鬱ゲー世界の住民が透き通った世界に来たら   作:無名戦士

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お久しぶりです。
第四話となっていますが、以前書いた話ではおかしな点が多くみられましたので書き直しました。
そして、第五話で書く予定だった内容も含んでいるので実質最新話です。


第四話:遭遇(1)

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E

 連邦生徒会長が失踪する以前に設置され、先生を顧問に置く機関。あらゆる規則や法律による規制や罰則を免れる事が出来るという特異な性質、政治的に中立を貫くという姿勢であるが故に、その広範囲にわたる業務は先生に伸し掛かっていた。

 先生のデスクは書類の山、メールの受信フォルダは100件以上も溜まっておりそれが数日続いている状況であった。

 

「“多すぎる……”」

 

 いつまで経っても終わりが見えない仕事の多さに辟易し、無意識に彼の口から言葉が漏れた。

 デスクに突っ伏し、最早精も根も尽きた様子で白目を剝き、微かに開いた口の隙間から白い人玉が顔を覗かせる有様だ。

 

「……先生、いくら私しかいないとはいえだらしないです」

 

 シャーレの当番で来ていたユウカは呆れた表情で先生に声を掛けた。

 彼がああなるのもまあ分かる、ここ暫くの間仕事に忙殺されていて先生自身も碌に休みが取れてないのだ。ヘイローを持たない彼にとって相当な負担である事は容易に想像できた。

 

 とはいえ今日で何度目の弱音だろうか。そう思いながらこれから取り掛かる仕事に目を通し、片手間でコーヒーが入ったマグカップを手に取る。マグカップを傾け、冷めきったコーヒーを口内に流し込もうとするが肝心のマグカップの中身は既に空で、僅かに残ったコーヒーが数滴流れる程度だった。

 

「しょうがないですね……。少しだけ休憩にしましょうか、先生」

「“ほんと!?”」

「た・だ・し!休憩が終わったらちゃんと仕事してくださいね!」

「“分かったよユウカ!ありがとう!”」

「私はコーヒーを淹れてきますが先生は何にします?」

「“私もコーヒーにしようかな”」

「分かりました、少し待ってくださいね」

 

 そう言うと、ユウカは隣の給湯室へ向かった。

 ケトルに水を入れ、お湯を沸かし始める。棚からインスタントコーヒーを取り出し、カップに粉を入れた。

 お湯が沸くのを待つ間、ユウカは先程の事を思い出し笑みを浮かべた。先生の子供っぽい部分を見たせいなのか、少しばかり気が緩んでしまったのだ。

 

 ユウカにとって先生と二人で仕事をするのは久しぶりであった。セミナーの仕事や当番の生徒が他にも居たことで、二人だけで仕事をする機会に巡り合うことが出来なかったのだ。

 二人きり。その言葉を何度も心の中で繰り返し、思わず頬が緩んでしまう。そんな自分に自覚しつつも、この感情は嫌いではなかった。

 

 実を言うと、ユウカの他にもシャーレに来る予定の子が一人いる。

 名前は阿慈谷ヒフミ。当番ではないが、シャーレの業務の手伝いとして来ると聞いていた。しかしながら、その子はまだシャーレには来ていない。

 恐らく遅刻したのだろう。そう考えながらユウカは先生との時間が増えたことに少し喜んで、まだ会った事のない彼女に感謝するのであった。

 

 そんな事を思い浮かべながら、ケトルが沸騰した事を知らせる甲高い音が鳴った。

 もう出来たんだと思いながらカップにお湯を注ぎ、スプーンでかき混ぜた後、先生のもとへ持って行きテーブルに置いた。

 

「“ユウカ、ありがとう”」

 

 そう言い、ユウカに向けて先生は微笑んだ。

 顔が熱くなるのを感じながら、それを隠すようにサッと顔を背ける。子供っぽい部分もあるが、偶にこういう所も見せてくるのが本当にズルい。

 先生への文句を心の中で呟きながら、ユウカは恥ずかしさを紛らわす為にコーヒーを口にした。口の中に苦みと酸味が広がり、香りが鼻腔を抜けていく。ブラックで飲んだからだろうか、いつもよりも苦い気がした。

