ここは、姫路最終防衛ライン、先日まで巌谷少佐が部隊を指揮していた最前線である。
情報によると九州で奮戦していた帝国陸軍九州方面防衛隊が昨夜全滅したらしい。
九州に留まっていたBETAは、再度本州に向けて進撃を開始したらしい。
幸いなことに、山陰から中国地方にかけて、民間人の避難は終了している。
しかし、これ以上BETAの蹂躙を許す訳にはゆかないのだ。
7月7日の九州・山陰地方から上陸したBETAの本州侵攻は、辛くも押し返すことが出来たが四国・中国地方はBETAの蹂躙を許す事となり2600万人以上の犠牲者を出している。
当初絶望的とされた民間人被害者は、3600万人以上と予想されていたがその後(ドールに依るBETAの足止め及び間引き活動の結果)続々と無事な避難民の列が続き、その結果被害者の数は2600万人に下方修正された。
しかし日本帝国は、わずか1週間で全人口の25%、4分の1を失った事になる。
この時点で抵抗を続ける九州の一部を除く四国・山陰・中国地方は、BETAの徘徊する領域となっていた。(四国は、すでにアスガルドに依って解放されていたが人類は、この事をまだ知らない)
そして7月末、九州で絶望的な抵抗を続けていた九州方面部隊全滅の報が流れた。
8月に入り再びBETAの活動が激化、本州に大規模な再上陸が予想されていた。
そんな状況下で8月11日の正午、姫路防衛線で巖谷少佐率いる防衛部隊が接触したのは、謎の大隊規模の戦術機部隊だった。
謎の部隊の指揮官は、自然保護団体アースガードが組織する
巖谷少佐は、その日の夜に帝国軍本部へ出頭しこれを報告したところ前線へは復帰せず、このまま後方への移動人事を告げられる事となり落ち込んでいるところに、白陵基地の魔女・香月夕呼が接触してきたのだった。
そして翌日、休暇を理由に隊を離れた巌谷少佐とそれを追った香月博士は、帝国情報省外務二課課長・鎧衣左近の監視下から霞のように消えるのだった。
そんな状況の中、BETAの大規模侵攻の兆しが8月13日未明に米軍よりもたらされた。
この1ヶ月の間に米軍は協定を破棄し日本帝国からの撤退を完了しており、再三にわたり
しかし、榊首相はこれを拒み続けている。
このままの状態を放置すれば米軍は、日本政府の意向を無視し強硬手段にでる可能性も示唆された。
8月13日1700時、最前線の愛媛防衛ライン。
防衛部隊は、BETAの大規模侵攻に備えて全軍が待機していた。
『あ~あっ、巌谷隊長、とうとう戻ってきませんでしたね。更迭されて後方に移動とは聞きましたけど・・・』
『
『色々と貰ったのが
『あれは、
『『『『うんうん』』』』
『こちらCP、私語は慎んでください。待機中とはいえ
『それにしても静かだよな』
『今朝から、BETAどころかアリの子一匹も見かけてないよな』
『お~いCP、そちらには何か情報は入ってないのか?』
『こちらCP。上からは何も言って来てませんね。進攻に備えて待機せよとしか指示は受けておりません』
『んっ、何だあれ?』
『どうした?』
『西北西の空に航空機らしき物体を視認。数は5つ』
『たしかに何か飛んでいるな。CP、そちらで何か確認できないか?』
『こちらCP。レーダーでは確認できない』
『全軍に戦闘準備。何時でも撃てるようにしろ!』
『・・ザッ・・ザザァ・・こち・ら・巌谷。現在休暇中の巌谷少佐だ。これからそこに降りるから撃つなよ~』
『えっ、隊長なんですか?』
『もう隊長じゃ無いが、昨日までお前等の隊長だった巌谷だ!』
『何で隊長が空飛んでるんですか? それも最前線ですよ』
茜色に染まる夕焼け空の中を5機のツバメに近い造形の航空機がこちらに真っ直ぐに降りてくる。
普通なら光線属種のレーザーに焼かれるのが当たり前なのだが、そんな事はどこ吹く風と全然気にする様子もない。
そのまま突っ込んでくるかと思いきや一度上空を100mほど通過した先で機首を上に向けてホバリングした。
そのまま空中で
その真赤な人型は、最近この部隊員が観た物に非常に酷似している戦術機だった。
『隊長、その機体はもしかして
『良いだろう? チョット借りてきたんだ』
『エッ、エェ~チョットマッテクダサイよ。何ですか? 借りてきたって・・・』
『CPより巌谷少佐へ。
『ああっ、巌谷了解。ソチラに出頭する。本部の場所は、前と一緒か?』
『変わってはおりません』
『お前等、また後でな~』
そう言葉を残して赤い戦術機とその護衛らしい銀色に赤いラインの4機は、フワリと地面から僅かに浮き上がって後方に移動してゆくのだった。
『噂をすれば影って言うけど・・・』
『隊長があの機体で乗り付けて来るとは想像も出来なかったな』
『ほんとほんと』
『何だこれ、こっちに突っ込んでくる部隊がいるぞ』
そんな前線部隊がザワついている横を 巌谷達の後を追う様に突っ込んでくる小隊が居た。
ちくさ高原で大艦隊に依る殲滅戦を監視していた帝国斯衛軍第16大隊の斥候部隊である。
彼らは、帝都方面に飛び去った航空機を追ってきたのだった。
通信ではなく外部スピーカーから怒鳴り声が響き渡った。
”緊急だ! 斯衛16B小隊、通るぞ~”
『まったく、なんてスピードなんだ。こっちも飛べなかったらまともに追いつけなかったところだぜ』
『制空権がこっちに有るって事が有り難いと思いますよ、ホントに』
『隊長、
『俺は、絶対敵にはしたくね~な。挨拶に寄ったところを見ると顔見知りなんじゃね~のか』
『誰だってあんなの見せつけられたら引きますって・・・』
『それにしても気持ち良さそうに飛びやがって・・・うらやましいぜ』
『俺達も今は飛んでますけどね、あんな風には飛べませんな。やっぱり気にしちゃいますし・・・』
『当たり前だ、馬鹿野郎! 気ぃ抜いたらアッと言う間に落とされるんだ。俺達は、もう習性になってんだよ』
『さっき見えましたけどレーザーが直前で曲がってましたよ。まるで機体を避けてるみたいに』
『当たらない様な仕掛けが有るんだろうさ、理解できんが』
『それ無敵じゃないですか。安心して飛べますよ』
『どこまで防げるかにも依るがな。しかし、観たところ無傷だよな』
後を追う斥候部隊内では、終始この様な会話がなされていた。
各隊員は、先程の衝撃的な目撃情報に脳みそが飽和して何か話していないと不安なのだろう。
会話することで情報を確認整理している状態とも受け取れた。
しかし、盗聴されていないとも限らない状況では、迂闊にも程がある。
後日、連帯責任で全員懲罰を食らうのだが御愁傷様としか言いようがない。
巌谷少佐率いるアスガルドのスワロー小隊が前線の補給所に降りるのを確認した斥候部隊は、その上空を追い越して帝国陸軍本部に急行するのだった。
今週は、ここまでです。