超昂大戦SS ひと夏のメモリアル! 超昂戦士と行く豪華クルーズ船ツアー 作:環 藍河
残暑も日々に緩み、夏も去りゆかんとする週末。
閂港・クルーズ船ターミナルには、この日を待ちわびたツアー客が詰めかけていた。
カジュアルな服装の家族から、クルーズ船ツアーには慣れた様子の年配客、スイートルームを予約した実業家風の客まで、総勢100名以上が乗船開始を心待ちに。
『お待たせいたしました。これより、【超昂戦士と行く1泊2日ツアー】ご参加のお客様を「あとらんてぃっく・のあ号」乗船口へご案内いたします。どうぞお進みください。』
ボーディングブリッジは船員が両脇を固め、ツアー参加者を歓待する。
その一番奥には…!
「こんにちは! ダイビート・サテライト基地へ、ようこそ!」
ざわっ…!!
「ア…アカリ…さん…!?」「嘘っ! 本物!?」
「はい! ダイビート隊員、超昂戦士エスカ・ルビーこと園崎アカリです!」
どおおおおおおっっ!!
列をなすツアー客の誰もが驚き、ざわめきが止まらない。
ツアー中にひと目でも会えたら…そう思っていたエスカ・ルビーが、お出迎えからいきなり参戦。
ボルテージが否が応でも上がる。
「アカリはすっかり人気者だな。
ツアーに参加してくれたみんな。乗船後はもっともっと、アカリたち超昂戦士とふれ合えるイベントを用意している。慌てる必要はないから、落ち着いてブリッジを進んでくれ。」
アカリの隣に寄り添うトキサダの声で、落ち着きを取り戻すツアー客。
サイン色紙を取り出そうとしていた熱烈なファンもいたが、整然と乗船を再開した。
……
…
客室に荷物を置き、中央のホールに集められたツアー客のミーティングが始まる。
2日間の注意事項…とりわけ、万一の事故の際の心得、避難経路の確認、船酔いの対策など、レクチャーを一通り受け終わった、その時。
びいーーっ、びいーーっ!
警報とともに、ホールの間接照明が一度に暗転。
「落ち着いて! 落ち着いてくださいっ!」
船長の声が響くも、正面スクリーンに突如大写しされる「犯行声明」の赤文字。
「クックックッ…『超昂戦士と行くクルーズ船ツアー』とはねえ…!
ノコノコと大金はたいて参加した、愚かな諸君に告ぐ。
この素晴らしいクルーズ船は、我々『ネオ上弦衆』が只今をもってシージャックしたっ!!」
ざわ…っ!!
スクリーンで犯行開始を高らかに宣言する、ボスとおぼしき忍びは…
紙袋をかぶった、オレンジ忍び装束のツインテール。
(あれって…!)
(外法天に熱々おでんや激マズジュースをお見舞いしてた…!)
悪役上等のポジションにハマり、かと言ってガチ悪役では無い、絶妙の人選…。
ダイビート長官にして上弦衆頭領・戦部トキサダの名采配であった。
「こっちの映像を見よ! すでに船内各所は、あたしのしもべ・紙袋閃忍が制圧済みだあーーーっ!!」
切り替わったカメラ映像が、客室や廊下、船内設備の多くを占領し…正規の船員を降参させ拘束している大勢の紙袋忍者をツアー客に示す。
……
…
ちなみに。
(な…何であたしたちが、ライカなんかのしもべ役なのよおーーーっ!!)
(あいつのせいで…あいつのせいで、こんなバカな紙袋までかぶらされてーーーっ!!)
中の女子(牧子をはじめとする月想館学園センニン科のみなさん)の怨嗟の声は、ホールには届かない。
(…これも任務であり、頭領のご命令。精一杯務めましょう。)
(せ…せつにゃ様…!)
ばふっ。
(心の上に刃を置いて、ですよね、官兵衛さんっ。)
せつにゃやこいぬまで紙袋…これでは不平不満も腹にぐっと収めるしかない、牧子たちであった。
……
…
「まずは、ダイビート長官・戦部トキサダ。いることはわかっている。出てこいっ!
