ヴリトラハン   作:雀盆

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カタクリファンには申し訳ない。カタクリのイメージが少し崩れるかもしれませんがイオリの強さを明確化させるにはこうするしかなかった。


無人世界

 

 イオリから発生する雷によって周囲の砂は巻き上げられ、地面はその熱によって溶け始めていた。

 空は晴天から一変して薄黒く濁った雲が形成される。イオリの中に眠っていた悪魔に寄せられるように空が変貌する。ゴロゴロと唸り声をあげる空は標的に向けていつでも雷を落とすことが可能であるということ。クロコダイルが行ったダンスパウダーのように将来雨雲になるはずの子どもの雲を無理やり雨雲にするのではなく、文字通りその場に雷雲を形成させている。イオリの身体が人獣型へ変貌を遂げながら世界を塗り替える。

 

「流石は天空の神といったところか」

「先の一撃でまさか参ったとは言わねぇよな」

 

 不敵な笑みを浮かべるイオリを前に不穏な空を見上げるカタクリは風を感じ取っていた。見聞色で見た少し先の未来よりもっと先の未来を想像する。天空を支配する能力は文字通り、空の機嫌を操ることが出来る。つまり、餅の天敵でもある雨を降らすことも可能なのだ。

 

「油断はするつもりはなかった。元より憧憬の念を抱いていた男だ。理想を、夢を見すぎていた。既にお前を越えたと自惚れていた…俺の考えが甘かった」

 

 威風堂々とした態度で生きてきたカタクリにとっての本音を吐露する。独り言のように愚痴を零し、心の片隅で驕っていた感情を消化する。

 

万雷の霹靂(アイラーヴァタ・アヴァローダ)

 

 無数の雷が降り注ぎ大地を焦がし、突風により巻き上げられた砂は上昇と下降を繰り返す大気を貫く雷によって空電現象を引き起こし、無数の竜巻と細かい砂が赤く豆電球のように塵となって消えていく様は幻想的で、この世の終末を表したかのような世界を形成した。

 

「これが真の神の祝福。リンリンがやるような擬似的な天変地異では無い。安心しろ雨を降らすなんて野暮なことはしない。お前の本気に応えてやろう」

 

 4本の腕を生やし、赤黒い羽衣を纏った姿へと変貌を遂げる。イオリの右下手(本来の右手)には童子切安綱、左下手(本来の左手)に金剛(ヴェーダ)、右上手(人獣型時に生えてくる)には金剛杵(こんごうしょ)の『バジュラ』を構えた姿。右上手に顕現したバジュラと左上手に顕現できる()()()はインドラの能力に付随した能力である。バジュラは天候を思うがままに操ることが出来る他、バジュラに雷を蓄電することで雷撃砲を自在に放つことが出来るなど便利な武器なのだ。実際にバジュラを扱う場合は相手が強者であるときに絞ることで能力としての質を高めている。そして、万雷の霹靂(アイラーヴァタ・アヴァローダ)はこのバジュラ顕現時のみ起こせる天変地異の具現化。

 人獣型に変化した時、バジュラを顕現させるということは相手を強者と認めている証拠でもある。

 

「俺は何処か傲慢過ぎた」

 

 カタクリはいつからか呼ばれるようになった無敗の男として負ける訳にはいかないと心を律していた。故に忘れていた血湧き肉躍る挑む側の戦いに興奮していた。

 周囲を餅化させるモチモチの実の覚醒した力。四皇ビッグマム最高傑作と伝説の海賊の衝突によって大気が揺れ空が割れる。割れた箇所に吸い込まれるように雷雲が引き込まれていく。

 

「餅吟着!!」

 

 無数に作られたドーナツ状の餅から武装色によって硬化された巨大な『角モチ』を一斉に射出する。ルフィの『ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)』と似たような攻撃方法。餅吟着が飛んでくる場所を読んでいるかのように全てを交わしながら着実にカタクリへ近づく。

 

「お前と違って能力使うと体積増えちまうのが欠点だが…」

「斬・切・餅!!!!」

王剱(おうけん)!」

 

