ヴリトラハン   作:雀盆

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随分と更新を放置してしまい申し訳ありません!


オハラの記憶

 

 

「んっ…んぅ?こ、こは」

「起きたか、ニコ・ロビン。ここはまぁ麦わらの一味の船」

 

 イオリは起き上がったロビンの前に温かいコーヒーを差し出す。まだ現状を理解しきれていないロビンに何故ここに居るのかを説明する。

 

「なんで私を助けたりなんかしたの」

「質問を質問で返すようで悪いが、何故死を選ぶ」

「私にはもう何も無い。ここが最後だった。私はただ本当の歴史を知りたかっただけなのに」

「何も残されていないから死ぬ…ね。何故助けただったか?お前がルフィを助けたようにルフィもまたお前を助けようとしていた。これが2割」

 

 人差し指と中指を立てて2を表して説明する。事実、ルフィはあの時立ち上がろうとしていた。恐らく、コブラ王と重症のロビンを連れて外に逃げようとしていた。しかし、俺の気配を悟ったのか階段の方に少しだけ目線を向けていたことで安心したのかそのまま眠りについた。

 

「2割?じゃあ残りは」

「オハラの意志。世界の真実を読み解くことを放棄するにはまだ早い。それではあの日バスターコールによって散っていた学者に泥を塗る行為だ」

「オハラの…意志?」

 

 20年前、オハラがバスターコールによって滅んだ。オハラの学者は自分たちの功績を後世に残すために巨大な湖に書物を沈めた。その書物たちは後にエルバフの巨人らによって回収された。滅んだオハラにはドラゴンやベガパンクもいた。

 

「オハラは滅んじゃいない。クローバーが遺した宝はお前の中で生きている。歴史の本文(ポーネグリフ)は世界政府を欺く為に世界各地に散らした本当の歴史」

「私の…中に」

「政府が何故歴史を読み解くことを恐れているのか。平民が天竜人に虐げられるのは何故なのか。古代兵器とは何なのか。それを真に解明出来るのはニコ・ロビン、お前唯1人」

「でももう私は疲れたの!何も手掛かりが無いのに一体どうやって何処を探せばいいの?!」

「たかが20年だ。お前はこの広大の海を満遍なく探したか?かの海賊王ゴール・D・ロジャーでさえこの世の全てを見ることは叶わなかったのにか?!全部を見てもいない。世界の一割にも満たないその量で諦めるくらいならよ……どうだ?俺に、いや、ルフィに賭けてみるのは?」

「私は敵だったのよ!彼らが許してくれるとは思えない!それに私には敵が多すぎる!!!」

「だから俺の前で同じこと言えるか?麦わらの一味は俺がいる限り政府から狙われることは確定。そこにロビンが加わったところで些細な違いだ」

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 クロコダイルが仕掛けた爆弾がペルによって空へと運ばれ爆発したことで大気が急激に暖められ、雨が降り始めて一日が経った。宮殿には麦わらの一味が匿われていたが、そこにはイオリの姿がなかったことでマーリンは捜索の中断と『ニコ・ロビンの抹殺』の失敗を五老星へ報告していた。

 

「マーリン貴様!ニコ・ロビンの抹殺に失敗したとはどういうことだ?!」

「そうは言っても仕方ないだろう?“帝釈天(インドラ)”が彼女を守っていたんだ。ボク一人でどうにか出来る相手じゃないんだから」

「貴様の能力なら奴を充分相手できるだろう」

「無茶を言わないでくれ。ボクが彼に弱いのは知っているだろう」

「はぁ……“円卓の座(イスカリオテ)”はもうヴァナディースに?」

「ん?まぁ一人勝手な行動をするゴミはいるけど、皆やる気満々だよ」

「そうか。ではマーリン。ヴァナディースでニコ・ロビンの抹殺と両儀イオリの身柄をマリージョアへ連れてこい」

 

