さは、1万平方Kmほどあります」
「1まん、どんだけ広いのよ……」
「薄い逆ピラミッド状の施設となっていますから主要部分は海面下に存在します。現在の最深部は、700mほど下になりますね。ここがアスガルドの地球上での拠点、メガフロートです」
当初、最深部は水深300mだったが、色々やっている内に700mにまで増えてしまっていた。
「この床の映像は、スパイ衛星対策の迷彩って事よね」
「そうですね。ついでにチョッと発電量を稼ごうとしたら見事に巨大化してしまいました。ハハハ」
「笑い事じゃないんだけど……」
もしも上空から見たら、大海原にワゴン車が浮かびあがり、その横の空中に人が5人立っている様に見えた事だろう。
ワゴン車の前方、眼の前の床が大きく上に迫り上がり、巨大なエレベーターが出現した。
全員が又ワゴン車に乗り込み、前進したワゴン車はエレベーターに飲み込まれ水面に消えていったのだった。
「このまま施設内をご案内しましょう。兎に角広いのと勝手に出歩くと蜂の巣になって排除されます。皆さんには、これを渡しておきますね」
メイドのハコさんが人数分のブレスレットを乗せたワゴンを押してきた。
全員に手渡すと
「これはブレスレットタイプの情報端末です。巌谷さんにお渡しした物より高性能な物で施設内の身分証明書にもなっています。当然、責任ランクによって施設内の使用エリアは限定されますが、これをしていれば蜂の巣に成る事は有りませんので御安心下さい」
「もし、これを奪われた場合はどうするの?」
「皆さん、装着しましたね? 軽くタッチして起動して下さい。これで最初に装着した人物の生体データが記録されました。クローンか一卵性双生児でもなければ装着そのものは出来ません。奪われた場合は端末のAIが反撃またはその状況をこちらに連絡してきますのでそのままお待ち下さい。こちらで対処します。でも余程の事か本人が貸与しない限りはそんな状況にはならないと思いますよ」
ブレスレットの上に立体映像が浮かびあがった。
「この空間パネルは巌谷さんが持っている端末と同じ様に操作できます。起動したら音声に従って登録をお願いします。巌谷さんは、ピーちゃんをパネルの横に出して同期させて下さい。今後は、どちらでも同じ事が可能になります。博士達には、これを……」
ピーちゃんと同じ薄いカード状の情報端末をそれぞれに手渡した。
香月博士は、巌谷さんのを見ていたのだろう、見様見真似でアッと言う間に設定から同期までを終わらせてしまった。
ピアティフ中尉は、全て終わらせた香月博士が教えている。
「全員、設定は完了しましたね。では、案内を続けますね。ここの1層目から2層目のおよそ150mは、全てが動植物の生産地または製造工場になっています。3層目150mは大型艦船のドックや倉庫企画、4層目100mは居住区、5層目200mは工房です。6層目最下層は司令部となります。前方に見えてきたのが5層目、この施設の工房です。現在は、ワルキューレの増産を行っています」
前方に見えてきたのは、巨大な水槽だった。
水槽の内部には、高濃度のナノマテリアルな満たされており各種部品が水中から生まれるように生成されて水流に流れてゆき、勝手に組み上がってゆく
「……機械が生まれる所なんて初めて見たわ。どういう仕掛け?」
「目に見えないほどのナノマシンとモノキュラーマシン、そして素材と成るナノマテリアルに依る自動製造プラントです。人が遺伝子によって誕生し成長するのと同じ事を機械にやらせている訳です。修理やメンテナンス時には専用のドロイドが補修用のナノマシンを適切に添加する事でほぼメンテナンスフリーの状況を作り上げます。ですから我等の使用するマシンやメカニックは、基本的に人の手を必要としません」
空中で何かが光の粒子から組み上げられていく。
それは、両手のひらを広げたほどのサイズのタブレットだった。
「今のは何?」
「説明するのに手頃なサイズのタブレットを造ったんですよ。創造したとも言えます」
「ほんとに神様なのね……」
「嘘はついていませんよ、全てをお話しているとも言いませんがね」
ワゴン車から降りてゆっくりと歩きながら説明を続ける。
たった今創造したタブレットを操作しながら
「神様なんて成るもんじゃありません。寿命は伸びますが働く時間が長くなるだけですよ。延々と働かされるのが落ちです」
「「「それはそれで嫌ね……」ウヘッ!」・・・」
「もう
「確かにそうよね。BETAは、帝都の目前まで迫っているわ」
「そうだ! アルファさんなら、どうにか出来るんですよね?」
「・・・」
[肯定。
「まあ、過激な事を言っている様ですが妻の言っている事に誤りは無いんです。私達が直接手を下すのは、あまりに力が強すぎるんですよ。最善は、ここの人類が独自の力で打倒する事です。しかし、もうこの段階まで来たらそんな事は土台無理なので、次善策として我々がチョッと力をお貸しする事にした訳です」
眼の前で組み上げられてゆくワルキューレを見ながら、説明は続いていた。
「我々はBETAを1匹残さずこの地球上から排除したいと考えています。しかし、それを実行するにはもう少し時間が必要なのです。今は、こんな玩具しかお貸しする事は出来ませんがその辺は妥協して頂くしかありません」
「これで玩具ですか……」
[肯定。我々の装備するハードスーツの方が高性能です。ワルキューレでは傷も付けられません]
「そのブレスレットには、緊急時に今話に出たハードスーツを装着する機能がついています。イザという時は勝手に変身しますのでその時の対応はお任せしますね。多少のデザイン変更は出来ますので自分風にカスタマイズしてください」
「巫山戯ているわ。私達があなた達の
「それは、認識が少し間違っていますね。確かに傷一つ付きませんが強いかと言ったらそんな事はありません。確かにパワードスーツとしての機能は存在しますが、それを十全に使えるかは別の話です。武道の達人でもなければ素手で巨人には勝てませんよ」
「と言う事はですね、武道の達人ならば勝てるという事ですか?」
「そうですね、それも間違いではありません。しかし、機動兵器を使うメリットはその火力と質量です。機動力や俊敏性でいったらハードスーツを装着した武道の達人やアスリートには及ぶべくもありませんが質量差をどうにかしないといけません。そして、それらが合わさった時の力は数十倍にも増幅される事でしょう。機体の操縦だけではなく自分の心身を鍛える事をお勧めします。ちなみにワルキューレの操縦法ですがモーショントレースシステムに依って自分の体を動かすように操縦する事が出来ます。生身の体には無い機能や武器のセレクトなどは機体がその状況に合わせて補助してくれます。パイロットは、自身の体を動かし考え、いったい何をしたいのかを機体に伝えるだけでいいんです」
「話を聞いているだけで我々の戦術機とは別の物だという事が分かります。俺に操縦できるだろうか? 不安でなりませんよ」
「では、乗ってみましょう。『百聞は一見にしかず』です」
昴達は、世間話を交えながら3層目に存在する完成したワルキューレの格納庫に向かうのだった。