 

「………?」

 

 しかし当の先生は不思議そうな表情で首を傾げるだけで、彼女の心情などつゆも知らなそうだ。

 その様子にユウカはムッとしながら書類へと目を向けた。その行為に、何か意味があるものではなかった。ただ何となく、今手元にある書類が何なのか休憩の合間に目を通そうという単純な思考から来るものであった。

 一枚、二枚……サッと目を通している途中、ある書類が彼女の目に留まった。

 

「これは……」

 

 持っていたコーヒーカップをテーブルに置き、書類を注視した。

 さっきまであった甘酸っぱい空気から一変し、彼女が纏う空気はセミナーに所属する生徒にふさわしい物へと変わる。

 

「──……先生、リン代行からの依頼があるみたいです」

 

 “リンちゃんから?” と疑問に思い、その詳細をユウカから聞く。「重要性はそこまであるという訳ではないですが、少し気になりまして……」

 内容は先日シャーレの仕事で制圧した不良グループの武器庫の再捜査、厳密に言えば武器庫含むその近辺の捜査だった。

 彼女の言う通り、既に終わらせた仕事をもう一度やるということは二度手間に他ならなかった。先生のタイムスケジュールを考えても、すぐこの依頼に取り掛かるのは如何せん厳しいものがあった。

 

 本来であればの話だが、本題はここからだ。

 再調査の理由は武器庫近辺で観測された未知のエネルギー波形の調査。武器庫近辺で発生した事から連邦生徒会が把握していない兵器が隠されている可能性があるとのこと。

 「“未知のエネルギー波形、ね……”」呟き、資料を睨む。兵器だと仮定しても銃や爆弾と言った代物ではない、何か特殊なものだという事は素人でも分かる。

 シャーレとしても見過ごす訳にも行かなかった。万が一キヴォトスの治安が悪化する事態になれば先生が赴任する以前の状態になってしまう。

 いくら法の制限を受けない超法規的組織とはいえ限界がある。先生は分裂出来る訳ではないのだ。

 

「あれ以降、連邦生徒会が主導で捜査して解決した筈ですが見落としがあったようですね」

「“そうみたいだね。───ユウカ、この波形に見覚えは?”」

「いえ、ありませんね……」

「“そっか……うーん……”」

 

 リン代行───連邦生徒会からすればこの件は特段注視する程の事態ではなかった。

 このエネルギー波形を観測したのは一度限り、それ以降はまるで何も無かったかのように変化が見られなかった。それに加え、検挙した不良グループに関連する組織が何かアクションを起こす訳でもなくただ沈黙を貫いていた。

 つまり、この波形を見た彼女はこのエネルギー波が不良グループの残党であるとは考えなかったのだ。数多にある事案のなかでその優先度は低いものという扱いでシャーレに依頼した、という経緯があった。それこそ一週間、二週間先に調査を開始してもいい程度に優先度が低かったのだ。

 

 しかし、先生はそうは思わなかった。見る限り確かに脅威度が低い事案にも見えたが、先生はそれだけで済まさずにはいられなかった。

 勘、と表現すればいいのだろうか。妙な引っかかりを彼は覚え、どういう訳か見過ごせないような気がしてならなかった。

 ただの勘、そうただ勘に過ぎないのだ。この事案以上に優先的に対処しなければならないものが先生の手元にいくらでもある。私情を無視し、他の仕事に専念する方が合理的な選択だという事は先生も理解していた。

 今は休憩の時間で仕事もある程度の区切りはついている。この事案を放置して再開すればいつ調査に乗り出せるのか分からなくなってしまう。このまま放置するのか、切り上げて調査に乗り出すのか先生は悩んだ。

 そして、考えは決まった。

 

「“再調査に向かうよ、ユウカ”」

「え、他の仕事はどうするんですか?」

「“またあとでやるよ。ユウカ、ミレニアムで今から来れる生徒はいるかな?”」

「それならいいですが……。───分かりました、心当たりがあるので当たってみます」

「“助かるよ、ありがとう”」

 