 五老星としては両儀を名乗る者を生かしておくメリットは無い。

 これまでの歴史から両儀は政府に反抗する一族、それこそ嘗て20の王国と敵対していた勢力側のような立ち回りをしていた者もいた程だ。その絶対的なカリスマ性で民衆を先導し、世界政府に楯突く者もいた。

 世界の真実を知る者は本来あるべき『両儀』の姿を知っている。『両儀』とは常に中立だった。しかし、いつからか『両儀』は自分たちで結末を決定するようになった。

 

「やはり両儀は消しておくべきだ。彼らが齎す未来は…破滅だ」

 

『両儀』の世界の行く末、結末を見届けることというのはどんな結末だろうと世界の意思として歴史に刻まれる。自由か支配か、停滞か成長か。誰かが言ったのだ。

「どの結末でも良いのなら俺たちが未来を決定しようじゃないか」と。

 厄介なのは彼らが『観測者(ルーラー)』としての役割を担っている点だ。世界から最も愛されている一族とも言える。どの道においてもその才覚を発揮する天才の一族。

 観測者が盤上の駒を支配し自由に動かし始めたらシナリオが破綻する。本来歩むべき道を外れ、裏ルートでゲームを攻略するようなものだ。その先に待つのは破綻した世界。破綻した世界に救いの未来は無いことは誰しもが理解できる。

 

「しかしあの男は違う。ロックスではその夢を否定した。ロジャーを導くことも無かった」

「同じ“D”とはいえ、まだ若いこの男に一体何があるというのだ」

「然り。両儀イオリを此方に引き込む用意は出来てあるのだ。奴は逆らえなくなる」

 

 でんでん虫の先で熱い議論を繰り広げている五老星の声をBGMに冷え込む夜の砂漠を歩く。マーリンは当初の“円卓の座(イスカリオテ)”の任務を思い出す。

『両儀イオリの抹殺』をマーリンの言葉巧みな交渉技術で政府側に引き込ませることにシフト出来た。彼女は確かに狂ってはいるが、彼女は常に冷静だ。彼女の知能指数でいえば人類最高峰とも言える。ベガパンクの様に開発に向ける知能ではなく、軍師のように敵を追い詰める方面で言えば右に出る者はいない。

 既に罠は蜘蛛の巣のようにそこら中に張り巡らされている。少しでも身動きを取れば絡め取られてしまうくらいには王手を掛けられている苦しい状況にある。イオリはマーリンには相性の問題で勝てない。先程の戦いでイオリはマーリンを殺しておくべきだった。これがゲームなら直ぐにでもリセットした方が断然楽だろう。

『浄土』での一ヶ月に渡る戦闘。そして先程の空間による戦闘。どちらも花の香りを認識しすぎてしまった。花の香りの成分には『認識阻害』『感覚誤認』『媚薬』『神経麻痺』『惚れ薬』『鎮静作用』『催眠』が含まれている影響で彼が気づかないレベルで徐々に投与し身体を蝕み続けていた。

 そして、何よりマーリンは久しぶりの想い人との逢瀬で興奮していた為に能力と覇気に乱れが出てしまった。だがもう同じ轍は踏まないと心を落ち着かせたマーリンに、次イオリがまた勝てるとは限らない。イオリの能力を無効化した空間『華魈(かしょう)』は所謂、固有結界。天候を操作することが本領なイオリの能力にとって仮想世界の華魈では他人の世界の天候を支配する権限が無い。

 

「太極の君と万象の神であるボクの出会いは必然!何の因果か君は神の力を手に入れた。これほどボクに相応しい王は居ないよ」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 朝日が登り始めて白白明けを迎えた静謐な世界に浮かぶ静かな船からでんでん虫の呼び出し音が世界をノックする。

 

「俺だ。どうした?」

「あ!やっと出た。イオリ今何処にいるの?!ずっと連絡が無かったから心配したのよ?!」

 

