生きています
「“見覚えが、ある……?”」
予期していなかったヒフミの言葉に、先生は思わず聞き返した。
生存者がいるなら保護したい。状況が一切分からない今、少しでも情報が欲しい。
情報が何もない、本当に。唯一関連性があると思われるのは連邦生徒会が観測した未知のエネルギー波形ただ一つだけで、何か前兆があったわけではない。
「“その子とはいつ会ったの?”」
「はい、シャーレに来る途中、偶々見かけたんですよ。私と同じくらいの歳の子で凄く目立つ格好をしていたので……」
「“怪我はしてた?”」
「いえ、怪我はしてなかったと思います。ただ、今思えば凄くやつれた顔をしていたような……」
怪我は無い。その言葉を聞いて先生は僅かに安堵の表情を浮かべた。
「もしその子が本当にこのロボットと関係があったとしても既に街に居たのなら探し出すのに時間がかかりそうですね」
「ただ近くに戻って来ているかもしれないよ。どうする?先生」
本音を言ってしまえば今すぐにでも撤収したい。この人数で不測の事態に遭遇してもその備えがない以上、撤収し態勢を整えてからまた調査に来た方が良いだろう。
かと言って遺体をそのままにして置くわけにもいかない。それに加え生存者の存在も明らかになった今、悠長に事を進めるのはかえって悪手だ。
「“うん、ウタハのいう事もあり得るかもね。ここはまだ電波が届く場所だからもう少し捜索すれば何か分かるかもしれない”」
「遺体の回収は大人の業者に任せますか?」
「“うん、そうして欲しいな。遺体を回収したらロボットを回収して解析はウタハに任せたいけど頼めるかな?”」
「あぁ、戻ったら手配しておく。解析なら任せてくれ」
ウタハはその言葉に強く頷、ユウカと共に回収の算段を立て始めた。
遺体の回収は大人の業者に任せるとして、肝心のロボットはどうやって運び出すかだ。エンジニア部が保有するドローンに回収させるつもりだが、如何せんどのロボットも酷い有様。細かな残骸が多くて骨が折れるのは確実だ。
しかし、それは些細なことではない。問題はこのロボットの壊れ方だ。
「ウタハ、この壊れ方を見てどう思う?」
「異常な破損としか言えないね。こんな壊れ方をしているのを見るのは初めてだ」
コクピットらしき場所が筒状に穴が開いたロボットを見ながら、ウタハは答えた。
銃弾は勿論、砲弾やミサイルによる攻撃ではないのは一目見て分かった。断面は高温で溶けたような跡があり、まるでレーザーに照射されたような痕跡が残っていた。そこには、普通の兵器では引き起こせない異常な熱量と、何か特別な技術が使われたようだ。
他の機体に目を向ければまるでチョコレート菓子が暑さでとけたかのように装甲板が溶けただれ、その攻撃手段は彼女たち二人が知るものとは程遠いものだった。
ロボットの異様な壊れ方に、二人は薄ら寒いナニかを感じた。
その頃、先生と二人は周囲の捜索を始めていた。
あたりを見渡す限り木、木、木……。まるでさっきの光景は嘘だったかのように平穏そのものだ。
戦闘は起きていない、そんな風にさえ思えてくる。
とはいえ、ここで何かが起きたのは間違いない。ヒフミの証言もある以上手掛かりがまだあるかもしれないのだ。
先生の中でふと、ある疑問が思い浮かぶ。
なぜロボットの残骸付近は酷い有様だったのに、少し歩いただけで戦闘の痕跡が見当たらないのだろうかと。本来なら、こんなことはあり得ない。あのロボットたちの有様から見れば何者かと戦っていたのは確かだ。しかし、その痕跡はなにも残ってない。その上、戦闘が発生しているのにもかかわらず付近の住宅街から一切報告されていない。
あるのは偶然観測された未知のエネルギー波形のみ。先生は学者ではないが、このエネルギー波形が何か関係するものではないかと予想を立てた。最も、それはあてずっぽうに近いものであったが。
「すっかり暗くなりましたね……」
ヒフミの言う通り日は完全に沈み、辺りは暗闇と静けさが森を支配している。
