ヴリトラハン   作:雀盆

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書きたい場所まで少しの辛抱…


嘘吐きとクロネコ 後編

 

 

 時は少し遡り、場所はルフィ、ゾロ、ウソップが陣取るもう一つの海岸。彼らの目の前にはちょうど朝日が顔を見せ始めた頃、海賊船が一隻坂の下に着岸した。

 ウソップ秘策の油による坂のコーティング、高所を活かした戦闘を行えるこの状況。彼らの放つ闘気は下船したばかりのクロネコ海賊団の面々も気づくほどの強大。

 

「ありゃりゃ、ジャンゴ船長!坂の上見てください!」

 

「なんだァ?あの野郎確か。暗くて良く見えねぇがあの特徴的な鼻。間違いねぇ。ちっ!やっぱり邪魔しに来たか」

 

 海賊たちがこちらに気づいた以上、黙って登ってくるのを待つ必要などない。今からシロップ村の静かな攻防が行われようとしていた。

 

「やいやい、俺様は海の勇敢なる戦士!キャプテン・ウソップ様だぁぁああ!!俺には一億人の部下がいる!!!」

 

 嘘丸出しの口上によってウソップへと全視線が突き刺さる。誰が聞いても嘘だと分かるセリフに下にいる海賊たちも嘘だと判断していた。一人を除いて。

 

「なにィ!?一億人だと!!まずいぞ!」

 

「嘘に決まってんでしょうが!」

 

「嘘だったのか?!」

 

「本当に信じやすい人だな」

 

「よくもこの俺を騙してくれやがったな。こっちは時間を無駄にする訳にはいかねえのによ」

 

 ジャンゴの号令により海賊たちは坂を登り始めたが、そこにあるのは大量の油と鉄のまきびし。傾斜は大してないが、誰がどう見ても登るのは困難な坂だ。

 そして、ジャンゴお得意の催眠術も既にリングを見ない対策を取っているルフィたちは油を抜けてきた彼らをまた下に落とすだけの作業となっていた。

 

「これは何とも詰まらん作業だな」

 

「文句言うな。これで島を守れるんだからイイだろう別に」

 

 この単純作業にゾロは欠伸しながら眺めていた。最初こそ刀で斬っていたが、ほぼルフィが一人で突き落とすせいで手が空いてしまった。

 

「この役に立てねえ野郎どもだ」

 

 一方的的に倒されてしまった仲間に苛立ちが隠せないジャンゴは内心焦っていた。クロが練った今回の計画。少しでも計画に狂いがあればクロに殺されるのは自分たちであると。

 使えない仲間を捨ててジャンゴ自らがルフィの相手をするしかないと判断した彼は催眠術を掛ける際に使用しているリングを取り出す。彼のリングはチャクラムにもなっており、遠距離と近接どちらも対応している。

 

「仕方ねえ。この(ワン)(ツー)・ジャンゴ様が相手してやるよ」

 

「おい、ルフィ。あいつ俺が相手していいか?」

 

 ジャンゴの武器に興味を持ったゾロは自分の獲物だと言わんばかりに刀を構える。ルフィは鼻をほじりながら「あぁ、いいぞ」と軽く返す。

 ゾロとジャンゴが対面、下っ端海賊も打ち倒された事実はクロネコ海賊団の敗北を物語っていた。ルフィは残る相手は屋敷に居るクロだけだと屋敷の方を睨む。

 

 一方、カヤの屋敷ではメリーを斬ったクロが護衛や執事を全員始末し終えていた。後はジャンゴらが村を襲撃するのを待つのみであったが、約束の時間が過ぎても彼らが現れることはなかった。自身の計画が狂っていることに苛立ちが隠せないクロの元にカヤがたまたま起きて来てしまった。

 

「いやぁああぁぁぁ!メリー!!」

 

「ちっ、気づかれたか」

 

「クラハドール!助けて!メリーが?!」

 

「お嬢様安心してください。すぐに貴方も同じ場所に送ってあげますから」

 

 カヤは声にならない悲鳴をあげ地面にへたり込む。クロは本来の計画とは違うがすぐに修正し、カヤを捕らえると屋敷を後にする。

 

「クラハドール!貴方なんでメリーをみんなを!」

 

「ふっ、昨日あの薄汚いホラ吹きが言っていただろう。あれは事実だ」

 

