巌谷の眼の前には、将軍様と榊首相。
なるべく上の上官に報告したいと言ったのは、確かに俺だが・・・どうしてこうなった?
真夜中にも関わらず俺の眼の前には、ニコニコ顔の赤鬼さんと仏頂面で不機嫌そうな青鬼さんの二人がいるのだった。
なぜここに居るのか謎だが、溢れる威厳などそっちのけで、如何にもワクワクするような様子でこれから俺のする話しを早く聞きたがっている将軍様。
そして、『俺は、ほんとに疲れているんだぞ』と、お疲れ顔を有り有りと表していながら、そんな事はお首にも出さずに淡々と要件を喋りだす榊首相。
この二人、随分と対象的である。
「斥候の報告に依ると現在侵攻中のBETAの群れは、謎の空飛ぶ
俺は、帝国上層部に接触するにあたって空牙帝からは、ある程度まで情報開示の了解を頂いている。
「報告に依ると、今次のBETA侵攻において民間の被害はもとより軍部の損害も大きく減じる事となった。災禍を退けられたことは、大変喜ばしいことだ。しかし、自国内で政府の
「ええっ、はい。およそその通りなのでありますが、これから小官の話す事は、全てが詐りのない真実であるという事を先ずご理解ください。聊か耳を疑う様な内容や正気では信じられない様な話になると思いますがご承知いただきたいのです」
「分かった」「信じよう」
「ありがとうございます。では、順番にご説明いたしますが少し長くなりますので良くお聞きください。まず彼らは、地球上では公的に環境保護団体アースガードと言う名で団体登録されています。何時の間に存在したのかは定かでは有りません。そして、人型機動兵器ワルキューレを保有するアスガルドという私設武装組織を運用している者達です。驚く事にこの全てが一個人の所有であり、国家を超える規模と技術力を保有しております」
「あれが一個人の所有物だと言うのかね? 些か信じられんが・・・」
「あんな物は、彼らからしたら玩具の内にも入りませんよ。とにかくスケールが我々とは桁違いです。彼等の正体を知ったら笑ってしまいますよ。私は、空いた口がしばらく閉じられませんでした」
「高が一個人の正体が何だというのだね?」
「まあまあ。落ち着いて聞いて下さい。彼らは、高位知的生命体、我々の認識からすると宇宙人というよりは異世界から来た神様の
「ハッ、言うに事欠いて神様とは、我々にそれを信じろと言うのかね? 君は」
「ええ、その通りです。これは、詐り様の無い事実なのです。私は、私の知る事実のみをお伝えしていますのでしょうが有りません。そして、付け加えて言っておきたい事があります。彼等の元の世界での役割ですが、直径10万光年に及ぶ天の川銀河系の防衛を一手に担う帝国の皇帝でもあるらしいです。この意味がお分かりになりますか? 銀河を支配する事無く、黙って銀河に住む者達がその防衛を任せているというこの意味が・・・、確かな実力が無ければ実現のしようがないでしょう。違いませんか?」
「そんな連中がどうして? 彼等の目的は、一体何なのかね? 神様を自称するぐらいだ、地球征服とか銀河支配とか何かだいそれた事を言い出すのでは無いのかね」
「どうもそういう俗物的な事には一切興味が無いようですよ。あくまでも彼等の目指す処は、創設した団体の名が指し示す通り地球の環境保護らしいんですよ。地球人類は、そのお零れで助けてくれると言う事らしいですね。ちなみに下手なちょっかいや横槍を仕掛けてくる所には、国だろうが個人だろうがこの世界から御退場頂くそうです。既に何箇所かはこの世から消えている団体も有るみたいです。最近大人しいでしょ? キリスト教恭順派」
「「エッ!」」
既に、この世界から抹殺されていたらしいキリスト教恭順派のマスター。
俺も寝耳に水だった。
香月博士なんか歓喜の悲鳴を上げる始末だ、余程迷惑を掛けられていたのだろう。
彼からしたら文字通り神の手によってあの世に行ったのだから、とっても幸せだったのではないだろうか。
実際には、悪魔だとか言い出しそうではあるが、此方はそんな事をいちいち気にしてらんないので考えても意味が無いな。
結末は一瞬だったらしいし、言葉を発する暇もなかったんだろうと思う。
アーメン。
「最近静かだと思ってはいたがそんな理由だったとは、元より所在の分からない謎人物ではあったが人知れず消されていたとは・・・」
「面倒事が一つ消えましたな」
「うむ」
「兎に角先方は、我々が思ってる以上にこちらに気を使ってくれています。本当なら一息で惑星ごと消し飛ばせるらしいのですが、それをすると元の地球に戻すのが面倒だからやりたくないだけなんだそうです。そういった訳で多少手間は掛かりますが、神様謹製の機動兵器や艦艇でBETA共を一掃しているのだそうです」
後ろに下がっていた関谷中尉の耳にも一連の情報が入っており、事の重代さに冷や汗を流していた。
「神様謹製の機動兵器ですか、納得出来る性能ですね。あれだけの一方的な蹂躙劇を目の当たりにすれば信じるほかありません」
「それ程かね?」
「巌谷少佐は、ここまで乗って来たのだろう。感想を聞かせてくれたまえ」
「神にでもなった気分・・・と言ったら言い過ぎかもしれませんが、人類には過ぎた兵器だと思います」
「我々はどうしたらいいんだね?」
「地球上のBETAを手早く片付けるのに人手が足りてないから人員を貸せって言ってるみたいなんですよ。宇宙の方は既に始めてるらしいんですが、地球上の掃除には地球人にも働いてもらおうということらしいです。ただしアレ、神の作った兵器ですから我々只人が触るのだけでも大変です」
この時、地響きがしてやけに外が騒がしくなった。
部屋のドアが叩かれ巌谷少佐を呼ぶ声が聞こえる。
入室が許されると真っ青になったSPが告げた。
「失礼いたします。現在、格納庫にて巌谷少佐の搭乗していた戦術機が暴れております。閣下には、安全な場所に避難をお願いいたします」
「あ~、もしかして誰か勝手に弄ろうとかしました?」
巌谷に聞かれたSPは、返答に困って黙ってしまった。
すると巌谷は、ポケットからPーPhoneをとりだして電源をいれた。
途端に煩く喋りだすピーちゃん。
『やっと繋がった! 何でエーちゃんは、電源切っちゃうんですか? 私が
「だってお前達、自衛ぐらい出来るだろ」
『そりゃーそれくらい出来ますけど、人間って簡単に死んじゃうじゃないですか。プチッと潰しちゃう訳にも行かないんですからね。大体、大事なバディーが汚されても良いっていうんですか、失礼しちゃう!』
「分かった分かった、そう怒るな。今そっちに行くから少しは落ち着け、絶対に人は殺すなよ。死なない程度に痛めつけとけばいいから」
『了解、鎮圧しますって・・ウッワ~、ばっちいです。こいつ等漏らしやがりました。エンガチョですよ、エーちゃんヘルプ!』
巌谷少佐が盛大に舌打ちをした。
「閣下、ちょっと行ってきます。どうも礼儀を知らない不届き者が居たようで騒ぎになってるようです。こちらに危険は、ありませんので避難の必要はありませんよ」
「今、会話していたのはいったい誰だね。随分親しげだったが」
「小官の乗ってきた機体ですよ。あの人型機動兵器ワルキューレは、自意識を持っておりますから自分で行動も出来れば会話も出来るんですよ。なんせ神器ですからね」
「なんだって?」「「・・・」」
「では、失礼いたします」
巌谷は、ピシッと敬礼をした後部屋を駆け出して行ったのだった。