「このような事が起こったからには、きちんとした規制を……」
あの時の少年によるものらしき騒動の報告を見ながら、言葉を止めたマサキが溜め息を付く。
目の前のやけに満足そうなチャンピオンをちらりと見れば、さらに追加の息が漏れていきそうになる。
思い出に浸るような、いや、美味い料理の味を思い出しているような顔をしているチャンピオンはこちらの気など知りもしないだろう。
反芻して、噛み締めて、考察して、と顔色が変わる様は話を聞いていないことが容易に想像できるものだ。
足取りを追い、おそらく協力者となったジムリーダーにも渡りをつけ、情報を広く集めてここに来た。
そうしたら当の本人が戦った後だという。
食い気味に聞かれるままに答えて、彼が目指すものの考察を聞かせてみれば、納得したような息を吐いた後この状態になってしまった。
「聞いてますか、チャンピオン」
念のため確認してみるも、生返事を返されてしまっては反応がないのと同じことだ。
横の見るからにごつい格闘王まで交えて盛り上がっている。
これはしばらく放っておくしかないかと考えていると、突然チャンピオンの体が変な音と共にくの字に曲がった。
少し浮いて、ガタつかせながら椅子に着地して、顔を伏せたまま何だか悶えている。
「……」
横の無言で睨む老婆の様子から察するに、おそらく脇腹でも殴りつけたのだろうか。
この場にポケモンは居ないからそうなのだろう。
……拳は見えなかったが。
しんと静まり返る会議室に、少しの間チャンピオンが椅子に座り直す音だけが聞こえていた。
「彼の、持つ『違法となる予定のバッジ』についてですが」
痛みからか若干イントネーションが怪しい。
だが話を続けてくれるのはありがたい。
そうして、本題となるリーグによるバッジ規則を定める話に戻っていった。
古くからの慣習も未だ無くなっていないため難しい部分ではあるだろうが、決めておかないと彼のように無茶な方法で作る者も出てくるだろう。
遅きに失したかもしれないが、使用を止めるため、また続く者を出さないためにリーグの力を借りるとしよう。
――
「すまないね、馬鹿が長引かせて」
会議室を出たところで老婆に声を掛けられる。
そのまま流れで休憩所のような場所で話すことになった。
軽くチャンピオンたちの愚痴を聞かされた後に、彼女も興味を持っていたらしい、彼のことについて聞かれる。
いや、興味と言うよりは、実態の把握と言ったところが正しいだろうか。
「資料には書かれてなかったが」と、実際どのくらい彼が無茶をしたのかを聞かれた。
表現が難しい。
色々とやっていることが多岐に渡るという理由もあるが、あまり前例が無いというのもあるだろう。
具体例を伝えるのも憚られる。
資料に書いてなかったということは、そういうことなのだ。
そうして少し考えて、ふと思いついたことがあるので言ってみた。
「ポケモンが『がまん』するようなものだと思います。それも、チャンピオンロードのようなところで」
あれも中々無茶な技じゃないですか、と。
彼自身が戦い、ポケモンと共に経験を溜める。
そんな彼の有様を、自分の知っているポケモンを思い浮かべて、我ながらうまく表現できたかもしれないと老婆を見る。
そうすると、一瞬眉を潜めて怪訝そうな顔をされた後、思いっきり睨まれた。
思わず両手で脇腹を守ってしまう。
いや、机を挟んでいるのに警戒することは無かった。
一人安堵して、ごまかすように肩などを撫でていると、溜め息を付いた老婆が話を続けた。
「……分かった。あたしのできる限り、規制は厳しくしておこう」
正規以外のバッジはリーグとして認めないと、意味が無いと喧伝するように努める。
また正規のバッジを手に入れやすくなるように、今後はジムの制度も変える必要があるだろう。
そう約束して、物憂げに老婆は去っていった。
彼女が暗くなる気持ちも分かる。
だから私もこうして、リーグにまで訪れて報告したのだから。
老婆に当てられて少し憂鬱になりながら、コップに残ったジュースを飲み干すと立ち上がった。
「やあ、まだ居てくれてよかった」
そんなところで、チャンピオンに声を掛けられる。
まだ話があったかと向き直ったところで、あまり時間はかけないと断られる。
ただ、一言質問をされた。
「伝説と呼ばれるポケモンの、今の居場所は知ってるかい?」