「───っ!?」

 

 カヤはクロの腕の中で半狂乱に暴れる。前日まで信頼していた執事がウソップの言ったように海賊だった事実に声を失う。

 

「大人しくしているんだな。用を済ませたらすぐに貴様も殺してやる」

 

 クロが今向かっている場所はクロネコ海賊団が来る海岸。村にも約束の場所にも時間通り来ない彼らを全員殺すためにその自慢の脚力で向かっている。

 

「おい、ウソップ!なんかこっち来るぞ」

 

 ゾロとジャンゴの戦闘を観戦していたルフィは野生の勘で近づいてくる存在を知覚した。疾風の如き素早さで風を斬るように近づいてくる。

 

「おい!これはどういうことだ?!」

 

 林を抜けその姿を表したのはカヤを抱えたクロ。彼の指の先には10本の剣が付いている。カヤは意識を失ってはいるが、クロの持ち方が乱暴で苦しいそうに呻いている。

 

「カヤ!!!おいお前!カヤを離せえ!!」

 

「誰かと思えばホラ吹きのウソップ君ではないか」

 

 手首でズレたメガネを直すクロはウソップを目に捉えると嘲笑うようにカヤを踏み付ける。

 

「君程度が俺の計画を邪魔出来るわけがない。そちらの外のヤツらのせいで狂ったということか」

 

「いい加減にカヤから離れろお!!」

 

 地面に倒れているカヤをグリグリと踏み付けるその姿にウソップは怒りを堪えることは出来なかった。カヤは踏みつけられた痛みで目を覚ましたのか、痛みで悲鳴を上げる。雄叫びを上げながらクロに飛び掛かるウソップであったが、簡単に避けられてしまう。

 

「ふむ、そういえば君には一度殴られたな」

 

 大振りの拳を身を後ろに引くことで避けたクロは隙だらけの全身を斬りつける。クロは元々ウソップの存在を無かったかのように再びクロネコ海賊団とルフィたちの方に視線を傾ける。

 

「3分だ。3分で貴様ら全員抹殺してやる」

 

 クロは殺気溢れる血走った目で仲間諸共全員殺すと宣言。当然、そんなこと容認出来ないルフィは一歩前へ踏み出す。

 

「ゴムゴムの銃!!」

 

「ちっ!悪魔の実か!」

 

「そうだ!俺はゴムゴムの実を食ったゴム人間」

 

「もう辞めて!クラハドール!まさか本当に海賊だったなんて。私の財産が欲しいなら全部あげるからこの村から出て行って!」

 

「これは驚いた。だが俺が欲しいのは平穏だ。だから海賊が来たことによってカヤお嬢様は事故死、財産も全て俺のモノ。お嬢様を殺す未来は変わらない!」

 

 涙を溜めながら訴えるがクロにはもう響くことは無い。元々血も涙も無い海賊。三年執事として散々カヤに尽くしてきた事実はキャプテン・クロとして名乗ってきた男からすれば屈辱の日々だ。病弱の小娘のためにご機嫌取りをしてきた辱めはプライドの高いクロには到底看過できる要件ではなかった。

 

「カヤ!よせ!逃げるんだ!殺されちまうぞ!」

 

 現在カヤはウソップに守るように立っている。男が女に守られている。そんな状況もまたクロの自尊心を高める要因になった。

 

「ふふふふははははは!情けない男だ。嘘をつくことしか脳の無い男が好きな女に守られるとは。こんな情けない話があるか」

 

 ウソップが密かにカヤに想いを寄せていたのは執事になって三年も経てば理解する。毎日毎日カヤの元に足繁く通っているのだ。想いを寄せて居ないのであれば相当お人好しである。

 

「俺は勇敢なる海の戦士になる男!キャプテン・ウソップだ!!!村の者には絶対に手は出させない!!」

 

 ウソップは涙と鼻水を垂らしながら必死に海賊たちの侵入を防ごうと叫ぶが、それを海賊たちは嘲笑う。女の前で情けなく大泣きするウソップを腹を抱えて笑う。クロもまた例に漏れず静かに嘲笑する。

 

「わる執事。お前の相手は俺だろ。もう一度ウソップを笑ってみろ。俺がお前らを殺す」

 

