実は俺、BETA大戦に介入しました!   作:夢見る黄龍

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今回ちょと長めの 9909文字


24.(せわ)しない門出

 

 

 

 眼前に現れた壁が、左右に大きく割れた。

 眼の前に広がる光景は、創造していた戦闘艦の艦橋などとは全く違ったものだった。

 

 そこは、部屋と言うには広すぎる空間、優にサッカー場くらいはあるだろうか。

 足元はリノリウムや絨毯などの人工物では無く、綺麗に刈り込まれた天然の芝生(しばふ)が一面を覆い尽くしていた。

 部屋の中央には、真っ白な大型テーブルを囲むように座り心地の良さそうなシートが人数分用意されており、部屋の各所には邪魔にならないように観葉植物が植えられている。

 一瞬、船外のテラスにでも出てしまったのかと勘違いしてしまうほどの開放感には驚いた。

 しかし、決してここが屋外では無いという事は、我々の入室によってその場の明るさが一瞬調整された事でわかった。

 この光景はたぶん、周囲を囲むように配置された大型モニターに依るものなのだろう。

 そこには、壁も天井も柱も目にすることは出来ず、継ぎ目も確認出来ないモニターにそのまま外界が映し出されているらしかった。

 

 左舷に並んで浮かぶのは、大型クレーンを生やした工作艦と(おぼ)しき船、大きさ500mほどだろうか。

 更にその向こう側には、全長100mほどの見るからに速そうな戦闘艦が数隻確認できる。

 そして反対側の右舷には、クジラのような巨艦が存在した。

 こちらも全長500m以上はあるだろう船が2隻並んでいる。

 

 勧められたシートに座ると一瞬体が沈みこみ押し包んだ後に浮き上がり、負担のかからないベストの位置にまで押し戻された。

 特にシートベルトなどしていないにも関わらず、しっかりと体がホールドされていることが分かる。

 それなのにまるで座っていることを感じさせない。

 気を抜けばこのまま寝てしまいそうである。

 いつの間にか眼の前のテーブルの上には、湯気を立てるティーカップとクッキーが用意されていた。

 

「さて、皆さん落ち着いたところで先ずは情報の統一を行いましょう。皆さんの眼の前、テーブルにあるスリットにそれぞれお持ちの端末を差し込んでください」

 

 差し込んだ端末に光が走り、テーブルからモニター状の立体映像が立ち上がった。

 座っているシートの肘掛けの部分に操作盤が現れ、モニターの表示を自在に変えることが可能らしく必要な情報操作が可能になっていた。

 

「このテーブルと椅子を頂戴、出来ればコーヒー付きで!」

 

「真っ先にそこに食いつきますか? さすがに研究者ですね」

 

 テーブル上の大型立体映像には、現在のBETAと各部隊の詳細な情報がマッピングされていた。

 それは静止画では無く、リアルタイムで動いている処から現在の情報がそのまま表示されているようである。

 

「この情報は、リアルタイムなのか?」

 

 香月博士は、こちらの会話はそっちのけで何か猛烈な勢いで自分の周りに複数のモニターを展開して熱中している。

 使い熟し始めている辺りは、流石に天才としか言えない。

 

「ええ、赤がリアルタイム。紫はBETAの監視状況から予想される数分先の分布状況が表示されています。同時に表示されている数字は、赤は敵数、紫は到達時間です」

 

「これは、敵数と戦況の予想まで同時に表示しているのか……たいしたもんだ」

 

「ちなみに黄色は地下侵攻です。母艦級(キャリアー)も漏れなく捕捉していますよ」

 

「ナンテコッタ、母艦級(キャリアー)が5匹も……防衛線が何の意味もなさなくなってしまうぞ」

 

「ふむっ、コイツラは邪魔ですね、こっちで何とかしましょう。巌谷さんは、地上侵攻勢力の方をお願いします」

 

 そう言ってアルファー殿は、戦域モニターを眺めながら前に手のひらを伸ばすとギュッと握り拳を作ったのだ、それも続けて5回。

 するとどうだろう……今まで黄色で表示されていた母艦級(キャリアー)が次々と消滅してしまった。

 

「これで地下侵攻は、無くなりました」

 

 そう呟いてニッコリと微笑むアルファー殿がそこに居たのだった。

 

 

