「ちゃんと無事みたいだな」
地面に埋もれている大男を蹴り抜いて左前方へと吹き飛ばす。派手な登場を決めたイオリは刀を肩に担ぎ、懐かしい人間を見る目でアルトリウスをじっと見つめる。
「新顔合わせて13人丁度か。それで要求はなんだ?どうすればナミとウソップは
「君が大人しくボク達のモノになったらかな」
既にマーリンによる花の魔術が展開されている。他のメンバーも臨戦態勢に入っている。ピリッとした空気が漂う中、只管冷静に闘気も出さずに互いに見つめ合う白銀と金。言葉の無い会話を経た結果、得られた解答はただ一つ。
「マーリン予定通りだ」
「ウソップ!ナミを抱えて走れ!」
イオリは神速の斬撃を後方に放つと屋敷を完全にくり抜くように円柱の穴があく。ウソップの身体に少しの電撃を加え、中枢神経を刺激して半強制的に走らせると共に普段以上の出力を発揮させる。言われるがままに走り出すウソップは後ろから聞こえてくるこの世の物とは思えない音に振り向きそうになる。
「何があっても振り向くな!!!お前らは予定通り出航しろ!」
麦わらの一味出航まで約6時間。ヴァナディースからメリー号が停泊している場所までウソップの足なら2時間くらいで着くだろう。
「お前らの目的は俺だろう?」
人獣型へと既に変形していたイオリは彼らを追おうする円卓の座のメンバーを一人一人押さえつける。
第零席『“花の魔術師”マーリン』
第一席『“聖王”アルトリウス(本名:モルゴース・エレイン)』
第二席『“巌窟”バルボッサ』
第三席『“太陽の騎士”ガディウス』
第四席『“辺獄”ウルスズ』
第五席『“ムーサの姫”グィネヴィア』
第六席『“回帰”ミュルヘン・シュタイン』
第七席『“琥毒”アジャルクス』
第八席『“
第九席『“四元素”ククル』
第十席『“
第十一席『“壊塵”ハイリ』
第十二席『“無冠”ヨトゥン』
全員熟練の覇気使いであり、卓越した特技を持っている。そしてアルトリウス(イオリの記憶上)以外全員が能力者でもある。
「先にヒーラーを潰すべきか」
「それを許すと思うなよ」
既に二度、イオリに敗北しているハイリは“回帰”によって傷が元通りになっていた。円卓の座の異名は政府が個々の能力や戦闘方法によって命名している。つまり、異名から大体個人の力を推し量れる。
“無冠”のヨトゥンは二槍流の長い黒髪の巨人と人間のハーフ。その身長は10mくらいの大きさのため、持っている槍も巨大な丸太を振り回しているようなものだ。一振する毎にイオリの身体は風によって巻き上げられそうになる。彼の一撃を受け止める彼の刀を支える腕は悲鳴を上げている。
「一番下っ端でこれか?!だっははは!!!順番入れ替えた方がいいんじゃねぇか?!」
力点を上手く活用して押し返す。その際ちゃんと電撃を加えておくことも忘れない。イオリの状況は最悪だろう。海軍本部大将クラスの13人に囲まれているこの状況は正しく地獄。カイドウとタイマン勝負する方がまだマシだと思える地獄絵図。完全にハイになってるイオリは彼自身の腕から吹き出る血に更に気持ちが昂り、つい筋肉ダルマを煽ってしまう。
「ッテメェ!!!殺すッ!!!プルス───っ?!!」
「だはは!!だから単純なんだお前みたいなやつは!一刀雷仙・神避!!!」
ロジャーが扱っていた剣技を幾度となく見てきたイオリにその真似は造作の無いこと。神避を自己流にアレンジしてハイリを再び致命傷にする。
「先ずは一人」
放置していればアレは勝手に死ぬだろう。こいつらも俺を前に態々犬を蘇生なんて面倒なことはしない。マーリンとエレインはまだ動く気配が無い。何を企んでいやがる。
「あっ!忘れてた」
ハイリがやられたことで一瞬の静けさが訪れたのだが、マーリンによる素っ頓狂な声によって一同が彼女へと視線を向けた。
「君が来たら五老星に連絡するように言われてたんだった」
「なんでそんな重要なことを忘れる訳?!」
グィネヴィアが思わずツッコミを入れてしまうくらいにはマーリンの場違いな声に殺伐とした空気が若干緩んでしまう。でんでん虫の呼出音が何コールか鳴って暫く五老星と繋がったのかでんでん虫から渋めの声が聞こえてきた。
「マーリンか」
「彼が目の前に居るけど、一体何の用なのさ」