ああ、ヘタなマネしたら、船内某所にセットした爆弾が…ドカアーーーン!! ですからねえ~。」
既にホールは大勢の紙袋閃忍がツアー客と船員を取り囲み、クナイと銃を向けている。
その横から、トキサダがゆっくりと割って入る。
「ようこそ。まずは、こっちに来てお縄についてもらいましょう。」
「…わかった。だが、一般のお客さんの身の安全は保証しろ。」
「い~いでしょう。こいつらは大事な人質、流れ弾でもへっちゃらな特製バリアで護ります。
万一あんたが暴れても、心置きなく銃でも手榴弾でもブチかませるようにね…クックックッ…!」
かちっ。…ぱきいいいいん。
ノリノリの紙袋が、台本以上の感情を込め、嬉嬉として参加客用バリアを発動させる。
「さあ、長官さん。船内に超昂戦士は何人いるのかなあ~?
根こそぎゲロって、投降を呼びかけてくださいなあ。」
暗に、他にも超昂戦士が隠れていることを匂わせる紙袋のセリフに、バリアに包まれた観客が色めき立つ。
さらに。
ぱあっ…!
バリアをスクリーン代わりに、乗客向けに映像が映され、字幕で指示が重なる。
《ダイビート長官・戦部トキサダだ。
この映像はテロリストには見えないよう細工されている。
間もなく、船尾に潜ませた超昂戦士たちが、みんなを救出するためこのホールに出撃する。
その様子をこの映像で、静かに見守ってほしい。》
……
…
(うわあ…ライカちゃん、ノリノリ…!)
(たぶん…長官さんの期待以上…かな…?)
船尾の倉庫からGOサインを待つ、今日の主役2人。
(最終確認よ。合図が出たら、周囲から鎮圧していく。最後はホールで長官さんと合流よ。)
(はいっ!)
ぶるるるるっ。
2人の通信機が、出撃開始の合図を告げる。
「『フラックスプロ-ジョン・ビートチェンジ!』」
ぱあああ…っ!!
水着姿の戦闘フォーム(アカリの水着姿はこのツアー限定で、ルビーの真夏仕様フォームに改造済)に身を包む超昂戦士2人による、テロリスト殲滅劇は…ホールの乗客へのプレミア配信と共に始まった。
……
…
【ぐはあーーーっ!!】《ぎゃあああーーっ!!》
「な…何だっ!」「落ち着けえっ!」
船内設備各所から無線で、テロリストの悲鳴と、狼狽の声が飛び交う。
「長官っ!! あんた、何をしたあっ!」
「お察しの通りさ。俺たちの…ダイビートの超昂戦士たちが、お前達を成敗しに向かっている。」
憎々しげにトキサダをにらむ紙袋。
「『そこまでですっ!!』」「何いっ!?」
「『フラックスプロ-ジョン・ビートチェンジ!』」
水着姿に次ぐ2度目の変身は、一般客も良く知る、あのフォーム。
「青い地球を守るため! 胸の鼓動が天を衝く!」
「紅蓮の光は不滅の炎!」
「超昂天使エスカレイヤー!」「超昂戦士エスカ・ルビー!」
「『悪の現場に、只今参上っ!!』」
「ぐぐ…っ! 超昂戦士とはいえ…たった2人で我等を倒すだとお…!」
「ダイビートを愛する一般市民のバカンスを奪う、卑劣な行為は許しませんっ!」
「覚悟しなさいっ、ネオ上弦衆!」
「う…うるさいっ! かくなる上は…っ!」
だだだだだっ…!「なっ…?!」
紙袋、デッキに逃走。
「逃がしませんっ!!」
エスカレイヤーとルビーが追撃する。
バリア内の乗客にも、その様子が映像で共有されるが…。
ぶしゅうーーーーっっ!!!
「『きゃあああーーーっ!!』」
甲板に出た2人を襲う、激しい水圧。
「はははははあーーーっ!! 超昂戦士をこいつで洗浄だああーーーっ!!」
紙袋がルビーとエスカレイヤーを放水銃で迎え撃つ。
不意を衝かれた2人はそのまま秋空高く宙を舞い…船から弾き飛ばされてしまった。
(ああっ…!)(そんな…ルビーがっ…!!)
映像越しにルビーたちの危機を見た乗客たちは、息を呑み、海に呑まれたヒーローを案じる。
……
…
…。
……?
大海に落とされたはずのルビーとエスカレイヤーだが…それらしき水音は聞こえない。
いぶかしんで、放水銃を手放し、2人を探しに海面を覗き込む紙袋。
しゅっ…ばきいいいっ!!
「ぐはあーーーっ?!」
今度は紙袋が待ち伏せを喰らい、エスカレイヤーとルビーのWキックに吹き飛ばされる。
「がはあっ…バカなっ、そのフォームで空を飛んだとでも…?!」
種明かしは、2人の向こう、青空に。
「人々の希望を奪い、絶望を撒く魔の紙袋。
もはや贖罪の刻は尽きました!
