住民らの前へとジンベエが躍り出ると、黄金比の綺麗な土下座をする。突然現れた魚人が突然謝り始めたことに理解が追いつかず唖然とする一同。
「ワシは世界政府より七武海に指名された際、当時捕まっていたアーロンを釈放することでその座に就くことになっておった。その後はアーロンの人生とアーロンがどのように暮らしているのか把握することもしていなかった。しかし、こうして8年もの間、同じ種族と言うだけで皆を苦しめてしもうた。ワシに出来ることは何でもする。どうか償わせてくれんか!」
アーロンは顔を上げることなく、自身の素性と罪を喋り始める。アーロンがこれまでしてきた行為はジンベエ自身の罪であると。しかし、アーロンの罪はジンベエの罪では無い。故にこの場にいる全員は複雑な気持ちではあるが誰もジンベエを攻めることは無い。
彼らが8年もの間受けた支配の傷は生暖かく残る。種族のおなじ魚人に対する恐怖心は未だ健在。
「気にしないでください。確かにアーロンを釈放した張本人というのは驚いたし、ちょっと複雑な気持ちですけど、何もあなたは悪くありません」
「そうだな。人間にも悪いやつが居るように魚人にもジンベエさんのように心優しい方がいる」
「しかし…」
仁義溢れるジンベエからすれば償わせてもらわないと心が落ち着かない。あたふたとする七武海に思わず住民らから笑みが出始める。
「ジンベエ。だったらアーロンパークを取り壊すのを手伝ってやれよ。それとアーロンたちの海軍への突き出しとかな」
流石に可哀想だと判断したイオリは横から助言をする。その提案に住民のみんなも「それはいい」と口々に言う。そして先程の騒ぎのように再びアーロンパーク崩壊の喜びがコノミ諸島に駆け巡る。
本来の歴史だとここでネズミ大佐率いる海軍がやってきてルフィらにボコボコに返り討ちにされるのだが、既にイオリの手によって炭となっているためこの場には海軍が来ることなく、コノミ諸島の激闘は幕を閉じる。
アーロンの支配から抜け出したことを島中に知らせに走る者とアーロンパークを撤去する作業に入る者とルフィとゾロを手当する者と別れる。ナミはノジコとゲンの三人で義母であるベルメールの墓参りをしていた。この島に帰ってきた時にもしていたが、その時とは打って変わって晴れ晴れとした表情で報告する。アーロンの支配が終わったこと。そして、自身が海賊になることを。
時は流れその日の夜、島中を巻き込んでどんちゃん騒ぎの宴を開いていた。来る日も来る日も宴で騒いでいた。
「ここにいたか」
「ん?ジンベエか」
島のあちこちで起こる祭りを目下に眺めながらイオリは一人酒を呷る。その場にアーロン一味を海軍支部へ送り届けたジンベエがやってくる。
「お前さんの言う通りに海軍に伝えといた。しかし良かったのか?お前さん海軍に追われる生活は嫌だと」
「俺は別に構わねぇよ。もう宿り木は見つけた」
イオリは海軍支部に向かうジンベエに二つの依頼をしていた。それは船長麦わらのルフィを指名手配させること。そして、その場にイオリの姿もあったこと。生憎今回のことを報告することが出来たネズミ大佐は今頃海の藻屑となって消えている。海賊として旗揚げをするのにその船長が何時までも賞金首にならないのはルフィからすれば嫌だろう。
「イオリさんが言うなら構わんが…それほどあの麦わらの少年に賭けるものがあるとでも言うんか?」
「お前にも何れ分かるさ。それに俺はアイツの船に乗るんだ。船長が船員に先越されるのは嫌だろうしな」
イオリの賞金は軽く億超はしている。なんならあのカイドウが本気で戦おうとするくらいには強い。それ故に東の海でぽっと出の海賊団にその男が部下としているという時点で必然的にルフィの懸賞金も通常評価に上乗せされて評価されると考えていた。
「この先海は荒れるだろうな。時代にひとつの区切りが出来る。ジンベエ、お前も乗り間違えるなよ」
「全くあんたに一体何が見えとるのか。ワシは白ひげのおやっさんがおる限り安泰しちょると思うがのう」
イオリの眺める先には住民らと一緒に飯を食って騒ぐルフィの姿を捉えていた。
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「良かったのか?一億ベリー置いていくことにして」
「えぇ、だってもうこれがあるもの」
ある早朝、イオリはゴーイング・メリー号の甲板にいた。既に出航の準備は整っており、一度は裏切ったナミもバラティエにて仲間にしたサンジも既に船に搭乗している。岸にはナミによって財布をスられたココヤシ村の住民が見送りに来ていた。