 “少なくてもあと一人欲しいかな”

 ヒフミとユウカの二人だけだとどうしても限界がある。既に制圧済みとはいえ万が一という事もある。ある程度の対処能力を求めればどうしても今のままでは人が足りないのだ。それに加えて二人の負担も考えると、人数は多い方が良い。

 アビドスの時やゲーム開発部の時とは状況が大きく違う。助けを求められたわけではなく、自発的にこちらから動くのだ。

 協力を仰ぐのも精々一個人としてのお願いであって、決して命令などではない。先生が生徒の活動を邪魔するのはもっての外なのだ。

 

 

 

 来ることになったウタハと遅れてやってきたヒフミの二人がシャーレに来て数分、連邦生徒会からの依頼を二人に説明し、先生は何か質問は無いかとユウカを含む三人に聞いた。

 するとヒフミは少し周りを見渡し、手を挙げた。

 

「えっと、未知のエネルギー波形ってなんですか……?もっとこう、何か具体的な情報とか……」

「“ヒフミの気持ちも分かるけど、今はこれしか情報はないんだ”」

「先生、もしそこに不良生徒が居たらどうする?」

「“そうだねウタハ。その時は一度話し合って、それでもダメだったら戦うしかないね」

 

 今回、先生は戦闘を避ける方針で行こうとしていた。

 戦うために行くのではない。そこに何があるのか調べるのが目的であって、武力による行動ではないのだ。

 例え不良生徒が占拠してもこの方針は変えず、先生は交渉するつもりだった。戦闘は最後の手段、それも自衛に留めたものだ。

 

「“前に制圧して以降、あそこの治安は良くなっているんだ。だから今回はあくまで再調査、戦闘も必要最小限に抑えるよ”」

 

 戦闘は出来るだけ最小限に抑える事を念押しし、先生は三人の生徒を見渡した。

 数秒の沈黙が流れ、これ以上質問が来ることが無いと判断した。真剣な表情から普段の穏やかなものへと変え、パンと手を叩きながら言った。

 

「“それじゃ、質問もないみたいだし自己紹介でもしてから出発しようか!ヒフミ、確かユウカとウタハに会うのは初めてだったよね?”」

 

「うぇ!?は、ハイ!えっと私はトリニティ総合学園の───」

 

■■■

 

 シャーレが捜査に入った武器庫はヘルメット団の一派、『ガタガタヘルメット団』がブラックマーケットに流す予定の武器を一時的に保管する場所として使用されていた。

 元々は猟師が使う建物だったが、何十年も前に放置されていてそれをガタガタヘルメット団が密かに武器庫として占拠したという経緯がある。建物自体もかなり古く、到底保管に適さないモノではあったが、立地の関係上連邦生徒会の目を欺くのに最適だったという事もあり長らくその存在は表に出る事はなかった。

 

 「先生、本当にここで合っているんですか?」

 

 もぬけの殻となった建物を扉から覗きながらユウカは言った。

 保管されていた武器は連邦生徒会によってその全てが押収され、以前訪れた時に感じた狭さは一切感じられない。それどころか広いとさえユウカは思った。

 情報通りであればここ周辺で未知のエネルギー波形が観測された筈なのだが、その原因であると考えられる旧武器庫には何の以上も見られなかったのだ。彼女が疑問に思うのも無理はなかった。

 “うん、ここで合ってるはず……”先生はそう返答しつつシッテムの箱に表示してある地図を睨んだ。

 

「本当に、何もないですね……」

「密輸品の押収なら全部持って行くのは当り前さ、少なくともこの建物には目的のものは無いと思うよ」

 

 予め持ってきていた計測機械でもエネルギー変動は正常の範囲、建物に特別な仕掛けがあるようには見えなかった。しかしながら原因となる場所と言えばここ以外考えられない。本当にここでは無いとしたら予想範囲内全てを周らなければならないのだ。

 時間的にも厳しい。あと少しすれば日が暮れてしまうのだ。いくら電波が届く場所とはいえ、夜の山を歩き回るのは危なかった。

 後日また改めて来るべきかと先生が検討を始めた時、事態は動いた。

 