 同時刻の日本では、極度に震源の浅いところで発生した群発地震を観測していた。

 何の予兆もなく日本海沿岸で連続して発生した地震に、これを観測した研究者達は首を捻るしかなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 08:30にメガフロートを出港したフォートレスは、海面の上空50mを時速500kmで進んでいた。

 これだけの大戦力の出撃だが、誰の目にも触れぬように高度な光学迷彩に依ってスパイ衛星の目を誤魔化し、ステルス性能によってレーダーにもその姿は映っていなかった。

 そして、人の目に映ってはいないその姿は、正しく巨大な空中戦艦と言ってよかった。

 通常は海上か海中を移動するのだが今回それでは時間的に間に合わないだろうという懸念から、空中を最大船速で移動していた。

 ちなみに海上では、最大時速80km(43ノット)、海中では100km(55ノット)の航行が可能である。

 

「2時間ほどで日本に着きますのでそれまでにそれぞれにお渡しする装備の説明をしておきましょう。中央のメイン・ホログラフを御覧ください」

 

 テーブルの中央に映し出されたのは、この船フォートレスの透視図だった。

 一部がグッと拡大され船の前部格納庫の3段デッキの一番上には、駐機姿勢の150機ほどのワルキューレが見える。

 2番めには何も無く、ここは帰還してきた機体用のデッキらしかった。

 そして3番目には各種装備が所狭しと積み上げられており、見たこともない様な装備を満載した機体が数機動いていた。

 

「第1デッキに控えているのは、今回巌谷さんが指揮する100機とこの船の護衛を務める直掩機です。第3デッキに見える機体は、香月博士用に演算支援装備を御用意させていただきました。もう1機はピアティフ中尉に使っていただく護衛専用の指揮官機と無人の随伴機が3機です」

 

 チラッと視線を向けて香月博士が聞いてきた。

 

「……あの機体は、所謂電子戦特化の機体みたいだけど武器は無いの?」

 

「エ~、香月博士は銃を持たせても当たらないようなので内蔵の武装以外は特に持たせていません。標準武装の内蔵ビームバルカンと高周波振動ナイフが2本だけです。その代わりと言ってはなんですが情報処理に特化した運用が出来るように色々と特別な増設が施してあります。博士以外では情報量が多すぎてトテモではありませんが乗りこなせないでしょう。機体を動かすだけなら視線と思考を読み取って機体が勝手に動いてくれますのでひっくり返ったりすることはありません。それに場合によっては、ピアティフ中尉に機体運用を任せて情報処理と指揮にだけ専念するという運用方法も可能なように複座式にしておきました。その時は追加装備としてリニアライフルを2丁待たせてください。ある意味で一番凶悪な機体かもしれませんよ」

 

 ピアティフ中尉も自機の諸元を見て見かけと内容が折り合わずに聞いてきた。

 

「私の機体は、見たところ中距離支援タイプの様ですが?」

 

「ピアティフ中尉の機体は、中距離支援機に見えますが、背部に超長距離精密砲撃が可能な特殊装備を追加してあります。それ以外の武装は、汎用の機体と同等です。指揮下に有る3機の随伴機は、標準装備のものになります」

 

「それで私の機体の横にあるデカブツは何? ワルキューレとは違うわよね、一体何物?」

 

「良くぞ聞いてくれました♪ あれは今回持ち帰っていただき御二方に運用のテストをお願いしたいと思って御用意した移動トーチカです。見た目は、何の変哲もないホバークラフトですけどね。小隊規模5機のワルキューレで運用することをコンセプトにした少規模な移動基地です。最前線で安全に情報収集などをするための装備ですね。船内部の環境は、うちレベルにしてありますのでご納得頂けると思いますよ」

 

 ご納得どころの話では無い、高級ホテルも逃げ出すレベルの環境をどう維持すれば良いと言うのだろうか。

 

スモールベース 諸元

 光学迷彩及び高度ステルス機能搭載型移動指揮所。

 管制AI搭載自立型・水素融合炉動力船。

 全長78m、全幅32m、全高25m。

 乗員:0~20名(船長室ほか9部屋は個室、2人部屋3室、4人部屋1室)

