メンテナンスに入ったリトルボーイから下船したのは、A-01の48名だけではなかった。
着艦するとすぐに香月夕呼、イリーナ・ピアティフ、伊隅みちるの3名は、フォートレスの司令室へと向かっていた。
今朝、ミーティングを行った部屋に向かっていた。
目的の場所に到着すると通路の先は行き止まりで何もなかったが、3人が行き止まりの壁の前まで来ると豪華な門が浮かび上がり左右にスライドして開くのだった。
部屋の中を見ると今朝方とは、テーブルの大きさや椅子の並びに数が違っている。
アルファーとメイド姿のハコと名乗る奥方、そして巌谷少佐の姿がある。
テーブルには、他に初見の顔ぶれが8名ほど増えていた。
伊隅みちるは、ここまで二人の後を黙ってついてきていたが、見るからにその規模や設備システムの未来感にもう空いた口が塞がらない様子だった。
そんな司令室で巌谷少佐は一人、大きな体を小さくしてテーブルの端の席で固まっていたのだった。
これは、いったいどういう状況なのだろう。
入口に立ち止まっているとハコさんが近づいてきて、巨大なテーブルの空いている席を勧められた。
[まずは、席におつきください。直ぐにお飲み物を用意いたします]
何時の間に現れたのか、数名のメイドさんが銘々にコーヒーを入れてくれる。
一分の隙も無い身のこなしと 芳醇なコーヒーの香り、随分と良い豆を使ってるようね。
[では、皆さまお揃いになりましたのでミーティングを始めたいと存じます。まず我ら
場を支配していたメイドのハコさんがアルファーの後ろに下がった。
「もうそろそろコードネームで遣り取りするのにも疲れてきましたし、この辺でちゃんと名乗ろうと思います」
そう言いながらそれまで顔の上半分を隠していた仮面に手をかけると手品の様に素顔が露わになった。
「私は、此処とは違う異世界の地球から来た日本人、
一人目から、わけの分からない情報量の多すぎる発言が飛び出した、と感じたのは香月夕呼だけでは無かったようだ。
他の3名もアルファーが何を言われているのか分からずポカンとしたアホ面をさらしていた。
[少々ご理解に苦しんでいるようですので私から簡単に補足させていただきます]
まず
・我らアスガルドは、別の世界から迷い込んだ
・元の世界では銀河系の防衛を一手に請け負っていた勢力であるという事
・ウンサンギガ一族とは、およそ50万年に渡って太陽系で技術を蓄積した古き匠の一族である事
・一族の主星はすでに無く、地球に移住した子孫が日本人として生き残っていた事
・異世界地球の日本生まれのため日本人を名乗っている事
・一族の現頭首は49代目であり、一族で唯一
・こちらの世界には、ウンサンギガと同種の種族の痕跡は一切確認できなかった事
・時空神ソトとは、異世界の銀河系を支配管理する大神の事
・こちらの宇宙の神には、未だ接触できていない事
[ここまでは宜しいでしょうか?]
香月夕呼が手を上げている。
[はい、香月様]
「どうしてそんなお偉い人がこっちの宇宙にいるのかしら?」
[お答えしましょう。われらは
「ハネムーンですって?」
[肯定。ハネムーンです。私達、実は新婚なのです。まだ式を上げて地球時間で40日程です。そして、私を含め貴方方の前におります8名が空牙皇帝の后達です]
ここで初見のメンバー8名は、誇らしげな顔やにこやかな顔、ふてぶてしい顔をしていた。
一方創造神で皇帝を名乗った昴は、一人気恥ずかしそうに苦笑いをもらしていた。
先に巌谷が紹介された内容が繰り返され、後から合流した3名はその内容に目を白黒させるのだった。
そして、これはBETA以上にアウトな案件なのでは無いだろうかと内心及び腰で質問した勇者が居たのだった。
手を上げている人物を指してハコがどうぞと発言を促した。
「発言のお許しをいただきありがとうございます。伊隅みちるともうします。お聞きしたいのですが、皆様のお立場上こちらの世界に干渉なさっても宜しいのですか?」
「問題なかろう」「問題ないわね」「うん、問題ない」「多分大丈夫」「良いんじゃない?」「責任放棄してるのが悪い」「主様の未心のままに」「掃除するのに何の問題があるのだ?」
[我等の銀河なら、それが誰であろうと管理不行き届きで即更迭される案件です。何を言って来たところで言い訳にもなりませんね]
「大体こういう事するのは、邪神の一派なんだよね、困ったことに。本人達は、刺激を与えて進化を促してるつもりなんだろうけど、結果の割に被害が大きすぎるのさ。普通なら、敵対勢力なりが対処して尻拭いを捺せられるんだけどこの宇宙には、そんな物見当たらないんだよね」
[肯定。更にはこの宇宙ですが時空間が閉じられて居ますので、何度も同じことを繰り返しているように見受けられます。今回が何度目かは分かりませんが、蠱毒法の一種なのでは無いかと・・・]
「あ~、全てが滅ぶまで繰り返して最後の生き残りを拾い上げるのか・・・随分と悪趣味だな」
[肯定。付き合わされる方の事は、一切考えていませんね]
「香月博士は、薄々感づいていたんじゃないかな? 何かがおかしいって」
「はい、僅かですが前回までの記憶を回復しておりますので・・・デジャブーや虚憶と言われるものが存在しますが私はこれを記録し解析したところ未来予知に近い結果が出ました。そうするとこれは、予知ではなく記憶であり時空間がループしているのでは無いかと推測できます。ただ、こんな事を学会や一般に発表しても狂人扱いされるだけですので秘匿して使える技術だけを小出しに利用しております」
「でも、それだと成功例だけを汲み上げるのは大変でしょう。多分数えられないくらいの失敗も繰り返してるだろうし、虚無感が凄いんじゃないかな」
「それでも、誰かがやらなければまた同じ滅亡が待っています。最初は、どうせ滅ぶんだ。無駄な事はするだけ時間とエネルギーの浪費にしかならないと諦めている時期もありました」
「ふ~ん、その様子だと諦めきれなかったんだね?」
「当然です。私達は、何のために生まれてきたのか・・・ただ滅ぶために生まれてきたのでは無いと思っています。ダメ元でもやれるだけやってみようと、頑張って・・・ううぅ・・・」
香月夕呼は、泣き出してしまった。
他の面々は、そんな博士を見て唖然としている。
「うん、気に入った! この巫山戯たループをぶち壊しましょうか」
「お人好しじゃのぅ」「旦那様らしいですわね」「昴ちゃんならそう言うよね」「お兄ちゃんらしいね」「相変わらず」「いつもの事ですね」「主様の未心のままに」「既定路線だな」
[肯定。暇つぶしには良さそうです。あの
それまで司令室とは名ばかりの、ただ広いだけのホールだったところがいきなり賑やかに動き出した。
リアルタイムなのだろう、世界各地のハイブや活動中のBETAの映像や数、侵攻予想や迎え撃つ各地の部隊内容などなど。
軍事機密になるだろう物なども数えられないほどの空間モニターに映し出された。
情報が表示されるに従い、やり取りされている通信内容や会話や付随するデータなどもその全てがモニターされているようだった。
「これは?」「うわぁ」「凄い」「・・・」
「さて、反撃と行きましょう。皆さん」