「まるで馬鹿だが、手を選ばない姿勢は評価しよう」
実力不足の挑戦者を見下ろしながら、サカキは不敵に笑った。
身の程知らずの挑戦に、トレーナー諸共痛めつけるように戦ったが、むしろそれを望むかのように前へ前へとかかってきた。
トレーナ―としてはまだまだ未熟だろう。
ただある程度合わせたとは言え随分と粘り、またトレーナー自身の方が傷だらけになるような戦い方だった。
それはポケモンを庇うような優しさによる結果ではなく、別の目的があっての行動なのだろう。
でなければ、ポケモン以上に動けるのに、ポケモンより傷を負うはずがない。
鍛えるためと聞きはしたが、はたしてそれはポケモンのことなのか、トレーナー自身のことなのか。
良いように使われた気はしているが、しかし驚かされ、認めさせられたのは事実。
うちの商品まで使われた奇襲で、自身のポケモンさえも陽動に使い走りこんでくるこいつに、技を向けざるを得なかったのだが。
「……そうだな。要望通り、話は聞こうか」
さて、記録は消しておくとしても。
大人として、ジムリーダーとして、カンパニーの長として、団の長として、どうするべきか。
ざっとそれぞれの対応を考えながら、「一番強くて一番悪いジムリーダーに挑みたい」と声をかけてきた生意気な小僧を持ち上げた。
――
「方向性は間違っていないだろう。……聞いていた通りだな」
隣のペルシアンを撫でながら、カンパニーの社長として答える。
無意識に落ち着こうとしているのかもしれない。
表の商品にはし辛いだろうが、いくらでも需要がありそうなアイデアが降ってきた。
まだ皮算用に過ぎないと意識し、手元の毛並みをゆっくりと堪能して、先走ろうとする思考を緩ませる。
そのまま静かに一息置いて、懐から出したジムバッジをテーブルに差し出した。
「これが、お前の目的のもの」
人である小僧には何も感じられないだろう。
息を呑んで受け取りながらも、反応を見せずじっと見つめる様子は予想通りのものだ。
訝し気とまではいかないが、本当にこれが、などと思っているのは伝わってくる。
それに軽く笑って、注意を引いてから、握っていた左手を開く。
「そしてこちらが、お前の目指すべきものだ」
形は変わらない。
ただ、感じる圧は明確に変わるだろう。
ポケモンであっても人であっても変わらない、明確な力を感じるはずだ。
言うことを聞かせるだけという、安全で借り物と化した玩具とは違う、自身のあらゆる力を詰め込んだ危険の証明。
目で見えるものではない輝きに、小僧の視線が釘付けになるのを感じた。
それを分かったうえで、ゆらゆらと少しの間見せて、すぐにしまう。
睨むような視線の意味は分かるが、まあ親切にしてやる義理も無いだろう。
意趣返しと言えるほどでは無いが、先ほどまで大事に眺めていた玩具を握りしめてしまっている姿は愉快なものだった。
「ジムバッジとは経験を記憶し、伝えるものだ。しかしその肝心の経験は、有象無象の雑魚による寄せ集めのものでしかない」
段階的な実力の証明とするためにジムリーダーに階級を作りレベル制限を課す。
順々に巡らせることでそれぞれのジムに同じようなレベル帯の挑戦者が挑み、その経験をまとめて蓄積する。
そうやって、名も分からない輩から集めた仮初の経験に混ぜ物を入れて、自分の実力と勘違いさせ、一定以下のレベルのポケモンを従わせる。
随分と馬鹿にした、雑で、気色悪い、汚い証明だ。
「そんな紛い物を集めて『言うことを聞かせる』『私の実力は』などと。馬鹿なことをしていると思わないか?」
こいつ自身も他のアプローチを試しているだけに、納得する部分はある話だろう。
小僧が語った方法でも辿り着くことは可能かもしれない。
しかし、すでに似たような完成品もこの手の中にある。
さて、どうするのか。
これを教わりに来るのか、そのままの道を続けるのか、それとも混ぜた方が面白いのか。
俺の利益を考えるなら……
「その玩具でいいならくれてやるよ」
好きに参考にするがいい、と。
軽く煽って、選ばせてやるくらいがちょうどいいだろう。
――
少年は覚悟を決めたように口を開いた。
カラカラとテーブルに転がされる玩具を見て、悪い大人が笑っていた。