    会議室兼食堂(ラウンジ)あり、各部屋トイレ・シャワー付き

 警備用及び整備用各種ドロイド88機搭載。

 艦載機:5機(ワルキューレ専用)。

 武装:稼働型ビームファランクス10基、斥力場シールド搭載。

 移動能力:地上速度最高200km(ホバー走行、海上も同じ)、飛行速度0~1000km(限界高度100m、空中停止ホバリングが可能)、海中航行速度最高100km(55ノット)、限界深度1000m。

 最大人員での無補給活動期間:6ヶ月

 他物資搭載能力150t

 

 アルファーが開示した諸元を見たその場の全員が固まってしまったのは、もうお察しの通りである。

 

 何よ、これ……。

 言葉が出てこない……こんな物、持って帰ったら一体何を言われる事か……。

 

「今回は、香月博士達に御使用いただくワルキューレが都合よく5機編制となりましたので用意してみました。維持管理は勝手に自分でやりますので口頭で指示してやればOKです。イザとなったらあれで海の中にでも逃げてください。我々以外では手も足も出せなくなりますし、勝手にここに戻る仕様になっていますので寝ている間に離脱出来ますよ」

 

 都合が悪くなったらこれで逃げてこいって事なのだろうか……たぶん。

 口頭で指示?

 管制AI搭載型?

 自立?

 水素融合炉動力船? 

 どれをとっても今の人類の技術では無理な物ばかりじゃない……。

 こんな物で帰ったら、強制的に接収されてしまうに決まってるじゃない、……エッ、されない?

 『船が自分に乗せる人物を選ぶ』ですって?

 勝手に異物を排除するって事はワルキューレと同じって事?

 

 強欲に染まった人なんてBETA以下だと遠回しに言われているようだけど、全くその通りだと思ってしまっている自分がいるのも確かなのよね。

 何時から私達は、人類の敵になったのかしら?

 

 

 

「オイオイ…俺は、100機も引き連れて指揮なんてしたこと無いぞ」

 

「巌谷さんの機体は、指揮官用の機体になります。専用の部隊運用AIが補助しますので心配はいりません。機体そのものの戦闘力は他の機体とそう変わりませんが増槽が設けてありますので継戦能力は3割増しです。今回分かりやすくする為に専用色で色分けさせていただきました。香月博士の小隊は白。巌谷さんの部隊は赤です」

 

 確かに第1デッキに駐機している巌谷機の機体色は銀色に真紅の縁取りがされており、その他には銀色に赤のサイドラインが入った物がズラリと100機並んでおり、ダークグリーンの機体が50機ほど動き回っている。

 第3デッキに立つ5機のうち2機は白い機体色に水色の縁取り、随伴の3機は白地に水色のサイドラインが施されていた。

 ホバークラフトは、真っ白に輝く船体に水色のワンポイントでオリーブの枝が描かれている。

 国連の意匠は、水色に白抜きのオリーブの枝で北極を中心にした世界地図であるが色調が逆になっている。

 

「俺は、取り敢えず突っ込めば良いんだな?」

 

「巌谷さんは、前線を押し上げたら部隊に指示だけ出してお偉いさんに接触して下さい。こちらで後は引き継ぎます。話がついたら合図を送りますので一度引き上げてくださいね」

 

「殲滅してしまっても良いんだろう?」

 

「かまいませんよ。データ上は、1機辺り250匹倒せば良いわけですから十分に可能です」

 

「よし、挑戦してみる意義はあるか……(みなぎ)ってきたぞ~」

 

 いかにも『男って馬鹿よね』って言っている様な呆れた目を向けながら、香月博士が呟いた。

 さっき固まっていたのは一瞬だけだったようだ。

 

「そんな馬鹿な事言ってないで早く頭に入れておく事をまとめて起きなさい。時間が無いわよ。この船、見かけの割に足が速いわ」

 

 呟きながらもその手は止まらない。

 今自分が必要だと思う膨大な情報を出力し確認し整理して端末に流し込んでゆく。

 見事な手際だが……無駄にならないだろうか。

 

「…博士、香月博士。情報端末は常時こちらと繋がっていますから、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。何時でも好きなだけ閲覧できますから……それよりも、皆さんにはこれをお渡ししておきます」

 

 何時の間にか後ろにひかえていたメイドさんが、テーブルの上に銀色のアタッシュケースを乗せた。

 中から現れたのはブレスレット、ザッと見たところで100人分ほどはあるだろうか。

 

