ヴリトラハン   作:雀盆

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クマには痺れましたね。




灼熱業魔

 

 レインベースへと到着した麦わらの一味はクロコダイルがいるとされるカジノへと向かうが、無惨にも罠に嵌りサンジ、イオリ、チョッパー以外が捕まってしまう。

 イオリとチョッパーはルフィたちが捕まってるとは1ミリも思っておらず、二人仲良くクロコダイルについて聞き込みを行っていた。

 

「予想以上にクロコダイルを崇拝する連中が多いな」

「ああ。みんなクロコダイルが本当の黒幕だって気づいてないんだ。こんなに雨を干上がらしてる奴が国の英雄なんて…俺許せねぇ」

 

 人型となって聞き込みをしていたチョッパーはレインベースに住む者たちの国への不満に憤っていた。握り締めている大きな手からは力が入り過ぎて血が滲んでいた。

 多くの人が雨を干上がらせた犯人が国王だと信じてやまなかった。実際に国王自らが先導して反乱分子が燻る街を根絶やしにした、なんて噂話も流れていた。首都アルバーナに雨を降らすためにアラバスタ中の雲を掻き集めた国王は正しく愚王。愚王が治める国など治安が悪くなって当然。故に最近、アラバスタ全域で治安が悪いのは国王のせいだなんて言う謎理論も飛び交っていた。

 

「人は見たいように見て、信じたいように信じる。この一件はクロコダイルの勝ちだろう。余りにもこの国は後手に回り過ぎた」

 

 二人が見据える先にはレインベースのカジノが入っている建物。どうやら数刻前に麦わらの一味がカジノに襲撃を仕掛けたとカジノから逃げてくる客が騒いでいるのを聞いた2人はお互いに顔を見合わせる。

 

「チョッパー。お前は大人しくておけよ」

「なんでだよ!俺だって戦える!」

 

 チョッパーはイオリがクロコダイルに会いにいくのを戦闘目的だと勘違いしているのか両拳を打ち付けてやる気満々のようだ。

 

「目的は戦闘じゃねぇ。確認だ」

「お、おう!」

 

 イオリは既に見聞色で探知しているため寄り道や罠に掛かることなく直ぐに目的の場所、クロコダイルがいる応接間へと辿り着く。クロコダイルは誰かが来たと分かっていたのか気味の悪い笑みを浮かべながら待ち受けていた。

 

「これはこれは待っていたよ“帝釈天(インドラ)”」

 

 大手に広げて歓迎の意を示すクロコダイルに一瞥して直ぐに下に感じるルフィたちの気配を辿る。

 

「クハハハハ!!安心しろ麦わらは無事だ」

「随分と遊んでるようだな。お得意のルーキー狩りか?」

「“帝釈天(インドラ)”、テメェこそ子供のお守りとは随分と過保護な男になっちまったようだな」

「子どもかどうかはお前自身が見極めてくれ。漸く重い腰をあげたとでも認識してくれていい」

 

 以降沈黙が暫く続いたが視線の応酬によるプレッシャーは両者ともに凄まじく、隣に座っていた人型のチョッパーが通常の姿に戻ってしまうほどだ。

 

「安心しろ俺()お前の計画を邪魔することは無い。これは船長の闘いなんでな」

 

 煙管と葉巻から出る煙が部屋を充満していく。濃密な香りが広がる部屋は突如として新鮮な空気によって押し流されていく。

 

「貴方が伝説の…」

 

 階段の先から降りてきたのは全身白コーデのニコ・ロビンであった。彼女はナノハナにてビッグマム海賊団の船が停泊していることを報告に来たらしく、恐らくナノハナの港を見張らせていたバロックワークスの社員(エージェント)からの報告を纏めたと見られる紙束をクロコダイルに手渡す。

 

「ビッグマムだと?それは本当のことか?」

 

 ロビンの口から出てきたビッグマム海賊団という単語に鋭く反応したイオリは事実の確認を行う。ロビンは一度クロコダイルの方へ視線を向けると無言で頷く様を見て話してもいいと判断し、件の詳細を話し始める。

 簡潔にすると、どうやら何が目的かは不明だが幹部数人引き連れたスイーツ四将聖の1人“カタクリ”がアラバスタに向かっていると同七武海のドフラミンゴから連絡が来たらしい。情報通でもあるビッグマムだ。ニコ・ロビンの存在を嗅ぎ付けられた可能性があるため、目的はロビンではないかと予測しているとの事だ。

 

 国盗りに夢中になるや否や新興ルーキーの登場で計画に乱れが出る可能性があれば、何故か四皇がアラバスタに来たのだ。念入りに計画を練るクロコダイルでも予測できない非常事態。葉巻の消費が激しいのはそれを顕著に表している。

 

「俺たちはそろそろ帰るか」

「え?!ルフィたちは助けなくて良いのか?!」

「あぁそれなら既に脱出してるみたいだな」

 

 イオリの一言に報告書を眺めていたクロコダイルがグルンっと首をこちらに曲げて目を見開く。その顔は信じられないと言ってる顔で、急いで地下に確認しに行く。

 

