3人は、3者3様の顔を突き合わせていた。
ここは、香月博士に割り当てられた客室のリビングである。
ピアティフ中尉は、ドア一枚で行き来出来る隣の部屋。
巌谷は、廊下に出て向かい側の部屋を割り当てられていた。
3人が色々とショッキングな啓示を受けたディナーからは、既に1時間が経過していた。
3人の目の前には、フルーツの盛り合わせと各種ナッツ類、各自好みのアルコールが並んでいた。
「それでみんなには作戦会議って事で集まってもらった訳だけど、それぞれに思うところを語りましょう。まずは私から……」
何かに挑む様な顔で手にしたウイスキーをチビリと舐めて香月夕呼が語りだした。
パッと見全員が湯上がりらしく、堂々と足を組んで語りだした夕呼の姿は、正面に座る巌谷には少し目の毒である。
そのとなりでは、無表情なピアティフ中尉が同じウイスキーのグラスをジッと眺めて思考にふけっていた。
巌谷は、沈んだ顔で香り高い焼酎を煽りながら回らない脳みそをフル回転させている。
「彼らが神と名乗った事は、この際横に置かせてもらうわ。
その少し過激な言いぐさだが素直に頷く巌谷とピアティフだった。
「さっき見せられた物資のリストだけど下手すると米国なんかよりも質も量も潤沢な物よ。当然戦術機は、無いのだけれどワルキューレが借りられるなら問題ないわ。専用の物になるけど武器弾薬も豊富に供給されるようだし……何と言っても眼の前に示された天然素材由来の保存糧食の数々。確認したのだけれど既に万人単位で数年食べていけるくらいの備蓄が在るらしいわ」
「この酒もそうだが驚くべき食材の品質だ。何故か執念さえも感じるのは俺だけじゃないと思う」
「私、お酒がこんなに美味しい物だと初めて知りました」
「ピアティフ、あんたさっきから固まってると思ったらそのウイスキーに感動してたのね……確かに美味しいわよね、これ……」
グラスを掲げてニヤリと笑った。
「神の作りしお酒ですからね、納得の美味さです」
「それは分かるんだけど……巌谷少佐、そんなグイグイいっても良いの?」
「こんな機会でもなければ今どき酒なんて飲めませんからね。それに今更、私一人意気込んだところで何も変わりませんよ」
「ふ~ん、何時の間にか随分と達観しちゃったじゃない」
「現実を見せつけられましたからね、ある意味ドン底まで突き落とされた気分です。これが飲まずにいられますか……」
と捨鉢な感じで酒を煽った。
「まあ確かにね、あれじゃ~私達が少しくらい頑張ったところで人類はどうにもならなかったわ。今では、さっき迄あれをどうにか出来ると思ってた自分をぶん殴ってやりたい気分よ。でも、人類がこれで終わりじゃない事も分かったじゃない。でも何もかも彼ら任せで良いとは思っていないでしょ? 私は、思ってないわ。彼らからどれだけの知識や技術を吸収できるのか今から楽しみでならないわ……」
鼻息荒く呟いた夕呼にピアティフが問いただすというよりも不安をこぼした。
「博士は、彼らに協力するんですか? 国連や第4計画はどうなりますか? 私はどうしたら良いんでしょう?」
「あなた、もう答えは出てるんじゃないの? そうね国連はこのまま人類への窓口として存続する形でしょ。第4計画は、彼らに完全回答を出されちゃったし……今後は少しづつこの情報を小出しにしながら第5計画をどうやって潰すか暗躍することに成りそうよね。彼らが表に出た時点で人類の出る幕は無く成るでしょうけど、それでも人は生きてゆかなければならないのよ。立ち止まってなんかいられないわ。彼らも人類の内ゲバにかかずらわってる暇も時間も無いって言ってたじゃない。だったら私達にしか出来ないことをするしかないでしょ、彼らの代わりに手を打てるのは私達ってこと。最初は、何で私達に接触してきたのか不思議だったのだけど、自分達の尻は自分達で拭けってことだと思うのよ」
「……神の代理って事ですか?」
「当たらずとも遠からずってところね、代理の代理、何時でも切れるエージェントってところでしょ。そこまで大仰な立場でもないでしょうけど、ここまで大盤振る舞いされたらそれなりの働きは示さないといけないと思うのよ。……じゃないと後が怖いと思わない?」
「確かに、1万機もの機動兵器の運用を任されるって聞いた時には、自分の耳を疑ったが俺達が下手を打てば即座に全て取り上げられるって事だ。彼らにはそれが出来る。そして俺達の一挙手一投足全てを見てるんじゃないだろうか……」