 でんでん虫を掛けてきたのはナミであった。彼女はイオリの音沙汰が無かったことが心配で何回か連絡してきていたらしい。ビブルカードを見て生きていることは確認していたので海軍に捕まったんじゃないか、と不安に思っていた。

 

「おお、悪い悪い。すっかり連絡を入れるのを忘れてた。今はメリー号にいるがどれくらいで来れそうだ?」

「おいメリー号は無事なのか?!」

 

 どうやら会話を聞いていたらしいウソップが心配していたメリー号の所在を確認に割り込んできた。特に問題が無いことを伝えると直ぐにナミへと変わった。

 

「私たちはルフィが起きたらその日のうちに出発しようと思ってたんだけど、まだ起きそうにないのよね」

「そうか。どうしようもないだろうが出来るだけ急いだ方がいい。海軍がコチラの動きを探っている。後それとMr.2の一味も一緒にいるから早めに来てくれると俺的には嬉しい」

「あぁ?!それはどういうことだ!あのカマ野郎も一緒にいるのか?!」

 

 Mr.2・ボン・クレーは昨日の夜に「船を守ってあげるわぁ〜ん」と回転しながらやってきたが既にイオリとロビンが居たことで、役目が無く可哀想だったので大人しく仲良く飯を食べていた、とサンジに報告する。勝手にボン・クレーの一味が劇場を始めただけではあるのだが。それが余りにも煩く、鬱陶しかった為ナミ達に早く帰ってきて欲しいと弱音を吐く。

 

「兎に角無事で良かったわ。私たちはルフィが起きたらイオリのビブルカードを辿ってメリー号に帰るわ」

「あぁ、了解した。それじゃあ、また」

 

 ガチャッとでんでん虫の通信を切るとロビンがコチラに物言いたげな目線を向ける。

 

「私のことは報告しなくてよかったの?」

「直接お前がルフィに言ってくれ。それに…お前が知りたい歴史を知る俺の近くにいることがお前のメリットであり、Dの名を持つルフィの傍にいることもお前にはメリットがある。悪い提案ではないだろう」

 

 ロビンの記憶に色濃く残る燃え盛る巨大樹と共に死の慟哭が鳴る故郷の島。自らを犠牲にロビンを逃がしたサウロという巨人の元海兵。世界の闇を目の当たりにした彼女にとってのトラウマはバスターコールと大将青キジ。ただ歴史を知りたいだけで殺されるのは間違っていると声を大にして言いたいがソレを叶えるほどの力を持ち合わせていない。

 空白の100年とは何なのか。嘗て栄えた巨大な王国とは?あの日、五老星の指示で撃たれたクローバー博士の考察はあっていたのでは無いのか。巨大な王国と敵対していた20の王国。その20の王国の内、一国だけ地上に残ったのがアラバスタ王国。そのアラバスタに何故、巨大な王国側の物と見られる歴史の本文(ポーネグリフ)が存在しているのか。

 イオリの解答とロビンのこれまで集めた情報を元に歴史を組み立てていくとアラバスタ王国の当時の王がスパイのような行動を取っていた可能性が高くなる。

 

「歴史が必ず真実を語るとは限らない。彼らも俺の一族も皆歪んでいた。本来見据えるべき未来を見失った。彼らが敗北したのも『両儀』が世界の結末を急いだのも全て勝利に焦った敗者の末路」

「急に…なにを」

「オハラも然り。焦るな、ニコ・ロビン。お前は少々死に急ぎ過ぎだ。お前が生かされた理由を考えろ」

 

 真の歴史を知りたくて焦った結果がオハラの滅びに繋がった。たったの一割の歴史を知って全てを諦めた気になっているロビンは正に周りを見れていない証拠。彼女は自分に居場所なんか無いと諦めて、投げ出した。オハラの学者たちは次の世代であるロビンにその意志を託した。ロビンが生きている限り歴史の彼方に消えていった彼らは生き続ける。

 

「今は分からなくていい。次第に分かるようになる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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