伊隅みちるは、操舵室での通信を聞いた後直ぐに格納庫へいそいでいた。
白浜基地に司令が戻ってきてから驚くことばかりが起きている。
兎に角今は、自ら情報収集に動く事が寛容だと認識している。
先程の立体映像通信もそうだが、如何に現在の軍事科学が進んでいるからと言って、先程のような事を実現するにはまだまだ何十年も掛かるだろう事ぐらいは、自分にも分かるつもりだ。
最初に現れた時に空中に浮いていたこの船もそうだし、先程格納庫で見せられた戦術機も例外ではない。
あれが今まで見てきた新兵器や新装備とはまったく別のモノで在ることぐらいは分かる。
今までの常識が根底から変わろうとしているような気がする。
部隊全員の命を預かっている身としては、何が正解なのかこの目と耳で確かめなければならない。
それにはまず自分から動かなければならないだろうと決意を新たにするのだった。
部下のもとに走り出したいのをこらえ、逆にゆっくりとした歩調でみんなの下へ向かう伊隅みちるだった。
「傾注! これより我々は、司令と協力関係にある私設組織の艦艇に合流する事になる。各隊員はそれまではこのまま待機。通信士官2名は、私に付いて来い」
命令を聞いた通信関係者6名がいきなりジャンケンを始めやがった。
一瞬目眩がしたが、ここは切り替える事にした。
「説明が面倒だ、6人全員着いてこい。後は残って指示を待て。合流までそんなに時間は無いからな……寝るなよ。寝たら営巣行きだと思え」
6名を引き連れて操舵室に戻る途中でうち2名が昏倒し倒れた。
何事かと他の隊員が駆け寄ったところブレスレットに赤いシグナルが表示されている。
コイツラは、内通者だ。
先ほど司令から聞かされた話を思い出す。
『伊隅。先方と合流する前に潜り込んでるスパイを選別してあぶり出すから後はお願いね。取り敢えず眠らせるからドロイドに頼んで営巣にでも放り込んでおいて頂戴……』
『我が部隊にスパイなど
『間違いなく居るでしょうね。まぁ~どこの紐付きかはハッキリしないにしても全くの
『それは確かに……それで選別ですか』
『ええ、そうよ。作戦中は、取り敢えず眠らせておけば良いわ。始末は、後で着ける事にしましょう』
『了解しました』
……その結果がこれである。
現在、格納庫でも数人が居眠りを始めており、人知れず寄ってきたドロイドによって空き部屋のベッドに運ばれている頃だろう。
こちらでも通路の先からストレッチャーを引いたドロイドが現れていた。
「その2人は、あのロボットに任せて私達は
「隊長。彼等は、ほんとうに放って置いてもよろしいのですか?」
「ああっ。彼奴等は、ロボットに任せておけば心配ない。お前らは、このまま付いて来い」
伊隅みちるは、不安な顔の残った4名を引き連れて操舵室に向かうのだった。
◆
格納庫に残された者達は、どうしていたのか?
大人しくジッとしているような連中では無かった!と、だけお伝えしておこう。
「隊長が言ってたけど合流って事は、帝国軍や白浜基地の国連軍とは別の戦力が存在するってことよね。米軍は逃げ出したって言うし、司令のお知り合いってどんだけヨ」
「謎の多い人物だからね、あまり詮索しないほうが良いんじゃないかしら……」
そんな話をしていると、今まで掃除などで動き回っていたロボットが数台のストレッチャーを引いて現われた。
あまり気にしていなかったが、壁にもたれたり床に寝転んで寝ている隊員が数名散見し、ストレッチャーに載せられて運ばれてゆくのだった。
「全く、隊長に寝るなって言われたのにね、しかし、寝たまんま何処に運ばれるのかしら? 隊長の言った通り営巣行き?」
……いえ、独房です。似たような物ですが……
「ガッチリと抗束帯で固定されてたけど、あれって落ちない様にだよね?」
「そうだと思うけど……この船って全然揺れないんだよね。アレって必要?」
「大事にされてるってことでしょ」
……目覚めた時に暴れられない為の用心です。
すると船外に目を向けていた者達が驚きの声を上げた。
船外モニターの明るさからして海上に浮上したようだ。
そして眼前には、予想もできない程の巨大な艦船が存在したのだった。
「どうしたの?」
「何か、凄い物が見えるらしいよ」
そこに待機していた者達が全員、最寄りの船外モニターのスイッチを入れた。
そして目に映るのは動く要塞だった。
「……何、あれ……アレに向かってるの? 私達……」
「いったい何m在るんだ? まるで島が動いてるみたいだ」
「エッ、まさか
「おいおい、巫山戯んなよ。このままじゃぶつかるぞ!」
船はやや減速したが、それでも早すぎるスピードを出していた。
今目の前で動いているゲートの開口部までの高さはおよそ30mはあるだろう。