「あら、今頃気がついたの? 多分ここでの悪巧みも筒抜けなんじゃないかしら。一応この施設、防諜はしっかりしてるし、この部屋はプライベート空間だから覗いてないっていう確認はしておいたけれど……」
「いつの間にそんな事……」
「兎に角、彼らの邪魔はしない事。そして、邪魔しそうな勢力は、直接潰すか連絡して潰してもらうって事でいいと思うの。私達は、その為の窓口だと思うのよ。人類を売ることには成るけど滅亡してからじゃ遅いのよね」
「俺は、この話に乗ろうと思う。これは、人類に残された蜘蛛の様な気がするんだ」
「お釈迦様が遣わすという救済の蜘蛛の糸ですか……確か、掴み方を間違えると、諸共に地獄行きでしたね」
「ああ、俺達には過ちは許されない、BETA諸共に消される覚悟を決めていれば別だがな……」
「それは、嫌ですね。こんな美味しい物を知ってしまったら余計にです」
「俺もだ……、出来れば老衰で死にたいもんだ」
3人が3人共頷きながら盃を合わせるのだった。
◆
「あれで良かったの? 随分と高く勘ぐってくれたみたいだけど、どうせBETA諸共に人類を消し去るなんて事はしないんでしょ?」<銀河
「まあ対応の匙加減が多少大雑把に成るぐらいだよ。それがどれくらいの影響として出るかは、それこそ神のみぞ知るってところかな。取り敢えずは、人類側へのパイプが出来たって事で、面倒臭い対応や後の時間稼ぎは彼らに任せる事にしよう。もう直接の接触は、今後ひかえようかと思うんだ。心残りは全然観光に行けてないところなんだけどね。各自お忍びで遊びに行くときは、自己責任でよろしく頼むよ」
「それは、大丈夫ジャな。我々の引率は、旦那様と決まっておるからのぅ」<シャシ
「ハイハイ、連れていきますよ」
「観光に行くとしたら比較的被害の少ないアメリカ大陸や南米、オーストラリア辺りだよね。ヨーロッパからアジア圏は残念だけど更地になってるし……」<双葉
「もう少し落ち着いてからで良いんじゃないかな。ちょっと調べたけど経済状況とか食生活がほんとに残念な感じだよ。どうせなら美味しいもの食べたいし……」<裕美
「イヤ~、ここの人類が何食べてるのかを知って愕然としたんだけど、試しにこっそり巌谷さんに頼んで取り寄せて見たんだ。だけどさ、このエグ味って何から出てるか分かんないんだよね。話によると今の食事全般がこんな感じで、前線で提供した食料はあの後数瞬で消えたらしいよ。『欠食児童のようですまん』って言って頭下げて追加を頼んできたよ。あの程度で喜ばれるならこっちも楽でいいんだけどね」
「戦場での兵士の楽しみは、食ぐらいのものジャからな仕方なかろう」<シャシ
[肯定。普通ならあんな酷い食事では死んでも死に切れませんね。我々にはあまり関係のないことですが地球環境、特に海洋汚染が改善されてくれば幾らかマシにはなるのでは無いでしょうか]
「そうだと良いんだけどね、それが何時になることやら……」
そう言って肩をすくめる昴だった。
唐突に空間モニターが開いた、木星の反物質生成ステーションに残ったマイアからだった。
[
「あそこか……確かに何もない所だからBETAも居ないって事だよね。良いんじゃないかな」
[では一度こちらにお戻りください。拠点用大型移動要塞艦の準備に入りたいと思います]
「了解。ハコも其れでいいかな?」
[肯定。問題ありません。ついでにこの銀河を支配してしまっても問題ありません。現在、この銀河に高位精神生命体の存在は感知できませんのでマスターの好きな事ができますよ。オススメです]
「そんな事進めなくていいから、帰還の方法を検討してね。分かったね」
[チッ、……肯定。帰還座標の検索に励みます]
「今、舌打ちしたよね、したよね?」
[何の事でしょう。私は、丁度いいので邪魔者の居ないこの銀河を支配してウンサンギガ帝国を発展させようなどとは、一欠片も考えておりません]
「イヤッ、それ本音ダダ漏れだから……」
「妾は、ハコ殿の意見に乗っても良いと思うがのぅ。何時になったら帰れるかも分からないのジャから、足場は固めておくに越したことは無いと思うのじゃがのぅ」
「みんなも反対じゃないと思うよ。でも、さっさと帰れるように支度もしとこうね」
「……分かった。それじゃ休暇はここで終了。三味線弾くのはやめにして、真面目にやろうか」
[肯定。了解いたしました]
「「「「「「「「了解」ラジャー」はーい」ニヤリ」程々にな」楽しくなってきたのジャ」ウフフフ」アラアラアラ」
本気になった昴達は、何をしでかすのだろう……不安だ。