 上から振り下ろされる棘付き棍棒のように変形させた腕がイオリの頭に衝突する。対してイオリの2つの掌底がカタクリへ炸裂する。

 両者共に血を吐きながら衝撃で吹き飛ばされる。2人共高度な武装色の覇気の使い手、内部に受ける痛みは尋常じゃ無いものだろう。地面に倒れる暇などない。見聞色での攻撃の予知、インドラの力による未来予測。何手先を読んでも見える世界は両者の地面に膝をつける未来のみ。

 イオリはバジュラを振るい、空から雷撃を落とす。無数に落とされる雷は幾重にも折り重なることでカタクリへ襲い掛かる。それを身体をドーナツ状に変化させタイヤのように移動する。素早く動き雷を避け、イオリへと猛追する。

 

「まだ俺は…届かねぇのか?!!」

 

『斬切餅』を連続で放つも既に一度見た攻撃、イオリの持つ特性故に通用しない。吼えるように何度も何度も連撃するもギリギリで避けられてしまう。インドラは天空の神でもあるが、軍神としてもその名を残している。驚異的な戦闘センスを持ち合わせ、未来を測定し一度の攻撃を分析・解析することで同じ攻撃を受け付けなかったと言い伝えられている。

 元々戦闘センスがずば抜けているイオリにそんな力があるということは、補正に補正が重なり小手先の技は何一つ通用しないのだ。相手の実力が高すぎると能力は上手く発動しないのが唯一の欠点だろう。実際に、カイドウやリンリンなどを相手にする場合は見聞色の未来予知程度の力に格落ちする。

 

「無双ドーナツ!!力餅!餅吟着!」

 

 イオリへと猛追する攻撃をギリギリで躱すイオリは涼し気な顔をしているが実の所そこまで余裕は無い。カタクリの攻撃は一撃一撃洗練されている。ビッグマムによって鍛えられた結果とも言えるだろうが、その実力は確かに四皇にも匹敵する火力をしている。しかし、それでも嘗てロックスの船で副船長をしていた男には届かない。

 そして、カタクリ自身も物量では意味が無いと。数を増やしても当たらなければ意味が無い。着実とコチラの隙を伺うイオリの思う壷だろう。そして数ではなく質へと切り換える。一発一発に込められる覇気が増大していく。『力餅』に込められる覇気が過剰に増え、無意識のうちに覇王色の覇気までも込められていくことで『力餅』の色は黒から赤黒く変化していく。

 イオリは戦闘の最中、カタクリの身に起きる変化に気づくと「漸くか」と興奮を隠しきれずに自然と口角が上がる。

 

「おおおおおおぉぉぉ!!!!御神餅(ミカミモチ)!!!!」

 

 カタクリの餅巾着による多段連撃を往なし続けているイオリへ急接近すると覇王色を纏った角モチを叩き込む。完全に目が慣れてきて油断していた処へ顔面に重い一撃を受けるイオリはそのまま砂丘へと殴り飛ばされる。背中から叩き付けられるように衝突した為、内臓が見事に破損し、体内の環境は劣悪な状態となった。肺に溜まった血を吐き出し、何とか呼吸を確保する。カタクリの一撃は効いたのか軽い脳震盪を起こしていた。フラフラと立ち上がり、己の腕を確かめているカタクリを睨みつける。

 しかし、イオリは依然として戦いへの楽しさを隠すことなど出来なかった。自然と笑い声が出始めるイオリに呼応するようにカタクリもまた声を上げる。久方振りの全力を出せる殺し合いに2人は喜んでいた。

 油断していたと一呼吸置くと、バジュラを操作して空から無数の雷を己へ降らし全身を雷で纏う。そして、その時には既にイオリの左上手(人獣型で生えてくる)には大きな瓢箪が握られており、その瓢箪から流れ出る液体のようなものを浴びていた。これこそイオリの左上手に顕現する能力、神酒(ソーマ)とも呼べる万病に効く酒。その酒を胃の中に流し込むと浄化されるように身体の機能が回復していく。

