ヴリトラハン   作:雀盆

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虚栄飢餓国家アラバスタ
約束の灯台


 

 

「おい大変だ!!ナミ、光が途切れた」

 

 メリー号の船首、羊の顔に足でしがみつくルフィは先程まで見えていた灯台の光が無くなったことに気づく。

 

「灯台の灯なんだから当然でしょ。そのために航海士の私がいるんだから。大丈夫、方角くらい覚えてるから」

「やるなお前」

「それよりあんた降りなさいよそこ!!」

「いーやこの場所は譲らねェ」

「誰が譲れっつったのよ!!」

「しかし、参ったな。このまま進むと噂通り…」

 

 嵐で視界は悪く、外に出ていても危ないだけのため、船内でナミの懸念事項を伝える。

 

偉大なる航路(グランドライン)の入口は山よ」

「山ァ?!」

「そう!海図を見てまさかとは思ってたけどコレ見て。導きの灯が差してたのは間違いなくここ。赤い土の大陸(レッドライン)にあるリヴァース・マウンテン」

 

 ナミの指す海図に映るのは海を横断するように敷かれた大陸とその周辺を表した地図。

 

「山へぶつかれってのか?」

「そこからは山を登る」

「登る?!どうやって登るんだよ」

「そうね。イオリはグランドライン出身だからその辺の話詳しく教えて欲しいんだけど」

 

 一同の視線が部屋の隅で煙管を吸っているイオリへと集まる。

 

「グランドラインに入るためには二つの方法がある。一つはこのまま南下していき凪の帯(カームベルト)を越える方法。もう一つはレッドラインにある四つの海が介するリヴァース・マウンテンを流れる運河を登る方法」

「南に行けば着くんだったら態々山を登る必要はないんじゃねぇのか?」

「その方法でも全然行けるが、特殊な船か能力者、後は命知らずの馬鹿位だ。途中には凪の帯(カームベルト)があるせいで普通は船が通ることすら不可能だ」

「カームベルト?なんだそれ」

「お前らはホントに海賊する気あんのか?」

 

 ナミ以外の男連中は海について一切知識がないことに呆れてしまうナミとイオリ。今後の航海が前途多難過ぎて退屈はしないと思えることが唯一の救いだろう。

 

「カームベルトは凪の帯と書いて凪の帯(カームベルト)。その名の通り、無風の海域だ。風が一切吹かない故に帆船では航行が不可能になる。通るには船が外輪船(パドルシップ)でないと無理だろう」

「でもそれぐらいだったら漕げばいいんじゃねぇのか?」

「数日も休みなく漕ぎ続ければいいが、何より世間が恐れているのは凪の帯は大型海王類の住処だということ。海王類が避ける遊蛇に船を引かせるか船底に海楼石を組み込まないと忽ち海の藻屑になる」

「おい!!さっきまでの嵐が嘘のように止んだぞ!」

「だからこそ、今すぐにでもこの船を漕がないと俺たちの航海はここまでとなる」

「ま、ま、ま、まさか…」

 

 先程までうるさかった外の嵐はいつの間にか晴れ、風が吹くことの無い静かな海域に突入していた。そして間もなくして海中から轟音と共に姿を現す大型の海王類によって船は持ち上げられてしまう。

 

「イオリ!気づいてたのなら先に教えてよ!!」

「先の見える冒険は好きじゃねぇだろ?ウチの船長は」

「よくやったぞ!イオリ」

「もっと早く言ってくれ!そういう大事なことは!!」

「だっはははははは!!まぁ直ぐに戻るから安心しろって。しっかり捕まっておけ」

 

 甲板に躍り出たイオリはメリー号を持ち上げている海王類の身体を発射台として利用するつもりだった。

 

「帆をしっかり張れ。飛ばすぞ」

「お前ら!帆を張れェ!!!」

 

 イオリはルフィたちに初めて能力の変化を見せる。ナミには人獣型の初見せ。四本の腕に羽衣を纏った神秘的な姿はルフィたちの目を惹きつける。四本の腕から生み出した風の球体を帆の裏側に設置する。風の球体には先程の嵐のように船を大きく動かすほどの力を凝縮して詰めてある。風の球体が解けるように膨張していくと突風によって船が飛んでいく。