「これは、皆さんが身に付けていらっしゃる物と同じブレスレットです。ワルキューレなど我々の支給品を使用する場合の身分証明書代わりとなります。当然、船や施設の使用にも必要となります。それぞれ100個ずつ用意しましたので御3方のうち誰かが承認してアクティベートして下さい。ああ、使い回しは出来ませんので御注意下さい。間違っても他人の物を身に着ける様な事はなさらない様に御願いします。最初には警告されカウントが始まりますがそれを無視すると、それはもう言葉では言えないような恥ずかしい事が起きますので……試すのもお勧めはしません」

 

「ふ~ん、恥ずかしい事っていったいどんな事が起きるのよ?」

 

「ブレスレットに、身ぐるみ剥がされます。そして、そのブレスレットはロックが掛かって30日間は外れません。この状態になったブレスレットを強制解除出来るのは、うちのメンバーだけです。勝手に外れるまでの間は、承認した方にも外せませんので素っ裸で生活する事になります。何かで体を隠そうとしても被ったり着たと認識された瞬間にブレスレットが分解吸収してしまいます。腕を切り落とす覚悟が必要になりますよ、ちなみにこの懲罰期間は最短が30日ですが無駄な抵抗を続けるとどんどん長くなってゆきます」

 

「「「不憫な……」それ、面白いわね」いい気味です」

 

 三者三様の笑みを浮かべてアタッシュケースを閉める3人だった。

 

「皆さんが必要だと思う人物にお渡し下さい。一つだけ忠告をしておきますが、それを身に着けるという事は我々の庇護下に入ると言うことに他なりません。神の守護とも言える機能を使えるようになると共にその行動を常に見られているという事も認識する必要があります。既にその身で経験されているとは思いますが、フィッティング後に一度でも外そうと思った事は無いと思います。既に体の一部と言っても間違いではありません」

 

「これ、外せないってこと?」

 

「同格以上の人物の手によってのみ強制的に外す事が可能です。皆さんのブレスレットは、ここにいる者か御三方それぞれの手による場合以外では外せません。多分自分でも外せませんのでどうしても外したい場合はこちらに御一報下さい、私達ならリモートで解除する事も出来ます。そして、他者が強制的にそれを実行しようとすると承認者のパートナーとなるワルキューレが阻止に動きます。さらにその情報は、全ブレスレット装着者へ通知されます」

 

「私達全てを敵に回すって事ね……そして神を」

 

「はい、相手が親兄弟だろうが国家主席だろうが例外はありません。神敵(・・)認定される事になりますのでBETAと同じかそれ以上のレベルでこの世から排除されると思って下さい。一応ピンポイントで神罰を落としますので族滅まで徹底はしませんがトップ責任は取って頂きます」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 10:30。淡路島が見えてきた。

 

「発艦用意、後部開口部から飛び出して下さい」

 

『スモールベースあらためリトル・ボーイ発進準備よし、世話になったわね』

 

「気をつけて帰って下さい。心配無いとは思いますがお仲間に勘違いされると撃たれますよ」

 

『ふんっ、その時は沈めてやるわよ『お止め下さい、お願いですから』……いや~ね、本気にしないでよ、言葉の綾でしょ』

 

「香月博士ならヤりかねないと思いますが、大丈夫でしょう。国連方面との交渉はお任せしますよ」

 

『了解よ。私に任せときなさい。念を押すけど補給物資は忘れないでね』

 

「大丈夫です。チャンと香月博士とピアティフ中尉の分は、鼻薬分とは別にしておくりますよ」

 

『発艦するわよ、リトルボーイ出航』『発進します』

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

 フォートレスがそのスピードを落としてゆっくり着水すると、第3デッキに繋がる後部搬出口が開き、純白のホバークラフトが飛び出した。

 着水と共に猛烈な勢いで水上をUターンしてフォートレスを追い越すように駆け抜ける。

 78mの船体を感じさせない軽やかな挙動で、スピードを最大速度200kmに上げてゆく。

 光学迷彩やステルスなど関係無いと言わんばかりに、盛大に水飛沫を巻き上げて進む。

 リトル・ボーイ艦橋では。

 

 

副長(ピアティフ)、大阪湾に全速で向かって。リトルボーイ、国連軍の敵味方識別ビーコンA01K0を発信してくれるかしら、ついでに国連艦隊司令にチャンネルを繋いで頂戴な……」

