その日、何も存在しないはずの太平洋上に幻のように島が出来上がり、人知れず
その瞬間を直視でもしていれば気がついた者も居たかもしれない。
しかし、誰もその僅かな変化に気がつく事はなかった。
それはアメリカ合衆国のスパイ衛星の目をも
俺の
密かに地球に降下して既に半日が経った。
準備が整ったのだろう、タイゲタの指示で資源回収艦が発進してゆく。
[
『リバイアサン、了解。I have control!』
落ち着いた女性の声で答えたのは、リバイアサンの管制AIである。
[続いて3番艦ポセイドン、発進、どうぞ!]
『ポセイドン、出るぞ!』
そしてこちらは、ドスの効いた男性の声であった。
どちらも自立行動を許された高性能AIが搭載されておりタイゲタの指揮下に置かれていた。
ネームシップの1番艦の
そして、
今回こちらの地球で使用される同型艦のリヴァイアサンとポセイドンだが、少しだけ手が入れられている。
この2隻、特に浄化能力を強化してあり、優先的に海中で動きの鈍いBETAを狩る為の機能を付加してある。
そして、この地球の海はとても酷い状態だ。
予想よりもずっと重金属による汚染が進んでしまっている。
病んだ地球の治療は早い方が良い。
実は俺、人類が地球を食い荒らす害虫だと思っていた時期もあったりしました。
しかし、BETAと比べたら可愛いもんです。
BETAからは人類も資源となっている現状、見て見ぬふりも出来ませんよね。
海の生物はかなりの種類が死滅してしまっているようである。
このままでは遠からず重金属汚染によって生物の住めない死の海になる事だろう。
アメリカ合衆国が所有する合成タンパクのプラントは、洋上に存在すると情報にはあるのだが、既に無視できない影響が出てきているはずである。
ちょっと小耳に挟んだのだが、そのプラントの合成タンパクを使った食品は酷くクソ不味いらしい。
ここまで海洋汚染が酷いのだから洋上にあるプラントなら環境の影響がその生産物に出ていないはずは無いんだよ。
でも今ならまだ間に合う、俺達なら何とかする方法を持っている。
まず海中の重金属汚染を取り除き、同時に現在生き残っている動植物の保護と浄化が必要だ。
場合によっては、生き残っていた生物達の遺伝子治療もしないと元の環境には戻らないだろう。
現状を調べたところでは、俺達の居た地球の海性生物との差異はほとんど無いようなので、俺達なら何とか修復をすることが出来るだろうと思っている。
何と言っても伊達に地球脱出に向けて地球の遺伝子ライブラリーの集積をしていた訳ではないのですよ、ハハハッ。
プレアデスアークⅢの司令室に聖の声が響き渡る。
『早速、リバイアサンとポセイドンから資源が転送されて来たよ。順次備蓄槽に送るからね』
銀河がそれに応じた。
『了解、これよりフロート部の生成を開始します。第1ロット10平方Km分が10分後に放出を開始します』
[肯定。此方では中枢制御ユニットの生成を開始します。完成予定は今から6時間後です]
ハコがメガフロート中枢の制作に入るようだ。
銀河もそれに応える。
『了解です。最終ロットは6時間後には全工程の想定面積10000平方Kmの放出を完了するタイムラインで調整します』
続いてアルキオネの声が響いた。
[こちら工作班。工房ドックユニット、食料プラント、火器管制ユニット、居住ブロック、医療ユニットをそれぞれ同時進行で生成します]
被せる様に双葉と裕美からも声が届く。
『情報処理ブロックは任せて~』『こっちも制作に入りま~す』
その後も頻繁に進捗情報が交わされた。
アッという間に時間が過ぎていった。
そして予定通り6時間後、銀河がメガフロートの最後の仕上げを声高らかに宣言した。
『全フロートの射出と連結完了。動力ラインの接続と同時に保護色による迷彩からアクティブステルスに切り替えます』
[肯定。動力接続異常なし、アクティブステルスは正常に作動中。メガフロート完成しました』
メガフロートが完成するまでの間、結局何もさせてもらえなかった俺である。
この暇な間が耐えられず、密かに土星の反物質生成ステーションの方をリモートで手伝っていたのは……バレてるんだろうな。
[肯定。あちらの進捗も逐一こちらで把握済みです。あちらの完成まではおよそ10日ほど必要でしょう。私の本体が現在オーバーホール中で稼働しておりませんので仕方がありません]
ハコの言葉にある通りこちらに跳ばされて来て以来、本体のオーバーホールと帰還方法の探索に全力を上げているハコのメインコアは、今回の茶番にはほとんど参戦していない。片手間に俺の世話と総合的な情報管制をしているだけである。この次元でのすべての情報を統括管理して元の宇宙に帰るためにその能力の殆どのウエイトを振っているのである。それでもその有り余るリソースで俺達のフォローをしてくれているのだった。
「
[肯定。銀河中に散っている船が順次帰って来ています。整備と武装の見直しを行っておりますので艦隊としての体裁が整い次第一気に畳み掛ける予定です。位相差ステルスに特化したスパイポッドを送り込んで送り込んでおりますので『頭脳級』と呼ばれている司令級BETAの存在確認も済んでおります。中枢部にテレポートミサイルにて光子魚雷の一発でも打ち込んでやれば終わるんですけどね……どうしますか?]
