「ごめん」
霊峰にて、白い息を吐く青年の前に、煌々と燃える尾を棚引かせて炎が舞い降りる。
その偉容に見合う威圧感を備えてこちらを見下ろす目には、侮蔑や油断は見えない。
自分に相対する力があると、今はしっかりと伝わっているのだろう。
静かに佇む青年を見て、羽ばたきを止め、ただじっと見つめている。
あるいはかつても、自己嫌悪の気持ちから睨まれているように感じていただけで、実際はこのように静かに見守られていたのかもしれない。
「……遅くなって、ごめん」
かつてのパーティを揃えることは、もうできない。
自分の未熟のために袂を分かち、その結果、パーティの要だった大事な番いを失ってしまった。
あとの仲間も散り散りになり、どこに居るかも分からない。
潰れた故郷は自業自得だとしか思わないが、彼らには要らぬ苦難を背負わせてしまったと、ずっと後悔している。
「図々しい願いだとは分かっているけど。……もう一度、力を貸してほしいんだ」
だから、もう一度会って話がしたい。
話して、謝って、償えるなら償いたい。
そのために、目の前の君の力を借りたいのだ。
そのために、目の前の君に力を示す必要があるのだ。
ポーチを探り、力の証明として見せられるようにずっと育てていた『バッヂ』を捨てる。
貯めこんだ経験が力となって表れるが、踏みつけて壊し、やがてその名残りも消えていった。
残るのはこの身一つと、相棒のみ。
人から貰ったバッジも関係ない、自分で作ったバッヂも関係ない。
目の前の君に認められるには、ただ、戦って伝えるしかなかったのだ。
今ならそれが、分かる気がする。
懐かしい熱を感じる羽ばたきに合わせて相棒のそばに寄る。
何度もしてきたように、寄り添うように準備をして、頼もしい背を撫でる。
そうして一つの鳴き声を合図に、迫る火炎に向かっていくように飛び出した。
かつて眺めるだけだった戦場に、追いつけるように。
――
最近頓に噂されていた休火山の山頂に輝く炎。
噴火の前触れかと調査隊が組まれる寸前だったが、それはある嵐の日を境に中止となった。
突如起こった暴風雨に遮られて詳細は確認できなかったが、雨と風の奥でも分かるほど、大きな輝きが山頂に見えていたと話す者が居た。
そして、その日以降は一切光ることが無くなったと。
リーグ本部からの観測者もドラゴンタイプのポケモンで直接確認し、噴火の予兆なしと判断した。
ただ山頂には、誰も近づかない、優美な焦げ跡だけが残っていたと報告されている。