世界最高権力に対してこれ程フランクに話し掛けることが出来るのはマーリン位なものだろう。勿論、政府側の人間でだ。
「両儀イオリ。今すぐ投降すれば君が所属している麦わらの一味には手を出さないと誓おう」
「海賊を見逃すってことか?」
「羽虫等今後幾らでも潰せる」
「これは要求ではなく命令だ」
「君の身柄は政府が預かることになる。殺しはしない。
「生憎とルフィは海賊王になる男だ。それに俺の一番嫌いな存在は他人に自分の意志を強制してくる奴だ」
「そうか…残念だ」
「君ならコチラに来てくれると思ったのだが」
一体どういうつもりだ?これ迄俺を殺す為に何度も刺客を送り込んできた癖に今更拘束だけだと?歴史を解明する存在は一人残らず殺してきたのが今の政府のはずだ。
「あ、そういえばモンキー・D・ルフィはゴムゴムの実の能力者だよ。確実に殺しておいた方がいいと思うけど」
マーリンが放った言葉にでんでん虫の先に居る5人の老人は押し黙る。彼らの結論は決まった。
「余計なことを……」
マーリンがルフィの能力がゴムゴムの実であることを公開する。これ迄海軍の一部に知れ渡っていた情報を政府のトップが知ることになる。たかが悪魔の実の能力なら無視されて終わるところだった。しかし、ゴムゴムの実の真実を知る五老星からすればルフィは捕まえるか殺しておきたい存在へと移り変わる。
「ニコ・ロビンもいるみたいだし。殺しちゃって良いよね」
「そうか…では麦わらのルフィとニコ・ロビンは拘束して両儀・イオリと共に連行しろ。それ以外は好きにしたまえ」
ガチャっとでんでん虫での通信が切れると“世界蛇”と“自動書記図書”が屋敷に空いた穴へと走り出す。それを追おうとしたイオリへと二対の槍が雨のように降ってくる。
「ちぃッ!!!」
「行かせないよ」
マーリンは杖を動かして花の結界を作成する。これはアラバスタでイオリに使用した
「いや、もう遅い」
マーリンの能力はマギマギの実。魔力を纏い魔法や魔術を扱えるようになる能力。彼女の能力はどれも花を用いている。彼女が花好きというのもあるが、その花から放たれる魔法はどれも厄介なものばかりだ。花を使った結界法である華魈は閉じ込められてしまえば厄介なものだ。しかし、マギマギの実にも弱点が存在する。それは魔法や魔術を発動する際、核となる部分や魔法・魔術陣そのものを破壊されたら魔法・魔術の発動が出来なくなってしまうことだ。
華魈にも核が存在する以上をそれを破壊されたら結界は閉じること無く霧散する。今回イオリはマーリンの足元に
剃によって既に外に出た“
「おいおいおい!嘘だろ?!」
“
「何十年振りだろうか。貴殿と剣を交えるのは」
何処かの王様のような格好で両手剣を片手で振るう麗人アルトリウス。本名をモルゴース・エレイン。天竜人である。鍛え上げた技術から放たれる不可視の斬撃はイオリの左脇腹に裂傷を作る。
「グッ!…空のアレはテメェの仕業か?エレイン」
「フッ、そうだと言ったら?」
「悪魔の実は喰わない主義じゃなかったか?」
「そうでもしなければ貴方に並び立つことすら出来ないのでね」
想い人に名前呼びされて心臓がドキンとしてしまったエレインだが、鍛えられた表情筋でポーカーフェイスを貫く。月歩を使わずに空中にいるイオリと相対するエレイン。そこから空も飛べる能力だと仮定する。上空には巨大な隕石と見受けられる岩が何個も滞空していた。
イオリはヴァナディースの城下町の悉くを破壊しながらジャヤへと走る巨大蛇に視線を向ける。バジュラを操作して天候を嵐へと変える。もうすぐノックアップストリームが始まる。気候的にも嵐に近い状態になるため直ぐに空の機嫌が悪くなる。
「あれは単純にヘビヘビの実幻獣種モデル“ヨルムンガンド”であってそうだな。あのヒョロメガネは能力やモノを保存できる能力か?」
順当に円卓の座の新顔の能力を解明していく。マーリンの魔法によって何人かは空を飛べるようになっている。
「エレインもそうだが、厄介なのはウルスズだ。一旦あの蛇を片付けるとするか。喝采せよ。
万雷が降り注ぎ大地を焦がす。今日はどういう訳かヴァナディースに政府の人間以外誰も居なかった。だからこそ円卓の座もこれ程大胆に戦闘を行えている。故に、イオリが力を抑える必要も無くなった。
