捨てられトレーナーの探訪   作:bver

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焦る老人

「これは、どうしたことだ」

 

連絡を受けた老人が、ポケモンハウスの扉を開いて中に入る。

すると、中に居た大勢のトレーナーの視線が集まり、同時にポケモン達の視線が一つも無いことにも気づいた。

思わず声を上げてしまうほど慣れない光景に、動揺してしまう。

ここのポケモン達は皆、直接トレーナーと触れ合うことを好む。

捨てられた、虐待されたという辛い経験があった分、その後に救われた優しさに触れることを望むのだろう。

 

人とあることを望むポケモンが、ボールに引き籠っている。

 

異常にすぐ気付く程度には、慣れ親しんだ場所なのだ。

良く見ればトレーナー達も必死にボールに語り掛けるようにしながら、震えている者もいるようだ。

まるでここに化け物でも現れたようなそんな雰囲気に、何とかしなければという思いが募る。

皆に声をかけて落ち着かせ、状況を把握しなければ始まらない。

そう考え、なるべく慌てさせないようにゆっくりと、名前を呼びながら話しかけることにした。

 

――

 

「フジじいちゃん!」

 

今日もポケモンタワーに訪れていた老人は、孫の声を聞いて顔を上げた。

終ぞ聞かない慌てた声に、何事かと心配になった。

ぱたぱたと駆けて来るのを受け止めて聞いてみれば、お家が変なのだという。

 

「みんな泣いてて、みんな居ないの!」

 

宥める様に抱き上げて、大丈夫だと声を掛けながら、ひとまず家に戻ることにする。

慌てふためく孫から急かされながら、切迫していることは分かるので老骨に可能な限り急ぐ。

道中、要領を得ないながらも伝えらえれた孫の言葉を考える。

人が泣くことはこの街ではよくあることながら、『居ない』とは何なのか。

まさか何かに襲われたということなのか。

 

そうして息を切らせながらポケモンハウスに戻り、一目見てみれば、いつものポケモン達の姿が一つも無いことに気が付いた。

ただ、トレーナーがそれぞれのボールに語り掛ける様子からは命を取られたという類のことでは無いことは分かる。

ポケモンセンターに駆け込んでいないことから、バトルをしたというわけでも無いことも察せられた。

ひとまず孫を下ろし、近くの知り合いから声を掛けていくことにした。

 

――

 

しばらくして、ぽつぽつと外に出るポケモンも現れ始め、大分落ち着いた様子のトレーナーから話を聞いた。

昼にフジ老人がタワーに向かって少しした後、一人の若い青年がポケモンハウスを訪れたという。

彼は、この施設が捨てられたポケモンを保護しているものだということは知っていたようだった。

そうして一時、静かに様子を見ていたが、しばらくして個々のトレーナーたちに話を聞き始めた。

 

このポケモンは親に捨てられた。

こいつは元居た家の事情から育てることができなくなり預けられた。

唯一のトレーナーが病没して飼えなくなり保護された。

大きくなったから邪魔になったと捨てられた。

賭けの景品にされ、粗雑な扱いで弱ってしまったために入れ替えで捨てられた。

ただただ乱暴に扱われ、ひんしで川縁に捨てられていた。

 

様々な事情を聞いて、表情は曇りがちだったが、そのポケモンと触れ合う手つきは優しいものだったという。

そうして今いる子たちの話を一通りして、過去に居たポケモンの話に移っていた時、突然彼から恐ろしいほどの圧を感じたのだという。

何が琴線に触れたのかは分からない。

感情だけでああなるということが信じられないほど、はっきりとして、明確な危険を感じさせる威圧感だった。

それはその場に居たすべてのポケモンとトレーナーに伝搬して、恐慌状態にさせた。

外に出ていたポケモンはボールに逃げ込み、固まるトレーナーや泣きだすトレーナーも居たほどだ。

 

その後すぐに我に返ったように圧は無くなったが、バツの悪そうにした彼は一言謝って頭を下げた後、足早にここを去ってしまったという。

入れ替わりくらいにフジ老人の孫が訪れたが、中の様子を見てすぐに外に飛び出していった。

そうして今に至る、という経緯だった。

 

話を聞いた老人は、そんなこともあるのかと信じられない思いを抱きながらも、先の惨状を見てしまえば納得するしかなかった。

何もなくてよかった、災難だった、彼も悪気はなかったのだろうと話して。

そして、おそらく彼がその激烈な怒りを覚えたのだろう原因を尋ねた。

聞かれたトレーナーも詳しくは分からないという。

ただ、その時に話していた内容は――。

 

「……地方の島で酷使され、『言うことを聞かないから』と里長に捨てられたポケモン達のことでした」

 

彼に伝えたように、もうここには居ませんが。

タワーを見ながらそう答えるトレーナーに、老人も重たい沈黙を返すしかなかった。

 

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