 イオリの能力はその機能性故に多くの制限が掛けられている。従来の動物系であれば、例外(ランブルボール)を除けば人型、人獣型、獣型の三形態のみである。しかし、イオリの場合は覚醒しても尚、人型と人獣型しかなかった。そこで編み出したのが人獣型で発生させた雷を己へと纏うこと。

 

天威無縫(てんいむほう)

 

 擬似的に編み出した獣型『天威無縫』はその見た目通り全身を雷に包んでいる。よって、速度は雷速、触れれば電撃、雷による分厚い壁を有する自己完結型能力。そして決まった型では無いため、イオリ独自の研究によって全部で三段階に分かれる技である。

 第一段階『天威無縫』は雷を纏うにあたり全身が白くなる。無論常時武装色を纏っている状態にあるため身体から漏れ出る雷電は黒く輝いている。原作におけるエネルの2億ボルト天神(アマル)のように少し肥大化する。元々イオリの身長は195cm、それが擬似的獣型になることで324cmまで大きくなる。

 イオリの神秘的な姿に思わず言葉を失うカタクリが瞬きをするその刹那、視界に捉えていた筈のイオリの姿が掻き消える。

 

王剱(おうけん)-廻雷(かいらい)

 

 カタクリは別に気づいたわけではなかった。姿を見失ったと気づいた時には既にイオリは目の前までに迫っていた。カタクリは反射的に、いやそれよりももっと深いところに根付くカタクリ自身の本能が身体を動かした。無意識に動いた腕を振り下ろし外敵から身を守る体勢に入ろうとする。

 だが、神の領域にまで没入しているイオリの世界にはそれは余りにも遅すぎた。振り下ろされる腕に足を挟み込んで空中へ蹴り飛ばす。カタクリはその時漸く自分が空中へ放られていることに気づき負けを悟る。一瞬でカタクリの元へ移動すると腹部に2本の寸勁の構えで王剱を撃ち込む。全身に回る雷撃が全神経を狂わせ、身体全体から焦げた匂いが立ち込める。六式でいう六王銃の上位互換。カイドウの咆雷八卦とほぼ同じ衝撃を放つそれは雷撃も合わさり、普通の人間であれば全身の血液が蒸発する程の火力を一身に受けたカタクリを遥か彼方へと飛ばす。

 

「卑怯とは言ってくれるなよ。俺とお前じゃ()()が違うんだ。()()()()()()()()()

 

 俺に同じ攻撃は通用しない。予測できる攻撃は意味が無い。初撃で決めれなかったカタクリ、お前の負けだ。

 さて、ルフィを助けに行きますか。ちょうどあちらも終わったようだしな。

 

 イオリが思い出すのは勝利目前で喰らった御神餅。その一撃は確かにイオリの芯へと突き刺さる重い必殺であった。

 

「クロコダイルはアルバーナに向かったみたいだな」

 

 流砂に巻き込まれ腕だけ何とか空気に触れているルフィを助けに行くイオリ。それを終始見守っていたのはクロコダイルにはついて行かず、ずっとイオリを見つめてくる一人の女がいた。

 

「どういうつもりだ?お前がルフィを助ける理由なんてあるとは思えないんだがな」

「貴方と話したいことがあるって言ったら簡単に許可を貰えたわ。彼については…ただの気まぐれ」

 

 ロビンは持っていた荷物から水を取り出すとカピカピに干からびたルフィへと飲ませる。

 

「そんなに見つめられても困る」

「両儀イオリ。貴方に聞きたいことが」

「何が知りたい」

「貴方は数百年生きてきた伝説の海賊と言われてきた。私が見てきた歴史の本文(ポーネグリフ)には『両儀』という単語が何回か出てきたわ」

 

 ロビンはこれまでの人生で歴史の本文(ポーネグリフ)を幾つも見つけその解読を行ってきたのだろう。そして、内何個かの内容に両儀家の話題があった。

 

「両儀家は世界を読み解く一族として歴史の本文(ポーネグリフ)に記されていた。貴方は世界に何が起きたのか知っているの?!」

「───あぁ、知っている。何故昔の人間が歴史の本文(ポーネグリフ)を残さねばならなかったのか。誰のために伝えられるものなのかもな。だが、それは君が自らの手で識るべきものだ」

