鬱ゲー世界の住民が透き通った世界に来たら   作:無名戦士

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クロスの相性がとんでもなく悪い事は分かっているんだ…。
それでも私は書きたいんだ!!!


第三話:墓標

 気付いた時、私は森の中に戻って来ていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 もう何を信じればいいのか、分からない。

 怖い。何が本物で、何が偽物なのか何一つ信じられない。あの時見た異常な光景、子供が実物の手榴弾を投げ合う光景を見てからという物の全てが可笑しいように見える。

 あの犬の住民も、ロボットも、頭に天使の輪のようなものを浮かばせる学生たちも何もかもが信じられない。

 

「いや、もういやぁ……」

 

 帰りたい。元居た場所に……。

 戻りたい。本来あるべき日常に……。

 どれだけ願っても叶わぬことだという事は理解している。理解している筈なのにどうしても求めてしまう。

 あの異常な光景を見た後だと余計に。

 ありえない。子供が、ましてや人間が手榴弾の爆発をほぼ至近距離で受けてもなお、五体満足で済むことなんてまずありえない。

 小型種BETAですら大なり小なりダメージを受ける筈だというのに、あの子供たちは平然と立っていた。目立った外傷もなく、精々衣服が破ける程度。

 あれを見て逃げるなと言われる方が難しい。誰だって驚くし、逃げたくもなる。

 

「頑張れ、私……」

 

 挫けそうになる度、何度も自分を励ます。

 ここで諦めたら仲間を侮辱してしまうから、あの人たちの死が無駄になってしまうから……。私はまだ壊れちゃ、いけないんだ。

 だから、耐えるんだ。

 

 肉ではなく。心が、痛い。

 誰も彼もが死んだ。私だけが生きて、皆が死んだ。

 私だけを置いて、皆行ってしまった。

 何をすればいいのか、分からない。どうやれば皆の死を無駄ではなかったと証明できるのかが分からない。 

 寂しさで押しつぶれそうになる。

 モモフレンズのキーホルダーをギュッと握り締め、寂しさを紛らわそうとした。

 私は弱い、本当に弱い。誰かが居ないと私はこんなにも弱い。

 果たさねばならぬ責務があるというのに、皆の屍の上に立っているというのに全てを捨てて逃げ出したくなる。そんな自分が嫌いだ。悲劇のヒロインを気取り、さも己が世界で一番不幸だと思い込む私が嫌いだ。

 私よりもっと酷い境遇の人間は大勢いるというのに、色眼鏡で見てしまう。

 そんな自分が嫌で仕方がない。

 

「───?」

 

 不意に、『救難信号受信』という文字が視界に投影される。

 それも戦術機が出す信号、距離が離れているのか通信強度は非常に微弱だ。

 発信者の所属は分からない。けれど、それだけで私を導くには十分だった。

 

「行かなきゃ……」

 

 もしかしたら、誰かいるかもしれない。

 そんな考えが頭を過る。

 しかし、私がここに来てから相当な時間が経過しており救難信号の発信元に辿り着けたとしても、そこに人がいる可能性は限りなく低い。

 そして、救難信号が出されたとしても衛士が生きている保証は何処にもない。

 

「こちら帝国本土防衛軍第14師団第143戦術機甲大隊パンサー中隊所属、秋元チエ少尉です。どなたかいますか?繰り返します、こちら帝国本土防衛軍第14師団第143戦術機甲大隊パンサー中隊所属、秋元チエ少尉です。どなたかいますか?繰り返します、こちらは───」

 

 無線で何度も呼びかける。

 何度も、何度も呼びかける。しかし、応答が返ってくることはなかった。

 発信源と思わしき地点に近づいているが、一向に対象とのデータリンクが繋がる気配はなかった。兵器としての機能は完全に喪失し、偶然救難信号だけが奇跡的に発信されていると考える方が自然だ。

 

「───ぁ」

 

 言葉を、失った。

 そこは荒れ果てていた。木々は倒れ、大地が抉れ、爆撃の痕のような有様だった。

 まるでそこだけが戦場だったかと見紛う程のものであり、思わず目を逸らしたくなる。

 大破した戦術機が4機あった。

 レーザーに管制ユニットを射抜かれた機体、戦車級に取り付かれたであろう機体、要撃級の前腕攻撃で粉砕された機体……。

 そこはまさしく、墓標と言っても差し支えない。

 

「皆、そこに居たんだ……」

 

 最も近くにあった戦術機に近づき、見慣れたエンブレムを擦りながら呟く。

 私が所属するパンサー隊のエンブレム。残りの機体に視線をスライドさせ、この場にある機体の全てがうちの隊に所属するものだと理解した。

 

「連れて、帰らないと……」

 

 せめて、ドックタグだけでも。

 BETAに殺されて死体が何処かに運ばれることよりも、この自然の中で眠った方がまだ幸せだと思う。

 けれど、それじゃダメなんだ。

 この人たちが生きたという形をこの世界に残さないと、本当の意味で死んでしまう。例え遺族の方々に帰すことが出来なくとも、私が持ち続けることに意味があると思いたい。

 

「───ッ」

 

 回収作業を始めようと管制ユニットを覗き込んだ時、私は思わず目を逸らしてしまう。

 人の死体。それも原型を留めず、ただ食い散らかされた人間の死体。

 目を逸らしてはいけない。どれだけ惨く、凄惨な最後であっても向き合わないといけないから。

 ……何度見ても、死体を見るのは慣れない。特に戦友の亡骸であったのなら尚更だった。

 

「加藤綾香少尉……」

 

 ドックタグに記載された名前を呟いた。

 この子とは、仲は良かったと思う。同い年という事もあるかもしれないが、趣味で意気投合し、何度も共通の話題で話が盛り上がった。

 そして何より、訓練校時代からの関係だ。同じ時間を過ごした分、他の仲間以上の絆を築いていたと私は思う。

 陽気で、隊のムードメーカーを担っていた綾香少尉。その最後がこの有様だと考えると、運命という物は本当に分からない。

 

「………………ッ」

 

 血塗れのドックタグを見つめ、しまう。

 こんなにも辛いのに、苦しいのに、悲しいのになんで私は泣けないんだろう。

 戦友が大勢死んでいるのに、泣けない。

 いい人達だった。いつもぽっかりと空いた私の心を満たしてくれた。なんで、この人たちが死ななければならないのだろう。

 BETAさえ居なければこの人たちは死ぬ事がなかったかもしれない。

 そんな思いで頭が一杯になる。

 

「あの時、もっと私が上手く戦えていれば……」

 

───この人たちが死ぬ事はなかったかもしれない。

 あの時ああしていれば、あの時こうしていれば……。そんな事を思ったって、後の祭りだと言うのに。

 無意味な後悔でしかなく、そんなことを考えても彼らは生き返らない。時間が巻き戻るという奇跡は起こる筈がない。

 今私が出来る事はただ、進む事だけだ。進んで、進んで、進み続けなければならない。

 

「それが、私が皆に出来る数少ない弔いだから───」

 

 逃げ出したい。

 何もかも捨てて。

 何もかも忘れて。

 どこか平穏な場所に逃げ出したい。

 そんな願望を心の奥底に押し込め、私は黙々とドックタグの回収作業を続けた。

 

 もしかしなくとも私の心はもう、限界に近いのかもしれない。

 

 




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