この次元の太陽系と地球の現状は、聞きしに勝る酷い物だった。
BETAは、インド亜大陸を含むユーラシア大陸を蹂躙し東進、朝鮮半島から日本の北九州に上陸。
北九州から上陸したBETAは、九州・四国・中国地方を蹂躙し日本人の30%以上が犠牲となった。
そして、BETAは首都である京都に迫ろうとしており、日本帝国軍は血みどろの戦いを強いられていたのだった。
密かにタイゲタとケラエノが収集した地球の情報によると、ここの人類の歴史は我々の歴史と比べりとかなりの相違点が認められる事がわかり、やはり別の次元またはマルチバースに類似するパラレルワールドの可能性が大きい事がハッキリとしたのだった。
この次元の日本は日本帝国であり、第2次世界大戦で原爆を落とされていない。
この次元で被爆国となったのは、ドイツであった。
1950年代、人類はかなり早い段階で宇宙開発に乗り出し月面に到達している。
1958年には探査衛星ヴァイキング1号が火星に生物を発見し、その画像送信と同時に通信不能となり消息を断っている。
この
1961年には、無人大型探査機イカロスⅠが発進。
人類居住可能惑星の発見を目的とした当時としては人類史上最大級の宇宙探査が開始された。
1967年、月の国際恒久月面基地「プラトー1」の地質探査チームがサクロボスコクレーター調査中に火星の生命体と同種と思われる存在を発見、消息不明となる。
この異星起源種をBETA:Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race……『人類に敵対的な地球外起源生命』と命名。
BETA大戦が勃発。
1973年4月19日、中国
地球上でのBETAとの戦いが始まった。
1974年7月6日、カナダ、サスカチュアン州アサバスカにBETAユニット落着。
アメリカは、ユニット落着と同時に戦略核の集中運用でBETAを殲滅するが、カナダの半分が汚染された。
BETAの着陸ユニットの脅威排除に宇宙空間での迎撃ネットワークの構築を決定。
これが推進される中、旧イラン領マシュハドにカシュガルに建設されたハイブと同じ建造物が確認され、ハイブは分化して増える事が確認された。
そしてBETAは25年掛けてインド亜大陸を含むユーラシア大陸全土を占拠。
中国・ソビエト・インド・EUヨーロッパを蹂躙して東進、日本に上陸した。
今まさに猛威を振るっている状況であった。
「アチャ~、これって不味いよね?」
[肯定。非常に不味い状況かと存じます]
「日本が滅んじゃうよ、昴兄ちゃん!」
「
アルキオネが補足説明を
[解析に寄りますと自然発生による生物では在りませんね。特定の目的のために人工的に生成された有機ロボットかアンドロイドの
ケラエノが意見を述べる。
[意思の無い機械に向かっていくら『仲良くしましょう』何て言ったって、無駄じゃないのかな……機械でも私達くらいの知性レベルじゃないと無理っしょ、ねェ~]
[肯定。最初の発見から既に40年、ここの人類は未だに敵の何たるかを良く知らずに一方的な蹂躙を受けているとみて良さそうですね]
アルキオネは続ける。
[此奴等の
タイゲタがそれに答えた。
[それは、もう捕獲に向かってる。序でに行き先の調査も継続。太陽系内にはここの人類には未確認のハイブが8箇所確認された。これらからもやはり同じ方位座標に向かって射出物が確認されている。届け物の帰着点の特定は直ぐ済むはず……潰しても良い?]
「最終的には報復も
[否定。弱肉強食はどの宇宙でも究極の
「ああ、ハイハイ先に殺った者勝ちって事ね。分かってるさそんな事は、ハコに言われなくてもね。弱者が泣きを見るのはどこでも一緒ってね……それじゃ行動を開始するとしますかね。何から始めようか?」
嫁の一人、ハイエルフのリリアナが
「まずは、蹂躙されてる現地人類の救助でしょうか?」
[ウーンそれは、
ここの人類のやらかした経緯を見て、ケラエノは否定的な意見を
「取り敢えず太陽系内から駆逐するチームと地球上から害虫を掃除するチームに分けようか。シスターズは、自由に動いていいけど報告だけは密にしてね。纏めはハコ、お願い」
[肯定。分かりました。空河帝の最初の『善きに計らえ!』ですね]
プロジェクト『善きに計らえ!』が、始動した瞬間だった。
◆
まずハコ達は、木星軌道上の地球からは見えない裏側に前線基地としての拠点を設けることにした。
かつての反物質生成ステーションと同じものである。
これはコピーしているようなものなので短期間で完成する予定だ。
以前は工期2年だったが半月も有れば完成するだろう。
今後必要となるエネルギーと資源は、その殆どを木星から調達する算段なのである。
そしてここを太陽系外の調査に派遣されていた宇宙船達の寄港地として整備し密かに太陽系内の掃除を開始する計画である。
木星の衛星ガニメデとカリストそれぞれに確認された小規模なハイブはステーション建設の障害となるのでサクッと排除される事になった。
その結果は、劇的だった。
ハコ達の手にかかればたかがワークローダーに毛の生えた知性無き機械モドキなどどれだけ数が居ようが物の数ではなかったのだ。
文字通り掃除をするようにBETAは殲滅されていった。
そして俺達は、無駄なゴミは出さないのが心情である。