「
一筋の雷の蕾が“世界蛇”の周囲に迸ると眩い光が轟音と一緒に闇の世界を照らす。数億Vに及ぶ熱雷を照射されたことで“世界蛇”は動きを停止させる。
「動物系悪魔の実それも幻獣種ともなれば覚醒せずとも復帰は早いだろうが、これで暫くは動けまい」
「余り余所見はしないでもらおうか」
エレインは突如として膨れ上がったイオリの覇気に興奮していた。昔戦った頃よりも強くなっていることに。上空に滞空させていた隕石群の落下が始まった。ヴァナディース全土を破壊し尽くす星の激震は津波を誘発する。隕石全てを落としてしまえばジャヤをも巻き込む爆発が起きると予測したイオリは落雷を駆使して隕石の数を減らしていく。
「星位・金星『明けの明星』」
エレインの持つ剣から金色の光が輝き出すと光の聖剣を作り上げる。巨大な聖剣を童子切安綱で受け止めるが、余りにも重いその一撃に耐え切れず地面へと叩き付けられてしまう。
「…はァ…はァ…星の質量か?一体何の能力だ」
三本全ての腕で受け止めようとした為、荷重に耐えられず剣の重さにボキボキに折られてしまいダランと垂れ下がってしまう。
「
人獣型時に生えてきた左上手に顕現する神酒は対象の完全治癒と軽い興奮作用を齎してくれる一品。一口飲むだけで全身の痛みと三本の腕の骨折を治してくれる。身体を治しているところに邪魔をしてくる者もいる。当然円卓の座はソレを許す訳が無い。“無冠”による槍の応酬を躱しつつ、次の攻撃の算段を整える。
「
イオリの胴を貫く勢いで迫る黒槍を刀身で受け止め、
コンマ何秒で放たれる雷撃に咄嗟で武装色を纏うが完全には防御しきれない。
原作ではエネルもそうだが、何故雷が最強と言われているのか。確かに速度で言えばピカピカの実の方が強いんじゃないかって話もあるだろうが、断然雷の方が強いだろう。光の特性から速度と重さが凄いことは確かだ。余波で爆発もある。速度で劣る雷はそれ以下だと考える者も多い。しかし、雷もまた本来人間では捉えることの出来ない速度で電撃を浴びせるのだ。そして、雷は一億V程度だが、能力故に上限は鍛えれば鍛えるほど変化していく。
当たれば痺れ、広範囲の爆発を引き起こし、条件下によってはラグを起こさずにCrowd Controlを行える万能な力なのだ。故に最強。故に、マーリンは逸早く天候の操作を行えない結界内に閉じ込める必要があった。
インドラの能力は治癒効果も本来ある筈の攻撃のラグも無い非の打ち所が無い傑作品。“無冠”の爆発に巻き込まれて尚、その身は無傷である。
「だはははは!!3人目」
イオリの精神は正に最高にハイになっている。万全の準備を整えた
───────────────────────
「何だありゃあ!!?!」
メリー号でウソップとナミ、イオリの帰りを待っていた麦わらの一味はベラミーから金塊を取り返したルフィの治療と出航の準備を整えていた。急に地響きと共に衝撃波が飛んできたことでヴァナディース側の被害を理解したのだ。既に出航の準備は終わっている。後はナミ達が戻ってくれば出航する手筈だ。
「おーーい!!みんな!助けてくれぇ!!」
遠くから此方を呼ぶ声がした為その方向に顔を向けるとそこにはナミとウソップが走ってきていた。しかし、そこにイオリの姿が無かった。ゾロとサンジは直ぐに理解した。
「ナミ、ウソップ無事だったのか?!イオリはどうしたんだ!」
ルフィが2人の帰還に嬉しそうに尋ねるとイオリのワードに急に静かになってしまう。
「それが…私たちを逃がすために殿になってくれて…」
「えっ───」
「ルフィ出航だ。約束通り、時間にもなってアイツが来なかったらイオリを置いていく」
「なぁルフィ!それに皆もイオリを助けに行こうぜ!アイツを置いてくなんて俺には出来ねぇ」
ゾロの言葉にウソップが泣きながら懇願する。人情溢れる一味だ。特にルフィとウソップは仲間の存在が一番大事な事だ。イオリを置いていく選択肢なんて受け入れ難いことだろう。
「どういうことだよ…イオリを置いていくって!どうしてだよ?!アイツは俺達の仲間だろう?!」
ゾロは懐から一体のでんでん虫を取り出すと既に何処かと繋がっていたのか受話器が外れていた。
『ソッチは合流出来たみたいだな』
「?!イオリ!直ぐに助けに行くからな!待っ───」
