「いい朝じゃ!」
オーキド博士は機嫌がよかった。
あまり気にされることのない技術に興味を持つ若者が現れて、自分に教えを請いに来たのが嬉しかったのだ。
つい夜まで話し込んでしまい一晩止めることになってしまったが、起きてからも時間を惜しむように質問攻めにされた。
先ほど挨拶と共に去っていった少年を見送ったところだが、あの熱意に当てられて、すでにもりもりと研究意欲が湧いている。
朝日に吠える姿は、老年に達しても衰えない博士の情熱を感じさせた。
しかし、と博士は疑問に思う。
「あれで残念そうじゃったのは、何か理由があるのかのう?」
全体的に、少年は熱心にポケモン関連のアイテムの技術について質問していた。
博士が開発していたものもあり、知り合いが開発したものもあり、企業やリーグが開発したものもある。
それらに幅広い知識を持つ博士は、時に独自の視点から捉えた質問をする少年に当てられて、つい熱の入った解説を繰り返してしまったように思う。
一般的なトレーナーは、内部に使われている技術など気にせず、ただ効果だけ説明されて使っている。
そのため、時に使い道を誤って危険なポケモンを集めてしまったり、逆に意図せずポケモンに嫌われてしまったりすることもある。
間違っていないにしても、効果を最大限使うために必要なもの、タイミングなどをすべて把握しているトレーナーは少ないだろう。
長い研究人生で体験したものもあり、実例を交えながら話すそれらの正しい使い方を、少年は実に興味深そうに聞いてくれた。
その中で、スプレーの効能や効果を広げている基幹技術について説明した時に、少年は少し俯いていた。
ごく短い時間だったので考えていただけのようにも見えたが、それはどことなく、失望のような感情が見えた気がした。
何の話の時だったか、手持ちのポケモンの力量による効果の違いだったか、トレーナーに依存しないという部分だったか。
その後すぐにリーグの話になって消えてしまったので判断は付かなかったが、何か思惑と違うことがあったなら気になるものだ。
「まあ、リーグを回っていくのなら会うこともあるじゃろ」
彼は自分のポケモンと共にリーグを回ると言っていた。
チャンピオンリーグまで挑むかは分からないが、バッジは集めるし、各タイプの専門家ともいえるジムリーダーにも聞きたいことがあるとのことだ。
それならリーグ関係者とも言える自分に会う機会も十分あるだろう。
何なら居場所が分かればこちらから出向いてもいい、と考えるくらいには、博士は少年を気に入っていた。
ただ熱心なのは良いが、あの歳の子にしては生傷が多かった。
ポケモンを大事にしているのは伝わったのでそちらは心配していないが、旅をする上で必要以上に無茶をしていないかが心配だ。
それとなく聞いてはみたが、やんわりとはぐらかされてしまった。
大きな火傷痕のこともあり、深堀りするものではないかと躊躇っている内に研究の芯を付かれて興奮してしまったのだ。
嫌な目を向けられることもあろうに、話を聞く真摯な態度は何とも大人びていて、話にも力が入ってしまった。
「うちの孫もあれくらい素直であれば教えがいがあるんじゃが……」
まだ小さいながらに小生意気な自分の孫を思い出し、少し溜め息を付く。
小さい子どもだと思えば可愛いものだが、何が何でも言うことを聞かない跳ねっ返りの性分がすでに見えている。
「じじい、じじい」と慕ってくれるのは嬉しいのだが、なんだかあのまま暴君のように成長しそうな気がしている。
まあ将来のことは分からん、と苦笑と共に思考を切ると、すっかり日も登って、一日が始まるざわめきが聞こえてきていた。
博士は一つ気合を入れると、朝の掃除に出てきた研究員に声を掛けながら自分の仕事に戻っていった。