「ニコ・ロビン。確かオハラの生き残りだったか」

 

 早足で部屋から出ていくクロコダイルを見送るイオリの視線は未だ自然に立ち振る舞うロビンへと向けられる。ポーネグリフを読み解くことを目的とした考古学者集団が昔海にいたことを思い出す。彼らは世界政府のタブーに触れたことでバスターコールによって一人を残して壊滅させられた聞いていたが、その生き残りが「ニコ・ロビン」だったと記憶していた。

 

「お前も読めるのか?」

「──えぇ。私は世界の歴史を知りたい。空白の100年とは何なのか。800年前、世界に何が起こったのか、私はそれを解き明かしたい」

「───そうか。見つかるといいな」

 

 それだけ言い残すとイオリは手を挙げながら「またな」と一言残してこの部屋を後にする。チョッパーは頭に?を浮かべながらイオリの後を付いてく。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 雲一つない綺麗な青空。灼熱の大地を往く麦わらの一味は現在クロコダイルを追っていたのだが、少し問題が生じていた。

 クロコダイルの策謀を止めるためにレインベースからメリー号に戻り、急いで対岸へ船を着け首都アルバーナへと急ぐことになった。しかし、砂漠の道中でクロコダイルとロビンが待っていたのだ。クロコダイルよりも先に出発していた筈が、麦わらの一味を止めるためにクロコダイル自らが出待ちしていたのだ。それだけなら良かったのだが、クロコダイルだけではなくそれよりも大物が丁度現れたのだ。

 

 予想外だなこれは。まさか広大な砂漠で出会(でくわ)すことになると思っていなかった。グランドライン前半の海に居ていい覇気じゃねぇだろうコイツは。

 

「まさかこんな所で出会うとはなカタクリ」

 

 ビッグマム海賊団“スイート4将星”の1人、シャーロット・カタクリ。シャーロット家の次男であり、モチモチの実の能力者。懸賞金13億9600万ベリーのビッグマム海賊団No.2の男だ。

 麦わらの一味はハサミというヒッコシクラブ種のカニに乗ってアルバーナへと向かっていたのだが、突如としてクロコダイルの砂の刃に襲われた。丁度そこにカタクリが部下を連れて現れたのだ。

 予想外の三つ巴となったことで暫くの間、睨み合いが始まる。彼らの目的はそれぞれ違う。クロコダイルは王女ビビ率いる麦わらの一味を抹殺すること。麦わらの一味はクロコダイルの策謀を止めること。そして、カタクリはロビンの存在とイオリへお茶会の招待状を渡すこと。

 

「チッ!これはどういうことだ」

「誰だアイツら」

「お前がニコ・ロビンか。まさか本当にアラバスタに居るとはな。悪いがママはお前を求めている」

「ッ?!」

「それとイオリ!ママからの招待状だ」

 

 イオリはカタクリから渡されたビッグマムの招待状を破り捨て、お茶会への参加を拒否する意思を示す。 そして、直ぐに現状の最適解を導き出す。

 

「ゾロ!サンジ!今すぐビビを連れてアルバーナへと急げ!」

「おう!」

「ルフィお前は──」

「あぁ!ワニ野郎の相手だな!?」

 

 イオリの意図を直ぐに理解したゾロとサンジはハサミに指示を送り、ここから立ち去ることに。ビビや他のメンバーはソレを理解出来なかったのか、ルフィとイオリを置いてこの場から去ることに反対の声を上げる。

 

「おいおい!どういうことだよ!ルフィとイオリを置いていくのか?!」

 

 ビビりだが、仲間想いのウソップは2人を置いていくことが理解出来なかった。しかし、クロコダイルなら兎も角、あの場にはサクラ王国で見た政府の諜報機関の人間の数倍、数十倍は強いと見れる男たちがいた。これではまるで、2人を犠牲に逃げているかのような構図にウソップは我慢ならなかった。尤も、そんなこと良く理解しているのはゾロもサンジも同じである。ただ彼らが違ったのはイオリから命令されたからでもなく、非情になった訳でもない。彼らに今出来ることは一刻も早くビビをアルバーナへ送り届けること。

 

「今出来ることを考えろ!俺らに出来ることはなんなのか?!」

「俺たちに出来ることは2人を犠牲にすることってのか?!」

「じゃあお前!今ここで全滅しろって言いてぇのか?!あの刺青の男は明らかにドラム王国で出会った連中よりも強い!」

 

 サンジは暴れるウソップを抑え付ける。ゾロは刀を握る手に力入る。自分自身の弱さを強く痛感させられていた。政府の諜報員は確かに強かった。ただ今回の相手はレベルが違った。バラティエで最強との差を理解したつもりになっていた。

 

「俺たちの目的はビビを送ること。あの男が一体誰なのかは知らねぇが、少なくともイオリが警戒していたレベルの男ってのは分かる。それに奴の目的はイオリとあの女らしいからな」

 

 今はアルバーナで衝突するはずのバロックワークスのエージェントについて考える方が先決だと伝える。彼らは少し暗い雰囲気でマネマネの実の能力者を含む未知数の敵について議論を始めるのだった。

 