二人は地面をライトで照らしながら注意深く周囲を観察し、何か異変がないか探す。さすがに暗くなりすぎたと感じた先生は探索は翌日に持ち越すことを考え始めた。
位置情報が分かるとはいえ暗闇の中探索を続けるのは危険が付きまとう。ヒフミの意思を尊重してあげたいが、彼女の身を考えると頃合いだろう。
その時だった。
「先生、あれ……」
何かに気付いたヒフミがある方向に指を指す。その方向になにか、僅かに明かりが漏れているように見えた。
「“近づこう”」
ヒフミは小さく頷き、ライトの光を消し、足音を立てないようゆっくりと近づいていく。
近づくにつれ、それが焚火の炎によるものだというのが分かり、徐々にその光景が明らかになった。まず初めに二人の目に映ったのはロボットだ。最初に発見したロボットと同じもので、損傷もほかの機体と比べて大分マシなものだ。
焚火があるという事は近くに人がいる。その事実を前に、ヒフミは思わず駆け寄ろうとするもそれを察知した先生が肩に手を置き、静かに首を横に振った。
「す、すいません……」
「“大丈夫、静かにね”」
「はい……」
一歩、また一歩近づくにつれ、二人はさらに音を立てないよう細心の注意を払いながら進む。
そして、ある茂みがある手前で足を止めた。
人影だ。座っていて直前まで気付くのが遅れ、焚火の前に座り込んでいる少女に気が付かなかった。
顔は、見えない。丁度二人に背中を向ける形に座っており、あの少女も二人の接近に気が付いていない様子だ。
その姿を見たヒフミは驚いた表情で小さく、それこそ先生にしか聞こえない程度の声で言った。
「ぁっ……あの子です」
その言葉に、彼は少しだけ目を細め、観察する。
ヒフミが言っていた通り、街中では目立つ格好だ。まるでロボットアニメのパイロットスートのようだ。
彼女が言うのは当時コートを着ていたらしいが、髪型は同じで今は脱いでいるのだろう。
「うぅ……、グスッ……」
───泣いている?
距離がそこまで離れてないが故に、少女がすすり泣く声が聞こえた。
放っておくわけにいかない。
様々なリスクを無視した結果、彼はそう結論付けた。
彼は、先生だ。そして、先生である以前に大人だ。故に、悲しむ子供をそのままにするという選択肢はどこにも存在しなかった。
その時だった。
「夢なら、夢の中で死んでもいい、よね……」
予想だもしなかった少女の言葉に、彼の背筋は凍った。
その間にも少女は拳銃の銃口を口に入れ、いつ引き金を引いてもおかしくはない。
「ッ、ヒフミ!」
「はい!」
先生の言葉に即座に反応した彼女は茂みから飛び出し、持っていた銃を大きく振りかざす。
「ストーップ!!!」
「ふぎゃっ!?」
銃床が少女の後頭部に直撃するのと同時に少女は短い悲鳴を上げ、地面に倒れこんだ。
───あれは痛いどころじゃないだろうな。そんなことを思いつつ、先生は最悪の事態は回避できたと胸をなでおろした。
いくら“ヘイローを持つ”とはいえ、子供がそういった行為に出るのは見たくない。気になるところは沢山あるが、まずやるべきことはあの少女を保健室に連れて行くことだ。
危ない手段に出た以上、無理やりにでも保護して落ち着かせる必要がある。
「えっと、やりすぎちゃいましたかね……」
「“ううん、大丈夫だよ。……だけど保健室に連れて行った方がいいかもね。話を聞くのはそれからにしよっか”」
「保健室……はい、それが一番ですね。わかりました」
申し訳なさと心配が混ざった視線を向け、おろおろと介抱するヒフミの姿に先生は苦笑した。
確かに無理やりすぎたかもしれない。話し合えば解決した問題かもしれないと感じたが、結局は後の祭り。
少なくとも最悪の事態は回避した思えばいい。
そう結論付けた彼は救助ヘリを連邦生徒会に要請するのであった。
言い訳になりますが最近ブルアカに触れてないので上手くキャラをかけてるか自信ないです