ご無沙汰しております。
ここは、太陽系第4惑星の火星。
ここに存在するマーズゼロは、その規模をフェイズ9とされており人類に確認されている太陽系最大のBETAの
しかし、そんな巨大構造物が眼下で今まさに崩壊を始めようとしていた。
崩れ落ちる地表構造物を押しのけてその根本から大地を割り砕いて飛び出してきたのは、見るからに巨大な生物の鎌首だった。
[マーズゼロに存在した重頭脳級の捕食に成功しました。捕食したメタルワームの個体エネルギー量が規定量を突破、急激に個体進化したようですね。メタルワーム形態からコズミックドラゴン形態に移行しています。この個体は、今後宙間からの支援攻撃及び移動支援に回します]
[これでコズミックドラゴンに進化したのは、何頭目かしら?]
[今回で5頭目ですね。地上に残ったメタルワームは、引き続きハイブ周辺の整地と残存BETAの掃討に移行します]
[頭脳級を4〜5匹捕食するとおおよそ1頭は進化するみたいよね。最後には、一体何頭になることやら……]
[良いじゃないですか、おっきなペットが増えてマスターは喜んでましたよ]
[実際に世話する方の身にもなって欲しいんだけどね。アイツら『マスター命!』の忠犬ハチ公だから、なかなかこっちの言う事聞かない時ありますから……]
[マスターが一声掛けるだけでホイホイ敵地に突っ込んで行く癖に……ブツブツ………]
(姉さん達もかなりストレスが溜まってるみたいですね。マスターが地球に降りてそろそろ半年ですし、側付きを交代してもらう時期でしょうか? 母さんに進言しておきましょう……)
雑談を交わす3機のワルキューレが見下ろす先では、地面から這い出し翼を広げ今にも飛び立とうとするコズミックドラゴンの幼体が崩れたハイブを踏み潰しながら翼をバタバタと動かして準備運動をしていた。
その体躯は、すでに全長3kmほどにまで育っている。
成獣は、全長が10km以上にもなるのでこれからまだまだ育つことだろう。
普通の通常種ならはこれ以降は、星間物質などをガスジャイアント等で吸収しその後恒星等で体組織の成熟を待つのだが、コイツラは人工的に生成されたハイブリッド種なので成長も早いし悪食だ。
元々は、昴達の元いた銀河の中心付近ボイド帯に生息する絶対生物であるので、星間物質の極端に薄い銀河系辺境の空間では繁殖も成長も困難である。
メタルワームの時期の食欲が残っているので、下手をするとその図体に見合った食欲を発揮して近場の星を手当たり次第に食い荒らす恐れがあるのだが、取り敢えずこちらの言う事を理解しているので餌場を指定してやれば良い。
先達の4頭は、すでに太陽系から飛び出してBETAを捕食するハンターと化している。
昴が思念波を飛ばせば、すぐにでも翔んで帰ってくることだろう。
[それじゃ取り敢えずあの子に、これから向かってもらう予定の星域を教えて来ましょうか]
[ハァ~、割と面倒くさいのよね]
[はいはい、行動開始! さっさと済ませちゃいましょう]
3機のワルキューレは、生まれたてのコズミックドラゴンの周囲を飛び回りながら教育を始めるのだった。
◆
時は、反抗作戦の少し前。
メタルワームによる反攻作戦が開始される直前、世界の耳目はアメリカのマンハッタン島に聳え立つ国連本部ビルに集まっていた。
特定の常任理事国主導による緊急動議が持ち上がろうとしていた。
当然のごとく矢面に立たされるのは日本帝国なのだが、早い話が環境団体アースガードをターゲットにした嫌がらせにほかならないのだった。
鼻息の荒いのは、これまで貧乏くじを引き続けている常任理事国とその腰巾着であり、逆に恩恵を受けている加盟国は冷ややかな目で見ているのだった。
『日本帝国にお聞きしたい。貴国が現在協定を結んでいる環境団体であるアースガードとは、いったい何者であるのか? 確かに公式な情報は、ある程度存在しこちらでも確認はできている。しかしその活動実態や経済規模の全てが謎に包まれているのも事実、世間一般で言われる
名指しされたのは、日本帝国の国連大使なのだが、席を立って壇上の立ちこれに答えたのは、国連事務次官の
その様子は、聞き分けのない子供に如何にも辟易とした態度で言い聞かせる大人のそれである。
「ご質問の趣旨が一向に掴めませんが、国際連合の緊急動議まで立ち上げて高がいち環境団体を目の敵にする、その理由をまずお聞かせください」
『……そっ、それは決まっている…世界平和の為じゃないか……、国連はそのために存在するのだからして、我々の要求は正当な物のはずだ』
「たしかに国際連合は、世界の平和と安全を維持し加盟国間での国際問題を解決するために話し合い調停を行う組織です。しかし今回の動議の発起人は、常任理事国5つのうちアメリカ・ロシア・中国の3カ国ですがその全てが先ほどご指摘のあった環境団体に対して軍事行動を行っております。聞くところによると正式な使節ではなく何の前触れもなく武装した特殊部隊を差し向けられたそうで、これはれっきとした軍事行動と取れますがこの事実に対してどういった理由があっての事なのか、それぞれの国連大使にご説明をお願いいたします。一個人の所有する団体を国軍が攻めて返り討ちにあったなど、普通なら恥ずかしくて公の場になど出来ないところです。先に喧嘩を売っておいて世界平和が聞いて呆れる状況だと思うのですがこれに何か反論がございますか?」
『『『……』』』
壇上のスクリーンに映し出される様々な映像(先に説明のあった特殊部隊が手も足も出ず撃退され無力化され捕獲されてゆく様子)が、国連事務次官の
会場では映像のあまりの酷さに大爆笑の嵐となっていた。
「ちなみにそれぞれの特殊部隊ですが一人の死傷者もなく無事に捕縛されております。現在取り調べが進んでおりますが、前もって言っておきます。襲撃の事実に対する証拠隠滅のための自害などを期待していようでしたら残念ながら全て未遂に終わる事でしょう。薬物や催眠暗示などもすべて対策されており、取り調べに言い逃れなどは一切出来ないと聞いております。ちなみにこれまで捕縛されて同じ取り調べを受けた者達は、みな揃って亡命を希望しております事をご報告しておきます」
厳しい取り調べの様子(どう見ても和やかな食事会に見える)が映し出され、そこで晒される上司の悪口や今までやってきた裏の任務などを赤裸々に語る特殊部隊の面々。
さっきまで真っ赤になってイキリたてていた外交官や参加者の血の気が下がり、一気に青を通り越して真っ白くなった顔色で声も出せない様子だ。
急ぎ足で走り寄ってきた補佐官から小声で囁かれた関係者は腰を抜かして驚いているようだった。
実は、人質にしていたはずの家族や恋人などが皆一度に消えて居なくなったという知らせだった。
チラホラと消えたはずの家族や人物が映り込み、和気あいあいとしている映像を見上げ、ここに来てやっと理解する事になったのだ。
この相手が絶対に手を出してはイケナイ相手だという事に……。
このあと、ゆうゆうと壇上にたったのは香月夕呼博士だった。
国連軍所属の第四計画専任研究員であり実質的な責任者だった彼女は、この場でアースガードへの所属を表明し、同時刻に大々的な反攻作戦が開始される事やその概要説明を開始することになった。
阿鼻叫喚の嵐の中、説明される反攻作戦への参戦要請に答えるべく世界中の国家と軍隊が動き出すのだった。