『先生ッ!』

 

 シッテムの箱のメインOSであるアロナが骨伝導ヘッドセットを介して先生を呼ぶ。

 

「“アロナ、何かあった?”」

『はい!とても微弱ですが信号のようなものを受信しました。地図上にマークします!』

「“アロナ、ありがとう。具体的にどんな信号なのかわかる?”」

『それが……キヴォトスで使われている信号じゃないんです……』

「“キヴォトスで使われている物じゃない?”」

 

 キヴォトスで使われていない信号という事に、先生は妙な引っ掛かりを覚えた。

 押収漏れの装置があるにしても何かが可笑しい。仮に密輸品だとしても態々バレるような信号を発信するのだろうか?ガタガタヘルメット団が所有するものだった押しても、別のグループが保有するものだったとしても実際に確認しなければならないだろう。

 

「……先生?」

 

 ヒフミが先生の顔を覗き込むのと同時に、思考の海に潜りかけていた先生は顔を上げた。

 今やるべきことは考えることではない、行動するのだ。

 

「“みんな、次の場所に向かおう。今度は何かあるかもしれない”」

 

 未知のエネルギー波形、それが果たしてどんなものか、どんな意図で発生しているのかは現状では分からない。少なくとも先生の“勘”が何かを訴えていた。この勘を無視すれば何かが起きる、そう思えて仕方がなかった。予感は段々と肥大化し、それは次第に焦燥に変わっていった。

 

 

 

 

 

「何、これ……」

 

 目的地に着いたのと同時に、彼女たちは己の目を疑った。

 ロボットの残骸。それも一つではない、複数。その周辺の地形も変わっていた。木々が倒れ、大地が抉れ、まるで爆撃を受けたような有様であった。

 この場にいる誰もが戦闘の跡だという事を瞬時に理解した。嗅ぎなれた硝煙の匂い、そして何か血生臭い匂いが辺りを支配する。匂いの元はロボットにある返り血のようなナニか。今まで匂いを感じなかったのは風向きの影響だからなのだろうか?生徒たちの意識は、何気ない日常から非日常に移り変わるのを彼女たちは直で感じてしまった。

 彼女たちにとって唯一の救いはこのロボットが完全に壊れている事だろう。その事実が生徒たちの動揺を最小限に抑えていた。

 

「“皆、警戒して”」

 

 先生の言葉にユウカは我を取り戻し、今は動揺している暇は無いと己を律する。

 今自分たちがやるべきことは調査、このロボットがなんなのか調べる必要がある。それに、別の勢力が介入してくる可能性もあるのだ。自分が動揺ばかりして先生の身に何かあったらと考えると、ユウカはゾッとした。

 

「ロボット……ですよね?いきなり襲って来たりしませんよね……?」

 

 ヒフミは恐る恐る銃を構え、銃口をロボットへと向けた。

 

「いや、動かないよ。完全に壊れているみたいだ」

「“ユウカ、このロボットに見覚えはある?”」

「初めて見るロボットです。少なくともうちの製品ではないことは確かです」

「“ウタハは?”」

「私も初めて見るタイプだ。……ただ、この壊れ方を見るのは初めてだね」

 

 そう言い残し、ウタハはジッとロボットを見つめた。

 今までの人生を通して、ウタハはあのような壊れ方は一度たりとも見たことはない。

 普通の壊れ方ではない。銃弾や砲弾で破壊されたのなら分かりやすいが、これは一体なんだ?まるで歯形の様な跡が無数にロボットの表面を抉り、あらゆるパーツが歪み、コクピットであろう箇所のハッチは重機でこじ開けられたような有様。他にもコクピットがハンマーで叩きつけられたようにペシャンコになった機体、コクピットのハッチが無理やり引き剝がされたような機体、上半身の半分が円状に消滅した機体……。どれも尋常でない損傷の仕方、気味が悪いとさえ思えてしまう。

 

「“……酷いね”」

 

