8月13日未明、BETAの大規模侵攻が再開された。
辛うじて足止めに成功していた九州の部隊が壊滅し、一気に本州への侵攻が活発化したのである。
当初、対BETA用のナノマシンによる掃討作戦を考えていたのだが、現状はそれをさせてはくれるほど甘くない様である。
こちらの陣営として確保した四国へのBETAの侵攻は、佐田岬を起点として敷いた防衛ラインが上手い具合に機能していた。
砂浜と浅瀬の海底はメタルワームの独壇場だ。
海岸でBETAが取り付けそうな場所には、天敵が待ち構えており上陸するそばから餌となっていた。
これが生物ならば逃げるなり迂回するという行動を取るのだろうが、機械にはそれだけの判断力は持たされていないようである。
面白いように餌食となってゆく。
餌が増えればこちらも増殖して数が増えてゆくのだから負けるわけがない。
メタルワームは波打ち際でBETAに取り憑き、内部を喰い荒らして成長してから表に出てくるのだ。
この攻撃には、BETAのどの種だろうと抗うことは出来ない。
現在、内陸に放たれていたメタルワームは、すべて四国沿岸部に集結して上陸してくるBETAを待ち構え食い荒らしている状態だった。
まだ大型の個体は少ないがだからこそBETAは反撃等の対処ができずに全てが餌食となっていた。
かたや下関から進行したBETAは、山口県に再上陸していた。
朝鮮半島から日本海側に直接上陸したBETAは、長門・萩に上陸し、九州からの勢力と合流しながら中国地方を蹂躙、東進していた。
足止めに向かったドール部隊だが、予備のドールを合わせても150体では焼け石に水の状態であった。
今回の朝鮮半島からの増援はざっと22万、九州に残った約7万余りと合わせて30万の大群である。
その内、四国方面に侵攻した4万はメタルワームの餌となっているので放置するとして、帝国軍は残りの25~26万を相手にしなければならないだろう。
ドールによって削れるのは精々1万がいいところであるから誤差の範囲だ、時間稼ぎにも成るかどうか……。
このままでは、BETAの前衛が日の有るうちに姫路の防衛線に到達、夜半には最終防衛線の神戸を突破されかねない。
現状、淡路島からの侵攻を警戒して大阪湾に陣取っている国連軍の艦隊だが、完全な遊軍となってしまっている。
これを小豆島側に移動させ、艦砲射撃による援護を依頼するだけでもかなりの効果が期待できるのだが、それを指揮することが出来る権限を持っている人間が何故かここに居るわけで、早いところ送り届けなければならない。
通信でどうにかすると言う意見もあるが、何処から発信している通信だと探られるのも嫌である。
港に案内された3人を、巨大な船の前でアルファーと
「国連の艦隊への連絡は本土に着いてからお願いします。姫路は間に合わないにしても、神戸の援護には間に合うでしょう」
「この時間だとそんなところでしょうね」
「俺は元の部隊の応援に行きたい。機体を貸してもらえないだろうか?」
「この際、帝国には恩を売っておこうと思うのですが、どの形が一番いいでしょうね。ああ、先程本土からの連絡で分かったのですが、アメリカ軍は全軍撤退との事です。代わりに新型爆弾を使わせろと矢の催促だそうですよ」
「何ですって? あんなもの日本本土で使われたらどんな悪影響が出るか分かった物じゃないわよ。人が住めなくなる程度で済めばいいけど、下手したら日本列島が沈むわよ」
「あれって制御できない重力兵器ですからね~、とても
「やっぱり神から見ても、そういう見解に成るわよね……」
「当然でしょう。消してしまっても良いですか? アメリカ……」
「チョッと待って! 一部だからほんとに馬鹿な連中は、多分……」
「まあ、アメリカなんて消そうと思えば何時でも消せますから、今は日本の方を何とかしましょう」
ホッとしながらアルファーの『何時でも消せる』という言葉が嘘でもハッタリでも無い事を2人は実感していた。
この神がその気になったらやっちゃうだろう事も……。
「取り敢えず船に乗ってください。詳しい事は、移動しながら話しましょう」
アルファーは、眼の前の巨大な船を指さしてそういったのだった。
◆
今回使用される船は、この地球上で使用するためだけに建造された巨大船だった。
先発して活躍している空母からのフィードバックを受けて、大気圏内での活動に必要な部分を拡張し、余計な部分や機能を
もうこれは、移動基地と言ってもいいだろう。
空間拡張などの謎技術は廃され、香月博士達に公開された技術だけで作られている。
ある意味、技術はこう使えと言っているお手本で出来上がっているような船である。
全長1,800m、全幅300m、慣性重量1,200万トン。
主機:大型プラズマジェネレーター3基(航行用、シールド及び生活用、攻撃用)
補機:ワルキューレ1基(小型次元転換炉搭載型をキーデバイスとして使用)
今回キーデバイスとなっているワルキューレは、ハコの物である。
実を言うとこのワルキューレが心臓部であり、この巨大船全てを管制し制御している。
ハコの義体の半身とも言えるこのワルキューレは、いざとなったら単独でこの船を破壊し脱出する事も厭わないだろう。