 今まで黙って聞いていたルフィはクロネコ海賊団の行為を許す程薄情な男ではない。

 

「旅の人間如きがかつてキャプテン・クロと恐れられた俺に強く出たものだ」

 

「ゴムゴムの銃!!」

 

「遅い!」

 

 ルフィのパンチを軽々ジャンプで避けたクロは、ルフィの伸びきった腕を走りそのまま突撃する。

 

「んにゃろっ!ゴムゴムの槍!!」

 

 二人の戦いは近接戦闘だがクロの猫の手によるリーチのおかげで徒手空拳のルフィは後手に回ってしまう。

 

「一応殺す前に聞くが、ゴム人間。何の理由があってこの村を守る。お前には関係ないだろ」

 

「死なせたくない男がいる村だからだ!」

 

 弱気でも泣き虫でも怖くても男が覚悟を決めたのだ。戦う理由として十分。

 

「遺言はそれでいいのか?」

 

「ああ、俺は死なねェけどな!」

 

「ただ身体を伸ばすだけでは無いみたいだな!」

 

 クロの素早い動きに最初こそ手間取っていいたが、目が慣れてきたルフィは単調な攻撃ばかり仕掛けるクロが突撃してくるタイミングで大きい岩を盾にして防ぐ。岩に突き立てられた右手の猫の手が頑丈な岩に負け根元から砕けてしまう。

 

「海賊が平穏に暮らす?海で名を上げることを恐れて海賊なんてやれるか!野望のデカさなら俺の方が上だ!」

 

「うわぁぁクロさんがやられちまったァァァ!!」

 

「バカ!俺らのクロさんが負けるわきゃねえだろ!!」

 

 クロにとってこれ程の屈辱は今まで無かった。海賊時代から己の静かな剣技によって修羅場を一方的な殺戮に変えてきた男だ。当然だが自身を負かすような男に出会ったことは無かった。ようやく念願の計画を実行しての末路。理性を覆い尽くす程の焦燥が己の野心を狂わす。

 

「黙れ。貴様らは俺の生存を知る以上、元より全員殺す。旅の小僧に俺の三年の計画が狂うなんて有り得ない!!」

 

「ほんとカッコわりぃ海賊団だな」

 

 ルフィの知るカッコイイ海賊像とはかけ離れている。クロに殺されるのは嫌だが、クロがどこぞの馬の骨に負けてしまうのも嫌な彼らは矛盾した感情に右往左往して騒いでいる。

 

「何を今更、元々海賊は世間からはみ出た野犬の集まり。脳の無い奴を俺の計画のために使ってやってるんだ。俺のために死ぬ。これが海賊の一般の在り方だ!旅の小僧が舐めた口聞くな!!!」

 

「お前がどれだけ偉くて何人部下を従えようとウソップには勝てねぇ!」

 

「この俺が一体何に勝てないのか言ってみろ!小僧!」

 

 神経を逆撫でするルフィの態度に顔面を真っ赤にさせ、瞬間移動の如く素早く後ろに回り込んでルフィの背中を狙う。しかし、ルフィは全て読めていたかのように振り向き様に鳩尾へパンチを繰り出す。

 

「器!」

 

「ガァッ!!!…ァ゛!?ゴフッ…何が器だ。てめぇに海賊の何がわかる!ここまで侮辱されたのは初めてだ」

 

 クロは血を吐き出しながらヨロヨロと立ち上がると全身の力を抜いて全身に殺気を纏わせる。クロの「杓死」と呼ばれる技だ。近いもので言えば海軍将校が扱う剃に似た技だ。

 

「全員皆殺しだ。杓死」

 

 クロが音もなく立ち消えた海岸は一瞬の静寂を迎えると直ぐに海賊たちが逃げ惑う声に覆われた。逃げる海賊たちが一歩踏み出す前に次々とその身体から切り傷を作って倒れていく。悲鳴の音のみ流れる殺戮ショーに主役の姿は見えないまま展開される死の狂宴は花となる死体が次々彩られていく。

 

「仲間をなんだと思ってるんだァァァァァ!!!!ゴムゴムの銃!!!」

 

 人の目には見えないほどの速さで次々と海賊たちを斬り裂くクロにルフィは強烈なパンチを叩き込む。ルフィは目に追えてないが野生の勘で何故か目標を捉えていた。

 