『ルフィ、悪いが先に行っててくれ。政府の狙いは確かに俺だが、ロビンとルフィ、お前達もその対象に含まれている。いくら俺でも全員を引き止められる程の余裕は無い。だから
ロビンは自分の存在が見つかってしまっていることに驚きが隠せない。ルフィは言っている意味が分かっていないのか何とも言えない表情になっている。
『話すつもりは無かった。お前の冒険だからな。自由になんの使命もなく航海して欲しかったからな。ルフィ、お前の食べた悪魔の実“ゴムゴムの実”と麦わら帽子、そしてDの一族である限りお前の危険度は政府が目を離せない状態へと変わっていく』
「何だよ。俺だってDの意味なんて知らねぇよ。それにこの帽子はシャンクスから預かった帽子なんだぞ」
『それは元々ロジャーが被っていたモノだ。Dの意志は何れ自分で分かる時が来るだろう。だが知っておいた方がいいのは悪魔の実だ。お前の食べた悪魔の実は───』
「ホントに良いのかよ?!ルフィ!!仲間を…っ!!見捨てるのかっ?!!」
ウソップの声が響く。でんでん虫による通信は切れた船内の空気はどんよりと重く暗い。誰よりも情に熱いウソップだからこそ敵の脅威を知っていて尚、仲間を見捨てるなんて非情な行為を受け入れられない。
「島を見てみろ」
ゾロの視線の先には降り注ぐ隕石に燃え盛る街、悪鬼のように暴れ尽くす巨人の姿、止めどなく繰り返される爆撃、地獄絵図を体現した世界が広がっていた。一同はその惨劇に言葉を失う。無力な自分を呪いたくなる。
「イオリは強ぇ野郎だ。今の俺たちに出来ることは逸早く出航することだ。ルフィ──お前はどうする」
「───出航するぞ!」
ルフィの合図でメリー号はノックアップストリームへと向かっていく。後ろから丸太船に乗った海賊達が迫ってきていたが、天高く空へと打ち上がる海流に木っ端微塵となって沈没。麦わらの一味は空島へと冒険に向かっていく。
───────────────────────
「お前の悪魔の実は動物系ヒトヒトの実幻獣種モデル“太陽の神ニカ”」
マーリンの魔法が展開され、エレインの絨毯爆撃を躱し、グィネヴィアの体術を受け流し、ウルスズの金属の攻撃を避ける。ジャヤ方面に目を向ければメリー号が出航を始めているのが目に入る。過激な戦闘下ででんでん虫で連絡を取れるのもイオリに少し余裕があるからこそだ。それでも円卓の座全員を相手に五体満足で生き延びれるとは思っていない。
『太陽の神…ニカ?』
「この世界で一番自由だった戦士だ。まぁお前の能力だ。自分の好きなように扱えばいい」
『な…に言って…だ…よ。イオリは大事な仲間だ!!置いてく訳にh───』
「これはお前の航海だ!今ここで俺なんかの為に立ち止まっていい訳がねぇだろ。安心しろって──必ず戻る」
『イオリ!必ず戻って来なさいよ。ここでお別れなんて許さないんだから!』
でんでん虫を切る直前に新しい航海で一番仲が良かったナミから激励を貰い思わずニヤケてしまう。攻撃の応酬を散々避けてきたイオリが急にその動きを止めたことに違和感を持つマーリンは警戒を怠らずにその真意を伺う。
「鬼ごっこはもう終わりかい?」
「生憎と死ねない理由が出来た」
「妬ましいな。そこまで貴方を虜にしてしまう彼らが羨ましいよ」
覚悟を決めたイオリにも陰りは無くなった。ロックスの時もロジャーの時も形は違えど大事な仲間だった。産まれた時から孤独だった彼にとって仲間の存在は彼の精神を支える支柱だった。だからこそ解散した時の喪失感も果てしないものだった。二度と仲間なんて呼ぶような関係にはならないといつかは荒んでいた頃もあった。
「天竜人も嫉妬するんだな」
「神と畏れられてはいるが我々も人間だ。強欲で傲慢なだけの豚共と一緒にしないでもらおう」
そう、たまたま彷徨っていた東の海でロックスやロジャーに似た若者を見つけた時は奇跡かと思った。最初は途中で船を降りようと思っていた。自分の存在が枷になると分かっていたから。ナミとの約束を守り、彼らに身の上を話した。彼らは俺を仲間と認めてくれた。それだけで、それだけで俺は────
「───帰る場所があるってのは幸せなことだ。それを支配しか出来ねぇお前らが同じ幸せを供給出来るかよ!!だっはははは!!!」