兎に角、面倒なことは全てハコがこなすので、昴達の安全安心は確保されたも同然であった。
昴的には、とても手を抜いた船であり工期も今までで最短だった。
2隻目以降は7日もあれば完成させられるレベルの船である。
今回、移動要塞的な意味合いから『フォートレス』と名付けられる事になる。
その巨体の割に重量が軽いのは、ワルキューレの製造時に確立された発泡金属技術を最大限活用しているからであり、寧ろ強度は上がっている。
シールド等の他に航行に簡易重力制御を使用している。
しかし、出力は最低限に絞られているので精々地上数十mを亜音速で飛ぶことが出来るぐらいの出力しか無い。
当然、宇宙までは出られない仕様である。
飽く迄も簡易重力制御であり、ハコが管制しているから動ける様な代物だということだ。
それでも、現行人類からしてみればオーバーテクノロジーの塊だろう。
香月博士に公開された技術は正しい物だが、ハコ達の様な
作れたとしても人の手では制御できない、結果失敗する事が見えているのだ。
(この落とし穴に何時気がつくことに成るか、ちょっと楽しみでは有る)
巨大船に乗り込んだ昴達と3人は、動く床によって自動的に運ばれていた。
何もない壁が開いてエレベーターとなり、上の階に移動しているようである。
実際、何処にも位置を示す表示等は一切無く、3人はいったい何処を移動しているのか皆目見当もつかない状態であった。
そんな状態であったがアルファーの話は続いていた。
「巌谷さんには、昨日乗った機体をマッチング調整してこの船に載せてあります。今回活動する部隊の司令機としてオート随伴設定のワルキューレを100機ほど付けますから試しに使って見てください。出来れば現時点での帝国軍との接触は極力控えてください。そして、必ず一度帰ってきてください。それが出来ない時は、巌谷さんを本土に置き去りにして機体だけ回収します。それが嫌なら約束は守ってくださいね」
「ああ分かった、善処するよ。駄目だった時には、問答無用で放り出してくれてかまわない」
「最低限接触するなら、出来るだけ偉い人にコンタクトを取ってください。その後は、こちらで対処しますのでよろしくお願いします」
神とは思えない様な底意地の悪い笑みを浮かべるアルファーが其処にはいたのだった。
それを見て香月博士が呟いた。
「高く売りつけるなら、これでもかって位に吹っ掛けなさい。弱みを見せたら骨の髄までしゃぶられるわよ。あなた優しそうだから……」
「御忠告、有り難く頂いておきます。それはそうと香月博士って、割とツンデレですよね」
「ツン!?」
「アハハハ、アルファー殿に掛かっちゃ天才も方無しだな。香月博士」
「話は変わるのですが、おふた方には我々私設武装組織アスガルドの外部顧問となって頂きたいのです。直接連絡を取り合うにも肩書が必要になるのではありませんか? 細かい待遇は後ほどブレスレットと端末で確認できるようにしておきます」
「断る理由はないわね、私に異存はないわ。先に見せてもらった物資や情報を自由にしていいのよね?」
「ええ、その点は問題ありません。お渡しして差し支える物は入っておりません。ただし、我々にとって問題ないという意味での自由裁量です。それがこの地球の人類にとってどうなるかはあなた方次第ですよ」
「ふ~ん、あれだけの
「はい、我々には児戯に等しいものばかり、公開される全てに対処できるだけの安全マージンは確保しています。あれでもやっと惑星国家レベルです。星系国家、恒星間連合レベルになれば指先一つで消し飛ぶレベルですので、過信は禁物ですよ」
「天と地ほどもレベルに差が有るってことよね。ちなみにアルファーさんは、どれぐらいのレベルに居るわけよ?」
「そうですね、銀河連合の更にその上といったところでしょうか」
[肯定。マスターは光年単位の自由空間を創造できるレベルの創造神です。瞬きをするレベルで星を消す事も可能であるとだけ覚えておいてください。創造と破壊とは表裏一体であるということもお忘れなく……]
巌谷さんは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、聞いた本人の香月博士は真っ青になって固まっていた。
その後ろに控えていたピアティフ中尉は、片膝をついて頭を下げている。
現状を一番理解しているのはこの人かもしれない。
「特にあらたまる事はありません。私達は神といえども余所者である事に変わりはありません。人としての礼儀をわきまえ、余程失礼なことをしなければ怒ったりしませんよ」
[肯定。マスターが怒った時は、待った無しでこの銀河が危険です。実際、BETAのやらかしにはかなり怒っていましたので完全消滅待った無しの状態です。どうやってこの銀河から完全に消し去るかを協議中で色々と試している段階です]
「「「・・・」」」
ニッコリと微笑むアルファーを見て、3人は震え上がり背中を嫌な汗が流れるのだった。
[司令室に到着しました]
3人が現実を突きつけられて戦々恐々としている中、一同は目的地に到着したようだった。