ボーダー万年A級最下位のやべー奴らがいるらしい………いや、ウチじゃん 作:しゅう@ハーメルン
「いってぇ〜…… あの野郎、まじで覚えとけよ…………」
トリオン体を解除しても未だ痛みの残っている気がする胴をさすりながら、俺は昼ごはんを食べていた。
時刻は先程の折檻のせいで少し遅れて午後二時ごろ。食堂はすでに井戸端会議に花を咲かせる奴らが残るのみで、喧騒も普段の半分ほど。食堂の真ん中に居るはずなのに、あたりからはなんの料理の匂いも漂ってこない。
今にも背と腹がくっつきそうな空腹感にうめきながら、俺は漬物定食───唯一売れ残っていた人気ワーストメニュー────を頬張っていた。
ちなみに加えて言えば、俺は漬物が嫌いである。
「はあ〜くそっ、不味いし……マジでクソすぎる……」
箸を進めれば進めるほどに、苛立ちは増していく。
別に食事へのこだわりなどないが、この俺がそんなものを食わされる羽目になっているというのが気に食わない。というかありえん。そもそも食事というものは本来誰にも邪魔されずあるべきものであって、それが俺の場合は尚更────
「あら、相変わらずドブを煮詰めたみたいな汚い顔してるわね。どうせまた自分に酔ってるんでしょうけど、それ気持ち悪いからやめた方がいいわよ」
はいカス。
今この瞬間世界で最も感情の乱高下が激しかったのは俺だったと確信できるくらい気分を損ねました。
現れたのは優亜。俺と同じ定食の乗ったお盆を持っている。コイツもこれから昼食らしい。
「………………」スッ
「ちょっと。さらっと空いてる椅子の前にお盆を移動させるのやめなさいよ。私が座れないじゃない」
「そりゃ座れないようにしてるからな」
チッ、と舌打ちが聞こえてくる。
俺はそれを素知らぬ顔で無視。だが、優亜は結局自分で盆をどけると、俺の正面の席に着いた。
「んっ………ふーん。まあまあイケるわね。所詮噂は噂かしら」
きゅうりの味噌漬けを箸でつまみながら、そんなことを呟いている。
「……これがうまい、ねぇ」
一口噛めば、その瞬間に口に広がる不快感。食感も風味も、全て最悪。
昔から、食の好みがコイツとは合わない。味音痴というわけではないのに、常に評価が真逆になるのだ。だから、何かを食べるたびに喧嘩になる。
そしてそれは、今日も同様であった。
「ババくさい舌だよな……漬物好きとか。ないわー」
「は? 健康的と言ってくれるかしら? そっちこそ、肉にお菓子に、味の濃いものばっかり……ガキじゃあるまいし」
「舌が若いんだよお前と違ってな。まっすぐな心を持っているから料理に対しても正直な味を感じ取ってしまうんだなぁ……」
「わけわかんねぇ理屈こねてんじゃねぇよ。……いや、心がネジくれてるからそんな言葉しか言えないのね。嗚呼かわいそうな令仁!」
「おーおー、血管ピキピキで草。せっかくの美しい(笑)お顔が台無しですよ?^_^」
──がるるるるる。
しばしのにらみ合い。もしここが公衆の面前でなければ殴り合いに発展していたところだ。
ただ、いつも通り始まったケンカなら、やはりその結末も同様に、ということで。
「でな、そこで俺が旋空でズパッと斬ったら、ちょうど海が────」
「「!!!!」」
その声が聞こえてからの俺たちの行動は速かった。
表情を端正なものに戻し、箸の握りを整え、互いに礼儀作法に完璧に則った食事を再開する。
そして、自分たちの前にその人物が現れると、何事もなかったかのように笑うのである。
「あらこんにちは生駒さん、嵐山さん。今からお昼ですか? ずいぶん遅いですね」
「俺たちもちょうど今食べ始めたところなんです。よかったら一緒にどうですか?」
ふっ、完璧。
まあ本当は飯は一人で食べたいんだが、このビッチと二人きりになるよりはマシだ。嵐山と生駒*1なら悪いようにはならんだろ。
「……えっ、今俺に話しかけたん? あかんやろ俺は。ただでさえ嵐山がおるのに剣城隊まで加わったら俺場違いすぎて完全に不審者なってまうやん。ボーダー初の逮捕者なってまう」
「大丈夫だ生駒、少なくとも犯罪ではないから逮捕はされないぞ」
フォローすんのそこ?
……なんか急に不安になってきた。
もしかしてコイツら「心穏やかな食事」からはかけ離れた人材なんじゃないだろうか。
見れば優亜の方も微妙に笑顔が引き攣っている。どうやらこいつも同じような不安に駆られているらしい。
とはいえ、今更「やっぱやめましょう」とは言い出しづらいし………うーん、どうするか。
いまだに漫才を続ける二人を横目に、俺はしばし箸を休めて考え込む。
そして。
────まあ最悪優亜に全部押し付ければいっか!!
「そんな遠慮しなくていいですよ。人間顔よりも中身じゃないですか。生駒さんの人好きの良さはボーダー随一ですよ」
「そうです。それに、生駒隊はランク違いであんまり絡みがなかったですから、私も是非お話ししたいです」
「ふ、二人とも───!」ジーン
「よし! じゃ、遠慮なく座らせてもらうか。ありがとう有星、麻野」
そうして、俺たちは二人の同席を許すこととなった。
……まあ生駒が「流石に女子の隣は……!」と騒いでこっちにきたのは想定外だが、取り敢えず優亜の足を踏んづけるだけですましておく。
ハハハ、ムカついても顔に出さないのは辛かろうて。
優亜の苦しむ顔があればまずい飯も美味くなるな。これもライフハックってやつか。
次回に続く!!!