普通の船なら接舷、または停船後に大型クレーンで搬入作業をしない限り無理な高低差である。
見るからに巨大な動く建造物に、一切
直前数十mで空中に躍り出ると無理だと思われたゲート開口部にあっさりと吸い込まれてしまうのだった。
「入っちゃったね」
「入れちゃったよ、あっさりと……スゴイ!」
この後、もっと驚くことになるのだった。
◆
操舵室に入った5人は早速、通信及び情報解析に入るのだった。
各種機器の操作には、それぞれにリトル・ボーイが張り付きレクチャーすることでアッと言う間に操作を覚えていった。
伊隅の座る情報士官用のモニターには、先程から拘束され独房に運ばれた10名のプロフィールとバックに付く組織、ないし個人の情報がピックアップされていたのだった。
いったいどこから
「どうやって?」
「これから合うのは、自称神様だからね。これぐらいは出来て当たり前らしいわよ」
思わず口から出た言葉に答えを返す人物が直ぐ後ろの席に存在していたのだった。
「取り敢えず人質を取られてるところには、保護の手配しとかないとね。あとは隔離かな」
「大丈夫なのですか?」
「ボーイ。どうなの?」
[現在、関係者及び候補者の潜在的脅威の排除をアースガードに伝達いたしました。速やかに処理するとのことです。……エー『面倒臭いからペンタゴンとCIAも消していいか?』と言って来ていますがどう返答しますか?]
「それは、勘弁して。
[了解しました、そうお伝えします]
リトル・ボーイとのやり取りから伊隅の方に顔を向けた香月司令から言葉が飛んでくる。
「トッ、そんな訳で伊隅も聞いてたと思うんだけど、我が隊にも色んなところの紐付きが複数潜り込んでたって訳よ」
「・・・」
「これも
それまで操縦席でこれまでのやり取りを静観していたピアティフ中尉が急に立ち上がって呟いた。
「司令。恥ずかしながら私も、今は無き
「あんたが
「ありがとうございます。司令」
頭を下げ席に戻るピアティフ中尉。
「それより問題は、こいつかな……」
中尉と入れ替わるように操舵室中央のホロモニターに通信士官の一人が浮かび上がって、同時に表のプロフィールと裏のプロフィールが表示された。
それは、先ほど昏倒してドロイドに運ばれていった士官の一人だった。
[まさか恭順派のスパイまで紛れ込んでるとは予想外でしたね。2重スパイって事でしょうか?]
リトル・ボーイのホログラフが首に縄をつけて縛り首にしようとしている……映像でだが……。
「狂信者は、下手な説得も通用しないからどうしようもないのよね。迷惑だから永遠に眠らせといてよ」
[了解しました。炭素凍結による
黒いブロックを蹴り飛ばすリトル・ボーイ。
ブロックには人間が埋め込まれており、顔のレリーフの部分は件の人物だった。
「それってメガフロートの格納庫の隅に転がってたあの黒いブロックよね。あれって元は人だったんだ」
[これまで絡んできた
「どういう技術よ、それ」
[最初は、広大な宇宙を大人数で渡る場合の長い期間の対人トラブルや摩擦、生活するうえで必要なエネルギーリソースなどをカットすることが前提でした。生命活動そのものを凍結していますからある意味死んでいるのと同じですがあの状態なら貨物として扱えます。宇宙では水や空気もタダではありませんし、余計な人間などの面倒を見てやるリソースは存在しません。もしも生きて行けない環境に放り出されても暫くの間なら傷もつきませんし安全とも言えます。それに、他にも良いところもあるのですよ。後遺症も無くほぼ半永久的に眠りにつくことができるこの技術を活用することで、その期間加齢も有りませんし当然食事も介護も必要が無くなります。マスター達には事実上治せない病は存在しませんがそれでも緊急を要する場合や処置に準備が必要なもの等は同じ様に凍結処理される場合があります。これは、治療を開始するまでの待機期間中進行を遅らせたり苦痛を感じなくさせるという意味合いも含まれますので、何事も考えようではないかと存じます。必要なら直ぐに蘇生出来ますが、必要が無くなっても転換炉の燃料ぐらいにはなりますからね]
「ふむっ、そっち関係の技術な訳ね。納得したわ」
「納得するの、早くないですか? まぁ、言ってることは何となく分かりますけど……」
話の流れに思わず突っ込んでしまったが、私は悪くないと思いたい。
「もうすぐ合流する船は、大きすぎて
「これまでで、もう一杯一杯なんですが……まだ何かあるんですか?」
気のせいか胃のあたりがシクシクと痛みだしている。
「こんなのは序の口よ、ワクワクするでしょ」
輝くような笑顔でそう呟く香月司令がそこには存在した。
私の胃は、何時まで保つのだろうか……。