「じゃあ貴方は真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)とは何か知っているかしら」

「アレは石そのものでは無い。世界に散らばる歴史を記したポーネグリフを繋げて初めて真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)。ポーネグリフには数が決まっている。それぞれの役目も併せてな」

 

 暫しの沈黙が流れる。ロビンの顔からは少しの落胆と納得した何処かスッキリとした表情を感じられた。

 

「両儀とは、世界を読み解く一族とはどういうことかしら。オハラでも度々両儀の名が上がっていた。だけど、文献にも歴史の本文にも詳しく載っていなかった」

「両儀とは何か──。随分と哲学的だな。おい、怒るな冗談だ。はぁ…読み解くのでは無い。世界の行く末を見届けること。所謂、ルーラー的役割の一族だ。この世界の結論が光だろうと闇だろうと自由だろうと支配だろうと、俺たち両儀というのは王の全てを肯定する一族。俺自身も言い伝えや社にあった書物からの知識だがな」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 あれから数刻経った。ロビンは一足早くアルバーナへと向かった。ルフィは2人の処置のおかげで何とか一命を取り留めた。そして、ここでクロコダイルと対峙して以来、気を失っていたペルという男も目を覚ました。彼はアラバスタ王国護衛隊副官を務めるトリトリの実モデル(ファルコン)の能力者。どうやらクロコダイルの実態を知り、先にクロコダイルへ攻撃を仕掛けようとしたが見事にロビンに関節技を喰らってしまったらしい。

 

「うおおおおぉ!!!!!クロコダイルゥウ!!」

「気分はどうだ?ルフィ」

「イオリ助かった!もう絶対俺は負けねェ!倒す方法も思い付いたんだ」

「ペルとやら飛べるか?悪いがルフィを宮殿、いやクロコダイルとビビのところまで運んでくれ」

「イオリはどうするんだ。来ねえのか?」

「ビッグマムの連中がお前らにちょっかい出さないとは限らないからな」

 

 ペルに乗ったルフィがアルバーナのある空へ消えていくのを見守り、カタクリと共にやってきた残党たちへと目を向ける。先程の戦いでチェス兵や何人かの戦闘員は万雷の霹靂(アイラーヴァタ・アヴァローダ)の余波で既に虫の息となっている。ビッグマムの何十番目かの兄弟姉妹たちは流石にビッグマムの血を分けた子供ということもあり、辛うじて意識を保てているようだった。

 これでは到底任務所では無いなと察したイオリは素直にアルバーナへと飛んでいくことに。思考の片隅には、今頃起き上がっているだろうカタクリと予見される世界政府の役人の動きを想定する。万雷の霹靂(アイラーヴァタ・アヴァローダ)を展開していた時に妙な視線を感じていたのも気掛かりだ。

 

 

 そもそも世界政府がロビンを回収に来ることはまず有り得ない。世界政府最高権力者である五老星ですら、一小娘認定。何時でも消せるから必死になって追ってはいない。まだ監視出来る場所にいることが政府にとっては救いなのだろう。まぁ、クロコダイルがプルトンを狙っていることにも気づかない無能っぷりを示してる時点でロビンの行方が知れている訳では無いと事実として証明してしまっている。今後あるとするなら政府にとって危険な、それこそ脅威となりうる存在の庇護下にいることが知られれば、CPが動くことも考えられる。

 その点で言えば、麦わらの一味は政府にとって消さねばならない海賊一味だろう。ゴムの力を持つ海賊にヴィンスモーク家のプリンス、世界政府が何としてでも表舞台から消しておきたい両儀の名を持つ俺。

 

「迷惑を掛ける──なんて軽々しく言うものでは無いな」

 

 誰もいないオレンジと青の世界で一人愚痴る。そんなイオリの曇った心とは反対にアラバスタ全域の空はこれ以上に無い満天の快晴であった。

 

 

 

 

 

 

  

  




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来週はお休みするかもです。卒論関係で色々とあるので!
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