「ようやく捕まえたぞ!執事」

 

 攻撃されて杓死の動きを止められたクロは蹌踉めいた隙に両腕を掴まれてしまう。

 

「俺は海賊王になる男だ!覚えとけ!ゴムゴムのォ!!!鐘ェ!!!」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 こうして村の誰にも(一部除き)知られることなく海賊の魔の手から救ったルフィたちはカヤの屋敷へと招かれ、

「あら、船を探しているのでしたら、メリー。ね、いいでしょう?」

「カヤお嬢様を、村を救ってくれたのです。是非、貰ってください」

 と、一連の会話を経て北の海岸へ案内された。

 

 ウソップだけはカヤの招きを断り、家で荷物の整理を行っていた。

「俺は何もしてねえよ。ただ情けなく倒れていただけだ」

 自身は何もしていないと告げたウソップだったが、現場を見ていたルフィ、ゾロ、そしてカヤは否定した。海賊相手に啖呵切った男が何もしてない訳が無いのだ。情けなくてもクロ相手に立ち向かった功績は大きい。

 それでも男としてプライドが許せないウソップは歓迎を受ける訳にはいかないと一人、屋敷ではなく家へと帰って行った。ウソップは海賊団ごっこをしていたメンバーにんじん、ピーマン、たまねぎを呼んで解散式を執り行っていた。

 

 場面は戻り、北の海岸。ルフィ、ゾロ、イオリ、ナミはカヤと共に北の海岸線に行くとそこには執事のメリーと大きなキャラヴェルが浮かんでいた。

 

「こちら少々古い型ですが、カーヴェル造り三角帆(ラティーン・スル)使用の船尾中央舵方式キャラヴェル。『ゴーイング・メリー号』でございます」

 

 羊の船首の中型帆船に思わずみんな見惚れていた。続けてメリーは動索の説明を始めたのをナミが聞く。男衆は皆長い文章が苦手ですぐ忘れると分かっている。

 

「航海で必要そうなものは全て積んであります。それとイオリさんとナミさんの荷物も移してあります」

 

「ありがとう!踏んだり蹴ったりだな!」

 

「至れり尽くせりだ、アホ」

 

 説明を聴き終わったナミは荷物の確認のために先に船の中へと入っていく。カヤとメリーは改めてルフィ、ゾロに感謝を述べる。別れの時間ももうそろといったところで、坂の上から悲鳴ともに丸い物体が転がり落ちてくる。

 

「ぅゎぁぁあああああああああ」

 

「このままだと船にぶつかるな」

 

「止めるか」

 

 ルフィとゾロの二人の足で止められた物体は大荷物を背負った長鼻のウソップだった。ウソップの荷物を見てカヤは顔を歪める。

 

「やっぱり海へ出るんですね。ウソップさん」

 

「ああ、俺は勇敢なる海の戦士になるんだ。決心が揺れちまうんだから止めてくれるな」

 

「ふふ、止めません」

 

「今度この村に戻る時はウソよりウソみてぇな冒険譚聞かせてやるよ」

 

「うん。楽しみにしてます」

 

 カヤは笑顔で送り出す。自身の決心も揺れないように。

 

「お前らも元気でな。またいつかどこかの海で出会っ────」

 

「何言ってんだよ。早く乗れよ」

 

 密かに想いを寄せる人が夢の為に村を出る。流れるように嘘を吐く人は優しい嘘を吐き続けた。両想い。死ぬかもしれないあの状況で場違いながら心が踊ってしまった。ようやく繋がった想いは実ることなく離れていく。船が離れていくまで泣く訳にはいかない。悲しさに寂しさに今涙を見せる訳にはいかない。男が夢を追い掛けるのだ。女はその勇姿を再び見せに帰るまで悠然と待つ。

 

「良かったのですか?引き止めなくて」

 

 地平線の彼方へと消える船を見送りながらメリーは問い掛ける。

 

「私は強くならないといけないから」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「よし!新しい船と仲間に!」

 

「「「「「乾杯!!!!!」」」」」

 

 船出新たに一人の仲間と船を加えて麦わらの一味は東の海を進んでいく。

 

 彼らの次訪れる場所は荒くれ者が料理人をしている海上レストラン『バラティエ』

 

 

 

 

 

 




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