そして、イオリが回収していた一億ベリー相当のお金はナミの意思によって村に寄付された。
数刻前、すっかり騒ぎも収まり静寂の訪れたココヤシ村の外れに位置するオレンジ畑ナミの家にはイオリとナミ、ノジコにゲンの四人が集まっていた。
ネズミ大佐によって荒らされた筈のオレンジ畑はそれが嘘だったかのように荒らしの形跡が見当たらなかった。あの日、海兵に撃たれたゲンを治療する為にこの場を後にしたナミ達にその後起きたことを話していた。聞き終えたナミは今まで集めたお金を寄付することにした。オレンジ畑から状態のいいオレンジの木を幾つか拝借するとメリー号に乗せて持っていくことにしたらしい。
「出航だァァァ!!!」
ルフィの号令の元、ゾロが錨を引き上げサンジとウソップが帆を張り船は大海原へ向けて進み始める。ココヤシ村の住民は船影が見えなくなるまで見送りを続けていた。大事な娘の船出。血の繋がりは無いとはいえ、村の大事な娘が海賊として危険な旅に出る。
「そういやイオリの話聞かせてくれよ」
船が波に乗り気流も安定したことで放置していても指針がズレることがない状態になることで麦わらのルフィ率いる麦わらの海賊団は新たな仲間を祝して乾杯をしていた。正式に仲間になったナミとそしてバラティエで仲間にしたサンジ、そして奇縁で仲間となったイオリ。東の海で五人仲間に加えて
ルフィによって未だ素性の知れないイオリへと話題が振られる。アーロンパーク前に落ち着いたら話すとイオリ自身が話していたことを思い出し気になったのだろう。
「俺も前々から気になってたんだ。イオリ、その刀名刀だろ」
ゾロもまたずっと気になっていたのだろう。ゾロは生粋の剣士。刀を扱う側としてはイオリの剣術も持つ刀も気になってしょうがなかった。
「長くなるが、今ならちょうどいいか。俺は
「新世界?」
「ワノ国?」
「グランドライン?!」
「侍って本当かよ?!」
三者三様の反応にイオリも苦笑する。上からナミ、ゾロ、ルフィ、ウソップ。ナミはグランドライン出身とは聞いてはいたが新世界と呼ばれる場所に未だピンと来ていなかった。ゾロはワノ国があることは幼少期から知っていた。自身の親友の親がワノ国の話を少しだけしていたのを記憶していた。ルフィは目的のグランドラインに冒険の香りがして興奮していた。
「今は色々あって十何年も海を彷徨っているからワノ国の情勢は詳しくないが、少し前にフラっと立ち寄った際には既に退廃していた。今は四皇『百獣のカイドウ』によってワノ国は支配されている。奴には色々と因縁があるせいで狙われる立場にいる。勿論、他の勢力にも」
そこで一旦区切り、ルフィの方を見る。ルフィは何だかんだ察しのいい男だ。その視線の意味を何となく理解したのだろう。
「どんな敵が来ても全部ぶっ飛ばす。もうイオリは仲間だからな!」
「今の俺らじゃ負けるだけだぞ」
「だったら俺たちもグランドラインに出てもっと仲間増やして、もっと強くなる。そしたらイオリの故郷にも行ける!!にっしっしっ!」
するとそこにちょうど今日の朝刊を運ぶニュースクーが飛んできた。イオリはニュースクーから新聞を受け取ると挟まっていた手配書を見る。そこにはちょうどルフィの手配書もあった。
「ルフィ、ちょうどお前の手配書が発行されたみたいだな」
「おお!!早く見せてくれ!俺も遂に賞金首だ!!」
「お前の初頭手配は5千万ベリー。この東の海においては破格の大物」
「何が言いてぇ」
イオリはルフィに渡した手配書とは別にもう一枚手配書を見ていた。含みがある言い方をするイオリに気になったゾロは酒を飲みながら問い掛ける。
「これが俺の手配書だ」
「イオリの手配書?!」
持っている手配書を皆は覗き込むように見る。その手配書はイオリが昔グランドラインで海賊をしていた頃に撮られていたもので、賞金は───
「11億7千万ベリー?!!」
「ど、どういうこと?!」
「言ったろう?俺は元々新世界で海賊をしていた。ある事情から海賊としてだけでない理由からも政府に追われている」
「だとしてもよぉ。お前億超ってどういうことだよ!こんなのイオリが海賊船の船長をしていないとこんな額にはならねぇだろ!そんなお前がどうしてこんなとこに?!」
衝撃の手配額にウソップは大手に立ち上がりイオリが何故この海にいるのか疑問だった。イオリは久しく表舞台に立つことはなかったおかげでこうして自由に闊歩していても並の海兵には気付かれずに生活出来た。
「昔色々あったんだよ。そこでだ、ルフィ。お前は俺を仲間にすると言ったな」