 そして、場面は変わり三つ巴へ。クロコダイルはカニに乗って逃げていく一味を一瞥すると特に何もすることなくカタクリとイオリを睨みつける。

 

「その意味が分かってるか」

「リンリンに伝えておけ。俺はお前の仲間になる気は無いとな」

「よく分かった。ここで死にたいらしいな」

「お前に出来るか?ヒヨっ子」

 

 イオリとカタクリの覇王色の衝突によって覇気の嵐が発生する。『土竜』という三又槍を振り回すカタクリと童子切安綱を振るうイオリの衝突は周囲の砂が吹き飛ばされる規模の衝撃を生む。

 

「お前に俺を御せるか?カタクリ」

 

 カタクリの目に映るのはかつて自分に守る為の力を教えてくれたイオリの姿。戦いに明け暮れた日々の中、力の使い方と道を示したイオリという存在はカタクリの中では大きかった。しかし、ロックス、ロジャーの時代がそれぞれ終わり、大海賊時代に突入してからイオリは表舞台に出ることはなくなった。

 ダラケた隠居生活を送っていた憧れの人の変貌に酷く裏切られた気持ちになっていたのだ。全てを諦めた顔でワノ国へ隠居するとリンリンに伝えに来た時の失望感はカタクリの人生で初めてであった。故に、以来イオリを越えるために鍛錬を重ね、武装色も見聞色の何れもその領域は四皇にも届きうる強さへと成長した。

 

「お得意の見聞色で避けてみろ」

「チッ!」

 

 カタクリの見聞色は鍛え過ぎた結果少し先の未来を読み取ることが出来る。そして、モチモチの実という特殊な超人(パラミシア)系の能力者。身体をドロドロ状の餅に変形することで見聞色も併せて擬似的な自然(ロギア)系の能力者のように戦うことが出来るのだ。

 

「モチ突き!」

 

 餅化した『土竜』を構えた手を大きく膨らませて、強く捻って放つことでドリルのように高速回転を伴う槍の突きでイオリへと連続して攻撃を繰り出す。

 高度な戦闘が繰り広げられている横でルフィはクロコダイルへと立ち向かっていた。レインベースにて既に砂人間であることを理解し、水が弱点だと突き止めていた。

 

「何度言えば理解出来る、麦わら。お前みたいなガキに俺は倒せねェ」

「うるせぇ!やってみなきゃ分かんねえだろうが!」

「覇気も知らないお前に何が出来る」

「お前を殴る。ゴムゴムのピストル!」

 

 ルフィはここ数日の間にイオリから覇気について教えて貰ってはいるが、未だ明確に覇気について掴みきれていなかった。その為、まだクロコダイルに対する手立てが弱点である水分しかない。

 よってルフィはユバで受け取った水樽から水を補給しながら攻撃するしかないのだ。

 

「確かに俺の弱点は水分だ。だがな…明確な弱点を補わねェ程俺ァ馬鹿じゃねえ!砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)

 

 右手が砂の刃となって巨大な斬撃を放つ。砂漠においてクロコダイルはほぼ無敵と言ってもいい。地面の殆どが自分の思うままに操ることも出来る。また、彼自身も新世界に進出したこともあるので覇気も扱える実力者である。故に覇気の知識だけあるルフィでは相性が悪い。しかし、事戦闘に関してはセンスがずば抜けているルフィは短い戦いの中で有効な戦い方を探っていた。

 

「良いのか?船長は苦戦しているようだが」

「ルフィ自身が乗り越えなければならない壁だ」

 

 イオリとカタクリの交錯する睨み合い。モチモチの実は文字通り身体を餅に変化させたり、生み出したりすることが出来る能力。餅としての弾力、伸縮、粘着を兼ね備えた性質を持つ。餅自体に攻撃性は無い為、持ち前の武装色の硬度と能力の性質を利用して打撃系統の技が殆どだ。

 

「俺はお前を越えるために強くなったんだァ!イオリィ!」

 

 武装色で硬化した腕を角餅のように変形させてたパンチはイオリの姿を明確に捉える。カタクリの拳が顔面を捉える直前バチッと音ともに電気が迸るとイオリの姿が掻き消える。高速で繰り出されたパンチを躱されたが、イオリの姿を追うように視線を横に動かす雷速で移動するイオリはギリギリ見聞色で追える程度。人間特有の起こりがない動作に思わず冷や汗が出るカタクリ。

 

王剱(おうけん)

 

 カタクリの横っ腹へ掌底を合わせると雷を利用した強力な衝撃波、所謂発勁を発生させる。カタクリの身体全体に流れるように雷電が滞留する。全身を蝕むそれは持ち前の見聞色で回避することも出来ずに内出血を起こす。膝から崩れ落ちるところを何とか踏ん張る。シャーロット家最高傑作として評されてきたカタクリに敗北の2文字は許されない。例えそれが幼少期より一度も勝ったことの無い男だとしても、海賊として立ち向かうのであれば負ける訳にはいかない。

 

「他者からの期待ってのは常に答えなきゃいけねぇのが強者の辛いところだ。そんなもんじゃあないだろう。全力で来い!」

 

 

 

 

 

 

 




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