「ウ~ン、少し様子を見ようか……簡単過ぎるのも面白くないし、みんなこの過程を楽しんでいるからね」
[肯定。マスターの仰せのままに……でも準備だけはさせて置きます。元の次元に帰れる目処が立つまでの暇つぶしという名の目眩ましですね。目に見えないストレスは確実に皆様の精神を蝕んでいますよ]
「ハコも気がついていたか……みんな明るく振る舞ってはいるけど元の次元に帰れないんじゃないかという漠然とした不安は確実に銀河達の負担となるはずだ。シャシやラクシュ・リリアナ辺りは俺のところに嫁に来た時点で割り切っているようだけどね」
[肯定。それは仕方がない事でしょう。幸いな事にまだ希望はあります。ここにはマスターと私がいるんですから、次元の壁ぐらいサクッと超えて見せましょう]
「うんまぁそれには、『跳ぶ先が特定できていれば』って言う
[否定。何を弱気な事をおっしゃっているのですか。やがては、時間の壁をも越えようという方がそんな事ではこの先何も成し遂げられませんよ。片手間にこの次元宇宙で銀河制覇の予行演習でもしてみては如何ですか? 現在の調査結果では敵対勢力になりそうな者もおりませんから時間さえ掛ければ然程難しくはないかと思われますが……]
「だから! 面倒臭いのはやめようね。せいぜい向こうに帰るときには、あの
[肯定。邪神を滅ぼせるだけの戦力ですね……分かりました。対精神生命体用の兵器の開発に入ります]
これは、何か変な燃料投下しちゃったかな……。
「程々にお願いするね」
[肯定。お任せください]
こうして俺たちの地球上での拠点を完成させ行動をおこすのだった。
既にBETAは、日本に上陸してしまった。
あまり悠長に構えてもいられない状況である。
「準備が整うまで少し時間稼ぎしたいんだけど何かいいアイディアはないかな?」
「昴兄ちゃん、BETAを
「双葉。その方法は?」
「完全武装の状態で
「その手があるか……ハコ、俺達の完全武装状態での安全係数はどれくらいになるかな?」
[肯定。100%です。我々に傷一つ付けることは出来ません。
「気色悪いから
[了解しました。我々の戦闘スーツと同じだけの防御力を持たせたドローンということで宜しいですね。少しもったいない気もしますが予備の戦闘用ハードスーツをリモートで運用できるように設定します。50体も用意すれば当面は間に合うでしょう]
「うん、そんな感じで時間稼ぎをお願い」
[分かりました。準備が出来次第BETAの遅延行動に入ります。メローペ、手伝いなさい。あなたの得意分野でしょ]
[エェ~、キショいですよ。彼奴等に集られたらどうすんですかー]
[そのまま磨り潰してもいいから、ゴキブリ潰す位の気持ちで対処しなさい]
[ハーイ……]
この後、メローペが操る50体のドール化した戦闘用ハードスーツは、人知れず日本に上陸し、BETAの間引きを行うのだった。
この時にドールの振り回していた装備が巨大なハエ叩きやハリセンだった。
この時、直に目撃した民間人からの聞き取り調査により判明した事実を帝国軍と政府は鵜呑みにはしなかった。
鎧兜を着た人間がBETAを撃退していたという目撃証言もパニック時の幻覚かなにかだろう処理されたのだった。