破壊され動かなくなったBETAは、各種分子に返され新たな資材として再利用されていった。
木星反物質生成ステーション、長いので
俺達のマザーシップである恒星間万能移民船である『ハコ』はここに置いてゆく。
嫁達と地球に向かった俺達は、衛星軌道上から眺める破壊された地球環境の酷さに苦虫を何匹も噛み潰したような顔でお互いの顔を見つめ合っていた。
「取り敢えず拠点が必要だけど…現行人類との接触は避けたいよね」
「太平洋の真ん中にメガフロートを浮かべるというのはどうジャ。もともと自給自足をするための研究施設ジャから理にかなっておろう」
「確かに……下手に島や無人の土地を利用すると、後でイチャモンつけられそうだし沈降型のメガフロートを拠点にして活動することにしようか」
俺達が今いるのはプレアデスアークⅢ世の作戦司令室、地球で使っていたプレアデスアークⅡの同型艦である。
見かけはどう在れれっきとした宇宙船である。
全長40mの外洋クリーザーの中に構築された亜空間内には、高級リゾートホテルが存在しており、昴達はそこで寛いでいた。
このクルーザーは、ハコ達管制AIによる自動操縦で航行しており、位相差ステルスによって外界からは一切感知できない状態を維持しているのだった。
つい先程人知れず、木星からここに着いたばかりである。
俺に付いて来たのは嫁達全員とハコとアルキオネにアステローペにタイゲタとメローペ。
他のプレアデスシスターズ、マイアにエレクトラ、ケラエノの3人は、木星ステーションに残り、太陽系内の清掃作業に従事する。
向こうが片付いたら追々俺達のサポートをすることになっている。
「取り敢えず太平洋に降りるとしよう。いつものところで良いよね」
ゆっくりと高度を下げ始めるプレアデスアークⅢ、降下地点は伊豆諸島の南の端の外れ、日本の南鳥島近傍である。
ユックリと水面に着水するプレアデスアークⅢ。
幸いな事にこの地球の南鳥島に人工物は無く目視する者も居なかった。
電子的なステルスも完璧だ。
目の良い人間でも近くに居なければ気取られる心配も無い。
「到着っと! それじゃメガフロートの生成から始めようと思うけど……海が
タイゲタが手を上げた。
[ワダツミ型資源回収艦の導入を進言する。序でに世界中の情報収集を同時に行う]
「許可しよう。そっちはタイゲタに任せるよ」
[了解、任された……。リリアナ、手伝って……海の掃除をして地球を綺麗にしよ]
「望む処です、ご一緒しましてよ」
リリアナは快く了承を返し……聖が声を掛けた。
「僕も付いて行っていいかな? 資源調達はやっぱり僕が居ないとね」
早速3人は連れ立って亜空間下層の各種マシンの置かれた待機ヤードへと降りてゆくのだった。
このクルーザー、外見はプレアデスアークⅡ世と同じだがジェネレーターの出力もエネルギー効率もかの船より数段上である事から、ここの亜空間は前よりずっと広く取られている。
以前は直径300mほどだったのだがこの船の亜空間は直径1kmの空間を内包している。
球形の亜空間の下半分を占める待機ヤードには、全長500mのワダツミが2隻積み込まれていた。
その他には、ご存知500m級多目的工作艦(ハコの外殻艦仕様)が3隻、更に120m級汎用型巡洋艦が20隻、100m級変形人型強襲艦5隻(メローペ型メイド仕様)、30m級万能雷撃機サンダーバード100機などの他、多数の各種オートワーカーと積めるだけのナノマテリアルが積載されていた。
その数は、数え上げたらきりがないし今後ワダツミが稼働を始めればドンドンと増えてゆくことになる事だろう。
銀河も席を立って工房に移動するようだ。
「それじゃサクッとフロートユニットの生成を始めちゃおうね。アレってお義父さまが作ってた時の設計図残ってたよね?」
[残っておりますよ。半日下さい、製造ラインを稼働状態にまでもっていきます]
アルキオネが答えた。
「妾達も手を貸そうかのう……」
「みんなでやれば直ぐですよ」
シャシとラクシュが銀河とアルキオネについて行った。
「ワダツミが発進したら後の情報分析は任せなさい。双葉も手伝って…」
裕美が双葉を引っ張って出ていった。
情報処理電算室に籠もる気だな……任せよう。
「ハコと私は昴のサポートだ。メローペは……みんなにお茶を頼む」
ジェニーは俺のそばに控えるのだろう、いつもの事だ。
メローペは何故か一人オロオロと誰についていくのか迷っていたようである。
[了解なのです。任せるのです]
メローペはそんな掛け声とともに走り出して言った。
そして直ぐに給餌用の人型オートワーカーがカートを押してやってくるのだった。
ああ見えて施設内のワーカーやマペットはメローペの支配下にあるのだ。
俺達の中でも一番手数が多いのは彼女かもしれない。
「兎に角動き出したけど決まった方針も何も無いんだよね。漠然と人類守護とBETAの殲滅ってことしか考えてなかったし……」
[肯定。マスターはそれで宜しいのではありませんか。細かいことは全てこちらにお任せ下さい]
「そうだな、大筋だけ決めて後は出たとこ勝負だろう。別に危ないことをするわけでもなし。お前はド~ンと構えていれば良いのさ」
ジェニーがそんな事をいいながら俺の肩を叩いた。
何故かみんな殺る気満々で鼻息も荒い……。
相当にストレスが溜まっている模様である。
俺は何もさせてもらえずに唯唯みんなの作業を見ているだけに終止するのだった。