 誰が見ても分かる異常な光景、誰かと戦っていたという事は理解できるがその相手が何なのか彼には想像できなかった。何よりも不可解なのは地形が変わるほどの戦闘があったのにも関わらず、情報が出ていないという点だ。いくら森の中とはいえ、戦闘で発生する騒音はここから離れた住宅地でも聞こえたはず、以前旧武器庫に対する捜査で起きた銃撃戦の騒音が苦情として届いたのだから情報が一切でないのはやはり可笑しい。

 

「なんでこんな所で戦っていたんでしょうか……」

 

 恐る恐る残骸へと近づいたヒフミは銃を向けながら注意深く観察する。ゆっくりと周囲を反時計回りに歩き、何か手掛かりになりそうなものを探した。とはいえ、そもそも専門分野ですらない彼女にとってロボットの残骸を見てもさっぱりだ。それでも見て周るのは好奇心故かもしれない。

 そして最後に一番気になっていたコクピットの中を見ようと覗き込んだ時、彼女の表情は一瞬で固まってしまった。

 

「……ッ」

 

 アレは一体何なのか、ヒフミが理解するのに時間を要した。

 鼻が曲がるような悪臭とミンチにされた肉片、その殆どが原型を留めないものだったが一部は原型を保っていたのだ。

 

 手、そして半分抉れた人間の頭。

 

 かつて人間だったものの瞳は虚ろで、何かを訴えるようにヒフミの目と合う。辛うじて顔つきで女の子だと分かったが、それ以外は分からない。

 生まれて初めて見た人間の遺体、それも今まで聞いた事もない死に方を目の当たりにしたヒフミは、胃の底からナニかが上がってくるのを感じた。それでも何とか抑えることができたが、彼女は思わず口を押え、その場にしゃがみ込んでしまった。

 

「“ヒフミ⁉”」

「……ぁ。せ、せんせいっ」

「“大丈夫?どこか具合が悪い?無理しないで”」

「ちがっ……。あ、あれ……ッ」

 

 ゆっくりと、震えながらコクピットへ指を指した。

 それを追うように先生はヒフミの指の方向を見る。少し遅れてやってきたユウカにヒフミを任せ、先生はコクピットの中を覗き込んだ。

 

「“覗いちゃだめだッ!!”」

 

 続いて覗こうとしたウタハを制し、先生の表情は厳しいものへと変わった。

 普段とは違う彼の雰囲気に気圧され、何があったのか分からないが異常事態が起きたのだと瞬時に二人は理解した。

 

「“中で人が死んでいた。皆、いつ戦闘が起きるか分からないから警戒して”」

 

 人が死んでいる。

 その言葉は二人にハンマーで殴られたような衝撃を与えた。キヴォトスに於いて、人が死ぬことは滅多にない。そうでなければ平気で実銃で撃ち合わないし、テロ紛いな行為が横行しないからだ。

 

「ひ、人が死んでいるって。そ、そんなこと……」

「“実際に死んでいるよ。一度帰った方がいいかもね”」

 

 そう言いながら先生はあたりを睨んだ。あの子以外にも人が死んでいるかもしれないと結論付けるのに時間はかからなかった。

 なぜヒフミより先に自分が見つけられなかったと後悔したが、今はそれどころではない。

 あの子たちが戦っていた相手が何なのか、今の先生には分からない。今やるべきことは生徒たちの安全を確保することだ。

 撤収しようと生徒たちに指示を出そうとした時、ユウカに介抱されていたヒフミが弱弱しく手を挙げた。

 

「せ、先生……」

「ヒフミさん、無理しないで」

「“大丈夫だよヒフミ、無理しないで”」

「い、いえ。わ、私、見覚えがあるんです」

 

 ユウカに感謝の言葉を言い、ヒフミは立ち上がった。

 身体は震え、顔色も悪い。それでも彼女は真っすぐな瞳で先生を見た。何かを訴えるかのように、恐怖で今にも泣きだしそうなヒフミであったが、彼女の口から発せられた言葉は確かな意思があった。

 

「死んでいた子と同じものを身に着けている子と、今日会ったんです」




本作はグロシーンに対する生徒の反応を描く趣旨ではないです。
解釈違いなので。
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