 ロケットのように船体が飛んでいくため、船に確り捕まっていないと振り落とされてしまう程である。カエルの海王類が水面から飛んで来るもメリー号の速さに追い付ける訳もなくそのまま通過していく。また、嵐の中へと入っていくメリー号は今度こそ運河に向かう海流に乗る。

 

「入る前に半分が死ぬと聞いたが」

「まぁな、運悪く船が大陸に衝突してそのまま溺死するのが多い。一応俺の能力でそうならねぇように調整はしてるが、絶対安心とは言えねぇ」

「うぉぉ!!すっげえー!てっぺんが見えねえぞ!」

 

 視界にレッドラインを捉えるとその正面にイオリの説明通り川が海を登っている不思議な現象を見ることが出来る。

 

「遂に!入るぞ!グランドライン!!!」

「ホントに登ってやがる」

「おいおい!そんなこと言ってる場合か!こっから下るんだろ!」

 

 運河が頂上まで登りきるとそのままジェットコースターのように加速度的に滑り落ちていく。下流に向かって流れる運河の速度は途轍もなく、これまでの人生で一番の重力を感じるものとなる。

 

「なんか正面にデケェ山があるぞ!」

「ぶつかっちまう!!」

「バカ!止まるかぁ!」

「違う!あれはクジラだ!!」

 

 巨大なクジラの大き口開けた口へメリー号は吸い込まれていく。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 ここはレッドラインに位置する聖地マリージョア。その一角にあるパンゲア城。場内にある『権力の間』において世界最高権力者である5人の老爺がいた。彼らのことは五老星と呼ばれ、世界情勢について議論を行い、合議による意思決定を行っている実質的世界の運営者である。

 

「どうやらあの噂は本当だったようだ」

「両儀イオリが海賊を再び始めたとなれば、こちらも相応の戦力を用意しなければならない」

「ましてや東の海(イーストブルー)の無名の海賊の部下だと言うのだから厄介なことこの上ない」

「モンキー・D・ルフィ…確かガープの孫だったな」

「また『D』か。あの男の選ぶ者は常にDが傍にいる。やはり消しておくべき灯だ」

「ロックス然り、ロジャーもそうだ」

「『両儀』の齎す世界は不都合な意志を産む」

 

 彼らは二枚の手配書を睨みつけ、今後の対応について議論していた。ただの海兵ではマトモな相手が出来るとは思えない。

 

「だが、あの男は常に上に立つことは無かった。ロックスでは二番手、ロジャーではただの食客だった」

「『両儀』では異端異質。掴みどころのない男だ」

「しかし、そのお陰でコチラも手を出せないでいるのを忘れるな」

 

 五老星の知る両儀という一族は政府相手に先頭に立って戦ってくるような一族であった。彼らの持つ役割は『世界の行く末、結末を見届けること』。しかし、彼らの根底に眠る『退屈な世界を変えたい』思いがこれ迄の両儀が世界に悪名を轟かせてきた。

 それ故にイオリの永き人生において、彼は必ずどこかの組織に所属して生活を送っていた。大きなところでは今は亡きロックス海賊団、海賊王ゴール・D・ロジャーの船にも一時期乗っていた。

 五老星は両儀の使命から彼らの行動を常に気にする必要があった。政府に牙を向く狂犬。彼らの行動には何らかの理由が必ず存在した。だからこそ、イオリが選んだ者は更に重要危険人物として認識せざるを得なかった。

 

「今後ともこの男の存在が目立つようならば、抹殺することも考えねばならない」

「行動に移すなら早めにするべきでは無いか?」

「CP-0に動向を探らせればよい」

「それだと戦力不足だ」

「では最近新設した()()も動かそう」

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 その頃、件の麦わらのルフィ率いる一味は無事リヴァース・マウンテンを乗り越えた先にある双子岬にいた。先程、運河の流れに逆らうことも出来ず大口を開けて待つクジラの中へと引き込まれ、そこで出会ったクロッカスにクジラの外に無事出ることが出来た。途中近くの町のゴロツキと見られる男と女が捕鯨のために潜入していたが、呆気なくルフィによって制圧された。

 クジラは西の海に生息するアイランドクジラで、名をラブーンと呼ぶ。ラブーンは毎日毎日決まってレッドラインに頭を衝突させ鳴き声を上げ続ける。理由はかつてこの岬で別れた海賊との約束のため。

 

