ボーダー万年A級最下位のやべー奴らがいるらしい………いや、ウチじゃん   作:しゅう@ハーメルン

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謝罪ってのはなるべく早い方がいい

 

 

「昨日はほんっとうに申し訳ございませんでした……!!」

 

 

 某日早朝。

 開口一番、剣城は美しい土下座をかました。

 

「あわわ、えーと、と、とりあえず頭を上げてください剣城さん。そんな、僕たち気にしてませんから」

 

 頭を床に擦り付ける剣城を見下ろすのは、来馬辰也。昨日川平(クズ)の仕掛けたドッキリに引っかかり、本部で盛大にひっくり返った男だ。

 しかし、流石は仏の来馬。C級も多いランク戦のロビーでドッキリをかまし大恥をかかせるというとんでもないことをしたにも拘らず、剣城の誠意ある謝罪にはまっすぐ好意で返せるという好男子っぷりである。

 

 ───なお。

 

「ふむ、さしもの御曹司でもやっぱ他人が土下座してるのは申し訳ないと思うものなんだね。それか来馬さんが優しいのか………許してもらえそうでよかったですね、剣城隊長」

 

「よし、川平はもう二度と口開くなよ」

 

 当の本人は全く反省していなかった。剣城の気苦労は全く絶えない。

 

「大丈夫。心霊ドッキリは思ったより映えないこともわかったのでね、心配しなくても二度としませんよ」

 

心配してんのそこじゃないし! というか何だよ映えるって……迷惑行為に謎の美学持ち込むなよ。読者人気出ちゃうだろ」

 

「隊長こそどこの心配してるんです………?」

 

 何の懺悔もなく笑う川平に微妙にズレた説教をする剣城。

 実際他がイカれすぎてるだけで割と剣城さんも変人だよね……とは、彼のことをよく知る隊員が口を揃えていうことである。

 

 因みに、ここでの「映える」とは単純に川平の心が踊るか否かの話であり、写真に撮っているとか謎の美学があるとかの話は全くない。要はほぼ出鱈目である。やはりクズの言葉は信用してはならない。

 

 と、こうして二人が言い争いをしている様子を見て、心を痛めているものが一人。

 

「………その、本当に気にしてないからね。わざわざこんな朝早くから支部に来てくれるのは謝罪としてはいいと思うけど、そこまで手間取らせるほどのものではないし」

 

 それとなく剣城たちの健康を気遣う来馬。

 そもそも来馬がこんな早朝に支部にいるの自体、昨夜ランク戦の戦術を思いつき早く検証がしたくて急いで出てきただけで、半ば予定外のようなところがある。だというのに、いつもより早くボーダーに来ている彼よりさらに前から待っていた剣城たちは、果たしてどれだけ早くから支部の前にいたのやら、という話で。

 実際、剣城の目元には薄く隈が浮かんでおり、そんな苦労をしている彼らがさらに言い争いまでしているとなると、最早慈悲の化身来馬には怒るも何もなくなってしまうのだ。

 

「と、とは言いましても…………やはりこちらの隊員による度重なる非礼には日頃から胃を痛めていまして、ここはお言葉に甘えるわけには………」

 

 と、剣城はなおも食い下がろうとする。

 

 だが、来馬はその言葉に苦笑いを返すと、言いにくそうに

「いや、何というか………ボーダー職員なら、川平くんの悪戯はもう慣れっこだからさ………」

 と返した。

 

「…………ううっ」

 

 そして、剣城の胃にはさらなるダメージが入る。

 気遣いが痛いと感じるのは、今日で…………具体的な数が言えないくらいの回数目、であった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「川平ぁ…………頼むからさぁ、こういうのやめてよね。君の悪戯のせいで深夜の防衛任務から徹夜で待つの、僕もう何回目かわかんないよ」

 

「………? それは隊長の記憶力がないからでは?」

 

「そういう話はしてないんだよねぇ!!!」

 

 鈴鳴から本部への帰り道。

 時間が時間なので、まだ出歩く人は見えない。住宅に囲まれた細身の一車線道路は、ただ東から差し込む曙色に照らされるばかりである。道を囲む石塀もその凹凸で光が乱反射し、まるで露に濡れたようだ。

 

 

「ふっ、朝日って………いいもんですね」

 

「話逸らすなよ。君どっちかっていうと夜型だろ」

 

「いや、仕事で徹夜する時は大抵昼まで起きてるので朝型でしょう」

 

「ひぇっ。え、エンジニアの闇を見た………」

 

 バキバキにキマッた川平の目を見て思わず震える剣城。ボーダー古参の彼は今まで幾度もデスマーチ中のエンジニアを見てきており、その時期の彼らとはあまり関わってはいけないということを経験則で知っていた。

 そうして怯える彼にカラカラと意地の悪そうな笑みを浮かべながら、もう辞めましたからご心配なく、と川平が言う。

 

 実際、オペレーターに転向した川平にはもうエンジニアとしての義務はない。仕事としても偶に人手不足の際に呼ばれるかどうかで、最近はめっきり過労死案件からは遠ざかっていた。故に、そのほかの徹夜は大抵が彼の趣味由来、自主的なものである。

 ─────そして、まあ、彼の趣味というのはつまり。

 

「ちょっとドッキリ用のトリガー作ってるだけですから」

 

「ウチの隊室めっちゃ私的利用されてるゥーーー!!!」

 

 因みにA級なのでトリガー改造は何も問題ない(職権濫用)

 

「私的利用とは失礼な! ゴキブリ型ビーコン! 当たると血飛沫のように付着する鉛弾(レッドバレット)!! 切れない代わりに無限に伸ばせるスコーピオン!!! それぞれに明確な利点がある! どこをどうとっても利便性しかない完璧なデザインでしょう!!」

 

「その結果として明らかに人間を驚かせるのを意図してるのばっかりだから問題なんだよ!!!!」

 

「はっ! その遊び心こそが僕の改造トリガーの特徴にして特長だというのに………やれやれ、偉い人にはそれがわからんのですか!!」

 

「はい遊び心!!! 今遊び心って認めたー!! 近界民への精神攻撃とかじゃなく完全に遊びって言い切ったよね!?!?!」

 

あっ………ひ、引っ掛けましたね隊長! 誘導だ、これは誘導尋問だ!!」

 

「はいはい。お話は署で書かせていただきますー」

 

「ぬわーーーー! 僕は何も悪いことはしてないのにーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ」

 

 

「なんです隊長」

 

 

「なんで僕ら、いい歳してこんなことではしゃいでるんだろうね」

 

 

「………深夜の魔力?」

 

 

「もう朝だよ………」

 

 

 

 雀たちの歌声と共に、二人の男の力無いため息が響く。

 徐々に広がっていく空の青色を見ながら、剣城は睡眠の重要性を改めて実感したのだった。

 

 






 因みに、彼のドッキリは本当にトリガーの有用性実験を兼ねているから許されているという裏の面もある。プロは趣味と実益を両立させるのだ………!!

 なお身内で実験すればいいじゃん、という上層部の意見は全て黙殺した。
 やっぱダメだこいつ。
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