我、神騎エクシール! 罪に汚れしその魂、神に代わって誅滅します!」
「同じく、神騎キリエル! 紙袋っ、あんたの命運もここまでだっ!」
ルビーとエスカレイヤーを水面ギリギリですくい上げた神騎2柱が、その翼を水面に輝かせ、高らかに名乗りを上げる。
「ち…ちくしょうっ…紙袋紙袋って連呼するなあーーっ!!
だが、お前達も放水銃には敵うまい…?!」
はっ!
紙袋の切り札は、もう一人のレジェンド戦士の手にあった。
「悪鬼彷徨う現の闇を、払うは月影! 我、上弦なり!
超昂閃忍ハルカ、推参!」
ぶしゅうーーーーっっ!!!
「ぎゃあああーーーっ!!」
ひゅっ…どぼおーーーんんっ!!
オレンジのビーチボールが稲妻スパイクで弾け飛ぶように、紙袋が大海に吸い込まれていった。
……
…
しゅううう…っ。
(あっ…)(バリアが…!)
「もう大丈夫だ。みんな、超昂戦士たちが待っている。勝利を一緒に喜ぼうじゃないか。」
トキサダに促され、乗客が甲板に進み出ると、5人の戦士たちが待ち受けていた。
「皆さん、ご心配をおかけしました! ネオ上弦衆は、私たちダイビートが制圧しました!」
「船内に残った敵の残党も、仲間たちが鎮圧しました!」
「仕掛けられた爆弾も発見、解除済です。もう安全です!」
「皆さん、ご協力と声援、ありがとうございました!」
わあああーーーーっっ!!
デッキは超昂戦士の勝ちどきと、乗客の歓声に包まれた…が。
びいーーっ、びいーーっ!
「!?」
【警報、警報! 右舷2時方向に敵の船舶が接近中。距離3000…2800…!】
「!!」
〘はあーーーっ、はっはっはあーーっ!
まだだあ、まだ終わらんよお、ダイビートお!〙
紙袋の最後の悪あがき、ジャンボジェットほどはあろうかという黒ずくめの幽霊船が、砲門を動かし、艦砲で威嚇射撃を続けながらクルーズ船にしぶとく迫る。
「ルビー、行くよっ!」「はいっ!」
「『フラックスプロ-ジョン・ビート・エヴォリューション!!』」
ぱああああっ…!!
「エンジェリック・エスカレイヤー!」
「エスカルビー・アステライズ!」
「『悪の海域に、只今参上!』」
ダイビート最強の超昂戦士たちが満を持して登場。
「行きますっ!」「うんっ!」
ばっ…どおおおおおおおっっ!!
2人のジェットが穏やかな海面に、純白のシュプールを描くと…
「スターバースト…」「ハイパー・ビートエンド…」
「『エスカレーションっ!!』」
海原を漂う暗黒の野望を、紅き六芒星と真珠の流星群が輝きに塗り替えた。
「ひいっ…ぎゃあああーーっ!! 沈むっ、沈むうーーーーっっ!!」
ごごごごごごごごごご……ずぶずぶっ…ぼちゃんっ。
「正義の…」「勝利ですっ!」
わあああーーーーっっ!!
幽霊船と、紙袋閃忍の悪しき野望は…超昂戦士たちの活躍によって大海の藻屑と化した。
……
…
「どーお? 最後はやっぱりお客さんに、ナマで観てもらわなきゃね-!」
「…だからライカを甲板から弾き落として、観衆をデッキに誘導したのか…。」
「あ…あの幽霊船っ、映像にしちゃあ妙にリアルな…?」
「あら? あれはウチの…NAU所有の船。処分予定の老朽船だから、最後にひと花ー、ってね。
サルベージ費用がかかるけど、お客さんの昂奮に比べたら、安い安いっ!」
「う…うげえっ…!」
ツアーの仕掛け人として映画監督のようにアトラクションを裏から見守るエリーは、シナリオの手応えに得意満面。
一方、お金持ちの考えることはわからん、と色を失うヒビキとうららであった。
作者です。プロローグに引き続き、第1話をお届けします。
連続投稿ですが、マナー違反では…ないですよね。
そんなわけで、夏イベントでのイノリとエスカレイヤーの活躍を、ルビーとエスカレイヤーに再現してもらいました。
ハニーロボのポジションは…眼鏡でわっしょいすると収拾がつかないので紙袋に(笑)
そんなこんなで、ドンパチバトルから始まったリゾートツアー、果たしてどうなることやら。第2話にもご期待ください。