「50年もその仲間を信じて待ち続けたのか」

「ずいぶんその海賊も待たせるんだなー」

「ここは偉大なる航路(グランドライン)。どんなに遅く航海しても50年あれば一周できる」

「死んでんだよ。いつまで待とうが帰ってくることはねぇ」

 

 イオリとクロッカスは一味とは少し離れたところで話していた。彼らは海賊王ゴールド・ロジャーの船に乗っていたこともある。クロッカスは船医として、イオリは食客として乗っていたので互いに知己の間柄。

 

「あれから随分と経った。イオリ…相変わらず元気そうで良かった」

「大海賊時代が始まって22年。俺はずっと答えを見つけられないまま生きてきた」

「彼らが──そうなのか?」

「あの帽子はシャンクスに預けられた麦わら帽子だそうだ」

「ロジャーの意志か」

 

 俺は肉を頬張るルフィにかつての船長の面影を重ねる。ロジャーからシャンクスへ。

 懐かしいものだ。ロジャーのようになると言っていたガキ(シャンクス)が、これまた何処かで見つけてきたガキ(ルフィ)に同じことをするとはな。

 次の世代を担う海賊…それがルフィのことなんだろうな。直感だがそう感じざるを得ない謎の期待感を持たせてくれる。まだ力も海賊としての格も未熟。発足してまもない一味だが秘めたる力は四皇に匹敵すると思ってる。

 

「政府はお前を殺すために動き出す。漸く尻尾を出したんだ。これを逃すほど奴らは馬鹿じゃない」

「俺に降りかかる火の粉は俺自身で払う。ルフィに迷惑を掛けるつもりは無い」

 

 同じ船に乗る時点で迷惑を掛けるなんてのは分かってる。ルフィも俺を仲間にする危険性くらい弁えているだろう……いや、それは無いか。

 

「ルフィから船降りろとでも言われない限り厄介になるさ」

「よし!飯食ったし船の修繕も終わった!出航するぞ!」

 

 ルフィがラブーンの話の聞いて決闘することになり、その際船の一部を破壊して攻撃するなどして、破損した箇所をウソップが修理していた。その修理も終わり一段落したあと、漸く双子岬を発つことに。

 

「これが俺とお前の戦いの約束だ!俺たちがまたここに帰ってくるまでに頭ぶつけてそのマーク消したりするんじゃねえぞ!」

 

 暇だったルフィはラブーンの傷だらけの頭に下手な麦わら海賊旗を描いていた。死んだ可能性がある海賊と約束が果たされるか分からない。だから、ルフィと新たに約束をする。これ以上ラブーンを傷つけないように。

 サンジはローグタウンで手に入れたエレファント・ホンマグロの調理に入り、ゾロは案の定甲板でぐっすりと寝ている。ナミはローグタウンのうちにイオリから記録指針(ログポース)について聞いていたため、次の航海に向けての段取りを組んでいた。

 イオリはというと先程陸に上がってきたミス・ウェンズデーとMr.9と話していた。二人はバロックワークスという犯罪組織の構成員で、任務でクジラ討伐に来たが丁度居合わせたルフィたちによって邪魔されてしまい、帰る方法も無くしてしまったらしい。

 

「バロックワークスといや賞金稼ぎの集まりだったよな」

「んぎぃっ!?」

「オホホホ!き、き、気のせいではないかしら」

 

 イオリの鋭い指摘に二人はぎこちない動きで顔を左右に振る。二人はウイスキーピークと呼ばれる歓迎の町を根城にしているらしく、そこまで乗せて欲しいと土下座してきた。

 

「ルフィ!こいつらがウイスキーピークまで送って欲しいってよ」

「おいおい、イオリ分かってんのか?こいつらはラブーンを殺そうとしてたヤツらだぞ」

「あぁいいよ」

「良いのかよ!!」

 

 ルフィに乗せていいか尋ねると即答で許可が降りる。ウソップはパチンコ片手に先程までの敵を警戒するもルフィの気の抜けた答えにキレッキレのツッコミをする。

 

 そうして双子岬を六人+二名で出航した麦わらの一味は偉大なる航路(グランドライン)初めての航海を始める。彼らは時に大雪、時に大荒れ、時に晴天の、気の休まらない旅に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字ありましたら報告よろしくお願いします。
次回更新は来週月曜日です。
先に言いますが、ウイスキーピークもリトルガーデンも飛ばします。
内容は全てイオリさんが終わらせました。
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