 

[了解しました。国連軍・戦時敵味方識別ビーコンA01K0を発信します。シールド起動と同時に光学迷彩及びステルスを解除します。シールド正常に展開完了。全ステルス解除しました]

 

「10分後に艦隊の射程範囲内に突入します。目標、国連艦隊旗艦」

 

[国連艦隊との通信回線を開きます。ボイスオンリーです]

 

「仕方ないわよ、映像通信なんて実用化されてないんだから……」

 

『こちら国連防衛艦隊、旗艦PC。そちらの部隊名、官位、姓名をお願いします。続けてご要件を……』

 

「こちらは、国連軍特殊任務部隊A01の司令を務める香月夕呼大佐待遇です。艦隊司令に緊急連絡があります。お繋ぎ下さい」

 

『識別ビーコンを確認しました、香月大佐と確認。司令にお繋ぎします、少々お待ち下さい』

 

『艦隊司令のパウル・ラダビノッドだ。香月博士、久しぶりじゃないか、今回はどうしたんだね』

 

「もうご存知かもしれませんが、今朝方帝国防衛軍の九州方面部隊が壊滅しました。九州地方のBETAが本州に向けて移動を開始、同時に大陸から日本海側にBETAの増援20万が移動を開始しました」

『何だって、帝国からはまだそんな情報は来ていないが……』

「そうですか、では我々のほうが情報が早かったようですね。現在、壇ノ浦および土井ヶ浜から上陸したBETAは、合流して本州を東進しており、本日1600には、姫路の防衛戦を突破すると予想されます。防衛艦隊を小豆島側に移動させる事を進言いたします」

 

『しかし、それでは四国・淡路島方面からの侵攻に対応できなくなるが……』

 

「それは、心配いりません。四国・淡路島方面のBETAは既に駆逐されております。現在、新勢力によって佐田岬を起点に防衛線が機能しており四国方面からの侵攻は問題ありません」

 

『……その新勢力というのは?』

 

「それについては、合流後に詳しくご説明いたします。こちらは白い大型ホバークラフト、艦名リトル・ボーイです」

 

『了解した、合流を待って居るよ(本艦隊に高速で近づく物体を発見しました。速い! 時速200kmほどで接近中……)こちらでも君達を感知したようだ』

 

「では、後ほど……」

 

 通信は切れた。

 

「フゥ~、本番はこれからね。旗艦に横付けしたらピアティフは付いてきて。リトル・ボーイは、巡航速度で後ろを付いてきて頂戴」

 

[「了解!」]

 

 

 

 ◆

 

 

 

 後部デッキから飛び出した白いホバークラフトは、盛大に水飛沫を上げながらフォートレスを追い越して大阪湾に突進していった。

 

『ヒュ~、かっ飛んでいっちまったな。それじゃ今度は、俺様の番だな……』

 

 巌谷さんは、既にワルキューレのコックピットに乗り込み準備万端のようである。

 随伴するワルキューレ各機のジェネレーターにも火が入り、何時でも飛び立てるように発進を待っていた。

 

「フォートレスは、このまま進路を四国沿いに取り、鳴門海峡を抜けて岡山に向かいます。およそ30分後に小豆島の西側に停泊する予定ですのでそれから部隊の発進を開始して下さい。姫路側の国連防衛艦隊とは小豆島を挟んで西側に陣取る事にしましたので宜しくお願いします」

 

『了解だ。今BETAはどの辺だい?』

 

「そちらのモニターに出します。まず先頭集団は2つに分かれて進行中です。最大数を占める日本海側15万の先頭は、現在大田を通過中です。出来れば出雲の手前で食い止めたいところですね。中央集団10万は、広島で二手に分かれて三次(みよし)三原(みはら)にそれぞれ4万と7万が東進しています。巌谷さんは傘下の100機を連れて日本海側の集団を受け持って下さい。フォートレスは三原方面の7万を受け持ちます。中央山岳地帯を抜ける4万は、最後で問題ないでしょう。姫路に帝国軍が敷く防衛線に到達する前、津山辺りで追いつければ十分に迎撃は間に合うと思います」

 