「ああ」
「俺たちはこれからグランドラインに入る。各々が夢を叶えるために凶悪な海で鎬を削る。この一味はこれから大きくなるだろう。俺は『麦わらのルフィ』が大型ルーキーとして世間を轟かすと勝手に思っている」
イオリに言われて嬉しかったのかルフィは機嫌よくニカッと口を開けて笑う。
「だが、世間からすれば船長は船員よりも額の低い犯罪者と侮られるだろう。ルフィ、お前に耐えられるか?」
煙を吹かし朧気にルフィを見つめる。ナミ以外は海の戦士、海賊としての矜恃を持つ。イオリの言う世間は同じ海賊や海軍の一部のこと。ただの世論はそんな凶悪な賞金首を従える怖い船長という認識になるだろうが他は違う。一味を背負う立場にいる船長が船員よりも弱いなんてことは馬鹿にされる類にある。この先、ルフィがイオリの賞金を越えるまでずっと背負うことになるのを危惧していた。
「にっしっしっ!じゃあ簡単な事だ。俺がイオリよりも強くなって暴れまくれば良いだけだ。文句あるか」
ニヒルと笑い宣言するルフィに「文句など無い」と静かに返答し、また煙管を吸い今度は大きく煙を吐く。忽ち大気に消えていく煙を眺め思考の海に落ちていく。思い出すのは自身の産まれと今なお積もる宿命と罪。
俺にはもう時間が無かった。ワノ国の鈴後に産まれ、親も血の繋がった家族すらいなかった。両親は海外で俺を産んだらしい。母親は俺を産んで直ぐに政府に捕まり、殺されたらしい。特段俺の種族が特別だった訳では無い。政府からすれば光月家の方が厄介な一族だろう。ただ俺たちの一族は遥か昔大罪を犯したお陰で政府から狙われるようになったという。
先祖の多くは故郷のワノ国に迷惑が掛からないように、態と自国に帰ることは無かったが、一部の人間は子供だけでもとワノ国に送っていたらしい。ただ外で生まれた孤児がワノ国に馴染むことなど出来ず、そもそも辿り着く前に捕まるか死ぬかのどちらかだった。
結局俺が産まれるまでまともにワノ国に辿り着く一族は居なかったと思う。一族に伝わる社に住むように伝えられているのに俺以外がその社に住んでいた形跡は見られなかった。実際社に隠されていた刀『童子切安綱』は主人を求めるように妖気を撒き散らしていた。
詰まらない人生を退屈なココで過ごすのかと半ば諦めていた。侍たちが扱う剣術は簡単に盗めた。流桜と呼ばれる力もすぐに習得出来た。ワノ国の将軍光月家にまで自身の名が届き都に招かれた。将軍という名に恥じない実力は俺の糧としてちょうど良かった。将軍に気に入られ剣の指南役として抜擢された。
そんなある日、たまたま座礁した船に乗っていたロックスという男に出会った。ロックスは強大な力を持った海賊でその力を世界を変える為に使うと言っていた。ワノ国に来る予定はなかったが、俺とせ出会えたことはいい出会いだと言っていた。退屈な人生に起きた転換期だと何となく察した俺はロックスに着いていくことに。幼少期の記憶薄れる頃の久方ぶりの世界は灰色だった世界に色を与えてくれた。
色褪せぬ激動の日々を過ごすうちにロックスは次々と新世界の屈強な海賊を仲間にした。彼の野望を叶えるために彼自身が統治する海賊島で彼は最強であり続けた。ロックス海賊団には俺以上に強い奴がいっぱい居たが、ある事件を境にロックスは死に海賊団は解散した。
「イオリ。お前は何のために誰が為に戦う」
ロックスと共に歩んできた数年で多くの歴史を知った。まだ我が一族の役割は分からんがやるべきことは見えてきた。ロジャーも言っていた。
俺たちは早すぎた、か。全ては世界の編纂のために。夜明けへと導く者───それがお前なのか?ルフィ。
『両儀』は既に滅んだ。己が遺した罪過に苛まれて導くことも見つけることでさえ叶わなかった。宿願はとうに崩れ去り、無窮の極地に流れ着く。我らが『両儀』は世界を見届ける者。それは彼岸の先に至っても変わらず残り続ける呪い。故に『両儀』の者は死ぬことはありえない。
千の時代を超えてなお、人々はその身に飼う悪魔を手放すことは無かった。
なぜ太古の人間は古代兵器なるものを作った?なぜポーネグリフを造り世界に散りばめた?五老星は一体何を恐いている?たかが過去の遺産に今更何の意味がある?俺の一族は一体何の為に、誰が為に生み出された?
世界を旅して多くを見聞すればその答えは見つかるだろうと思った。だが、結局分かったのは、多くの知人を失う姿を見届けるだけだった。そうして、流れに流れ着いた先で─
「奇しくも出会ってしまったわけか。モンキー・D・ルフィ───」
───お前は世界をどうする?