『了解だ。しかし、ワルキューレが可変機だとは思わなかったよ。ここまで見事に鳥形に変形するとはな……推定で構わないんだが何キロ出るんだ?』

 

「バードフォームなら大気圏低層でも楽にマッハ5は出せます。慣性制御と斥力場の最大運用で事実上はマッハ12といったところでしょうか」

 

『……地球を飛び出さないか?』

 

「一気に飛び出すならマッハ25は欲しいところですが、成層圏まで上がってからゆっくりとスイングバイで重力圏を飛び出す方法なら可能ですよ。普通はそんなに時間をかけていたら燃料も空気も持ちませんがワルキューレなら問題ありません」

 

『暇が出来たらやってみたいもんだな。兎に角何の気兼ねもなく空を飛ぶのは久しぶりだが、ほんとに大丈夫なんだな?』

 

「ええ、ワルキューレのバードフォーム時は、機体を覆うように常時斥力場シールドが展開されています。機体の鏡面装甲との併用で重光線級のレーザーも完全に無力化しますので大船に乗った気でいて下さい。逆にレーザーヤークトを効率よく行う意味で態と撃たせて下さい。レーザーは真っ直ぐにしか進みませんからその射線をもとにこちらからの迎撃が楽になります。ビームバルカンの一連射で終わりますよ」

 

『態と撃たれるというのも度胸がいる仕事だな。まあ、やってみるさ』

 

 ワルキューレは、胸元のガードが迫り上がり伸ばされた首をガード、頭部は90度上を向いている。

 この場合は、前面を見る様に跳ね上がっていると言ったほうが良いだろう。

 腕を胸の前に折り畳み握った左右の拳を合わせ、首元を守るような姿勢になっている。

 そして両拳のナックルガードに取り付けられた大型の球体が前輪の役目を果たすようである。

 腰の前面に迫り出してきたサイドスカートに、畳まれた腕の肘をホールドする様に収まっており、下面に向けられたサイドスカートの両端にも球体が現れ、それぞれが左右の後輪となって機体を支えていた。

 後ろに揃えて伸ばされた足は、両膝から背中側に斜めに曲げることで尾翼となっている。

 背中の翼をこれでもかと大きく広げたシルエットは、まるでツバメの様であった。

 ワルキューレは、機体各所に配置された重力球(グラビティーボール)と斥力場発生装置によって空を飛ぶ。

 フォームチェンジをすることで、それぞれ最適な運用が可能な配置へとシステムが再配置されるのである。

 

「もちろん移動速度も上がりますが、省エネで航続距離が伸ばせるのが一番のメリットですね。そろそろ予定の停泊地に到着します。順次発艦を始めて下さい」

 

『了解。巌谷榮二、スワローリーダー出るぞ』

 

 フォートレスの前面、上甲板の下に大きく口を開けた第1デッキから矢の様に打ち出された巌谷機だった。

 音もなく、しかし風を巻きおこして上空に駆け上ってゆく赤い機体。

 後を追うように風切り音だけをのこして次々と飛び立ってゆくワルキューレ達。

 スワローリーダーを頂点に各フォーマンセル、4機で1小隊として25小隊で100機。

 4小隊で1中隊16機とすると6中隊96機+1小隊4機。

 4中隊64機で大隊とするとかなりの規模である。

 出撃予定の機体が全て発艦した。

 

『第一小隊は俺の護衛、残りは各中隊ごとに編隊を組め。ここからはスピードが勝負だ。俺に付いて来い!』

 

 上空で旋回していた中から濃い赤の機体が猛然と飛び出してゆく。

 その後を4機が囲むように追い始めると、更にその後を6つのひし形が付いていった。

 北西の空に向けてアッという間に見えなくなって行ったのだった。

 

 

 

「気をつけて……。フー、それじゃこっちも始めるとしようか」

 

[肯定。割当としては7万ですか、小手調べには丁度良い数です]

 

「やっとお客さんが帰ってくれたね。息が詰まってたんだよね、実は」

 

「そうじゃのぅ、まだ我々は姿を見せる訳にも行かぬからな、仕方なかろう」

 

「下手に異星人がシャシャリ出ると、BETAの件までこっちのせいにされそうですからね」

 

「そうそう」

 

「やっぱり、直接の接触は最小限にしとこうね」

 

 結局メンバーには、全然信用されていない地球人類だった。

 

 

 

 

 

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